設立8年でプライム上場。入社後活躍の速度を上げ、早期離職の割合を抑えたセルソースのオンボーディング

セルソース株式会社

執行役員 経営企画本部長 細田薫(ほそだ・かおる)

プロフィール
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  • 早期離職の原因の一つは、中途入社者に事業全体の中での仕事の位置づけや前後の工程を理解してもらえていないこと
  • 入社後90日間で入社同期や他部署のメンター、同部署のチューター、人事などが中途入社者に関わり、人間関係の構築を制度で支援
  • 従業員満足度の高い組織は総合点が高く、標準偏差が低い。組織づくりのために必要なのは徹底的な「対話」と「言語化」の機会

採用に取り組む上で「採用できたのに、人材が定着しない」「中途入社者が早期活躍する仕組みづくりが難しい」と、オンボーディングに課題を抱える企業は少なくありません。

中途入社者が直面する困難の一つが、新しい職場環境における人間関係の構築です。この課題に着目し、「人とのつながりを生む」ことに重点を置いた独自のオンボーディングプログラムを実施しているのが、2015年の設立以来、成長を続けるバイオベンチャー企業のセルソース株式会社です。

企業規模も急速に拡大する中で、人材育成や組織開発においてどういった課題を抱え、どのような取り組みを行っているのでしょうか。2022年3月に同社へ入社し、オンボーディングプログラムの作成から導入・運用をリードしてきた執行役員 経営企画本部長の細田氏に伺いました。

社員数は直近1年で1.4倍に。オンボーディングを仕組み化することで、社員の立ち上がりが一気に速くなった

——貴社の事業について教えてください。

細田氏:当社は、再生医療を事業領域として、医療機関向けに細胞や血液などの加工受託サービスを提供しています。

2015年の創業以来、事業は順調に拡大し、連続で増収を実現してきました。4期目となる2019年には、東京証券取引所マザーズ市場(現 グロース市場)へと上場。8期目となる2023年10月には、東京証券取引所プライム市場へと区分変更に至りました。セルソースはバイオベンチャーにもかかわらず、黒字を出しながら成長を続けてきたことは、客観的に見てもすごいと思っています。

 

——細田さんは、どのような経緯でセルソースへ入社し、どのような業務を担当しているのでしょうか?

細田氏:私は、2022年3月に当社へ入社しました。前職では海外企業のM&Aに関する業務を長く担当していたのですが、買収後の経営統合や組織構築を通じて、会社における「人」の重要性を痛感し、HRを志すようになります。

その中で、「経営戦略に紐づく人事戦略を策定・実行したい」との意思を持っていた創業者の裙本(つまもと)と意気投合し、入社したんです。

私の本部は「経営企画本部」という名称ではありますが、経営戦略はもちろんのこと、HR・IR・海外事業・M&A・社内企画と、6つの領域で責任者を務め、業務範囲は多岐にわたります。

——設立8年でプライム市場上場という急成長を遂げる中で、人材育成・組織づくりにおいて抱えていた課題はありますか?

細田氏: 当社の社員数は、2023年10月末時点で150名を超えました。毎年、人材紹介やリファラルなどを活用して数十名ずつ中途採用をメインに続けてきましたが、直近1年で109名から151名となり、一気に1.4倍の規模になったのです。

成長を続ける中で、たくさんの従業員を採用してきましたが、当社の場合、採用よりも入社後のフェーズで課題を抱えていました。私が入社した2022年3月の時点では、全社的なオンボーディングプロセスは存在しておらず、社員は入社後、簡単な社内研修を受けた後に、現場へすぐに配属される流れでした。

このような状況下だと、社員は自業務についてはキャッチアップできるものの、事業全体の中で自分の仕事の位置づけや前後の工程を理解しづらいでしょう。事業がどのような流れで成立しているのか、その中で社員自身の立ち位置・役割は何なのか…全社視点が不足するゆえに他部署との連携に摩擦を生じさせ、人間関係の悪化や業務効率の低下にもつながってしまいます結果、中途入社者が会社にうまくなじめず、早期離職してしまったり、能力を思うように発揮してもらえなかったりする問題が起こっていました。

 

2015年の設立間もない時期に少人数で業務を行っているフェーズでは、お互いのタスク状況が見えていたので、仕事に対する熱量も伝わりやすくオンボーディングが自然と実現する環境だったと言えます。しかし、会社の規模が拡大するにつれ、オンボーディングの仕組みをつくることが急務となっていました。

急成長を支える90日オンボーディングプログラム。カギは「人間関係構築をサポートすること」

——オンボーディング面の課題に対して、どのような取り組みを行ったのでしょうか。

細田氏:「入社から約3カ月でセルソースの一員として大いに活躍してもらえる土台」をつくることを目的として、独自の「90日オンボーディングプログラム」を2022年度に策定しました。作成の過程では、人材育成に力を入れているさまざまな企業の方々よりアドバイスやヒントをいただきましたね。

自社サービスについて学ぶ講座やコンプライアンス・情報セキュリティなど管理系研修を実施するほか、社内の人間関係構築に力を入れている点が大きな特徴です。

——具体的な内容を教えてください。

細田氏:まず、業務を指導する同部署内の「チューター」と、業務以外のさまざまな相談に乗る他部署の「メンター」を配置。チューター/メンター役の社員には、中途入社者へ適切なサポートが行えるよう、人事から役割・期待や対応してほしいことを必ず伝えます。

入社1カ月目と2カ月目には、人事による面談も行います。普段のミーティングのように事前にアジェンダを設定すると、中途入社者が「丁寧に回答しなければ」と身構えてしまうかもしれません。そのため、対話を重視しながら「人事はあなたの味方である」という姿勢を心がけています。もちろん、日常業務において何か問題を抱えていたら、現場に介入して解決を試みることも。特に、部署内での認識の相違から発生した問題については、私たち人事のように第三者の視点が入ることでスムーズな解決につながることも少なくないんです。

 

さらに、「ヨコツナ」(横のつながり)と称して、入社1~3カ月目のメンバーを対象とした食事会を毎月実施。ほぼ同期のメンバー同士で交流を深めることで、部署の垣根を越えたつながりをつくる場を提供しています。

プログラムの最後に実施するのが、会社の理解度を測る修了テストです。会社のパーパスやミッション、行動規範をはじめとする組織のことや、事業に関連する専門知識をどのくらい理解できているかを確認します。学びはインプットしたタイミングよりもアウトプットしたタイミングで定着するものです。修了テストに取り組むことで、社外の人に「セルソースはどのような会社か」を自分の言葉で語れるようになります。先日、全社向けに自社決算についての説明会を実施しました。社員から会社の状況が理解できてよかったと大きな反響があったんです。自社理解はオンボーディングにおいて重要な要素だと考えています。

またアウトプットに関してはもう一つあり、プログラム期間中のモチベーショングラフを作成してもらい、同期メンバーと共有する場も設けています。

——オンボーディングプログラムによって、中途入社者はチューターやメンター、人事、中途入社同期メンバーなど、担当業務で関わる社員以外との関わりを多く持てるように仕組み化しているんですね。

はい。入社直後は、新たな仕事に向き合う楽しさを感じる場面もあれば、思うようにいかず落ち込んだりする場面もあるもの。入社からどのように過ごしていたかをメンバー間で共有することで「悩んでいるのは自分だけではない」と安心でき、お互いの連帯感や共感も生まれやすくなります。

仕事をする上で、人と人とのつながりが最も重要です。だからこそオンボーディング期間に人間関係構築のサポートに力を入れることで、中途入社者の入社後活躍が実現できると考えています。

組織や個人の成長には徹底的な「対話」と「言語化」の機会が不可欠

——「90日オンボーディングプログラム」を導入してから、どのような成果が生まれていますか?

細田氏:採用人数を増やす一方で、早期離職者の割合を抑えることに成功しました。

前提として、入社後のギャップが起きないように採用選考も工夫しています。「採用選考面接ガイドライン」をつくって選考自体の質を向上させるとともに、選考後にはまた、入社者や辞退した方、見送った方問わず、選考の質に関するアンケートを送ることで、健全なPDCAサイクルを回す努力をしています。

また、当社では全社員を対象にエンゲージメントサーベイを導入していますが、回答の「総合点」が高く「標準偏差」が低い、セルソースで働くことに満足しているメンバーの割合もここ1年で20%ほど増加したんです。

データはダミー

この散布図とエンゲージメントサーベイの結果を見ながら、毎月5~7名の面談を実施

会社の規模が短期間で急拡大する状況下では、数名の人事担当が社員一人ひとりの状況や抱えている課題をキャッチアップしてフォローすることが難しくなっていきます。エンゲージメントサーベイは、社員の声を聞き、組織の現状を見つめるツールとして非常に有用だと感じています。

——そのほか、組織や個人の成長を促すために取り組んでいることがあればお聞かせください。

細田氏:リーダー研修も実施しています。4人のグループをつくり、3カ月間で計4回の集合研修、そして社内コーチと1on1を行う流れです。研修期間中、参加者には日記を毎日つけてもらい内省を促す機会も設けています。

また、“全社員”を対象にした1on1制度もアップデートしました。1on1はどうしても日々のタスクに関する話に終始してしまいがちです。そうではなく、当社では自分のありたい姿や成し遂げたいことを言語化して、As is(現状)と1年後のTo Be(理想)を描き、その進捗について対話する場としています。セルソースで過ごす時間を組織の成長と個人の成長、双方の実現のために使ってもらいたいと考えています。

 

さらに、ここ最近は人事メンバー3名が今の業務にOn-topする形で、HRBPとしての機能も持つようになりました。エンゲージメントサーベイの結果をフックに、各本部長・部長と組織における課題の発見から解決まで伴走します。

どの取り組みにおいても、「対話」と「言語化」の機会を設けることを大切にしています。

人事施策は事業戦略と紐づける。人事が権限を得て、周囲を巻き込むのが重要

——組織づくりで成果を出せた要因を細田さんはどのようにお考えですか?

細田氏:一連の人事施策を、事業や会社の戦略と紐づけて設計できたからだと考えています。せっかく思いを持って組織づくりに取り組んでも、人事の独り善がりな活動になってしまうと決してうまくいきません。その点、当社の人事機能は経営企画部門の中にあり、経営会議の場でも各施策についての話題が上がることで、各部門長もその重要性を深く理解してくれているように感じます。

また、自分自身が人事専任でなく経営戦略や海外事業など、他の領域に携わっていることも寄与しているかもしれません。150人程度の規模だから言えることかもしれませんが、近視眼的にならずに、会社の現状を俯瞰しながら人材戦略の打ち手を考えることができるんです。

それから、私の入社時に創業者であり現・代表取締役CXO(最高変革責任者)の裙本が組織開発や人材育成の取り組みに対して権限移譲してくれたことも大きいですね。だからこそ、入社当初からさまざまなチャレンジをできたと思います。

——今後の展望をお聞かせください。

細田氏:当社は、市場を牽引するバイオテック企業としてさらに成長を加速させるため、2024年1月に、ファーストリテイリング取締役副社長やファミリーマート代表取締役社長を歴任してきた澤田貴司を新たな代表取締役社長CEOとして迎えました。

第二創業期を迎えるに当たり、いかにベンチャースピリットを保ちつつ、事業も組織もさらにスケールアップできるか。いわゆる「大企業病」に陥らないために、一人ひとりがプロフェッショナルとして業務に臨み、議論を交わして事業をさらに良くしていく環境をつくりたいと考えています。

そのためには、オンボーディングでやってきたような部署の垣根を越えての相互理解を深めることが欠かせません。全社員が他部署の業務を体験できる機会を早期に設ける予定です。お互いに日々どのような価値観を持って、どんな仕事に取り組んでいるかを知ることで、さらに解像度の高い対話や議論ができる組織になっていきたいですね。

 

資料提供:セルソース株式会社

取材後記

中途入社者の「人間関係構築」をオンボーディングの制度で支えるセルソース。前職時代に「“人”の重要性を痛感した」と語る細田さんならではのアプローチにうなずきっぱなしの取材でした。

「離職率を下げたい」「エンゲージメントスコアの平均値を高めたい」といった人事の悩みや思いをよく耳にします。人事が「こうしたい!」と考えて取り組むことは重要ですが、細田さんのお話を伺い、成長する企業では事業の成長性や会社の方向性を加味したオンボーディング施策が実行されているのだと感じました。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/村尾唯、撮影/塩川雄也

早期離職を防ぐポイントと組織づくり

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