リーダー育成の4つの課題と具体的な方法・成功のポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

企業にとって、リーダーを担える人材は自社の将来を左右する大切な存在です。一方で、リーダーの必要性を実感しながらも、なかなか育成の施策や取り組みが導入できないという企業も少なくありません。

この記事では、リーダーの役割や重要性、リーダー育成に関して抱えやすい課題などを解説します。そのうえで、育成計画を立てる際のポイントやリーダーに求められるスキルもあわせて見ていきましょう。

リーダー育成とは


リーダーの育成について考えるうえでは、「会社における理想的なリーダー像」を明確にしておく必要があります。時代の変化に応じて企業や組織のあり方が変われば、当然ながら求められるリーダー像も進化していきます。

ここではまず、現代のビジネス環境における理想のリーダー像やリーダーの役割について見ていきましょう。

求められるリーダー像

リーダーとは、目的を達成するために組織やチームを率いる人材のことです。企業が掲げた目的を達成するためには、各部署を牽引していくリーダーの育成が欠かせません。

従来のピラミッド型組織においては、経営者の考えや発想を理解し、一定の共通認識のもとで部下をまとめていくのが優れたリーダーとされてきました。全員が同じ方向を目指すために、力強いリーダーシップを発揮して部下を引っ張っていくのが理想のリーダー像とされていたのです。

一方で、不確実性の高い現代においては、急速な環境の変化に対応するためにも柔軟性のある組織づくりが求められています。そのため、立場や経験にとらわれず、全員が知恵を出し合って新たな価値を創出できるよう、周囲を巻き込んだり下支えしたりするリーダーが必要とされてきています。

リーダーの役割

今の時代に求められるリーダーの役割は、「集団の力を引き出すこと」や「メンバーのモチベーションやパフォーマンスを向上させること」にあるといえます。リーダーの能力によって、メンバーの意欲を向上させ、個人の能力や可能性を最大限に引き出すことが求められているのです。

将来が不確実な現代においては、硬直化しやすい上意下達型のマネジメントスタイルだけでなく、各メンバーが自主性のもとに行動できる自律型のマネジメントスタイルが重要とされています。それぞれが企業のビジョンや理念を理解し、自ら考えて意思決定できる組織をつくるには、リーダーがきめ細やかなコミュニケーションを通じて自律性を高めるアプローチを続けることが大切です。

マネージャーとの違い

マネージャーとは、目標を達成するために必要な業務や人を正しく割り振り、組織を運営していくポジションを指します。組織の目標達成に責任を持つ立場であり、基本的には管理職として従業員の育成や管理を行うのが主な仕事です。

それに対して、リーダーは集団が持っている能力を最大限に引き出すポジションであり、役職は必ずしも管理職に限定されません。プロジェクトごとに新たなリーダーが任命されることもあるなど、より柔軟性のある役職と表現できます。

しかし、現代ではマネージャーにもリーダーシップが求められており、両者の垣根は目立たなくなってきています。マネージャーといっても組織をマネジメントするだけでなく、多様な人材の可能性を最大限に引き出すことが求められるようになっているのです。

リーダー育成がうまくいかない理由


企業経営において新たなリーダー像が必要とされる一方で、現実的にはリーダーの育成に課題を抱える企業も少なくありません。ここでは、リーダーの育成がうまくいかない原因について解説します。

教育体制が整っていない

リーダーの育成は重要な取り組みであるとともに、すぐには目に見える結果が得られず、中長期的な施策が必要な側面もあります。短期的な利益に直結しないものが多いため、どうしても育成環境の整備は後回しになり、十分なサポートができないというケースも少なくありません。

また、リーダーの選定基準や評価方法を策定するには、専門的な経験や知識が必要となります。通常の人事評価とは異なる視点が求められるため、育成環境の整備に時間がかかってしまうのも理由の一つです。

企業への帰属意識が低下している

働き方の多様化により、キャリアに対する考え方が大きく変化していることもリーダーを育てにくい原因の一つといえます。従来のように「一つの会社で長く働き続ける」という価値観は必ずしも一般的ではなく、優秀な人材が転職を志すケースも増えてきました。

人材の流動性が高まるなかで、全体的に従業員の企業に対する帰属意識が低下していることから、企業側もじっくりと時間をかけて育成するのが難しくなっている側面があります。せっかく次世代のリーダーを育てても、途中で会社を離れてしまうリスクがあるため、優先的に育成費用をかけられない企業が多いのも現状です。

育成に時間がかかる

先にも述べたように、リーダーの育成には時間がかかり、経験を積んでもらうためには中長期的なサポートが必要となります。次世代を担ってもらうには、短期的な研修だけでは不十分であり、さまざまな部署や業務を横断的に理解してもらわなければなりません。

育成の成果はすぐに見えないため、事前にしっかりとした計画を立てておく必要があります。また、成果が目に見えないという点は、組織だけでなく従業員本人にも大きな負担となる場合があります。

「責任だけが重くなっていく」「目に見える評価が得られない」といった心理的な負荷が続けば、本来のパフォーマンスが発揮されにくくなり、悪循環が生じてしまうでしょう。そのため、本人にきちんとキャリアパスを示すなどのサポートを行うことも求められます。

リーダー候補を現場から離せない

リーダー候補となる人材は、すでに重要な戦力として売上に貢献していることが想定されます。一方、リーダーとして育てるためには、研修などで一時的に現場を離れてもらわなければならない場面もあります。

そのため、場合によってはリーダー育成に取り組むことで、組織の戦力ダウンを引き起こす可能性もあるでしょう。結果として目先の業績悪化につながるリスクもあるため、育成の重要性を理解していても、なかなか一歩を踏み出せないという側面があります。

特に企業規模が小さいほど、現場から1人が欠ける影響が大きくなってしまうため、リーダー育成のための時間を確保できない傾向が強いです。

リーダー育成の具体的な方法


これまで見てきたように、リーダーの育成には長期的な時間がかかり、場当たり的な取り組みでは結果につなげるのが難しいといえます。本格的にリーダーの育成を行うのであれば、綿密な戦略を立ててプランニングすることが大切です。

ここでは、リーダー育成の基本的な手順について見ていきましょう。

自社の人材の現状を把握する

まずは、自社の人材の現状を把握し、細かく分析することが第一歩となります。手順としては、自社が理想とする組織像を明らかにし、そこから具体的なリーダー像へと展開していくのが基本です。

どのような人材がリーダーとして必要であるかは、企業の経営理念や将来のビジョン、社会環境などによっても異なります。特に現代は、変化に対してしなやかに対応できる組織づくりが求められており、理想のリーダー像も従来とは変わってきていることを念頭に置きましょう。

また、実際にリーダー育成を進めるには、管理職や現場の責任者の協力も必要となります。過剰な負荷の集中を防ぐためには、現状の戦力と業務のバランスを正しくリサーチし、余力の有無を把握しておくことも大切です。

リーダー育成の基準を明確にする

リーダーの育成は長期的な取り組みとなるため、関係者がきちんと納得できるプランを立てなければなりません。育成にあたってはさまざまな部署や従業員に協力を得ることとなるため、客観的な情報をもとに、リーダー育成の重要性を周知させていく必要があります。

そのためには、リーダーに求められる条件や基準、目標を明確にすることが大切です。また、リーダーが必要である根拠を客観的に示し、関係者の理解を得る必要があります。

この段階で基準や目標が定まっていれば、リーダー候補の人事評価やキャリアサポートも円滑に行えるようになります。反対に、不明瞭な要素があれば、現場を混乱させてしまったり組織内に軋轢を生んでしまったりするリスクもあるでしょう。

育成計画を策定する

求めるリーダー像やリーダーの条件、目標などを明らかにしたら、具体的な育成計画に落とし込んでいきます。リーダーを育成する方法には、「リーダーシップ研修」や「経営陣との定期的な1on1ミーティング」「外部コーチによるコーチング」「アクションラーニング」「体験型ケーススタディ」といったさまざまな種類があります。

自社の状況やリソースに合わせて最適な組み合わせを検討し、有効なプログラムを策定することが大切です。策定した育成計画は資料としてまとめ、関係者に共有しておくことも重要です。

早い段階でさまざまな意見を集めることで、育成計画のブラッシュアップを図りやすくなります。

リーダー候補者を選定する

育成計画が固まったら、リーダーとして育てていく候補者を選抜します。理想の組織像やリーダー像をもとに、自社の人材を改めてチェックし、次世代のリーダーを担えるメンバーを丁寧にピックアップしていきましょう。

企業経営を長期的に考えると、即戦力となる人材の育成だけでなく、将来を見据えたリーダーの育成が重要となります。そのため、年齢や性別などにかかわらず、若手のポテンシャルなどもじっくりと見極め、多様な人材を起用していくことが大切です。

ただし、単発でのリサーチでリーダーとしての適性を見極めるのは、現実的に難しい側面があります。スタートの段階で選考から漏れた従業員に対しても、再びチャレンジの機会を用意しておき、より質の高いリーダー候補を抽出できるようにしましょう。

また、リーダーシップ能力そのものは、マネージャーから現場の責任者まで幅広く求められるスキルとなってきています。組織の底上げを行うには、あまり先入観にとらわれず、できるだけ幅広い人材を対象とすることが重要です。

育成施策を実施し、検証する

候補者をピックアップしたら、実際に育成プログラムを実施していきます。リーダー研修や定期的なミーティングとともに、実務を通じた経験の蓄積も重要です。

中長期的な取り組みとなるため、定期的に進捗の確認を行って「計画通りに進んでいるか」「課題点は何か」を洗い出すことが大切です。また、個別の現場で育成を担当するメンバーに対しては、適切に情報をキャッチするためにもヒアリングの機会を設けておく必要があります。

さまざまな角度から育成状況を検証することで、見直しや改善が自然と進み、育成計画の精度が高まっていきます。

リーダーに求められるスキル


リーダーの育成計画を立てるうえでは、どのようなスキルが必要とされるのかを把握しておく必要があります。求められる資質を理解していれば、リーダーとして育成するメンバーの候補も選定しやすくなるでしょう。

ここでは、リーダーに求められる代表的な3つのスキルについて解説します。

コミュニケーション能力

組織やチームを率いていくためには、メンバーとの信頼関係を構築するためのコミュニケーションスキルが必要となります。チームの任務や使命を説明し、メンバーの理解を得るためには、的確な説得力と論理的な思考力などが求められます。

コミュニケーションを円滑に進めるためには、誠実さと忍耐力も必要です。メンバーの失敗や想定外のトラブルに見舞われたときでも、誠実に問題と向き合うことで、自然と信頼を寄せられるようになるでしょう。

また、組織の団結力を高めるためには、チームメンバーを公平に扱うバランス感覚と、うそやごまかしのない誠実な対応が欠かせません。そのうえで、チームメンバーから信頼を得るためには、目標達成に向かって全員をまとめられる統率力も必要です。

メンバーが目標を見失ってしまうときには、リーダーが率先して業務を遂行し、お手本として前向きな姿勢を示すことが大切となります。

チームメンバーの育成能力

組織としてのパフォーマンスを向上させるためには、リーダー1人だけが成長するのではなく、全体としての生産性を高める必要があります。リーダーとして結果を残すうえでは、自身が高い実務能力を備えていることは当然として、チームメンバーの育成能力も問われます。

個々の能力を引き出すためには、それぞれの個性や適性を見極められる広い視野と深い洞察力が必要です。先入観にとらわれず、メンバーの力量やポテンシャルを的確に見極めることで、それぞれのパフォーマンスを最大限に発揮できるようになるのです。

また、観察力があれば、モチベーションの低下を起こしているメンバーを速やかにフォローできます。早い段階で手を打つことで、組織全体にマイナスの影響が広がるのを食い止め、前向きな状態を保てるようになるでしょう。

経営的思考・行動力

組織を正しい方向へ導いていくうえでは、確かな経営的思考も必要となります。リーダーとしての役割は、単にチームをまとめるのではなく、あくまでも自社のビジョンや目標を達成することにあります。

そのためには、複雑な経営環境をさまざまな角度から分析し、経営目的や事業計画をきちんと理解したうえで、自らのチームの方向性を考えていくことが大切です。現代のビジネス環境は、IT化やグローバル化によって激しく変化を続けており、先行きが不透明な状態にあるといえます。

そうした時代にあっては、問題解決力や仮説思考のスキルを伸ばし、柔軟に課題を解決できるようなリーダーが求められるといえるでしょう。また、変化を続ける社会環境に適応するには、PDCAサイクルを回しながらプランの精度を高めていく姿勢が必要となります。

そのため、事業を力強く推進していく決断力と行動力も、リーダーに求められる重要なスキルといえます。

リーダー育成を成功させるポイント


リーダーの育成を成功させるうえでは、育成計画を立てる段階で意識しておきたいポイントがあります。ここでは、基本的なポイントを4つに分けて見ていきましょう。

全社的な取り組みとして行う

人材育成は人事部門が中心となって進めるのが一般的ですが、リーダーの育成は全社的な取り組みとして捉えることが重要です。教育プログラムを実施するうえでは、現場の理解が必要であり、人事評価などを行う際には協力を得る場面も多いでしょう。

そのため、企業全体としてリーダーを育成する意味や目的を共有し、一丸となって取り組めるように準備することが大切です。したがって、単に価値観やビジョンを浸透させるだけでなく、関連する制度の整備にも力を入れる必要があります。

人事評価制度の見直しや教育体制の整備、現場への負担を考慮した人員の再構成などを丁寧に進めることで、協力を得やすい体制が整っていきます。

キャリア支援を推進する

リーダーとしての周りからの期待は、ときとしてプレッシャーやストレスになってしまうケースもあります。育成プログラムを受けるうえでは、本人の責任が大きくなったり課題が増えたりする面もあるので、場合によっては持ち味を発揮できない事態に陥る可能性もあるでしょう。

そのため、リーダー候補として選ばれた人材には、企業側が適切な形でサポートすることが大切です。特に重要となるのが、育成プログラムにともなったキャリア支援です。

定期的に経営層がリーダー候補とミーティングを行い、リーダーとしてどのようなキャリアが開かれていくのかをきちんと説明するとよいでしょう。また、本人が希望やビジョンをどのように描いているのかを丁寧にヒアリングしていくことも大切です。

幅広い経験を積んでもらう

リーダーとしての視野を広げてもらうには、できるだけ幅広い経験を積める機会を提供することも大切です。多様な経験を積むことによって、視野が大きく広がるとともに、自身の強みや弱点を客観的に理解できるようになります。

リーダーの経験値を広げる代表的な手法としては、「ストレッチアサインメント」が挙げられます。これは、リーダー育成の対象者をあえて実力以上のポジションや普段とは異なる役割に就かせ、困難な経験を積ませてポテンシャルを拡大するという方法です。

ただし、単に負荷の高い仕事を与えるだけでは、メンタル面にマイナスの作用をもたらすこともあるので注意が必要です。「本人のキャリア志向に沿って行う」「フィードバックを丁寧に行う」などのフォロー体制をしっかりと構築したうえで、適切なタイミングで導入を検討してみるとよいでしょう。

サポート体制を整えておく

長期にわたる育成プログラムを進めるには、充実したサポート体制の構築が重要なカギとなります。上司や人事担当者といった社内コーチだけでなく、外部コンサルタントや企業向けコーチングサービスを導入し、社外コーチによる伴走を取り入れるのも有効です。

コーチングには専門的なスキルが必要であるため、外部サービスを用いることで社内への負担を大幅に軽減できます。さらに、社外コーチは第三者的立場の視点でかかわってくれるため、先入観にとらわれずに客観的な角度からサポートを行ってくれるのがメリットです。

また、リーダー候補者から見ても、直属の上司や社内の担当者には相談しにくいような悩みを打ち明けられるのが利点となります。自社に合ったサポート体制を整えれば、長期的なプログラムも無理なく実行できるでしょう。

まとめ

リーダーの育成は、企業が長期的な成長を遂げるためにも欠かせない課題といえます。リーダーを育てるには長期的なプランや施策が必要となるため、企業の状況によってはなかなか着手できないというケースも少なくありません。

まずはリーダーの必要性を正しく共有し、社内一丸となって取り組めるような下地づくりを進めることが大切です。そのうえで、自社の人材やリソースを丁寧に分析し、自社に合った持続可能な育成プランを組み立てていきましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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