「また辞めちゃった…」をくり返さない!中小企業だからこそできる「オンボーディングの仕組み化」ノウハウ

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中途入社者の早期離職によって平均約190万円の損失が発生。さらには現場から人事への不信感が募り、採用活動自体に悪影響が生じることも
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現場任せにしない「オンボーディングの仕組み化」。その第一歩は、中途入社者が直面する「8つの適応課題」を理解し現状を把握すること
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トップと現場の距離が近い中小企業だからこそ「社長の声」が効く!日常の定例会議にも、現場の意識を変えるチャンスあり
中小企業の多くが、人手不足解消と人材育成を経営課題として挙げています。転職市場が過熱する中、難度の高い経験者採用から未経験者採用へシフトする例も多数。一方、パーソルキャリアが半期に一度実施している法人市場調査(2024年上期)によると、「未経験で採用した人材が活躍しない」「早期離職してしまう」といった問題に直面する企業が増えていることが分かりました。
人材活躍・定着のためのオンボーディングサービス『HR Spanner』の企画CSを担当するパーソルキャリアの竹下氏は、「転職希望者数が横ばいであるのに対して求人数は右肩上がり。競合が増える中で、採用だけを頑張っていても立ち行かなくなる」と指摘します。
採用した未経験人材が定着し、活躍してくれるようになるまでのオンボーディングには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
経済的損失だけではない。早期離職で「人事への不信感」も高まる

——未経験で採用された人材が早期に離職してしまう背景には、どんな要因があるのでしょうか。
竹下氏:企業の事業部門側にある「即戦力意識」が一つの要因ではないかと考えています。
私自身、パーソルキャリアに勤務するかたわら、複業で中小企業の人事・採用担当を務めているのですが、現場との会話では強く即戦力を求める声を頻繁に聞くのです。「中途採用だから基本的に即戦力だよね」と考え、本来あるべきオンボーディングが行われないと、入社者は想像以上のプレッシャーを感じてしまいます。
特に中小企業では、こうしたケースが多いのではないでしょうか。
——オンボーディングがうまくいかずに入社者が早期離職してしまうことは、企業にどのようなリスクをもたらすのでしょうか。
竹下氏:大きく分けて2つのリスクがあります。
一つは経済的な損失を被ることです。エン転職によると、1人の中途入社者が3カ月で離職した場合、平均約190万円の損失が生じていることが分かりました(※)。採用費用に加えて入社後の研修費用なども無駄になってしまうわけです。
(※)出典:早期離職のコスト損失はどれくらい? 費用項目と金額の目安を解説
もう一つは、現場の負担感と人事への不信感が高まってしまうこと。現場は事業拡大や人材不足によって採用オーダーを出しているのに、採用者が早期に辞めてしまうと負担感が高まるばかりです。「人事は何をやっているんだ」という不信感も高まり、現場が面接に協力してくれなくなったり、情報が上がってこなくなったりと、採用活動にも悪影響が生じてしまうかもしれません。
——人事としては「現場がちゃんと迎え入れてくれないせいだ」という本音もこぼれてしまいそうですが…。
竹下氏:人事の正直な思いとしては、そうした本音もありますよね。とはいえ忙しい現場であればあるほど、中途入社者をケアできる時間は少ないのが現実です。特に未経験者の場合は放置されてしまうことが大きなリスクとなります。それなら、人事が主導してオンボーディングを仕組み化してしまったほうがいいと思います。
中途入社者が直面する「8つの適応課題」と、その把握方法
——「オンボーディングの仕組み化」とは。
竹下氏:人事は日頃から転職市場と向き合っているため、転職希望者の意向の変化に敏感です。しかし現場では中途入社者を受け入れたことがない管理職も多いはず。「受け入れたもののどうすればいいか分からない」「中途入社者が何を求めているか分からない」といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
だからこそ、人事は現場任せにせず、能動的に中途入社者のオンボーディングプロセスをつくって仕組み化するべきなのです。
——具体的には、どんなことから手を付ければいいのでしょうか。
竹下氏:まずは中途入社者が抱える独特の課題を理解するべきでしょう。甲南大学経営学部の尾形真実哉教授は、組織行動論の観点から中途入社者が直面する適応課題を以下の8つに整理しています。
■中途入社者が直面する8つの適応課題
1:仕事のスキルや知識の習得
2:暗黙のルールの理解
3:リアリティ・ショックの克服
4:アンラーニング
5:中途意識の排除
6:精神的プレッシャーの克服
7:人的ネットワークの構築
8:信頼関係の構築
中途入社者が何につまずいているのか。その現状を知ることは、オンボーディングプロセスを進める上での第一歩となります。そして課題の把握は、入社後なるべく早いタイミングから行うべき。尾形教授によると、8つの適応課題は入社初期段階から発生し、時間とともに対応すべき課題が変化していくといいます。入社後の時間軸ごとに、どの課題を、いつまでに解決していくかのスケジュールを引いていく必要があります。
——中途入社者がどのような適応課題を抱えているのか、客観的に確認できるのでしょうか。

竹下氏:中途入社者本人と面談を行い、現在の困りごとを聞く方法もありますが、このやり方では人事・採用担当者ごとに課題把握の度合いが異なってしまうかもしれません。ベテランの人事の場合は、「自分は面談で本音を引き出せている」というバイアスがかかってしまっている可能性もあります。
課題の把握を標準化するためには、サーベイの活用も一手でしょう。たとえばパーソルキャリアが無料で提供するオンボーディング支援サービスでは、入社者の各段階で状況を把握するサーベイを用意。入社初期〜1年程度の間の適切なタイミングでアンケートを取っていけば、中途入社者が抱える課題について、人事の主観を入れずに把握できるはずです。
——サーベイ活用にあたって、アンケートの回答率を上げるためにできることはありますか?
竹下氏:アンケートを実施する際は、中途入社者に対して「アンケートの目的」と「回答結果の情報共有範囲」を明確に伝えることをおすすめしています。この2つを丁寧に伝えることにより、HR Spanner の場合、初期に実施するアンケートでは80%以上、その後のアンケートでも60〜70%の回答率を維持しています。
中途入社者としては、定期的に送られてくるアンケートに対応することで、「何か困ったときにはこの窓口に相談すればいいんだ」と安心感を持てるようになるでしょう。
現場の理解・協力があってこそ克服できる課題もある
——中途入社者の適応課題克服を支援していく上で、人事に求められる役割とは。
竹下氏:人事は中途入社者にアプローチするだけではなく、現場との連携も重視すべきです。入社後1カ月・3カ月・6カ月などのタイミングごとに異なるサーベイを実施し、中途入社者の状態を都度把握して、人事と現場で共有することが大切です。8つの適応課題克服に向けた打ち手を現場にも理解してもらうのです。
特に研修では克服しきれない課題に対しては現場の理解と協力が欠かせません。たとえば「中途意識の排除」。中途入社者自体が珍しい職場では、周囲がヨソ者意識を持って接してしまったり、「これくらいはできるよね?」とお手並み拝見の感が出てしまったりすることもあります。
「精神的プレッシャーの克服」も同様です。中途入社者は誰しも高い意欲を持って転職しているはずですが、新たな職場での人間関係が希薄なうちは、過度にプレッシャーを感じてしまうことがあります。現場の管理職やメンバーがそれを理解して接することができれば、プレッシャーの早期克服につながるでしょう。
——現場の理解を促すポイントがあれば教えてください。
竹下氏:経営層を巻き込むことが重要だと思います。現場の感覚は上位者の意見に大きく影響されるもの。経営者が「今後は中途採用者が活躍できるようにするのだ」という意思を示すことで、現場の理解が一気に進むはずです。
私が以前に人事を務めていた企業では、営業会議などの定例の場で中途入社者の情報を共有し、その際に必ず社長から「こんなことを期待している」「だからフォローしてほしい」と発言してもらっていました。こうしたコミュニケーションは、トップと現場の距離が近い中小企業では特に効果的なんです。
そのためには、社長に重要性を理解してもらうことも大切ですね。中途採用に動く際は、「入社後にどんな活躍をしてもらうべきか」という視点を持って、人事と経営層が認識を合わせるべきだと思います。
よくあるのは、欠員が生じている際の中途採用で「現在の業務を代替できるか」を検討することでしょう。それだけではなく、「将来的にどんなことを期待するか」なども会話しておくべきです。これができていれば、中途入社者が入社前後の違いによって感じるリアリティ・ショックが軽減されます。ひいては採用活動自体にも大きな効果をもたらしてくれるはずです。
取材後記
インタビューの冒頭、「複業で中小企業の人事・採用担当を務めている」と話していた竹下さん。パーソルキャリアでオンボーディングサービスなどの開発を進める際には、採用の現場で味わう苦労が大きなヒントになっているといいます。今後のサービス運用やアップデートに向けて「1人で採用活動を回している、いわゆる“ぼっち人事”の方でも、情報収集や現場との連携をよりスムーズに行えるようにしたい」と熱く語ってくれた姿が印象的でした。
企画・編集/髙橋享(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介
離職防止にも役立つ!入社後~6カ月以内にやるべきオンボーディングチェックリスト
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