上司ガチャとは?人事労務管理におけるポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

「上司ガチャ」はSNSなどを中心に使われるようになった言葉であり、企業の人事体制に対する不満を表現した造語です。今回は、上司ガチャの意味や使われるようになった背景をご紹介したうえで、どのような上司が「ハズレ」とされてしまうのかについて解説します。

そのうえで、人事労務管理において企業が取り組むべきポイントもあわせてご紹介します。

上司ガチャとは


「上司ガチャ」は若い世代を中心に使われ始めた造語であり、主に採用や配属などに関連する場面で用いられています。ここではまず、上司ガチャの意味や使われるようになった背景について見ていきましょう。

上司ガチャの基本的な意味

上司ガチャとは、配属される部下の立場から、よい上司と悪い上司のどちらにあたるかを端的に表現した言葉です。「ガチャ」はランダムで景品が出てくるカプセルトイになぞらえた表現であり、「自分でコントロールできない要素」であることをややネガティブな観点で示している点に特徴があります。

配属先やそこでの人員配置は、組織の事情やタイミングなどによって左右される面もあるため、部下の立場からすれば自分でコントロールできるものではありません。運によって、どのような上司にあたるかも左右されてしまう性質が強いため、上司ガチャという表現が支持を集めるようになっているのです。

上司ガチャが問題となる背景

一般的な企業の人事システムでは、配属される部署や勤務地などが、従業員本人の意思とは関係なく決められる部分があります。ある程度のキャリアや経験を積めば、社内公募などによって希望の配属先を選ぶことも可能ではありますが、新入社員や若手の人材はあまり裁量がありません。

そのため、上司ガチャとともに「配属ガチャ」や「勤務地ガチャ」という言葉もネガティブなワードとして使われるようになっています。特に現代では仕事への価値観が大きくシフトチェンジしており、必ずしも1社で長く勤めるというスタイルがスタンダードではなくなっています。

終身雇用の体制であれば、定年を見据えて長く働くことになるため、合わない上司との関わりもある程度飲み込まなければならないと考えるのが一般的でした。しかし、近年では柔軟に転職がしやすい環境になったため、必ずしも苦手な上司と関わり続けなければならないというわけではありません。

働き方にさまざまな選択肢が生まれたことで、上司の良し悪しを客観的に見極める機会も増え、上司ガチャという言葉が使われるようになったと考えられます。

上司ガチャで不満が起こりやすい原因


上司ガチャという言葉には、いわゆる「当たり」と「ハズレ」の概念が存在します。当たりとは、「信頼できる」「働きやすい」といったポジティブな要素を持った上司のことであり、この場合は特に問題は起こりません。

一方で、ハズレは「信頼できない」や「ストレスの要因になる」といったネガティブな要素を持った上司を指しています。この場合は、結果として部下のパフォーマンスを引き出せないばかりか、最悪の場合は休職や離職に至ってしまうケースもあるので注意が必要です。

ここでは、ハズレの判定につながるような要因を5つに分けて見ていきましょう。

高圧的な態度をとる

わかりやすい要因としては、パワハラにつながるような高圧的な態度が挙げられます。上司と部下の関係性である以上、業務に支障をきたす場合などでは、ときとして厳しい態度をとらなければならない面があるのも確かです。

しかし、むやみに高圧的な態度を示せば、必要以上に周りを委縮させてしまいます。その結果、社内のコミュニケーションを希薄化させたり、周囲のパフォーマンスを低下させたりする要因となります。

部下からすれば、冷静かつ丁寧に接してもらえる上司のほうが、仕事の報・連・相も行いやすくなるため、業務や成長の効率も向上しやすいと感じるでしょう。

人によって接し方が異なる

相手によって接し方を変える上司は、部下の信頼を失いやすい典型的な例といえます。目上の相手には丁寧に頭を下げていても、それ以外の相手には横柄な態度をとっている上司の姿を見れば、部下としてはなかなか尊敬の念を抱けないものです。

また、ある部下には甘く接していて、それ以外の部下には厳しく接するといった公平性のない態度も信頼を損なう原因となります。こうした上司が自分に対して横柄な態度をとっていた場合、部下は「自分は尊重されていない」とハッキリ実感してしまうでしょう。

指示内容が頻繁に変わる

ビジネス環境の変化によって、ときには臨機応変に指示内容を変えることも必要です。しかし、明確な根拠がないままコロコロと内容が変更されると、部下としてもどのようについていけばよいのか判断できなくなってしまうでしょう。

どれだけ一生懸命に業務を進めても、すぐに方針を変えられれば、部下としては不完全燃焼の状態に陥ってしまいます。仕事である以上、ときとしてすぐに方向転換しなければならない場面もありますが、そうした出来事が続けばモチベーションも低下してしまうでしょう。

部下の信頼を得るためには、指示内容に一貫性を持たせるとともに、変更する際にはきちんと根拠を示す必要があります。

仕事の能力が低い

業務遂行能力が低い上司に対しては、どうしても部下の不満が集中しやすくなります。特に年功序列制が用いられている組織では、上司よりも部下のほうが高い能力を持っている場合、「生産性と給与が見合っていない」という不満が生まれやすくなります。

また、責任ある立場の上司が「事務処理や連絡が遅い」「書類の不備が多い」といったミスを頻発すれば、チーム全体の士気も下がってしまうでしょう。その結果、上司への尊敬心や信頼感がなくなり、組織への帰属意識も低下していきます。

責任を部下に押しつける

部下からの信頼が得られない上司の特徴として、「自分で責任がとれない」というものが挙げられます。業務上のミスやトラブルがあった場合、上司であるにもかかわらず、責任を部下に押しつければ信頼を大きく損なう原因となります。

たとえ部下にミスの直接的な原因があったとしても、上司は「指示の仕方に問題はなかったか」「業務環境に問題はなかったか」などを客観的に判断し、冷静に事態の収拾と再発防止に努めなければなりません。感情的になって特定の部下に責任を押しつければ、その本人はもちろん、周りの部下にもネガティブな印象を与えてしまうでしょう。

また、優れた業績を上げた際に部下の手柄を横取りする上司も、信頼が得られないリーダーの代表格です。部署やチームで取り組む業務であれば、確かに周囲から評価を受ける機会が多いのはリーダーとなる上司です。

しかし、その手柄を自分の力のみで得たものであると錯覚していると、実際に貢献した部下への感謝や評価が疎かになります。その結果、部下のモチベーションが下がり、上司に対する信頼が損なわれてしまうでしょう。

従業員の不満を抑えるためのポイント


現代のビジネス環境は、人手不足による売り手市場化と、転職の一般化にともなう人材の流動性の高まりという2つの要素を抱えています。企業の人材戦略では、どれだけ人材の流出を防ぎ、自社で長く活躍してもらえるかが重要な課題になっているといえるでしょう。

不満が出やすい労務環境を放置すれば、せっかく採用した人材の活躍を妨げてしまうばかりか、他社への流出にもつながりかねません。ここでは、従業員の不満を抑えるために企業が取り組むべき施策をご紹介します。

管理職向けの研修を実施する

上司ガチャという言葉が話題に挙がるということは、それだけ上司の存在が新入社員や若手の従業員にとって大きな影響力を持つと考えられます。従業員に安心して働いてもらうためには、上司側にあたる管理職の育成も欠かせない課題といえるでしょう。

研修を通じて、新入社員との関わり方や育成の方針、評価の方法などを学んでもらうことで、上司としての適切な振る舞いも自然に身についていきます。また、管理職側のサポート体制を整えておけば、部下を持ったときの負担も軽減されるため、余裕を持って育成に向き合えるようになります。

コミュニケーションを取りやすい場をつくる

部下が上司ガチャに外れたと感じる原因には、「コミュニケーション不足」も大きく関係しているといえます。お互いの意思疎通が不十分であるために、考え方や評価基準などのすり合わせが行われず、「自分を適切に評価してくれない」「何を考えているのかわからない」といった不信感が募ってしまうのです。

上司と部下の関係性を向上させるためには、社内イベントやコミュニケーションツールなどを通じて、ざっくばらんにコミュニケーションを図れる場を設けるのも有効です。

コミュニケーションの取り方について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『1on1ミーティングとは|目的や得られる効果と導入・実施方法を解説 』)

定期的な面談を実施する

部下との関わりにおいては、1on1ミーティングなどを定期的に実施して、不満や不安を適切に把握することが重要です。一対一の場であれば、部下も比較的に本音を話しやすくなるため、現状を的確に把握できるでしょう。

ただし、せっかく部下が心を開いてくれても、上司が否定的な意見を伝えたり、自分の考えを無理に押しつけようとしたりすれば逆効果となります。1on1ミーティングでは、まず相手の話に耳を傾けることに集中し、一緒に課題を解決していくというスタンスをとることが大切です。

異動や社内でのジョブチェンジを検討する

上司ガチャの結果は、必ずしも上司の資質のみに左右されるものではありません。人間同士である以上、上司と部下の相性によっても当たりハズレが変化する可能性があります。

人間関係がうまくいっていない場合は、他部署への異動や職種の変更などを行えないか検討してみることも重要です。ただし、配置転換は組織全体にも影響を及ぼす重要な決断であるため、当人や周囲の意見を丁寧に聴いたうえで、慎重に検討する必要があります。

すぐに決断が難しい場合は、「現在の部署でどの程度までのスキル・経験を身につけたら異動できる」「現在のプロジェクトが完了したらチームを組み替える」など、具体的な期限を伝えるのも一つの方法です。

まとめ

「上司ガチャ」は、どの上司のもとに就くのかを部下自身では選べず、コントロールできない要素によってキャリアが大きく左右されてしまう様子を表した言葉です。従業員に上司ガチャで「ハズレ」を引いたと感じさせれば、せっかく採用した人材を流出させることにもつながりかねません。

まずは、部下を受け持つ管理職側の研修・サポートを丁寧に行い、育成環境の整備を進めることが大切です。そのうえで、定期的な面談の実施やジョブローテーション制の導入などにより、特定の人間関係に左右されない労働環境の構築を目指しましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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