SOGIハラとは?言動の具体例や組織での防止策を紹介

d’s JOURNAL編集部

SOGI(ソジ・ソギ)ハラとは、性的指向や性自認に対するハラスメントのことを指す言葉です。多様な価値観を受け入れた組織づくりを進めていくには、正しい認識を全社的に浸透させる取り組みが欠かせません。

この記事では、SOGIハラの基本的な捉え方、具体例や防止策を詳しく解説します。

SOGIハラとは?

(参照元:『LGBT法連合』

SOGIハラに関する取り組みを行っていくには、まず正しく言葉を理解する必要があります。SOGIハラが注目されている理由や法律的な観点なども含めて解説します。

SOGIの定義

SOGIとは、「Sexual orientation and gender identity」の略語であり、読み方としては「ソジ」や「ソギ」です。意味としては、性的指向と性自認を表しています。

性的指向は自分が好きになる人の性のことで、性自認は自分自身で認識している自らの性のことです。したがって、SOGIは異性愛・同性愛・無性愛を問わずすべての人が持っている性的指向や個人の性自認における属性を意味するものだといえます。

SOGIハラの定義

SOGIハラとは、SOGIハラスメントのことであり、性的指向や性自認に対する嫌がらせを意味しています。例えば、職場で性的指向や性自認などを理由に不利な待遇を強いられたり、本人の要望が聞き入れられなかったりするだけでなく、噂話などで本人の気持ちを傷つける行為などもSOGIハラに該当します。

SOGIハラが注目されている理由

SOGIハラが注目されているのは、ビジネス領域において個々の多様性を尊重する流れが出てきているからだといえます。個人の特性が認められる流れのなかで、以前からあったSOGIハラの問題が顕在化してきたからだと推測されるでしょう。

元々、SOGIはマジョリティやマイノリティに関係なく、すべての人が生まれ持った特性であると考えるため、周囲に合わせるといった概念自体が当てはまりません。ただし、現実的にはそうした考えが受け入れられず、SOGIハラの被害に遭う方が多くなっているといえるでしょう。

心が深く傷ついた状態が続いてしまえば、結果的にうつ病などの精神疾患につながるケースは以前から存在していました。しかし、性的指向や性自認の話題について表立って口にできない風潮があったため、社会的には長年にわたって問題が認知されていませんでした。

近年では、グローバリゼーションの流れのなかで経済やスポーツなどの交流も盛んであり、多様性に富んだ社会を構築していくために、SOGIについての考え方が徐々に浸透してきているといえるでしょう。そのため、企業などの組織においてSOGIハラを防止するための取り組みが求められています。

改正パワハラ防止法

2020年6月から、改正パワハラ防止法(職場におけるハラスメント関係法令)が施行されました。この法律にはSOGIハラの防止に関する項目も含まれているのが特徴です。

そもそも、パワハラ防止法が改正された背景には、2020年頃から職場でSOGIハラを受けたことが原因で、うつ病などの精神疾患を発症した事例が多く報告されたことがきっかけです。これによって、被害を受けた方の「心理的負荷」を評価する項目にパワーハラスメントが追加されることになり、SOGIハラを含んだパワーハラスメントが職場において全面的に禁じられるようになったという経緯があります。

改正されたパワハラ防止法において関係する部分は、企業がSOGIハラの具体的な防止策を講じなければならないと義務を課された点だといえます。大企業・中小企業を問わず、2022年4月以降はすべての企業がSOGIハラ対策を講じなければならないルールとなりました。

(参照:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』

SOGIハラの具体例


SOGIハラの防止策を検討するためには、まずどのような行為がSOGIハラに該当するのかを把握しておく必要があります。主な点として、次のようなものがあげられます。

SOGIハラの具体例

・差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
・いじめ・暴力・無視
・望まない性別での生活の強要
・不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制
・誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)

参照:「なくそう!SOGIハラ」

それぞれの事例について解説します。

差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称

同性愛者を意味するホモセクシュアルは日本において、男性同性愛者の蔑称として使われてきた経緯があります。当事者自身がセクシュアリティに関して自らを「ホモ」と表現することはあっても、当事者以外が表現するのは差別的な発言となってしまうため、行ってはなりません。

同様に、女性同性愛者に対して「レズ」と表現することも差別的発言に該当するので使うことは控える必要があります。同性愛者だから受け入れられないと言葉で表現するのは理不尽な行為であり、当事者を深く傷つけてしまうことを認識しておかなければなりません。

たとえ発言した人に悪意がなかったとしても、本人を傷つける言動はSOGIハラに当たるので気をつけましょう。

いじめ・暴力・無視

SOGI以前の問題ではありますが、どのような理由があれ、いじめや暴力、無視といった行為は認められるものではありません。偏見からいじめなどに発展するケースは多く、当事者だけでなく周囲の人たちも、見て見ぬふりをしてしまう場合があります。

また、本人ではなく家族がセクシュアルマイノリティだという理由から、いじめを受けたという事例も報告されています。

望まない性別での生活の強要

本人が望まない性別で生活を強要されるといったケースは、日常的に起こっています。身体的性を基準として、男女別の制服を採用している学校や職場においては、本人が着たい制服の性と身体的性が異なる場合にとても大きなストレスを与えてしまうものです。

近年では、制服を自由選択制にする学校や私服での勤務を可とする職場も増えてきてはいます。しかし、周りからの反応を気にしてしまい、結局は自分が着たい服を着られないといったケースは多いといえるでしょう。

また、使用するトイレに関する配慮を行わないようなケースも、SOGIハラに当たるので注意が必要です。

不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校強制

SOGIを理由とした不当な異動や解雇、不当な入学拒否や転校の強制などはあってはならないことです。組織のルールに従わなければ、地位が奪われることを示唆され、半ば強制的に方針に従わせるのはSOGIハラに該当するといえるでしょう。

誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング)

アウティングとは、本人の許可なくSOGIについて周囲に言いふらすことを指します。周囲の理解不足から、命を絶ってしまった事案も発生しており、社会的にも問題となりました。

本来、自らのSOGIについて他人に言う義務はありません。しかし、カミングアウトする方にとって、「その人にだけは知っておいてほしい」という思いがあるものです。

そうした思いを蔑ろにされて勝手に言いふらされてしまっては、深く傷ついてしまいます。軽率な行為が当事者を傷つける点を認識しておく必要があります。

SOGIハラの防止策


組織内でSOGIハラが起こらないようにするためには、問題が生じる前に防止策を立てて、周知徹底することが重要です。具体的にどのような取り組みを行えばよいかを解説します。

就業規則を整備する

まず、どの企業でも取り組めるものとして「就業規則の整備」があげられます。就業規則とは、従業員が守るべきルールや労働条件を定めた規則をいいます。

労働基準法において、常時10名以上の労働者を雇用している企業は、就業規則の作成と所轄の労働基準監督署長への届け出を義務付けています。10名未満の企業であっても、自主的に作成し提出することが可能です。

就業規則は社内・社外で共有されるものであるため、「SOGIに関する差別の禁止」を盛り込めば、従業員や求職者に対して自社のスタンスを明確に伝えられるでしょう。注意喚起や問題が起こったときの対処の根拠となるだけでなく、普段から社内の意識を変えていくという面からも就業規則を変更することは効果的な方法だといえます。

厚生労働省が公表している「モデル就業規則」においても、以下の文言が盛り込まれているので参考にしてみてください。

(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条  職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

(引用:厚生労働省「モデル就業規則」(令和5年7月版)

研修を実施する

SOGIに対する正しい知識を身につけるには、外部機関が行っている研修を受けてみるとよいでしょう。従業員だけでなく、ハラスメントが起こらない企業風土を醸成するために経営層も学んでいくことが大切です。

研修を行う会社によって内容は異なりますが、役員・管理職向け研修・人事採用担当者向け研修・店長、エリアマネージャー向け研修・全従業員向け研修など対象が幅広いのが特徴です。LGBTについて深く学び、ダイバーシティを実現するための職場づくりの方法などを学べます。

また、人材を受け入れる体制の構築や社内ルールの整備などのコンサルティングにも対応している会社もあり、eラーニングを通じて継続的に学べる機会も提供されています。自社の状況に応じて必要なサポートを受けてみましょう。

従業員との面談を定期的に実施する

SOGIハラの問題は、何より自社の従業員に関することなので、従業員との個別面談を定期的に実施することが大事です。問題が起こってから対処するのではなく、日頃から円滑にコミュニケーションが取れる信頼関係を構築しておけば、いざというときに従業員自身も相談しやすくなるでしょう。

従業員が抱えている悩みを把握し、相談に乗ってあげることは企業として大事な役割です。また、面談を通じてそれぞれの従業員がSOGIやハラスメントについて、どれくらいの理解を持っているかを知ることもできます。

従業員の認識レベルに合わせて、外部での研修内容を決めてみるとよいでしょう。

相談窓口を設置する

SOGIハラの防止策を企業として熱心に取り組んでいたとしても、完全に防ぐのは難しい部分があるでしょう。そのため、問題が生じた場合に備えて、相談窓口を設置しておくことも大事です。

身近な相談先としては直属の上司があげられますが、同じ部署内では相談をしづらいケースもあるので、人事部など中立性を保てる部署に相談窓口を置くほうがよいといえます。また、社内では相談できないというケースもあるため、外部機関や専門家とも協力して、社外にも相談できる窓口を置いておきましょう。

従業員の視点に立って、現場の意見も聞きながら、どのような体制を構築すべきか検討してみてください。

SOGIハラが起こったときの影響


SOGIハラが起こると、企業にとって大きな影響が生じます。SOGIハラ防止の取り組みを行ううえで、どのような影響があるのかを把握しておきましょう。

人材の流出を招く

SOGIハラが起こってしまうと、被害を受けた従業員は職場で働くことが難しくなり、退職する可能性が高まります。また、他の従業員にとっても勤務先が適切な対応を行わなければ、モチベーションが低下する要因となり、新たな離職を招く恐れがあります。

SOGIハラが起こらないように事前の取り組みが大切ですが、万が一起こったときは素早い対応が重要です。被害を受けた従業員へのケアを行いながら、原因を究明し、就業規則に則って厳正に処分を行う必要があります。

企業としての姿勢が見えてこなければ、従業員の間で不信感が募ってしまうので、早急に対応することが重要です。

労災申請が行われる

先に述べたように、改正パワハラ防止法によってSOGIハラが起こらないように防止策を講じることは企業の義務となっています。そのため、SOGIハラが起こってしまうと、労災申請が行われる可能性は高いでしょう。

労働基準監督署に相談することは、従業員の権利であるため、企業側としてどうにかできるものではありません。労災申請が行われれば、労働基準監督署は必要に応じて企業側に対して調査を行います。

通常業務に影響が出てしまう部分もあるため、企業としてSOGIハラに関する防止策を怠ることはマイナスにしかならないでしょう。

企業イメージの低下

SOGIハラは人に関わることなので、重大なコンプライアンス違反だといえます。コンプライアンスとは、直訳すると「法令遵守」という意味ですが、企業は単に法令だけを守ればよいというものではありません。

コンプライアンスは法令だけでなく、就業規則や企業倫理・社会規範などを含めた幅広い意味を含んでいます。SOGIハラそのものが、パワハラ防止法に抵触しますが、世の中に対する企業イメージも悪化する恐れがあるでしょう。

企業は高い倫理観を持って事業活動を行わなければならないため、いったん不祥事が起こってしまうと、信頼を回復するのに相当な時間と労力がかかります。場合によっては、消費者や取引先が離れ、経営に直接的なダメージが及んでしまうこともあるでしょう。

また、SOGIハラは労務に関する問題でもあるため、採用活動にも影響が出ます。応募者数が減少すれば、企業としても人手不足を解消できず、ますます事業活動に支障が出てしまうでしょう。企業イメージを低下させないためにも、日頃からSOGIに対する理解を深め、SOGIハラが起こらない企業風土を醸成していくことが大切です。

まとめ

SOGIハラは性的指向や性自認に対するハラスメントを指すものであり、問題が生じれば企業に与える影響は大きなものがあります。パワハラ防止法の改正によって、SOGIハラが起こらないように防止策を講じることがすべての企業に義務付けられました。

経営層だけでなく、現場レベルの従業員にまで正しい認識を持ってもらうため、社内勉強会や外部の研修などを通じて、全社的に認識を深めていく必要があります。また、万が一SOGIハラが起こったときの影響を最小限にするために、対応策を事前に立てておくことも大事です。

多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れることは、中長期的に見れば組織の成長につながっていくといえます。すべての従業員が気持ちよく働ける職場環境の整備に取り組んでみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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