『ダイの大冒険』アバン先生に学ぶ、経験者の新たな活躍方法

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)」を共著した、代表の山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

ベテランは最前線で戦い続けるべき?世代交代を踏まえて経験の共有を
勝利を呼び込むベテランから若手への権限委譲
ベテランの新たな活躍の場は?「若手にできないこと」を求める

ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観や設定をベースにした冒険物語『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)(以下、『ダイの大冒険』)。第1回では、キャラクターの一人、ポップに学ぶ「普通の人」を一段上に押し上げる育成方法をまとめました。第2回では、主人公のダイやポップの先生であるアバンの生きざまから、組織やチームでベテランが活躍する場を作る方法を考えます。
(※本記事は『ダイの大冒険』のネタバレを含みます。ご注意ください)

【作品紹介】『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』
(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)

ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観や設定をベースにした、勇者になることを夢見る少年・ダイが大魔王バーンを倒すまでの冒険物語。小さな島で暮らしていたダイが「勇者の家庭教師」を名乗るアバンの指導を受け、仲間を集め、大魔王を倒す旅に出る。

ベテランは最前線で戦い続けるべき?世代交代を踏まえて経験の共有を

元勇者のアバンは、ダイやポップをはじめ、のちに大魔王を倒すことになるメンバーを育てました。作中では人類を脅かした魔王ハドラーを倒した後、勇者育成業を手掛け、各地を回っていたと描かれます。彼がなぜ育成業を始めたのかは明確には描かれていませんが、結果的に彼が各地で人材を育てたことが、勇者ダイを誕生させ、大魔王を倒すことにつながりました。

勇者という職業の最盛期が年齢や体力面でいつなのかははっきりしません。アバンの動きをみると、自分だけでは将来現れるであろう大魔王ら人類への脅威を倒せないと考え、自分と共に、もしくは自分の代わりに戦える人材を育てようとしたと推測できます。自分と同等、もしくは自分を超える人材を得られることが、「大魔王ら人類への脅威を排除して世界に平和をもたらす」という最終的な目標の達成につながると考えたのではないでしょうか。

現実の組織でも必ず世代交代の時期は訪れます。過去に素晴らしい実績を上げた人が、同様の実績を上げ続けられるとは限りません。そうした人に、若手など経験が十分ではないメンバーの育成を託すというのは、組織活性化の一つの方法です。事業を拡大して長く続けていくためには、組織内での経験や考え方の共有を通じて、優秀なメンバーを増やすことが必要です。過去の経験や実績をチーム全体で共有し、若手でも実践できる仕組みをつくることができれば、チーム全体の底上げにつながります。

育てる側にも若手の成長を促す方法やコミュニケーションの取り方など、新たに学べることがたくさんあります。自分の経験や方法を誰かに教えることを通じて、自分に欠けていた能力や考え方に気づき、育てる側にとってもさらなる躍進へのきっかけになるかもしれません。

後継者の育成は、経営者やチームリーダーにとっても重要な仕事です。能力がある人ほど「永遠に自分がすべてをやり続ける」と思いがちですが、常に挑戦を続け事業を拡大するのであれば、自分と同じ目的に向かう人を育てることは不可欠です。組織やチームの運営全体に、育成の仕組みを盛り込むことが求められます。

勝利を呼び込むベテランから若手への権限委譲

組織が経験者に求めたいのは、前述のような後進の育成だけではありません。アバンによる若手=ダイらの世代への思い切った権限委譲も考えたいポイントです。

一度は死んだと思われていたアバンですが、大魔王バーンとの最終決戦前に生きていたとわかり、ダイらと共に最終決戦に挑みます。しかし、主導権はあくまでダイやポップら「若手」の世代。アバンには、経験というアドバンテージがありますが、そこはあえて一歩引き、彼らの活躍を後押しする側に回ります。

アバンがダイに託したのは、ダイが自分の潜在能力をすでに上回っていることを理解しているからでした。最終決戦の場でも、単純な戦闘力ではダイに及ばないと認め、大魔王と直接対決するのはダイであることを示唆します。

ビジネス組織でも同様です。最終的な目標を達成するために、経験を積んだベテランが常に最前線に立ち続けるのが正しいのか。それとも若手に権限を委譲したほうが、より組織やチーム全体を前に進めることにつながるのか。過去に実績を上げてきた経験者ほど、意思決定などの権限を譲ることをためらいがちです。しかし、組織で目的を達成するためには、最適な人材に権限を移すべき。組織の中で「誰が権限を持つか」は、個人の経験値だけで判断せず、あくまでその時々の課題に合わせて適切な人を選ぶことが求められます。

権限を委譲するとき、経験を積んできた者からすれば、経験で劣る若手にはどうしても口を出したり指摘したりしたいもの。しかし、時にはそうした点に目をつぶっても、若手に権限を委譲し、彼らの思うとおりにやってもらうことが必要かもしれません。こうした権限委譲が前述の育成にもつながり、結果的には組織内に同じ目標に向かうメンバーを増やし、組織全体の強化になりえるからです。若手の改善点をカバーしつつ、若手が全力を出せる環境をつくることも、組織やチームのリーダーを含め、先を走ってきた者に求められるスキルの一つでしょう。

ベテランの新たな活躍の場は?「若手にできないこと」を求める

若手への権限委譲を促した上で、育成役を担う――こうした役割は組織が経験豊富なベテランのメンバーに求めたい役割です。しかし、それだけでなく、あえて経験や知恵を活かして「若手にはできないこと」を求めるのも、組織全体を活性化することにつながります。

『ダイの大冒険』でダイらの最終決戦に合流したアバン。ダイが自分の潜在能力を上回っていたことを理解した上で、共に行動するよりも自分にしかできない能力を身につけなければ、共に戦う資格はないと考え、ダイらの冒険中、自らは自分の得意分野を極めることに集中します。結果的にはこの再度の修行で手に入れた力は、ダイやポップとは違う側面で最終決戦の勝利に貢献することになります。アバンは、一度魔王・ハドラーを倒して世界を救った実績を持ちながらも、前線を離れ、新しい戦力を手に入れて戻ってきたのです。

同じことはビジネスシーンでも起こり得ます。特に変化が大きい現代社会では、これまで実績を上げてきた人でも、その経験や知恵が簡単には通用しなくなってきているかもしれません。ベテランからの権限委譲を進めると同時に、ベテランができることをさらに増やせれば、組織全体に大きなメリットをもたらします。組織やチーム内の研修や教育では、若手や未経験者を重視しがちですが、新たにできることを増やしたいと考えるのはベテランも同じ。成長の幅を広げるために、組織の目的や目標を熟知しているベテランにこそ、学びの機会が不可欠になります。

技術や常識、社会のシステムが急激に変化していく中で、同じことの繰り返しは成長を止めるリスクとなるでしょう。組織としては、ベテランに学びの場を用意すると同時に、いつまでも若手と同じ土俵で戦い続けるのではなく、自分にできることは何かを考え、実績の有無にかかわらず常に「できること」を増やしていくよう促すことが求められます。

【まとめ】

物語の中心であるダイやポップらよりも上の世代で、経験や能力で彼らを大きく上回っていたアバン。ダイやポップを育てた上で最終決戦の主導権を若手世代に渡し、一方で自分は強みを鍛え、できることを増やして勝利に寄与します。アバンの振る舞いは、ベテランの目指す姿の一つ。組織としてはベテラン勢にこうした変身を後押しすることが必要と言えそうです。

【連載一覧】
第1回 「普通の人」代表のポップが後輩になったら?『ダイの大冒険』に学ぶ育成術 はこちら

文/bookish、企画・監修/山内康裕