従来のOJTの在り方を見直し、未経験ITエンジニアを早期活躍人材へ!株式会社ユリーカの育成ノウハウとは
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採用対象者の考え方。ITエンジニアを採用して育成するスキームを構築する
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OJTでは育成の向き不向きや相性の問題で、育成の状況に個人差が生じてしまう
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成長スピードを上げるためにはエンジニアに求められる体系的な知識を学べるようにすること
少子高齢化による人材不足に伴い各社が採用に苦戦する中、特に難易度が高いと言われているのがITエンジニア採用です。即戦力の人材を採用するのが難しい一方で、未経験から人材を育成するにも現場の負担が大きい、教育ができる社員がいないなど、さまざまな課題を抱える企業が少なくありません。
長野県に本社を置き、システム開発・新規事業開発・ITサポートを担う株式会社ユリーカは、2020年、若者の採用・育成に積極的で雇用状況も優良な企業として「ユースエール認定企業」の認定を受けました。
首都圏よりさらに人材不足が深刻な地方が本拠地でありながら、どのように未経験者を採用し、早期に活躍できるITエンジニアへと育成しているのでしょうか。同社で代表取締役を務めている青山氏に具体的な取り組みを伺いました。
人材不足が深刻なため、未経験から早期活躍できるITエンジニアを育成する方向にシフト
——貴社の事業について教えてください。
青山氏:ユリーカは、業務基幹システムの企画・開発・運用保守から新製品やサービスの企画まで、情報通信技術の領域でお客さま向けの多様なサービスを提供しています。
当社は、私の父が1981年に創業した会社です。私が代表を引き継いだ2013年当時、リーマンショックの影響で大きな負債を抱えてしまい、会社は倒産寸前の状況でした。そこで代表取締役に就任後は、まず経営の立て直しから取り組みを進め、あらゆる顧客やパートナー企業の元を回り、社運を懸けた大型プロジェクトの受注などで再起を図ったのです。
現在は、長野県塩尻市に本社を構えながら、東京のお客さまの業務をメインに行い、自社のエンジニア50人を擁する組織へと成長しました。
——昨今のITエンジニアの採用市場動向をどのように見ていますか。
青山氏:何といっても、人材不足が最大の課題です。その中で、即戦力のITエンジニアを見つけるのはとても難しい状況にあります。少子高齢化の影響で、ITエンジニアを志望する人材の母数が減少しているうえに、採用市場が売り手市場になる中、さまざまな業界・業種・職種の募集があるため獲得競争がますます厳しくなっているのです。
その中で、特に中小企業や、地方に拠点を置く企業は人材確保に苦戦しているのではないでしょうか。従来のような「企業が人を選ぶ」採用の考え方では、新たな人材を自社に迎え入れることは難しいと言えるでしょう。
——どのような経緯でユリーカでは積極的な未経験人材の採用や育成に取り組み始めたのでしょうか。
青山氏:はい。私が事業承継した当時は、経営事情から即戦力となる人材の中途採用にダイナミックな投資をすることがかなわないという理由もありました。そこで、意欲のある未経験人材を採用して自社で育成していく方針にシフトしたのです。
首都圏と地方では、採用市場の状況がまったく異なります。最近はリモートワークの普及が進み、地方にいながら都心の企業に勤めるエンジニアも増えてきましたが、まだまだ人材の数には大きなギャップがあると思います。加えて、地方では企業数が少なく転職先の選択肢が限られ、人材の流動性が低いといった問題もあります。
そのような状況でしたので、まずはITエンジニアを積極的に採用している会社だと認知してもらい、ITエンジニアとして働く選択肢として当社が想起される存在にならなければいけないと考えました。
複数の採用チャネルを活用し、多様なバックグラウンドを持つ人材との接点を増やす
——人材の採用に関しては、まずどのようなことから取り組みましたか。
青山氏:まず行ったのは「どんな方が仲間に加わってくれたら共に成長していけるか」という視点で、当社が求める人物像を考えることです。
そして、当社とマッチする人材に来てもらうために、どのようなチャネルを用いるのが最適なのか、戦略を練っていきました。Uターン・Iターンを検討する方々に向けてもアピールできるよう、オフィス周辺の環境を見学できるツアーや、最大15万円の移住手当などの支援制度を用意して採用イベントの場で広く告知するなどの工夫も加えました。
——具体的に、どのような採用方法を積極的に活用したのでしょうか?
青山氏:主に、中途採用では求人広告と人材紹介サービス、新卒採用ではさまざまな大学との連携を深めていくことで応募者を募りました。インターンシップの導入を進め、キャリアセンターを通じて県内・県外問わず大学でインターン生を募集したところ、30人ほどの応募が集まりました。長野県でITエンジニアのインターンシップを実施している企業は珍しかったこともあり、思っていた以上の反響がありましたね。
それから、2018年度より高卒採用を開始しましたが、当時エンジニア職の採用としてはかなり珍しい試みだったのではないでしょうか。高校側もIT企業の支援は今までになかったようで、会社説明会の実施をするなど積極的な働きかけを行った結果、毎年1〜2人の高卒・未経験者を自社に迎え入れています。
——多様なバックグラウンドを持つ人材との接点を増やしていったのですね。
青山氏:中途採用では外国人採用に力を入れていたこともあります。このように多角的な視点で採用を行う理由は、採用候補者との出会いの幅を狭めるのはもったいないと考えているからです。
このような考えに至ったのは私の経験によるところが大きいです。新卒で入社した富士通ではエンジニアとしてさまざまな先輩方に育てていただき、2社目のベイカレント・コンサルティングでは200人規模の事業部を統括しながら、新入社員の採用や育成にも深く携わってきました。
育成される側と育成する側、どちらも経験して感じたのは、社内で活躍する人材には一定の共通するコンピテンシー(行動特性)が見られるものの、学歴や経歴はまったく関係ないということでした。だとすると、採用候補者の学歴やこれまでのキャリアを問わず、より多くの人と接点を作れるような体制を構築するのが最優先だと考えたのです。
OJTの在り方を見直す。OJTでサポートすべきことと、外部研修を活用すべきポイントとは
——未経験人材を迎え入れるに当たって、入社後の育成も重要だと思いますが、どのように行っているのでしょうか。
青山氏:特に中小企業では、教育の研修制度を整えている企業は多くないと思います。人材育成について、入社直後に新人研修や中途入社研修などを実施した後、配属先の現場でOJTによって上司や先輩社員がスキル習得サポート含めて直接指導するといった流れが一般的でしょう。
しかし、私は前々から「現場の先輩社員が教育担当として最適なのだろうか」と疑問に感じていました。テクノロジーが日々進化する中、もしその先輩社員が古い技術しか活用していなければ、教わる新入社員も最新技術をなかなか習得できません。加えて、先輩社員も既存業務が忙しい中、OJTに時間を割かなければいけない点や、人に教える教育を受けてきたわけではないことも踏まえて、向き不向きや相性の問題で、育成の状況に個人差が生じてしまう懸念もあるでしょう。
そこで当社では、新入社員や若手社員向けの教育には外部研修を積極的に活用し、OJTによる教育と切り分けることにしました。
OJTについては、従来通り配属先の先輩社員をトレーナーとして任命し、業務に関する指導や現場での人間関係構築サポートを任せています。
一方で外部研修は、従来OJTでカバーしていたエンジニアとして必要なスキルや、社会人に求められる汎用的なビジネススキルの習得をサポートしてもらっています。エンジニア職の新入社員でも、議事録や提案書の書き方に関する研修などを実施しているんです。
教育体制を見直し、外部の力も借りることで、新入社員の早期レベルアップにつながっています。
——外部研修を活用する際に、気を付けるべきことはありますか。
青山氏:大事なポイントは大きく2つあります。1つ目は、エンジニアに求められる体系的な知識を学べるようにすること。エンジニアのキャリアパスとして、最初に運用・保守やテストから担当する流れが一般的ですが、その状態では業務システム開発の全体的なプロセスを理解することが難しいため、エンジニアとしての知識が部分的なものになってしまいます。
そこで、新入社員の成長スピードを上げるために外部の研修会社と共同で企画・実施しているのが、システム開発の上流工程も体験できるワークショップです。私たちのような受託開発会社は、業務の始まりに必ずお客さまのビジネス上のニーズがあり、依頼をいただいている。その点を深く理解することでビジネスの視点を兼ね備え、お客さまに本質的な価値を提供できるエンジニアに育ってほしいと考えています。
また、先ほど話したように、エンジニアリングスキルだけでなく汎用的なビジネススキルの習得も目指します。エンジニアとして活躍するには、技術の習得はもちろんですが、周りから信頼や理解を得るためのコミュニケーション能力や伝える力も重要です。
2つ目は、個々人の習熟度に合わせて研修を進行できるよう、カスタマイズできる外部研修会社へ依頼することです。新入社員の個性や強みは一人一人異なるもの。画一的な研修の内容やプロセスを当てはめるのでは、個人の成長につながりません。そこで、社員それぞれの学習進捗を見ながら、外部講師の方には個別指導をお願いするなど、きめ細かなサポートを実現しています。
いずれも、外部の研修会社の協力なくしては成り立ちません。ユリーカとして大切にしたい育成方針を丁寧に共有しながら、カスタマイズの相談に乗ってもらっています。
——早期活躍を実現するうえで、現場の受け入れ体制や意識づけの面で取り組むべきポイントがあれば、併せて教えてください。
青山氏:先輩となる社員には「自分たちを超える人材の育成」をすることがミッションであると伝えています。
新入社員が能力を発揮して活躍し始めると、彼らはそれを脅威に感じてしまい、現場で摩擦が生じてしまう場合があります。受け入れる立場の先輩社員がそう考えていると、人材育成の観点でも大きな障壁となってしまいます。
だからこそ「いかに先輩社員を飛び越えて成果を出してもらうか」という共通ゴールを設定し、先輩社員にも人材育成の“共犯者”になってもらうのです。
世界に名をとどろかせるエンジニアを輩出したい
——これまで伺ってきた育成の取り組みにより、社内で感じられる変容や成果があればお聞かせください。
青山氏:外部の研修実施についても、新入社員からは毎年「ここまで丁寧に育成してくれるとは思っていませんでした」と声が上がっています。「実践につながる研修を受講させてもらえた」との感想もあり、OJTと外部研修サービスを分けて活用することで現場にて早期活躍できる仕組みが構築できつつあると感じます。
また、お客さまや、合同で勉強会を実施しているパートナー企業の方々から「ユリーカさんの新入社員は素晴らしいですね」と、うれしい言葉をかけてもらう機会も少なくありません。技術的なスキルだけでなく、自分の意見を丁寧に発信する姿勢、仕事に対する向き合い方などを見ていただいていると感じます。その点は、包括的な新人育成のたまものだという自負がありますね。
——若手の育成や人材活用に関して、今後の展望についても伺いたいです。
青山氏:2022年度より、社内に従業員育成を専門に行う採用教育課を立ち上げました。新入社員の育成に関しては、これまでと変わらず外部の研修会社に協力を仰ぎながら、社内でも教育プログラムをますます磨いていきたいと考えています。
加えて、これから強化したいのは中堅社員や管理職層への教育です。新入社員にはシステム開発における一連のプロセスを学んでもらうとお伝えしましたが、中堅社員にも同じように、体系立てた学び直しの機会が必要だと考えています。現状では、中堅社員が関わったプロジェクトの中でしか経験やスキルを身に付けられない状態になっているためです。また、管理職クラスの社員に対してもマネジメント能力の向上を図り、チームとして成果を生み出せる体制を構築していくつもりです。
経営者として、自分は後世に何を残したいのか。そう考えたときに浮かんだのは、次世代で活躍するエンジニアを育てたいということでした。
これまで在籍した会社でさまざまな方に育てていただき、今の私があります。ユリーカも「この会社で働いたから、エンジニアとして成長できた」と思われる存在でありたい。職人として、クリエイターとして、真に価値を発揮できるエンジニアを輩出する仕組みづくりに、引き続き取り組んでいきたいと思います。
取材後記
地方に本社を置くIT企業としては先進的かつユニークな取り組みをいくつも行ってきたユリーカ。未経験人材の育成スキームもきめ細かで、現場での早期活躍を見据えたものとなっています。お話を伺う中で、周りを巻き込みながら採用や育成を強化していく推進力の強さと、外部の力を積極的に活用する“開かれた”プロセスの有用性を大いに感じました。
エンジニア未経験の人材採用や入社をゴールとせずに、エンジニアとして広い視野を身に付け、お客さまへ価値を提供できる人材へと育成することが大切です。そんな同社の姿勢から、自社の採用活動や人材育成におけるヒントが得られるのではないでしょうか。
企画・編集/森田大樹 (d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/村尾唯、撮影/齋藤大輔
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