【テンプレート付】賃金台帳記入は義務!誰でもすぐに書ける項目例で解説/社労士監修

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

従業員を雇用するにあたり、事業主は「法定三帳簿」と呼ばれる書類を作成・保存しなければなりません。
そのうちの一つに、「賃金台帳」があります。

そこで本記事では、賃金台帳の作成や保存にあたって知っておきたい、基礎的な知識を解説いたします。

また、賃金台帳のテンプレートは「常用労働者」と「日々雇い入れられる者」の2種類をダウンロードいただけますので、人事・総務担当者さまはぜひご活用ください。

賃金台帳とは法定三帳簿の一つ

労働基準法において、事業主に対し作成・保存が義務付けられている「法定三帳簿」のうちの一つに、賃金台帳があります。

賃金台帳は、従業員への給与の支払い状況に関する情報を記載した書類です。
記載する項目は従業員の氏名や性別、労働日数など、法律で定められている内容を厳守しなければなりません。
賃金を支払うたびに作成する義務があり、さらに事業所が複数ある企業の場合は事業所ごとに作成・保存することが求められています。
また、保存期間も法律で定められている通り守る必要があります。

具体的な記載内容や保存期間については後述しますので、引き続き本記事をご覧ください。

法定三帳簿とは

企業が労働者を雇い入れるときに作成しなければならない「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」をまとめて「法定三帳簿」と言います。
労働基準法では、この法定三帳簿の作成および一定期間の保存が義務付けられています。

なお、事業所が複数ある場合、法定三帳簿は本社だけでなく、各事業所で作成・保存しなければなりません。

(参考:法定三帳簿とは?記載すべき項目と作成・保存のポイントを解説

労働者名簿

労働者名簿は、従業員の氏名や生年月日をはじめとする情報を記している書類です。
労働基準法107条によって作成が義務付けられており、従業員が1人入社するごとに1枚作成されます。

なお、労働者名簿に記載すべき情報は以下です。

労働者名簿に記載する従業員の情報

・氏名
・生年月日
・社内での履歴(異動や昇進など)
・性別
・住所
・業務内容や役割
・雇用年月日
・退職や死亡の年月日、およびその理由・原因

労働者名簿に記載されている上記の情報をもとに、交通費支給に伴う通勤経路の確認や、人事管理上の手続きなどが行われます。
そのため、たとえば引っ越しによる住所変更など、情報の変更があった場合は労働者名簿の内容を改訂し、常に最新の情報を維持していなければなりません。

なお、記載項目をはじめとする決まりさえ守られていれば、作成方法や体裁は自由に決めて問題ないとされています。
以下では、d’s JOURNALオリジナルのテンプレートをダウンロードいただけます。
ぜひご活躍ください。

賃金台帳

賃金台帳は、従業員への給与の支払い状況や、一人ひとりの勤務時間など給与の管理に必要な情報が記載されている書類です。
労働基準法施行規則第54条により、以下の項目を記載する旨が定められています。

賃金台帳に記載する内容

・氏名
・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・休日労働時間数
・時間外労働時間数
・深夜労働時間数
・基本給・手当の種類とその額
・控除項目とその額

賃金台帳の目的は、従業員にとって重要な「賃金」の記録を正確に残すことですので、賃金の支払いのたびに作成する必要があります。

賃金台帳の作成が初めてでご不安な担当者さまは、d’s JOURNALオリジナルの賃金台帳のテンプレートをぜひご活躍ください。
本記事後半では、こちらのテンプレートを用いた記載の方法についてもあわせて解説しております。

出勤簿

出勤簿は、従業員の労働時間を正しく把握するために作成する書類です。
労働基準法第109条にて作成・保存が義務付けられています。

出勤簿の場合、具体的な記載項目やフォーマットは決められていません。
目的は「従業員の労働時間を把握すること」なので、以下の項目は記載しておくとよいでしょう。

出勤簿に記載するとよい項目

・始業時刻
・終業時刻
・休憩時間
・時間外労働時間
・休日労働時間
・深夜労働時間

フォーマットが決まっていないがゆえに、記載方法に悩まれている担当者さまは、d’s JOURNALオリジナルのテンプレートをぜひご利用ください。

なお出勤簿もまた、雇用形態に関係なく全従業員が対象です。
2019年4月の法改正以降は、管理監督者や、みなし労働時間制の従業員も対象となっていますのでご注意ください。
例外となるのは高度プロフェッショナル制度対象労働者のみです。

賃金台帳を記載する対象者

賃金台帳を作成する対象は、事業所で働く全ての従業員です。パートタイマーやアルバイトはもちろん、雇用期間が1カ月未満の日雇労働者も対象者です。出向者に関しては、賃金負担割合に関係なく、出向元と出向先の双方で作成・保存します。

役員の場合も必要

役員についても、賃金台帳の作成が必要となります。役員は従業員には当たりませんが、兼務役員の場合は「従業員としての立場」も併せ持っているからです。また、役員報酬がゼロでない限り「健康保険や厚生年金保険の被保険者となる」ことから、保険料の控除額を記録する意味でも、賃金台帳を作成するのが望ましいとされています。

個人事業主の場合は?

個人事業主の場合、従業員を一人でも雇用するなら、賃金台帳を作成しなければなりません。適切に労務管理を行うため、個人事業主であっても、基本的に従業員一人につき一部の作成が必要です。

賃金台帳の保存期間

賃金台帳の保存期間は原則5年ですが、条件により異なります。
賃金台帳が適切に作成・保存されていないと、事業主は30万円以下の罰金となる可能性がありますので、以下で解説する基準を把握したうえで適切に保管しましょう。

原則の保存期間5年

労働基準法第109条により、賃金台帳の保存期間は原則5年間と定められています。
従来は3年間でしたが、2020年4月の法改正により5年間に延長されました。

ただし、2025年1月現在は法改正の経過措置として、「従業員の賃金を最後に記載した日から起算して3年間」でも許容されています。
とはいえ、いずれ5年間に延長されるのは確実です。
今のうちから5年間の保存を前提に扱うようにしておくと、経過措置が終わってもスムーズに対応できるでしょう。

保存すべき賃金台帳を誤って廃棄してしまわないように、賃金台帳に更新日を記載しておくことをおすすめします。

賃金台帳と源泉徴収簿を兼用する場合は7年

賃金台帳と源泉徴収簿を兼用することもできます。
両者はあくまでも異なる書類ですが、両方に対応できるフォーマットで作成すれば兼用が可能です。

なお、その場合は7年間保存する必要があります。
賃金台帳として保存する場合の5年間よりも長いので、手前で破棄してしまうことのないようご注意ください。

賃金台帳の保存方法

賃金台帳の保存方法は法律で定められていないため、紙と電子データ、どちらでも構いません。
電子データであれば物理的な保管スペースが不要で、尚且つ更新・修正も容易なので、環境が整っていれば電子データでの保存をおすすめします。

ただし、賃金台帳をはじめとする労働関係に関する重要な書類を電子データで保存するには、以下の項目を満たしていなければなりません。

(1)法令で定められた要件を具備し、かつそれを画面上に表示し印字することができること。
(2)労働基準監督官の臨検時等、直ちに必要事項が明らかにされ、提出し得るシステムとなっていること。
(3)誤って消去されないこと。
(4)長期にわたって保存できること。

引用元:厚生労働省

これは、労働基準法第109条で決められている内容です。
必要なタイミングで印刷・提出などができるように、いつでもアクセス可能な状態に整えたうえで、定期的にバックアップをとっておけば基本的には問題ないでしょう。

賃金台帳が必要になるケース

賃金台帳が必要になるケースについて見ていきましょう。

離職票など退職者関係の手続き

賃金台帳は、労働保険や社会保険の手続きに必要です。たとえば、被保険者が退職する際に離職票を交付するにあたり、確認書類として「離職前2年間分」の賃金台帳を「被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内」に提出しなければなりません。この他、労働基準監督署や年金事務所での定期的な調査や、労務トラブル発生時など、さまざまな場面で必要になります。
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』)

賃金台帳は給与明細と何が違う?代用はできる?

賃金台帳と似た書類に「給与明細」があります。給与明細とは、給与の支払額や控除額をまとめて記載した通知書です。従業員に支払われる給与や手当の他に、健康保険料や所得税など控除の金額と勤怠情報が記載されています。給与明細には、賃金台帳に記載が義務付けられている法定項目は記載されていないため、給与明細を賃金台帳として代用することはできません。賃金台帳と給与明細の違いを、下の表にまとめました。

賃金台帳 給与明細
目的 従業員への給与の支払い状況を記載し、管理する 給与の支払額や控除額をまとめて記載し、従業員に通知する
保存 企業は原則5年間保存しなければならない 給与支払いのたびに従業員に交付し、企業では保存しない
記載項目 労働基準法により、「賃金計算期間」「労働日数」「労働時間数」など、必須記載事項が定められている 給与の「支払額」「控除額」、勤務日数や欠勤日数などの「勤怠情報」を記載する

給与明細の役割

所得税法第231条では、「給与を支払う者は、給与の支払いを受ける者に対して、支払明細書を交付しなくてはならない」と定めています。給与明細は、給与の支払いのたびに従業員に交付するものです。「基本給や諸手当が正しく支給されているか」「給与の算出に関わる勤怠情報に誤りがないか」を確認できる、労使双方にとって重要な書類と言えるでしょう。

賃金台帳の必須記載事項

賃金台帳フォーマット

賃金台帳では、以下の10項目について必ず記載し、管理しなければなりません。これらの項目は、企業が適切な労務管理を行っているかどうかを確認するために、労働基準監督官が重視するポイントです。

①労働者氏名
②性別
③賃金計算期間
④労働日数
⑤労働時間数
⑥時間外労働時間数
⑦深夜労働時間数
⑧休日労働時間数
⑨基本給や手当などの種類とその額
⑩控除の項目とその額

ここからは、項目の内容や記載例を見ていきましょう。

①労働者氏名/②性別

従業員の基本情報として、「労働者氏名」と「性別」を記載します。労働者氏名はまた、管理しやすいように「労働者氏名」と併せて当該事業所で使用する「労働者番号」を記載しても構いません。

③賃金計算期間

賃金計算期間とは、賃金の計算対象となる期間のこと。毎月末締めの場合は「2021年8月1日~2021年8月31日」、10日締めの場合は「2021年7月11日~2021年8月10日」などと記載します。なお、日々雇い入れられる者については記載が不要です。

④労働日数/⑤労働時間数

労働日数とは「賃金計算期間にその従業員が働いた日数」、労働時間数とは「賃金計算期間にその従業員が働いた時間数」のこと。タイムカードや出勤簿などの根拠書類を確認し、正確に記載しましょう。

有給休暇や特別休暇を取得した場合

有給休暇や特別休暇は、通常の労働時間に労働したものと見なします。休暇の日数・時間数を該当欄に記入、その日数および時間数は有給休暇取得とわかるようにしておくのがよいでしょう。

欠勤控除の場合

欠勤控除とは、もともと支払う予定だった賃金から、欠勤した分の賃金を差し引いて給与を支払うこと。終日休んだ場合だけでなく、遅刻・早退などで予定していた時間に働けなかった場合も対象となります。欠勤した際の控除額は、非課税です。欠勤があった月は「総支給額合計額」から欠勤控除額を引き、「課税合計額」を計算します。賃金台帳では控除項目ごとに控除額を書く必要があるため、「欠勤控除 ▲15,000円」といったように記載しましょう。
(参考:『欠勤控除とは?人事が知っておくべき基本知識~算出に含む手当一覧付~』)

⑥時間外労働時間数

労働時間数のうち、法定勤務時間を超えて働いた勤務時間数を「時間外労働時間数」と言います。
これは、残業手当などの計算で使用する項目です。

そもそも法定勤務時間とは、1日8時間・週40時間までの勤務時間のことです。
この時間を超えると、時間外労働時間に該当することとなります。
ただし、契約上で1日の労働時間が通常の法定勤務時間と異なる場合は、契約上の条件を前提に計算します。
たとえば1日7時間勤務の契約となっている従業員が、8時間勤務した場合の時間外労働時間数は1時間になる、ということです。

また時間外労働時間数の記入は、一般の従業員のみ対象です。
役員は従業員と労働条件が異なるので、時間外労働時間数を記入する必要はありません。
なお、役員が法定勤務時間数を超えて勤務する場合は、別途36協定の締結が必要となります。

⑦深夜労働時間数/⑧休日労働時間数

深夜割増手当や休日出勤などを計算するため、深夜労働時間数や休日労働時間数の記入も必要です。

深夜労働には、午後10時から翌日午前5時までの勤務が該当します。
また休日出勤は、法定休日あるいは雇用契約上の休日(法定外休日)に出勤した場合を指します。
深夜・休日労働には割増賃金を支払わなければならないので、正しい労働時間数を必ず記載しましょう。

なお、深夜・休日労働時間もまた、時間外労働時間と同様に役員と従業員で扱いが異なります。
役員の場合は深夜勤務時間数のみ記入すればよく、休日勤務時間数の記入は必要ありません。

⑨基本給や手当などの種類とその額

賃金台帳には、給与支給額の総額ではなく、基本給と各手当を分けて記載します。
具体的な項目は以下をご覧ください。

基本給および手当についての記載項目

・基本給
・残業手当(所定時間外割増手当)
・各種手当(役職手当、地域手当、扶養手当、通勤手当など)
・臨時手当
・ボーナス

月給で働く従業員の場合は「基本給」を記載します。
時給で働く従業員の場合は「時給単価×労働時間」で算出した割増率のない額を、月給制の従業員と別枠にして記載するとわかりやすいでしょう。
また「役職手当」「地域手当」などの諸手当は、個別に記載します。

なお、雇用調整助成金は休業手当として支払った額に対して支給されるため、賃金台帳には「休業控除」「休業手当」項目を支給項目欄に追加して記載します。

●休業手当の記載例

「休業控除 ▲200,000円」
「休業手当  200,000円」

休業による欠勤控除をいったんマイナス表示した上で、その欠勤控除をカバーするために休業手当を支払った旨をプラスで示します。
控除欄で引いてしまわないように注意しましょう。

やや複雑な計算となるので、計算ミスがないか最後に必ずご確認ください。
また、最低賃金を下回ってしまっていないか?もチェックしましょう。

⑨-1:臨時の給与、賞与

個人に支払われる臨時の給与とは、「一時金」や「寸志」のことです。一方、賞与とは定期給とは別に支払う「特別な給与」のことで、毎月支払われる賃金とは別に3カ月を超える期間ごとに支払われるものを指します。「臨時の給与」「賞与」がある場合は、何に当たるのかを選択し、項目に記載しましょう。
(参考:『【完全版】賞与とは?ミスしない社会保険料・所得税の計算方法、知っておくべき手続き』)

⑩控除の項目とその額

控除額の欄には、健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料など、給与から控除される金額を記載します。
具体的な項目の例は以下をご覧ください。

控除項目の例

・源泉徴収税額(所得税・住民税)
・社会保険料額(健康保険料や厚生年金保険料など)
・自社独自の控除(企業年金など)
・欠勤などで減額した給与額

上記の他、弁当代や親睦会費など、企業が独自に控除しているものも記載しましょう。

⑩-1:実物給与

賃金計算期間に支給された「報奨金」や「社宅家賃」など、現金で負担した課税対象のものを記載します。社宅は家賃の半額以上を会社が負担すると課税対象となるため、記載漏れに注意が必要です。

支給総額・賃金締切日・賃金支払日・領収者印

支給総額欄に加えて、賃金締切日や賃金支払日、領収者印の欄を設けることができます。これらの欄を設けることで、より管理しやすくなるでしょう。

修正したい場合

処理済みの過去月の給与計算で間違いが見つかった場合、次月の給与で調整を行います。賃金台帳には、給与を調整したことがわかるように、次月の給与で「支給した過去月分の給与額」や「修正後の控除額」などの記録を残すとよいでしょう。対象の従業員には事情を丁寧に説明し、次月の給与計算で精算する旨を伝えて理解してもらうことが重要です。

賃金台帳のテンプレートを無料ダウンロード

賃金台帳の書式は特に決まっておらず、必須事項の記載を確認できればよいとされていますので、使いやすい書式を選びましょう。

d’s JOURNALでは、オリジナルのすぐに使える「賃金台帳」テンプレートをご用意しております。
こちらから無料でダウンロードが可能です。

先ほどご紹介した10項目に沿って記入いただけますので、解説もあわせてご覧ください。

賃金台帳は源泉徴収簿と兼用できる

源泉徴収簿とは、年末調整を行う際に必要な情報を集約した帳簿のこと。賃金台帳と源泉徴収簿は、法律上はあくまで異なる書類ですが、賃金台帳を源泉徴収簿にも利用できるようなフォーマットにして、兼用している企業も多く見られます。なお、源泉徴収簿の保存期間は7年。賃金台帳の保存期間よりも長いので注意が必要です。

賃金台帳は従業員に開示する義務はない

賃金台帳の従業員への開示義務は、特に定められていません。しかし、従業員には過去に支給を受けた賃金について「知る権利」が当然あると思われるため、情報開示の重要性の観点からも要求に応じるべきでしょう。

賃金台帳がない場合は罰金が科せられる?

賃金台帳を作成していない場合や、法律に定められた基準を満たしていない場合は、罰則の対象となります。労働基準法に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。賃金台帳に不備が見つかった場合、一般的には労働基準監督官から是正勧告書が交付され、それに従わない場合は、監督官の判断により「送検」「罰則の適用」となることも。そのような事態を避けるためにも、法律で定められた基準を満たす賃金台帳を作成しましょう。

まとめ

従業員を雇い入れる企業には、賃金台帳の作成・保存が義務付けられています。全ての従業員を対象に作成する必要があり、保存期間や必ず記載しなければならない項目も定められているため、注意が必要です。今回の記事を参考に、法律に定められた基準を満たす賃金台帳を作成し、労務管理を適切に行いましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

賃金台帳(常用労働者)テンプレート【Excel版】

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