組織改革を成功させるには?基本のフレームワークとポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

組織改革は組織の構造や文化、スタイルを根本から変える取り組みであり、全社をあげて実行する大規模なプロジェクトです。

まずは組織改革の目的や必要なタイミングをしっかりと理解し、自社が行う理由を明確化することが大切です。

この記事では、組織改革の重要性や効果的なフレームワークについて詳しく解説します。そのうえで、直面しやすい課題やスムーズに推進するためのポイントもあわせて見ていきましょう。

組織改革とは

企業における組織改革とは、企業の継続的な成長を目的とし、組織の体制や風土、文化を抜本的に変革することを指します。より具体的に表現するのであれば、組織を「自発的に考えて成長する集団」に生まれ変わらせるためのものといえます。

いずれにしても、組織のあり方を根本から変える大掛かりな取り組みのため、基本的には既存の組織に大きな課題が見つかったり、企業を取り巻く環境が変化したりしたときに検討されるものです。また、組織改革では、ハード面とソフト面のどちらにも目を向ける必要があります。

規則やシステム、評価制度、人員配置といったハード面だけでなく、組織文化や従業員のビジネスマインドといったソフト面も変革の対象となります。

組織改革で目指すべき理想の組織体とは


組織改革の目的と重要性を理解するうえでは、理想の組織について明確にしておく必要があります。以下の項目では、どのような組織体が理想形とされているのかについて、3つの観点で見ていきましょう。

共通の目的を持っている

組織として優れたパフォーマンスを発揮するためには、全体で共通の目的を持っていることが重要な前提です。そして、各メンバーが組織目的の達成に向けた課題を自覚し、主体的に行動できる状態が理想形とされています。

組織として共通の目的を持っていれば、メンバーも共通認識を持って業務に当たることができるため、チームワークや生産性は自然と向上します。また、全体の目的から自身の個別目標も逆算できるため、仕事への意欲も高められるのです。

主体的な貢献意欲を持っている

理想的な組織の2つめのポイントは、各メンバーが組織に対して主体的な貢献意欲を持っているという状態です。企業や部門が設定する目的は、いずれも1人の力では達成できないものです。

そのため、組織目的を明確化するとともに、お互いが協力して達成するという意識を醸成する必要があります。組織目的の達成という観点で、それぞれが自身の役割や目標を考察し、積極的に相互協力できる風土をつくることが大切です。

コミュニケーションが充実している

組織目的を達成するためには、組織内でのコミュニケーションが円滑に行われていることが前提となります。そのためには、雑談のような日常的な会話だけでなく、成功事例や問題点を速やかに共有できる状態を整える必要があります。

個人や現場での体験によって得られた情報やコツは、貴重で有益なものが多いにもかかわらず、感覚的な性質が強いため、言葉で広く共有するのが難しいのも確かです。しかし、業務の属人化を防ぐには、こうした個人の知識・情報も組織として蓄積していかなければなりません。

そのためには、企業が主体となってコミュニケーションの仕組みを整える必要があるのです。また、失敗例もスムーズに共有できるように、組織内にはフラットで風通しのよい関係性を築いていくことも大切です。

組織改革で得られる効果

組織改革の大きな目的は、前述のとおり企業の継続的な成長・維持にあります。以下の項目では、さらに深く踏み込んで、組織改革の具体的なメリットについて2つのポイントから見ていきましょう。

生産性の向上

組織改革に成功すれば、日常の業務が飛躍的に効率化します。メンバー間で目的やビジョンがきちんと共有されるため、情報の行き違いや工程の無駄が省略され、全体としてより合理的に成果をあげられるようになるのです。

さらに、部門間での非効率的なやりとりや手待ちも少なくなり、業務の垣根を越えた連携を図りやすくなるのもメリットです。また、組織改革には時代に合わなくなってしまった体制やシステムを廃止し、IT技術を活かした効率的な組織運営に変えるといった側面もあります。

不要な連絡や会議を減らし、目的の達成に直結した業務にリソースを集中させられるため、同じ人員・労働時間であっても成果の大幅な向上が期待できます。

従業員満足度の向上

組織改革は組織全体だけでなく、同時に個人の従業員にも多くのメリットをもたらします。共通の目的意識が生まれ、コミュニケーションも円滑化することで、従業員自身が仕事への意欲を高められるのです。

たとえば、企業が持つ社会的な意義を深く共有し、日常の業務にまでしっかりと落とし込むことができれば、従業員は自身の仕事に対して誇りを持ちやすくなります。また、公正かつ公平な人事評価制度を設けることができれば、従業員それぞれが自身の評価に納得し、前向きに経験やスキルを磨けるようになるでしょう。

そして、もう一つのメリットとして挙げられるのが、柔軟なワークライフバランスの実現です。組織改革によって無駄をなくし、生産性を向上させれば、企業にも多様な働き方に対応できる余裕が生まれます。

組織改革が必要なタイミング

組織改革は企業の運営方法を根本から変える取り組みであるため、実行するタイミングは慎重に見極めなければなりません。そして、改革を行うからには、従業員や関係者に対して客観的な理由を説明できるように準備しておく必要があります。

以下の項目では、組織改革がどのようなタイミングで求められるのかについて、代表的な3つのポイントから解説します。

外部環境が変化したとき

企業を取り巻く外部環境の変化は、組織改革の実施が必要となる代表的なタイミングです。既存の組織体制では時代の変化に対応できないと感じた場合には、早急に改革の実施を検討する必要があります。

企業組織に大きな影響を与える変化としては、次のようなものが挙げられます。

・社会情勢の変化
・国際関係の変化
・市場の変化
・金利や税制の変化
・関連法令の改正
・SDGsの推進
・DXの推進
・働き方改革の推進
・新型コロナウイルスの流行

社会情勢や国の動きは企業の方針や戦略に大きな影響を与えるケースも少なくありません。また、特に現代の企業はDXをはじめとする急激な変化にさらされており、従来と比較して改革の必要性が高まる場面が多い傾向にあります。

IT技術の進歩などにより、既存のシステムやノウハウが通用しなくなってきたとき、リスクを最小限にとどめるのが組織改革の役割でもあるのです。

社内人事が変化したとき

外部環境の変化に対応できている企業であっても、業績の悪化やコンプライアンスの問題などが起こったときには、社内の人事に目を向ける必要があります。また、逆ピラミッド型の年齢構成を持つ企業では、主要な年齢層の人材が退職してしまうタイミングを事前に想定して、大幅な雇用調整や組織再編などを行う場合もあるでしょう。

このように、組織体制の立て直しを図るときには、どうしても全体に与える影響が大きくなります。特に大規模な人員削減や人事の異動を行う際には、残された従業員にネガティブな影響が生まれるのを防ぐ必要があるのです。

そこで、同時に組織改革を行い、新たな体制で再出発が切れるように土台から整え直すのも一つの方法です。

新たな経営目標を立てたとき

新たな経営計画を立てたり、新規事業を立ち上げたりしたときには、必要に応じて従業員のマインドセットを改めることが大切です。また、実務においては専門知識やスキル、ノウハウなどを身に付けさせるために、数年単位の中長期的な計画を立てなければならないケースも少なくありません。

このときには、組織内に不安要素が発生したり、メンバー間に意識のギャップが生まれたりするのを避けるために、根本から組織改革を行うほうが効果的な場合もあります。

組織改革でぶつかりやすい課題


組織改革は従業員を大きく巻き込む動きとなるため、ある程度の衝突や反発は事前に予想して計画を立てる必要があります。以下の項目では、直面しやすい課題として、2つの問題点について解説します。

従業員との意識のギャップ

組織体制が変化すれば、従業員に何らかの負担がかかってしまうのは避けられない事実です。新しい業務内容が発生したり、既存のツールや連絡手段が使えなくなったりと、現場レベルでもさまざまな変化は起こるでしょう。

また、人事評価の仕組みが変わる場合は、たとえ中長期的に見れば自分に利益があるとわかっていても、感覚的には不安を感じてしまうものです。このように、変化を好まない従業員があまりにも多ければ、心理的な反発によって改革の推進がうまくいかないリスクも十分に考えられます。

そのため、改革を行ううえでは、組織全体の納得と賛同を得るために地道な情報発信と対話が必要です。

管理職のリーダーシップ不足

組織改革を成功させるには、「キーパーソンから変わる」のが基本のポイントです。企業組織でいえば、経営層はもちろんのこと、各組織や部門のリーダーを担う管理職の理解と賛同が重要なカギを握ります。

裏を返せば、管理職のリーダーシップの育成が進まず、現場に改革の意識が浸透しないというのがつまずきやすいパターンの一つであるということです。そのため、組織改革を行う際は、はじめから全体を変えようとするのではなく、管理職という急所を定めて取り掛かることが大切です。

組織改革をスムーズに進めるための7Sとは


組織改革は企業の幅広い分野にわたる変化を示す概念です。それだけに、改革の方針があいまいになってしまうのは避けなければなりません。

そこで重要になるのが、「改革を行う対象を明確にする」という作業です。これには、企業を構成する要素を7つに大別した「マッキンゼーの7S」と呼ばれるフレームワークを活用することができます。

7Sとはアメリカの大手コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」で提唱された理論であり、組織改革を行う際に重要な資源を「3つのハード」と「4つのソフト」に分けてコントロールする考え方です。

ハードの3S

ハードの3Sとは、組織の構造に関する次の3つの要素です。

・Structure(組織構造)
・Strategy(戦略)
・System(システム)

組織構造とは、組織づくりや階層の仕組み、指揮命令系統などを指す要素です。組織の生産性や機動力を示す概念であり、機能的であるかどうか、権限が明確化されているかなどが問われます。

戦略は事業の方向性や経営戦略のことです。組織が持つ独自の強みや競争優位性を明確化し、行動方針や資源の配分などを決めることも含まれます。

システムは企業の制度や規定、情報管理の仕組みなどのことです。決められた仕組みが正しく稼働するかどうか、効率的に設計されているかどうかが重要な観点となります。

ハードの3Sは、いずれも可視化しやすく、比較的経営層の意向で改革しやすいのが特徴です。しかし、組織そのものをよりよい方向へ変革するためには、内面に当たるソフトの4Sの改革に着手しなければなりません。

ソフトの4S

ソフトの4Sとは次の4つの要素を指します。

・Staff(人材)
・Skill(スキル)
・Style(スタイル)
・Shared value(共通の価値観)

人材は人材の質そのものを指す部分もありますが、能力を持った人材をどのように配置するか、従業員が持つ経験やスキルをどのように活かしていくかといった観点も含まれています。また、人事制度や人材開発の取り組みなども人材に含まれる要素です。

スキルとは、組織が持つ競争優位性のことです。技術力やマーケティング力、営業力といった部門ごとの能力とともに、経営の中心人物に備わったスキルを指す場合もあります。

スタイルとは組織文化や社風のことです。変化を望む柔軟性を持つのか、伝統を重んじる重厚さを持つのか、ボトムアップ型なのかトップダウン型なのかなど、企業全体としての方向性にかかわるポイントに当たります。

共通の価値観とは、経営理念や経営方針などの組織全体で共有された価値観を指します。ソフトの4Sはいずれも実体がないため、ハード面と比べて改革の計画が立てにくく、効果が表れるまでに時間がかかるのが特徴です。

しかし、ハード面だけを変えたところで、組織改革が目指す「継続的な成長」や「自立して動ける組織」の実現はできません。ソフト面の改革を行うためにも、組織改革は長期的な視点で取り組むことが大切です。

7Sを見直す4つのステップ

ここまで、組織改革で着目すべき7つのSについて見てきました。ここでは、実際に7S
を見直す方法として、次の4つのステップについて解説します。

1.現状分析
2.問題点の明確化
3.改革案の作成
4.改革案と現状との比較

まずは7Sのフレームワークを用いて、7つの要素をそれぞれ分析していきます。組織の優位性と弱点を具体的に洗い出し、現状においてどのような課題が隠されているのかを見つけることが大切です。

続いて、現状分析で洗い出した課題をさらに深堀りし、すぐに改革すべきかどうか優先順位をつけていきます。組織改革とはいっても、一度にすべてを入れ替えるのは現実的に不可能です。

不要な摩擦やトラブルを避けるためには、優先順位を決めて一つずつ取り組んでいく必要があるのです。そして、問題点が明確になったら、具体的に克服するための改革案を作成します。

改革案を作成するときには、もう一度7Sの視点に立ち返り、その他の要素とのバランスも踏まえて検討することが大切です。なぜなら、7Sはいずれも独立して存在するのではなく、それぞれが相互関係にあるためです。

特にハードの改革に取り組む際は、ソフトの4Sが置き去りになってしまいやすいため、両者のバランスにもしっかりと気を配りましょう。改革案が完成したら、改めて現状と比較し、課題の解決につながるかどうかを確かめます。

はじめから精度の高い案をつくるのは難しいため、必要に応じて練り直しを行いましょう。

組織改革を成功させるために押さえるべきポイント

組織改革を成功させるうえでは、いくつか意識しておきたいポイントがあります。ここでは、特に重要な項目を4つに分けて見ていきましょう。

共感性の高いビジョンを打ち出す

組織改革を行ううえでは、「何のため」という目的を明確にすることが大切です。まずは企業が目指すべき将来の姿を定義し、具体的なビジョンにまとめましょう。

そのうえで、改革をスムーズに推進していくためには、ビジョンが従業員の共感を得られる内容であるかどうかをシビアに見つめる必要があります。組織改革は規模の大きな取り組みになるため、従業員個人からすれば、自身の日常的な業務がどのような変化につながるのかをイメージしづらい部分があります。

そのため、組織改革に取り組むことで「どのような対価を得られるのか」「どのように社会とのつながりが変わっていくのか」などを個人のレベルまで落とし込んでいく工夫が重要です。

推進者が承認される評価制度を整える

シンプルな方法ではありますが、改革の推進に対して積極的に取り組んだメンバーを前向きに評価する仕組みをつくるのも効果的です。必要に応じて人事評価のシステムや報酬体系も見直し、推進者が承認される仕組みを整備すると、従業員も自発的に動きやすくなります。

管理職との連携を密にする

組織改革は全社的なプロジェクトになるため、部署をまとめる管理職の存在が重要な役割を担います。なぜなら、経営層の考えをくみ取りやすい立場であるとともに、改革による現場からの反発を真っ先に受けやすい存在でもあるためです。

そのため、管理職には改革プロジェクトマネージャーとして一定の権限を与えたうえで、必要に応じて人事面での保護や助言を行えるサポート体制を整えましょう。また、改革に着手する前に、管理職を対象にしたリーダーシップ研修や育成を行うことも大切です。

短期的な目標も重視する

組織改革の効果が表れるまでには、ある程度の長期的な期間が必要です。特にソフト面の改革が本当の意味で影響を与えるのは、場合によって十年以上先の未来になってしまうケースも少なくありません。

しかし、目に見える効果が見られなければ、現場や関係者の理解を得るのが難しいのも確かな事実です。そのため、一定の効果が実感できるように、短期的な成果にも注目して進捗を共有することが大切です。

前向きな変化が生まれていることを実感できれば、組織改革に対して積極的な姿勢を持つメンバーも増えていくでしょう。

まとめ

組織改革とは、組織全体を根本から変革するダイナミックな取り組みです。現代の変化の激しいビジネス環境においては、ただ単に既存の仕組みを調整するだけでは太刀打ちできない場面も訪れます。

こうしたタイミングでは、組織のあり方を見直し、抜本的に仕組みをつくり変える組織改革の重要性が高まるのです。改革を進める際は、マッキンゼーの7Sに基づき、ハード面とソフト面の両方の視点で自社の要素を見直すことからスタートしましょう。

そのうえで、管理職の育成や従業員の理解獲得にも十分に配慮しながら、長期的に取り組んでいくことが大切です。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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