採用できないのは“自分たちのスタンス”が原因かも…。プロ直伝!ダイレクトリクルーティングの成功法

株式会社VOLLECT

代表取締役 中島大志(なかしま・たいし)

プロフィール

売り手優位の採用市場に対応すべく、ダイレクトリクルーティングに取り組む企業が急増しています。ダイレクトリクルーティングは求める人材にピンポイントでアプローチできることが大きな魅力ですが、「人事・採用担当者を中心に内製で運用するため工数負担が増してしまう」「母集団形成が進んでも採用決定まで至らない」といった問題を抱える企業も少なくありません。

ダイレクトリクルーティングによって採用成功する企業と、そうでない企業の違いはどこにあるのでしょうか。戦略策定から運用までを支援する株式会社VOLLECT代表取締役の中島氏に、リアルな実践知を聞きました。

母集団形成の基本は「ターゲット」「タイミング」「メッセージ」

——ダイレクトリクルーティングに取り組む企業が急増しています。中島さんは現状をどのように見ていますか。

 

中島氏:状況は大きく変わってきていますね。当社が創業した2018年ごろは、スカウトメールを送れば10人に1人は返信が来て、他の採用手法と比べて母集団形成をしやすい感覚がありました。

しかし現在では人材業界大手をはじめとしてさまざまなダイレクトリクルーティングサービスが登場し、導入企業も増え続けています。その結果、ただ単に導入するだけではなかなか効果が出ない企業も見られるようになりました。ダイレクトリクルーティングは成果が出るようになるまで時間がかかる手法なのですが、うまく使いこなせないまま、短期的な結果だけを見て「採用成功する可能性が低い」と判断してしまっているケースも多いのではないでしょうか。

——こうした状況で母集団形成を効果的に進めるためには、何が必要でしょうか。

中島氏:ダイレクトリクルーティングにおける母集団形成の基本は「ターゲット」「タイミング」「メッセージ」を考えることです。誰に・いつ・どんな内容でアプローチするのか。この3つを適正にしていく必要があります。

この3つの中で、どこから改善していくかの順番も大切です。たとえば「メッセージ」は最も変えやすいですが、最も効果を発揮しにくいという面もあります。ダイレクトリクルーティングでは「頑張ってスカウトの文面を練ればうまくいく」と思われることが多いのですが、これだけで母集団形成が改善することは少ないのです。

逆に「ターゲット」は最も変えにくい部分ですが、効果が表れやすいですね。要件を広げすぎるとそもそもの採用目的を達成できなくなるので、社内の募集部門と調整しながら、現実的な落としどころを探っていくべきだと思います。

その上で、転職市場の動きに応じて適切な「タイミング」でアプローチしていく。とても基本的な部分ですが、母集団形成がうまくいかない企業にはこれら3点の見直しをアドバイスしています。

配信数を増やすのは微妙なのか?ありがちな勘違いとは

——ダイレクトリクルーティングでは、人事・採用担当者に大きな工数負担がかかる傾向もあります。

中島氏:効率を高めるために必要なのは、「必要な工数」と「不必要な工数」を明らかにして、後者を削減していくことです。

 

たとえば、ダイレクトリクルーティングに取り組む企業ではスカウトの返信率アップにこだわる人事・採用担当者が少なくありません。スカウトを100件送って返信率10%なら10名の母集団形成ができるわけですから、たしかに効率が上がりそうに思えます。しかし、返信率はそう簡単にコントロールできるものではなく、運の要素が強い面もあります。さらに、取り組む企業が増え続けている中で、返信率がすぐに上がるはずはない。ここにこだわり過ぎると、不必要な工数ばかりが増えていくかもしれません。

スカウトの母集団形成は「配信数×返信率」です。母集団を増やしたいなら配信数を増やすほうが間違いなく早いのに、何となく「配信数を増やすのはどうなんだろう」といった風潮にとらわれていないでしょうか?

また、ありがちな勘違いとして「採用見込み対象者一人ひとりにスカウト文面をカスタマイズすべき」というものがあります。私たちが検証してきた中で、たしかにカスタマイズしたほうが返信率が若干上がる傾向はあるものの、その影響は微々たるもの。多大な時間と手間をかけてまでやる必要があるのかというと疑問です。

スカウトが届く個人の立場で考えると、自分宛てにカスタマイズされた文面を見てテンションが上がるかもしれませんが、結果的に興味のない求人だったらリアクションしませんよね。もちろん工数をかけられる企業やスカウト業務をアウトソーシングしている企業などは別ですが、転職市場にほとんどいない特殊な人材を求める場合を除いては、スカウト文面のカスタマイズに無理をして取り組む必要はないと考えます。

採用成功企業は「4人面接したら1人採用」をルール化している

——ダイレクトリクルーティングで母集団形成が進んでも、なかなか採用成功に結び付かない企業もあります。考えられる原因はどこにあるのでしょうか。

中島氏:なかなか採用成功できない企業は、求める人材要件が明確になっていないケースが多いと感じます。

ダイレクトリクルーティングでは求める人材に対して直接スカウトを送るので、経験・スキル面について言えば、返信してくれた人は本来有力な採用見込み対象者のはず。それにもかかわらず採用が進まないのは、企業側が求める人材要件を明確にしておらず、「もっといい人がいるかも」「他の人と比べてみたい」と考えて決めきれないからです。ネットショッピングに例えるなら、商品をカートに入れたり削除したりを繰り返しているような状態。つまり課題は企業の意思決定にあるのです。

 

——募集を開始している段階で求める人物像を明確にしているはずですが、それでも決めきれない?

中島氏:はい。特に、人材要件を決める人たちが面接に積極的に関与していない企業はその傾向が強いです。逆に事業部長など、人材要件を握っている人がカジュアル面談を担当している企業は採用の意思決定が早い。

実際に、意思決定が早い外資系コンサルティングファームやベンチャーなどでは、トップの立場に近い人が面接の初期段階から参加しています。

また、「採用決定しなければいけないルール」を定めておくことも重要だと思います。私たちが支援しているあるメガベンチャーでは、「4人と面接したら少なくとも1人は採用決定する」ことをルールにしています。あえて縛りを設けることで、決めきれない状態を作らないようにしているのです。

——お話を伺っていると、ダイレクトリクルーティングがうまくいかない企業は採用できないのではなく、していない、ということですね。採用見込み対象者側の視点から考えて、採用決定率を上げるために取り組むべきことはありますか?

中島氏:ダイレクトリクルーティングの採用見込み対象者は、人材紹介サービスなどに登録している人とは違い、今すぐに転職を考えているわけではない転職潜在層であるケースも少なくありません。そのため、カジュアル面談などを通じて意向調整をする、つまり「自社に興味を持ってもらえるように関係を築く」必要があります。

この際には、企業説明や募集ポジションの説明からスタートしてもなかなかうまくいきません。セールスの現場を想像していただくとわかりやすいのですが、商談で最初から商品を売り込んでもうまくいきませんよね。まずは顧客の課題をヒアリングするはず。採用面談も同じで、採用見込み対象者から深くヒアリングすることが第一なのです。60分の面談を行うなら、そのうち30分はヒアリングに当てるつもりで臨むべきだと思います。

採用見込み対象者がある程度現職に満足している状況でも、働き方やポジション、待遇など、何かしらの悩みや課題はあるはず。そうした点を見つけ、自社で解決できる可能性を提案することで、意向調整がうまく進んでいくはずです。

採用が強い企業は、セールスが強い企業であることが多いのも、この辺りの感覚が元々備わっているからだと思いますね。

ダイレクトリクルーティングの本当の意義は「企業の採用基礎力を高めてくれる」こと

——中島さんは顧客企業に対してダイレクトリクルーティングの戦略策定から支援していますね。上流部分において人事・採用担当者が陥りがちな落とし穴があればお聞かせください。

中島氏:ダイレクトリクルーティングは中長期的に取り組むべきもの。本来、短期的に何かのサービスを導入すればすぐに何名も採用できるという手法ではありません。しかし現実には「3カ月に5名採用する」「人材紹介サービスの半分のコストで採用する」といった、むちゃな計画を立てるケースが少なくないと感じます。私はそれを見直してもらうことから始めていますね。

また、ダイレクトリクルーティングは採用コストを削減するための手法でもありません。転職潜在層を採用しにいく手法なので、むしろコストが増大することもあります。もし人事・採用担当者が上層部から「コスト削減のためにダイレクトリクルーティングを導入しよう」と言われているなら、よくない状況だと感じます。

 

もう一つ強調しておきたいことがあります。それは、ダイレクトリクルーティングの本当の意義は「企業の採用基礎力を高めてくれる」点にあるということ。ダイレクトリクルーティングで採用がうまくいっている企業は、人材紹介サービスなどの他の手法でもうまくいく可能性が高いのです。

——ダイレクトリクルーティングによって高まる採用基礎力とは?

中島氏:1つはオペレーション力です。ダイレクトリクルーティングでは要件定義や募集要項作成、日程調整、意向調整などを外部エージェントに頼らず、自社で進めることが基本となります。採用を効果的に進めていく上では現場を巻き込むことも必要でしょう。こうした一連のオペレーションを進めることで、企業の採用基礎力が高まっていきます。

また、中長期にダイレクトリクルーティングを機能させていくためには、コーポレートサイトや採用サイト、オウンドメディアなどを通じた採用ブランディングも欠かせません。これらの取り組みも企業の採用基礎力を向上させてくれるのです。

私自身、人材業界に長く身を置いてきた中でダイレクトリクルーティングに強く興味を持つようになったのは、“ダイレクトリクルーティングが企業の採用基礎力を向上させ、採用活動に再現性を持たせてくれる可能性がある”と気づいたからです。今後も企業の採用基礎力アップ、再現性アップに向けた支援を続けていきたいと思っています。

取材後記

採用成功できない原因は手法ではなく、決めきれない企業側にある。そんな中島さんの指摘を受けて、「とは言え人となりの見極めも大切では…?」と感じた方もいるかもしれません。この疑問を率直にぶつけたところ、中島さんは「求める人材が永続的に応募してくれる時代ではない現在、限られた採用見込み対象者の中でリスクをとって意思決定することが出来ないのは、自ら採用成功を避けているようなもの」と明快に喝破してくれました。転職市場の現実を見て、現状の採用見込み対象者から決めきる。そんなリアルな採用スタンスが垣間見えた取材でした。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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