キャリアデザインシートとは?企業にとってのメリットや作成依頼時の注意点を解説
d’s JOURNAL編集部
従業員に満足のいくキャリアを築いてもらうことは、人材育成において重要なテーマの一つといえます。しかし、キャリアの考え方は人によって異なるため、すべての人材に当てはまる理想的なキャリア形成というものは存在しません。
キャリアデザインは、一人ひとりの状況を踏まえて丁寧に組み立てていくことが重要なのです。そこで活用したいのが、「キャリアデザインシート」というツールです。
今回はキャリアデザインシートの概要や作成の方法、記入例、記入時のポイントなどをまとめてご紹介します。
使用者に合わせて使える「キャリアデザインシート」のテンプレートを下記から無料ダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
キャリアデザインシートとは
「キャリアデザインシート」とは、キャリアデザインを可視化できるように図表でまとめたものを指します。将来の希望や目標を具体化するために作成するツールであり、従業員が自分自身で状況を整理したり、上司やキャリアコンサルタントといった相談相手に共有したりするために用いられます。
記載内容に決まりはありませんが、例えば「保有スキル」や「これまでに経験してきた業務」「やりがいを感じた出来事」「仕事に対する考え方」「将来に向けた年単位の理想像」などをまとめるのが一般的です。キャリアデザインシートを確認することで、従業員がこの先にどのようなプロセスでキャリアを形成していくべきなのかを振り返られるようになるでしょう。
ちなみに、社内においてキャリアアップするためのプロセスをキャリアパスといいます。また、キャリアデザインと似た言葉にキャリアプランというものがあります。
キャリアデザインが将来の希望や目標を明確にするために考えるものである一方、キャリアプランはそれらを実現させるための具体的な計画を指すことを押さえておきましょう。
キャリアデザインシートを構成する3つの要素
キャリアデザインシートを構成する要素として、「価値観」「強み」「スキル」の3つが挙げられます。
・価値観:仕事に対する捉え方、やりがい
・強み:知識や経験、リーダーシップなど
・スキル:現在保有しているスキルと、これから獲得するスキル
従業員に作成してもらったキャリアデザインシートをチェックするときは、上記の3つの要素が盛り込まれているかを確認しましょう。
従業員にキャリアデザインシートを作成してもらう目的
キャリアデザインシートは、従業員本人にキャリアの目標設定を行ってもらう目的で用いられます。シートに必要事項を記録しておけば、現在だけでなく将来にわたるキャリアについても考えやすくなるため、より具体的な目標設定が可能となります。
キャリアデザインシートがあれば、キャリア面談や1on1ミーティングなどの場面でもスムーズな情報共有が可能です。対象者がどのような道を目指しているのかが明らかになるため、フィードバックの質が高まり、納得のいく面談が行いやすくなるでしょう。
また、キャリアデザインシートに決められた形式はなく、白紙の状態から書き始めることも可能です。しかし、必要項目の漏れを防ぎ、情報整理をしやすくするためには、ある程度のフォーマットを用意しておくほうがよいといえます。
そこで役に立つのが、厚生労働省が様式を定めている「ジョブ・カード」です。ジョブ・カードとは、生涯を通じたキャリアプランニングと職業能力証明が行えるツールとして、厚生労働省が公表しているフォーマットのことです。
ジョブ・カードは、「キャリア・プランシート」「職務経歴シート」「職業能力証明シート」 の3種類のシートで構成されており、キャリア・プランシートには作成を補助するためのシートが付属されています。これらのフォーマットをそのまま使用するか、参考にしたうえで適宜カスタマイズを行えば、まとめやすいキャリアデザインシートを作成できます。
(参照:厚生労働省『マイジョブ・カード 』)
従業員にキャリアデザインシートを作成してもらう3つのメリット
従業員にキャリアデザインシートを作成してもらうメリットについて、ここでは以下の3つのポイントに分けて見ていきましょう。
・従業員の目標設定を手助けできる
・従業員のキャリア支援を継続して行える
・離職防止の対策になる
従業員の目標設定を手助けできる
キャリアデザインシートを作成する際、従業員には順を追って今までのキャリアを見つめ直してもらうため、その情報をもとに目標設定の手助けを行えます。シートを作成する過程で、すでに保有している経験やスキルを整理し、そのうえで将来どのような能力を身につけるべきかを明らかにしてもらいましょう。
それによって、どのような方向でスキルアップを図っていくべきか、具体的な足掛かりが得られるのが利点です。また、シートを作成してもらうという行動そのものが、従業員に自身のキャリアを主体的に考えてもらうきっかけにもなります。
従業員はキャリアデザインシートを作成し将来像を明確にすることで、日々の業務に対する意義ややりがいを見出せるようになり、仕事へのモチベーションが向上するでしょう。このようにキャリアデザインシートは、従業員の目標設定を手助けし、モチベーションを維持しながら主体的に仕事に取り組む環境を作る際に役立ちます。
従業員のキャリア支援を継続して行える
キャリアデザインシートを作成してもらうことで、従業員のキャリア支援が行いやすくなるのもメリットです。一人ひとりのキャリアデザインが可視化されるため、どのようなアプローチをすべきかが明確になり、教育や研修内容のカスタマイズを行いやすくなります。
また、作成したシートを面談時に参照すれば、本人がどのような希望を抱いているのかをつかんだうえで、的確なフィードバックが行えます。キャリアに対する認識のすれ違いがなくなるため、本人の意欲を引き出せるようなロードマップを提示しやすくなるでしょう。
離職防止の対策になる
キャリアデザインの明確化は、従業員の離職防止にもつながります。シートを用いて将来像を明確にすれば、目の前の業務がどのように未来へつながっているのかを従業員はハッキリとつかめるようになります。
将来への道筋を意識できれば、仕事への意欲や責任感が向上し、高いモチベーションで業務に向き合えるでしょう。その結果、離職や生産性の低下を防止できるのもキャリアデザインシートを作成してもらう利点です。
また、キャリアデザインシートは人事評価を行ううえでも役に立ちます。対象者の現状と目標を把握できるため、成長の度合いや目標設定の妥当性を適切に判断でき、納得のいく評価を行いやすくなるのです。
従業員からすれば、自身を正しく評価してもらえていることで、企業や組織に対する信頼度が高まります。キャリアデザインシートの作成が、従業員に対する正しい人事評価につながるため、結果的に離職防止の対策になるといえるでしょう。
使用者に合わせて使える「キャリアデザインシート」のテンプレートを下記から無料ダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
従業員にキャリアデザインシートを作成してもらう5つの手順
キャリアデザインシートを作成してもらう際には、単にフォーマットに沿って記載内容を埋めてもらうのではなく、丁寧に自身のキャリアを整理してもらうことが大切です。ここでは、以下の5つのステップに分けて、作成の手順を見ていきましょう。
1.過去の経験を振り返り、整理してもらう
2.将来の希望や目標を明確に書いてもらう
3.価値観・スキルを洗い出してもらう
4.目標を達成するために必要なスキル・経験を書き出してもらう
5.時系列に沿って、具体的なプロセスを考えてもらう
過去の経験を振り返り、整理してもらう
まずは従業員に自身のこれまでの経験を振り返り、一つずつ整理してもらう必要があります。仕事だけでなくプライベートも含めて、これまでの人生でやりがいを感じたことや、自分が好んでいることを書き出してもらいましょう。
また、苦手なシチュエーションや不得意だった役割、これまでの業務でやりがいを感じにくかったことなども洗い出してもらうことが大切です。これらの要素を丁寧に分析していくことで、「仕事での適性」や「重視すべき価値観」「大事にすべき条件」などが明らかになります。
将来の希望や目標を明確に書いてもらう
続いて、今後はどのような働き方をしたいか、どういった人生を歩んでいきたいかを考えてもらい、将来の希望や目標を明確にしていきます。初めから長期的な視点でプランを固めるのは難しいため、まずは1年後・3年後といった短いスパンで組み立てていくのがコツです。
また、今の時点である程度予測ができるライフイベントについては、あらかじめ盛り込んでもらっておくとよいでしょう。結婚や出産、転勤、子どもの進学、両親の介護といった出来事は、仕事にも大きな影響を与える可能性があります。
より現実的なキャリアデザインを描くためにも、想定できるライフイベントについては、あらかじめ念頭に置いてもらうことが大切です。
価値観・スキルを洗い出してもらう
過去の経験と将来の希望が明確になったら、現状に立ち返って、自分自身の価値観や身についているスキルを洗い出してもらいます。現在の自分自身の「資格や経験」「強みと弱み」「行動特性」などをもとに分析してもらいましょう。
また、自分の長所などは気づきにくい部分もあるので、身近な家族や友人などに聞くのを促すことも大切です。「周囲から期待されていること」「自分では見えていない弱点」などを丁寧に洗い出すことで、キャリアデザインの質が高まるはずです。
目標を達成するために必要なスキル・経験を書き出してもらう
続いて、目標と現状を照らし合わせ、ゴールに到達するために必要なスキル・経験を整理してもらいましょう。将来の理想像と現状を比較すれば、どのような部分が不足しているのかが明らかになるため、今後のタスクを洗い出しやすくなります。
そのうえで、必要なスキル・資格などについては、取得するまでの目安期間もこの段階で明らかにしてもらうとよいでしょう。場合によっては、スキルの習得に数年単位の期間を必要とするものもあるため、どの程度の時間がかかるかによってキャリアデザインも大きく変わってくるはずです。
時系列に沿って、具体的なプロセスを考えてもらう
最後に、目標を達成するためのプロセスをまとめてもらい、時系列に沿って組み上げていきます。例えば、5年後に海外で働くことを目標とするのであれば、1年後に英語の資格を取り、3年後に海外出張を経験し、4~5年後には海外で働く環境にシフトするといった具体的なプランが必要です。
また、将来的に管理職を目指すのであれば、コミュニケーションのあり方や評価手法、人材育成などを段階的に身につけていかなければなりません。個人の感覚だけではどのような筋道を立てればよいかが不透明になりやすいため、本人の希望をよく確認したうえで適切なアドバイスを行っていくことが大切です。
キャリアデザインシートの記入例・例文
キャリアデザインシートの書き方は、どのようなキャリアを描くかによっても異なる部分があります。ここではいくつかのパターンに分けて、実際にキャリアデザインシートの記入例をご紹介します。
社内でキャリアアップを目指しているケース
まずは、社内でキャリアアップを目指すケースについて見ていきましょう。
過去の経験と分析
過去の経験 | ・自社の企業理念や経営ビジョンに深く共感している ・自分の技能を発揮できることに喜びを感じる ・自由・自立・創業的な側面を重視している |
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仕事での経験 | ・経営分析に用いるデータ作成を担当 ・資金計画や資金調達計画の原案作成にやりがいを感じた ・少人数ではあるが部下の指導をすることとなり、困難を感じながらも一定の成果が見られるまでになった |
将来の希望と目標
・より経営的な視点で企業の運営に関わりたい
・社内コンサルタントとして事業に深く関わりたい
・自社で足場を固めながら着実に収入アップを重ねていきたい
現状
・経理に関する一定の経験と知識(簿記2級)がある
・経営分析、資金計画などの分野で主任として実務経験を積んだ
・企業運営に関わるうえではマネジメント経験が不足している
時系列に沿ったプロセス
1年後 | 現在の部署で主任としてマネジメント能力を磨きつつ、中小企業診断士の学習を進める |
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3年後 | 中小企業診断士の資格を取得する |
5年後 | 新規プロジェクト事業で責任者を務める |
10年後 | 経営企画室のマネージャーを務める |
上記の例であれば、「資金計画や資金調達計画の原案作成にやりがいを感じた」という仕事での経験を軸に、現状のスキルである簿記の知識を広げていく形でアドバイスを行うとよいでしょう。マネジメントの実務経験を磨きつつ、より高度な財務分析などが行える中小企業診断士の資格取得を目指していけるように、細かなプランを一緒に立てていくことが大切です。
プロジェクトリーダーになることを目標としているケース
次に、比較的に近い将来でプロジェクトリーダーを目指すケースについて見ていきましょう。
過去の経験と分析
・プロジェクトマネージャー試験に合格したい
・将来的にはプロジェクトマネージャーとして活躍したい
現状・エンジニアとしての一定の経験とスキルを持っている
・社内に尊敬できるプロジェクトマネージャーがおり、その人をお手本としてスキルを磨いている
・社内の人員構成から見て、若手から中堅の間に位置している
時系列に沿ったプロセス
過去の経験 | ・サークルや部活動などでリーダーを任されることが多かった ・システムエンジニアの仕事にやりがいを感じてきた |
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仕事での経験 | ・人と関わり、組織やチームに貢献できる役割にやりがいを感じる ・一人でコツコツ仕事を進めるよりも、周囲と関わりながら物事を進めていくほうが得意 ・マイクロマネジメントをされるよりも、ある程度の自由度と裁量があるほうが動きやすい |
上記の例であれば、リーダーとして成長していくための手本となる人材が社内にいるため、その人物にヒアリングを行って、キャリアの参考となる情報をアドバイスしてみるとよいでしょう。海外勤務を希望しているケース将来的に海外勤務を目指すケースを例として、キャリアデザインシートの具体的な内容を見ていきましょう。過去の経験と分析
1年後 | エンジニアリングの専門性を高めつつ、社内のマネジメント研修を受講する |
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2年後 | プロジェクトリーダーの補佐を担いつつ、コミュニケーションスキルを磨く |
3年後 | プロジェクトリーダーを任される |
5年後 | プロジェクトマネージャーを任される |
将来の希望と目標・海外で自社のコンテンツを普及させる仕事に就きたい
・海外支社でマーケティング担当者としてある程度の裁量を持ちながら働きたい
・既婚であるため、家族と一緒に暮らせる環境は維持したい
現状・ビジネス英語のスキルはある程度身についている(TOEIC○○点)
・海外での商習慣やマナーには疎い
・仕事で扱う専門用語の理解は不足している
・マーケティングのスキルを習得中
時系列に沿ったプロセス
過去の経験 | ・学生時代に英語を専門的に学び、ある程度の自信を持っている ・日本のものづくりに強く共感しており、海外に広められる仕事に就きたいと考えていた |
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仕事での経験 | ・他者とのコミュニケーションは得意 ・自分の成長を実感できる環境に働きがいを感じる ・ルーティン業務が続く環境は得意ではない |
上記の例であれば、語学力には一定の自信を本人が備えているので、研修や出張などを通じて海外におけるビジネスの経験を少しずつ積んでもらうように機会を与えてみるとよいでしょう。これらはあくまで一例ではありますが、過去と未来、現在の整理を行い、具体的なプロセスに落とし込むというのが、キャリアデザインシートを作成してもらう大まかな流れです。
1年後 | 社内のマーケティング研修を修了する |
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3年後 | 短期の海外出張を重ねつつ、現地の商習慣や特有の用語を身につける |
5年後 | 海外支社に赴任し、自社コンテンツのマーケティング業務を担う |
10年後 | 現地の支社で○○の役職に就く |
キャリアデザインシートのテンプレート
従業員のキャリアデザインを可視化するためには、段階を追って考えてもらいやすいように、キャリアデザインシートのベースを用意する必要があります。質問事項について、自社なりに作成するのも一つの方法ですが、テンプレートを活用したほうがスムーズに進められるのでおすすめです。
d’s JOURNALのキャリアデザインシートなら、自社に適したキャリアデザインシートを簡単に作成できます。下記よりダウンロードができるので、ぜひ活用してみてください。
キャリアデザインシートを作成するポイント
キャリアデザインシートをスムーズに作成してもらうには、「ライフイベントの方向性も決める」ことや「現実的な目標にする」ことが大切です。それぞれのポイントを解説します。
ライフイベントの方向性も決める
キャリアデザインシートを作成する際は、将来的に起こりそうなライフイベントについても考えてもらう必要があります。なぜなら結婚や出産、介護といったライフイベントを考慮せずにキャリアデザインを描いてしまうと、実際にそれらのライフイベントを迎えた際に、当初に計画していたキャリアデザインを練り直すことになるからです。
長く仕事を続けていく過程においては、さまざまなライフイベントが起こるものなので、あらかじめ把握しておかなければ、場合によっては仕事との両立が難しくなってしまいます。今後の人生設計などを踏まえたうえで、キャリアデザインシートを作成してもらいましょう。
現実的な目標にする
キャリアデザインシートの作成にあたっては、従業員に現実的な目標を立ててもらうことも肝心です。実際の本人の実力とかけ離れたところに目標を設定してしまえば、途中で挫折する恐れがあります。
大きな目標を考えること自体は重要ですが、キャリアデザインシートを作成する段階では、少し無理をして頑張ればクリアできるレベルの目標を立ててもらいましょう。小さな成功体験を積み上げてもらうことで、その後のキャリア形成に自信をつけてもらうほうが、最終的に達成したい大きな目標にも近づいていくはずです。
まとめ
キャリアデザインシートは、従業員に納得のいくキャリアを築いてもらううえで、羅針盤となる重要なツールです。シートを作成してもらう過程で、従業員自身がどういった価値観を持ち、どのような将来に向かって今何をすべきなのかを明確にできるでしょう。
過去と現在、現在と将来のつながりをハッキリと見据えてもらうことで、日々の業務に対する意識も高まり、生産性の向上や離職率の低下といったメリットが期待できます。キャリア支援の一環として、キャリアデザインシートの作成を導入してみてはいかがでしょうか。
使用者に合わせて使える「キャリアデザインシート」のテンプレートを下記から無料ダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
【テンプレート】キャリアデザインシート
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