雇用流動化とは?人材を確保するポイントを解説
d’s JOURNAL編集部
雇用流動化とは、企業間における人材移動のハードルが下がることにより、生産性の向上や経済の活性化が促進される状態を指します。現在は労働人口の減少などを背景として、社会全体が雇用流動化に傾いているといえ、人材市場にもさまざまな変化が生まれています。
この記事では、雇用流動化の基本的なポイントや、個々の企業に与える影響について詳しく見ていきましょう。また、時代の変化に合わせて、企業がどのように人材を確保していくべきなのかもあわせて解説します。
雇用流動化とは
雇用流動化とは、雇用に流動性が生まれることで、人材市場や経済そのものが活性化していくという社会的な動きを指します。ここではまず、雇用流動化の基本的な意味と、現代ビジネスの環境において注目されている理由を見ていきましょう。
雇用流動化の基本的な意味
雇用流動化とは、人材を特定の1社にとどまらせ続けるのではなく、企業間の移動がしやすい状態が実現されることを指します。労働力の流動化について言及されるのは、転職が一般的になった現代に限られたものではなく、古くは1960年代からメディアなどで取り上げられてきた歴史があります。
当初は産業構造の変化にともなう失業や、高度経済成長による人材不足などに対応するため、また地域間・企業間での労働力のギャップを埋めるために、人材の流動化が重視されていました。この考え方には、雇用を流動的にすることで、さまざまな人材の活用を促し、経済全体としての成長につなげていくという概念が根底に存在します。
これらの「産業構造の変化」や「人材不足」という課題は、関連する要因こそ異なるものの、現代のビジネス環境と一致する部分も大いにあるといえます。現代においても、雇用流動化によって個人や企業の生産性を向上させ、社会全体を経済成長させるというのが基本的な目的である点に変わりはありません。
(参考:『【テンプレート付】賃金台帳記入は義務!誰でもすぐに書ける項目例で解説/社労士監修 』)
雇用流動化が注目されている理由
現代のビジネス環境において、雇用流動化が注目されているのには大きく3つの理由が関係していると考えられます。
働き方改革の推進
1つめの理由は、働き方改革の推進による会社組織の変化です。働き方改革はさまざまな課題の解決策をまとめた取り組みですが、大きな軸の一つとしては「多様な働き方を選択できる社会」の実現を目指すといった考え方が存在します。
育児や介護との両立をはじめとした、労働者の多様化したニーズに直面するなかで、社会全体としてより柔軟な就業機会を設ける必要があると考えられています。そのためには、従来の硬直化した終身雇用にこだわるのではなく、中途採用や復職といった機会を広げることも重要です。
このように、働き方改革は雇用流動化を進める大きな要因といえるでしょう。
(参考 :『【テンプレート付】賃金台帳記入は義務!誰でもすぐに書ける項目例で解説/社労士監修 』)
労働人口の減少
雇用流動化が注目される根本的な要因には、少子高齢化にともなう労働人口の減少が挙げられます。内閣府の『令和5年版高齢社会白書(全体版)』によれば、2022年時点における生産年齢人口(15~64歳人口)は7,421万人です。
ピークである1995年の8,716万人と比較すると、約30年間で1,000万人以上も減少しており、労働力不足にも大きな影響を与えていると考えられます。今後は出生数の減少にともなってますます生産年齢人口も減っていき、2032年には6,971万人と7,000万人を割ると、さらに2070年には4,535万人になると推計されています。
労働人口が着実に減少するなかで、企業が組織力を維持していくためには、従来の方式にこだわらない人材確保戦略が必要です。新卒一括採用や終身雇用に縛られず、多様な機会を用意して労働力を確保しなければならないのです。
こうした企業側のニーズも、雇用流動化の促進に大きく関係していると考えられます。
(参照:内閣府『令和5年版高齢社会白書(全体版) 』)
働く側の価値観の変化
近年では、必ずしも特定の会社で定年まで働き続けるというスタイルが一般的ではなくなり、転職に対する心理的なハードルが低くなりました。高度なスキルや経験を持つ人材ほど、多様な機会を求めて転職を志す傾向も強まっており、キャリアアップの選択肢として考えられているのです。
また、ネットワーク技術の進化などによる働き方の変化も、雇用流動化の促進につながっているといえます。特にリモートワークの普及によって、出社を必須としない働き方が可能になったことで、より幅広い雇用の機会が実現されるようになりました。
育児や介護との両立を目指す人や遠隔地に拠点を置く人など、さまざまな人材を柔軟に活用できるようになったことも大きな要因の一つといえます。
雇用流動化が活発になることで得られるメリット
雇用流動化が促進されることで、個々の企業にはどのような影響が生まれるのでしょうか。ここでは、主なメリットについて、4つのポイントに分けて見ていきましょう。
自社にマッチした人材を採用しやすくなる
人材の動きが活発化すれば、企業は自社によりマッチした人材を集めやすくなります。新卒一括採用を前提とした採用市場よりも、多様な経験や価値観を持った人材との接点が増えるため、雇用の可能性が大きく広がるのです。
特に企業カルチャーとのマッチ度は、自社で長く活躍してもらううえで大切な要素となります。雇用流動化によって多様な人材が市場に流通するようになれば、それだけ自社の組織力を向上させる機会にも恵まれます。
中途採用を進めやすくなる
新卒採用のみにこだわらない流れが一般化すれば、中途採用がより活発になり、即戦力となる人材を集めやすくなります。すでに社会人としての経験を積んだ人材や、専門的な知識・スキルを身につけた人材とも接点が生まれるため、組織力を一気に強化するチャンスが広がるのです。
また、人員の欠如や新規プロジェクトの立ち上げなどで急な増員が必要になったときでも、比較的に早い段階で対応できるようになります。新卒採用の場合は入社のタイミングが決まっており、業務を任せるまでに時間もかかってしまうため、欠員の直接的な解消にはつながりません。
中途採用市場が活性化していれば、どのようなシーズンでも戦力を補強できる可能性があるため、事業戦略を柔軟に実行しやすくなります。
新たなノウハウの蓄積につながる
中途採用への積極的な取り組みは、既存の従業員だけでは持ち合わせていない新たなノウハウやスキルを取り入れることにもつながります。特に、新規事業を立ち上げたりDXを推進したりする際には、社内に専門的な知識を持つメンバーがおらず、どのように着手したらよいかがらない分からないというケースも少なくありません。
こうした場合は、社外から即戦力となる人材を引き込むことができれば、より早い段階で高度な解決策を見つけられます。また、雇用流動化が進めば、外部の人材との交流が活発になり、新たな視点やアイデアに触れられるチャンスも広がります。
中途採用された人材は、社内に蓄積されていなかったノウハウや人脈を持っているケースも多く、採用によって事業や販路の拡大につながる可能性も十分に考えられるでしょう。
人材育成にかかる費用を軽減できる
即戦力となる人材を獲得すれば、企業にとっては育成にかかる費用の削減にもつながります。職種や業務内容に応じて、経験者に絞って採用を行えば、ある程度の引き継ぎや研修のみですぐに戦力として計算できるようになるのがメリットです。
また、たとえ担当してもらう業務の経験がない場合でも、ビジネスマナーやコミュニケーション、基本的なスキルは持ち合わせている可能性が高いといえます。スムーズな合流を促すには、中途採用された人材にもフォローや研修などが必要とされますが、基本的には社会人としての経験を一定以上積んでいると考えて問題ありません。
そのため、一から新卒採用を行うよりも、戦力として活躍してもらうまでの期間が短いのが利点です。
雇用流動化によってもたらされるデメリット
雇用流動化にはメリットとデメリットの2つの側面が存在しています。ここでは、雇用流動化が企業にもたらすデメリットについても見ていきましょう。
人材の選考に時間がかかる場合がある
人材の動きが活発化すれば、採用の可能性が広がる反面、自社から人材が流出する可能性も高くなると考えられます。スキルや条件の面では問題がない人材でも、企業カルチャーや組織の価値観などとのミスマッチが起これば、採用後に早期離職をしてしまうリスクもあります。
雇用が硬直化している状態であれば、基本的に採用された会社で長く働くことが前提となっていたため、ある程度のミスマッチは許容されてきた面がありました。しかし、雇用が流動的になれば、それだけ働き方の選択肢も広がるため、ミスマッチによる影響を受けやすいのです。
つまり、雇用流動化が進めば、企業側はより厳しく高い精度で人材の見極めを行わなければならないということです。自社に適した人材を見極めるノウハウがなければ、選考するまでに時間がかかってしまうでしょう。
一方で、選考に時間をかけ過ぎれば、その分だけ高い資質を持つ人材を他社に奪われてしまう可能性も高くなります。そのため、企業が雇用流動化のメリットを活かすためには、採用力の強化が大きな課題です。
若手の人材の成長機会が阻まれる恐れがある
即戦力となる中途採用者ばかりが増えると、既存の若手メンバーが育つ機会を阻む恐れがあるのがデメリットです。即戦力人材中心の人事を実行すれば、個人の業務遂行力が大幅に向上するため、目先の状況のみを考えるであれば組織全体のパフォーマンスを高めることになります。
しかし、それと同時に人材育成力の低下を招き、若い新たな価値観を吸収できる機会も失われていきます。そのため、長い目で見れば、企業全体としての損失につながるリスクもあるのです。
また、社会全体として雇用流動化が進めば、多くの企業が即戦力人材を求めるようになり、人材育成に力を入れる企業が減っていくという問題も生じます。新卒者を育成してもすぐに人材が流出してしまうのであれば、仮に短期的な雇用であっても即戦力人材を確保し続けるほうが、個々の企業にとってはリスクが小さくて済むためです。
大量採用が難しくなる
雇用流動化に応じて中途採用に力を入れる場合は、新卒一括採用と比べて大量採用が難しくなる点にも注意が必要です。一般的に、中途採用は新卒採用のようにスケジュールやプロセスが確立されているわけではなく、そのときの状況に応じて臨機応変に行われるものです。
そのため、求人広告などを含めて採用費用を考えると、一人あたりの費用は高くなる傾向があります。人材の見極めなどにも経験やノウハウが求められるため、中途採用を積極的に実施するのであれば、業務を効率化するための仕組みづくりが重要となります。
採用力を強化するためのポイント
これまで見てきたように、雇用流動化が進むにつれて、各企業には採用力の強化が求められるようになります。ここでは、採用力を向上させるためにどのようなことに取り組むべきなのか、5つの項目に分けてご紹介します。
人事評価制度の見直しを図る
雇用流動化に対応するためには、終身雇用や年功序列を前提とした人事評価制度を改め、中途採用者にも適用できるような仕組みを構築する必要があります。単純な在籍年数によって評価が決まってしまうようであれば、どうしても新たに加わった人材からは不満が生じてしまうでしょう。
実力や貢献度をきちんと測定できる仕組みを設け、公正性のある評価を行うことが重要な課題となります。また、競合他社との採用競争に負けないためには、待遇や給与の面で十分に魅力的な条件を提示しなければなりません。
特に需要の高い専門職の人材を即戦力で獲得するのであれば、待遇や労務環境の向上が必要不可欠といえます。
多様な働き方ができる環境を整える
雇用流動化が進むことで、育児や介護との両立、副業との両立といった多様なニーズを持った人材が市場に現れるようになります。こうした人材を受け入れるためには、勤務条件の抜本的な見直しを図ることも重要なテーマです。
例えば、フルタイムや完全出勤での勤務のみを前提とした制度では、多様な人材を受け入れることは難しくなります。時短勤務制度やフレックスタイム制、リモートワークなどの実現を目指し、多様な働き方を取り入れられれば、より多くの求職者と接点を築けるようになります。
人材育成を継続的に行う
採用力を強化するためには、人材育成に力を入れ、社内の組織力を向上させることも大切です。即戦力となる人材にとっては、求人をかけている企業でどのような働きができるか、入社後にどのようなキャリアを築いていけるかが大切な判断基準になります。
企業の育成力や戦力が不十分であれば、外部の人材は「この企業ではキャリアを積めない」と感じ、応募や入社を見送ってしまうでしょう。また、仮に入社をしてもらえたとしても、その後のキャリアや働き方に不満を感じ、早期に離職してしまう可能性もあります。
そのため、社内の人材育成に力を注ぐことが、結果として採用力の強化につながると捉えておくのも重要です。
採用後のアフターフォローを丁寧に実施する
採用活動では、母集団の形成や質の高い選考活動とともに、内定後のフォローも重要なポイントとなります。雇用流動化が進めば、それだけ企業同士の採用競争も活性化するため、中途採用でも一人の求職者に対して同時に複数の企業から内定が出るというケースはめずらしくなくなります。
内定を出したからといって、企業側が何も手を打たなければ、競合他社に人材が流れていってしまう恐れもあるでしょう。そのため、内定後もこまめに連絡をとり、「定期的な面談の実施」や「社内報の共有」「社内イベントへの招待」といったアクションを起こすことが大切です。
定期的にコンタクトをとることで、内定者に自社の魅力をきちんと知ってもらえるため、入社への意欲を引き出しやすくなります。また、事前に社内のメンバーと交流を結んでもらえば、入社後もスムーズに合流してもらいやすくなります。
ITツールの導入も検討する
採用力を強化するうえでは、採用活動そのものを効率化させることも大切です。新たに中途採用メインの採用戦略を立てる場合には、応募者一人あたりの採用業務が増える可能性もあるため、ITツールの導入による効率化を検討してみましょう。
採用ツールでは、「定型業務の自動化」「人材データの一括管理とスムーズな共有」「採用プロセスの可視化」「データ分析による採用ノウハウの蓄積」といったさまざまな機能が活用できます。データの効果的な活用によって、効率的にPDCAを回せるようになるため、長期的な採用力の強化にもつながるのがメリットです。
採用ツールにはさまざまな種類があり、それぞれ適した業種や事業規模などが異なるので、自社に合ったものを見極めることが大切です。
離職を防ぐための取り組み
雇用流動化の時代における人事戦略では、単に採用力を強めて多様な人材を確保することだけでは不十分といえます。自社からも人材が離れていく可能性があるため、社内環境の向上を目指し、大事な戦力が流出しないようにすることも重要なのです。
つまり、力強い組織をつくるには、「採用力の強化」と「定着率の向上」の両輪をバランスよく機能させていく必要があるということです。ここでは、人材の離職を防ぐための基本的な取り組みについてご紹介します。
定期的に面談する機会を設ける
せっかく採用した人材が早期離職をすれば、採用にかかった費用を丸ごと損失してしまうこととなります。離職を防ぐためには、コミュニケーションを活発に行い、不満や不安の原因がないかを丁寧にヒアリングすることが大切です。
入社後のタイミングにおいては、特に慣れない環境や人間関係への不安が大きな負担となります。積極的に1on1ミーティングなどを行い、従業員の悩みや意向を共有してもらえる場をつくりましょう。
また、経験者を採用した場合であっても、現場における細かなルールの違いや社内の風習などをつかむのに苦労するケースは少なくありません。そのため、立場や年齢の近い従業員をサポート担当者に選び、現場に慣れるまでの間はバックアップできるようにするのも有効です。
キャリア支援に取り組む
労働者にとっては、雇用流動化が促進されれば、これまで以上に多様なキャリアプランを考えられるというメリットがあります。特定の企業やキャリアに縛られるのではなく、さまざまな企業間を行き来しながら可能性を追求できるため、高度なスキルや能力を持つ人材ほど転職を目指すケースも高くなるでしょう。
裏を返すと、企業の将来性に不安を感じたり、キャリアに行き詰まりを感じたりすれば、従来よりも気兼ねなく離職できてしまうということでもあります。それだけに、企業が人材の流出を防ぐためには、積極的なキャリア支援を行い、自社における魅力的かつ多彩なキャリアパスを用意することが大切です。
また、定期的なキャリア研修や資格取得サポートを行い、社内でさまざまな可能性を追求できるような環境を整えるのも重要です。既存の従業員の声もヒアリングしながら、前向きに成長を目指せるような制度の構築を検討してみましょう。
まとめ
労働人口の減少や働き方改革の推進などにより、雇用流動化の動きは着実に強まっているといえます。雇用流動化が促進されれば、個々の企業は多様な人材を確保できる機会を広げられ、さらなる生産性の向上や業績の向上が期待できるようになります。
一方で、採用競争が激化することも予想されるため、採用力の強化は避けて通れない課題になるともいえるでしょう。特に、これまで新卒一括採用をメインにしていた企業では、新たに中途採用のノウハウを構築することが重要な取り組みとなります。
まずは、待遇や評価制度の向上を図るとともに、社内でのキャリアパスを見直しながら、多様な人材に「働いてみたい」と思ってもらえるような職場づくりを目指すことが大切です。そのうえで、ITツールの導入による業務効率化など、自社の現状に合った施策に挑戦してみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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