新人教育の目的とポイントとは?現場で活躍できる人材を育てるコツ
d’s JOURNAL編集部
企業にとって、新人教育は組織の未来を左右する重要な取り組みです。採用した人材を自社の未来を担う存在として育てていくには、どのようなポイントに目を向ければよいのでしょうか。
今回は新人教育の目的とぶつかりやすい課題を解説したうえで、取り組みのポイントや進め方、具体的な施策などをご紹介します。また、新人教育で成果を上げている企業の事例も詳しく見ていきましょう。
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新人教育とは
新人教育とは、企業が採用した新入社員に対して、業務遂行のために必要な知識・スキル、ビジネスマナーなどを身に付けてもらうために行うアプローチのことです。一般的には新卒で入社したばかりの従業員を対象に行われますが、中途採用で加入した従業員に対しても、必要に応じて実施します。
新人教育の具体的な内容は企業や業種によっても異なりますが、取り組みの目的や基礎的な教育内容に関しては、共通している部分も多くあります。
新人教育を行う目的
新人教育を行う目的として、新入社員に「自社が掲げる経営理念や事業方針、ビジョンなどを理解してもらう」ことや「配属された組織の目的や風土、与えられる業務への理解を深めてもらう」ことが挙げられます。理念や方針は、その会社で仕事をするうえでさまざまな判断、行動の土台となる要素です。
入社間もないタイミングでしっかりと理解を促すことで、業務や組織への順応がスムーズになるとともに、将来的なキャリアの見通しも立てやすくなるでしょう。当面の目標としては、所属したチームの一員として想定される業務を一人で対応できるようなることが挙げられます。
新人教育が重視される理由
組織運営において、新人教育の重要性が高まっている理由としては、「定着率の向上」が挙げられます。少子高齢化にともなう若手の人材不足が深刻化するなか、新入社員は企業にとって重要な存在といえます。
適切な形で新人教育を行わなければ、新入社員はなかなか戦力として活躍できず、企業に対する帰属意識も生まれません。早期に帰属意識が形成されなければ、企業に対する貢献意欲も生まれないため、思うように能力が伸びないばかりか早期離職の原因となってしまう場合もあるでしょう。
特に近年では、転職に対するマイナスイメージが軽減されていることもあり、理念や風土が合わないと感じれば離職されてしまうリスクもあります。単に業務遂行に必要なスキルを身につけてもらうだけでなく、企業の価値観やキャリアへの考え方を知ってもらい、新入社員の定着率を向上させたいという点が新人教育の重要性を高めているといえるでしょう。
新入社員を取り巻く状況
新人教育の重要性を示す要素として、ここでは新人社員を取り巻く現在の状況を踏まえながら、さらに詳しく掘り下げてみましょう。
早期退職の増加
厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」の資料によれば、入社3年目までの離職率は過去30年あまりにおいて、大学卒の場合は約30%前後で推移していることがわかります。
(引用:厚生労働省『新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移 』P.1)
しかし、2024年11月現在において、最新データにあたる2021年3月卒業者の離職率は、中学卒・高校卒・短大等卒・大学卒のいずれにおいても2%前後高まっています。
(引用:厚生労働省『新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移 』P.2)
特に宿泊業や飲食サービス業、生活サービス業、娯楽業では、もともとの離職率が50%を超える高さであるのに加え、大学新卒者の離職率は前年比で5%以上も上がっているのが現状です。これらの業界では大学新卒者の2人に1人以上、学歴全体の平均を見ても3人に1人以上が3年以内に離職する実態を踏まえると、人事担当者にはその原因を探り、労働環境を改善していくことが求められているといえるでしょう。
採用難易度の高まり
現代の新人採用の難易度は、人手不足などを理由として高まっています。厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況」によれば、2024年9月時点における有効求人倍率(季節調整値)は1.24倍、新規求人倍率2.22倍となっています。
(引用:厚生労働省『一般職業紹介状況(令和6年9月分について) 』)
ここ数年、有効求人倍率は1.2倍程度で高止まりしており、それほど大きな変化が見られません。人材採用の環境は長らく売り手市場が続いており、企業にとっては依然として採用難易度が高い状況にあるといえるでしょう。
新たな人材を採用するハードルが高まっているからこそ、採用できた人材を流出させないためにも、自社に定着させるための新人教育が重要となります。
(参考:厚生労働省『一般職業紹介状況(令和6年9月分について) 』)
新人教育において担当者が抱えやすい悩み
組織全体として新人教育のあり方を見直すうえでは、どのようなことにつまずきやすいのか、具体的な傾向を知っておく必要があります。ここでは、教育担当者が抱えやすい悩みについて3つの観点から整理しておきましょう。
教育を行うための方法が分からない
自らの業務は問題なく行えても、教育を行うとなると具体的な方法がわからないというケースは少なくありません。新人教育を行うためには、普段の業務を遂行するスキルとは異なる知識・経験が求められます。
具体的には、新人教育の対象者の自律性や向上心を引き出す「コーチングスキル」や、業務遂行に必要な知識・経験を伝える「ティーチングスキル」などが挙げられます。また、対象者に過度なプレッシャーを与えない人当たりのよさや分析力などの「フィードバックスキル」、対象者の精神的なサポートを行う「メンタリングスキル」などが必要です。
担当者によって経験や能力が異なるため、特別な研修などを経ずに、一定以上の水準で新入社員に教育を行うのは難しい部分があるといえます。また、必ずしも実務能力に秀でたメンバーが教育に向いているとは限らないため、担当者の選定が不十分になりやすいのも一因です。
スムーズに新人育成を行うためには、教育担当者向けの研修を行ったり、育成マニュアルを整備したりする必要があります。
教育に割くための時間的な余裕がない
新人の教育担当者にありがちな悩みとして、「時間的・精神的な余裕がない」というものも挙げられます。一般的に、新人の教育担当者には、親近感を覚えやすい年齢の近い若手のメンバーが就くことが多いです。
そのため、自身の業務をこなすので手一杯になり、なかなか教育業務の時間を捻出できないというケースもあります。特にOJTの場合は、自らも実務をこなしながら新人教育を行わなければならないため、時間的なゆとりがなくなりやすいです。
教育担当を任せるうえでは、本人の業務負担が過剰になっていないかをチェックし、必要に応じてフォローできる体制を設けることが重要です。
カリキュラムを統一するのが難しい
多くの新入社員を抱える企業では、さまざまな部署に新人が配属されるため、全体としてのカリキュラムを統一するのが難しくなりがちです。特に外部講師を招いて教育を担当してもらう場合、社内の教育担当者とのすり合わせが困難になる可能性もあります。
効率的に育成を行うためには、テーマ別に全体研修を行うなどして、新入社員に対して最低限身に付けさせたいものを整理する必要があります。まずは基礎的なカリキュラムをしっかりと統一したうえで、次の段階として部門やチーム別のトレーニング項目を設ければ、内容や進め方に柔軟性を持たせやすくなるでしょう。
新人教育を実施する4つのメリット
新入社員を採用するからには、きちんと教育を行わなければそもそも戦力として貢献してもらうことができません。そのうえで、企業が新人教育に力を入れることには、ほかにどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、次の4つのポイントに分けてご紹介します。
・新入社員の早期離職を防げる
・知識や技能の習得を早められる
・教育担当者の成長が期待できる
・組織全体の生産性の向上につながる
新入社員の早期離職を防げる
先にも述べたように、新入社員の教育を丁寧に行えば、早期離職の予防につながります。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の資料によれば、初めて正社員として勤務した会社を離職した人の理由として、「人間関係がよくなかった」 という回答が労働環境や賃金などと並んで多かったとされています。
(引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査) 』)
また、1年未満に初職を離職した理由に関しては、「仕事が自分に合わない」という回答も上位に挙げられているのが特徴です。新人教育に力を入れれば、人間関係に対する不安や悩み、仕事内容に関する不満などを解消できる可能性もあります。
離職につながる要因を解消することで、新入社員の定着率を高められるのは新人教育の重要なメリットといえるでしょう。
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知識や技能の習得を早められる
組織として新人教育の進め方を確立すれば、知識や技能の効率的な習得を促すことができます。新入社員として必要なことを体系的にまとめれば、教育担当者も迷わずに育成を進められるため、戦力として活躍してもらえる人材を効果的に育成できるでしょう。
また、必要な知識・スキルをマニュアルとしてまとめておけば、意欲的な従業員は自己研鑽を進めることも可能です。自ら主体的に学べる機会を用意することで、入社後のモチベーションが高い時期に理想的なスタートダッシュを切ってもらえるようになります。
教育担当者の成長が期待できる
新人教育は新入社員だけでなく、教える側の従業員の成長も同時に期待できるのがメリットです。「どのように接すれば安心して本音を話してもらえるのか」「どのような言動がモチベーションを引き出すのか」といった問いは、実際に自らが後輩や部下を育成してみなければ答えを出すことはできません。
責任を持って新入社員のサポートを行うことで、組織を運営していくマネジメントスキルが培われていきます。また、自分が持っている知識・スキルをわかりやすく教え、相手の理解度に合わせながらサポートしていく経験は、人と関わるさまざまな業務に活かされていくでしょう。
組織全体の生産性の向上につながる
新人教育を実施することで、組織全体の生産性が向上します。新人教育を実施するためには、新入社員はもちろん、教育担当者や管理職なども含めて多くの人が関わることになります。
普段当たり前のように取り組んでいる業務についても、新入社員と同じ目線で見つめ直してみることで、思いがけない改善点が見つかるケースも少なくありません。業務プロセスや組織のシステムを丁寧に見直すことは、組織全体のレベルアップにつながり、結果として業務の効率化や生産性の向上に結びついていきます。
新人教育を行うための具体的な手法
新人教育を進めるにあたっては、さまざまなアプローチが考えられます。自社の状況に合わせて、最適な組み合わせを検討することが育成を成功させる近道となります。
ここでは、次の代表的な手法を5つに分けて見ていきましょう。
新人教育における5つの手法
・OJT(On-the-Job Training)
・OFF-JT(Off-the-Job Training)
・自己啓発
・メンター制度
・1on1ミーティング
OJT(On-the-Job Training)
OJT(On the Job Training)とは、対象者が担当する業務に触れながら、実践を通して学びを深めてもらう方法です。基本的には、配属先の職場の先輩が一対一でサポートし、新入社員に業務を通して指導を進めていきます。
業務を経験してもらった後は、担当者が細かなフィードバックを行いながら、必要に応じて質疑応答に対応します。実際の業務にあたりながら教育していくため、実務能力の成長を促せるのがメリットです。
座学で学んだ内容を実践することで、自信にもつながるでしょう。また、その場の細かな状況判断や、トラブルが発生したときの処理なども経験させることが可能です。
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OFF-JT(Off-the-Job Training)
OFF-JTとは、通常の業務を離れて座学の機会を設け、必要な知識を身に付けてもらう方法のことです。社内でワークショップや学習会などの機会を設けるほかに、外部講師を招いたり、社外で行われるセミナーなどに参加させたりすることもあります。
学習のみに専念して取り組んでもらえるので、知識の吸収効率が高く、業務に必要な事柄を体系的に習得できるのがメリットです。そのため、基本的なルールの徹底やマニュアルの理解、社会人としてのマナー講習などに向いています。
また、外部のサービスを利用する場合は、自社にないノウハウや知識の習得に効果的です。
自己啓発
自己啓発は書籍や動画教材などを用意して、自主的に学習してもらう方法であり、OFF-JTの一種です。身につけてもらいたいスキルに合った書籍を用意したり、e-ラーニングを利用したりして、各自で必要な知識を習得してもらうのが基本的な取り組みになります。
自分のペースで学習を進められるため、個人の状況に合わせて無理なく成長を促せるのがメリットといえます。また、能動的な姿勢を引き出せるので、学習効率も高まりやすい側面があります。
一方で、具体的な取り組み方は従業員個人に依存してしまうため、教育効果を検証するのが難しいのも確かです。また、個人の能力や意欲によって進捗にも大きな差が生まれるため、担当者側の管理負担が大きくなってしまうのもデメリットです。
メンター制度
メンター制度は、上司や先輩従業員にメンターとなってもらい、新入社員の教育にあたってもらう手法のことです。「メンター」とは師匠や指導者を意味する英単語ですが、人事の分野では面倒を見る先輩従業員を指します。
メンターと一般的な教育担当者との大きな違いは、育成にあたってカバーリングする範囲にあります。通常の教育担当は同じ現場やチームの先輩が担い、主に業務に関する事柄について、具体的な方法を教えたり相談に応じたりします。
それに対して、メンターは仕事そのものの悩みや人間関係のつまずき、キャリアに関する不安などをフォローするのが主な役割です。そのため、必ずしも直属の先輩が担当するとは限らず、異なる部署やチームのメンバーが横断的に関わることもあります。
仕事以外の部分でも相談に乗ってもらえる存在があることで、新入社員の心理的な負担が軽減され、スムーズに企業や組織への順応を促せるのが利点です。
1on1ミーティング
1on1ミーティングとは、その名の通り一対一で行われる面談のことです。具体的には直属の上司や管理職者が相手となり、一対一で丁寧にコミュニケーションを図りながら、対象者の意見や悩みを聞いたり、取り組みのフィードバックを行ったりすることを指します。
定期的に実施することで、対象となる従業員が抱えている課題や目標、達成度合いを共有できるため、育成の効率化につながります。また、一人ひとりとじっくり向き合うなかで、新入社員と組織の間に信頼関係を形成しやすいのもメリットです。
直属の上司と良好な関係性が築かれれば、会社に対する帰属意識や貢献意欲も醸成されやすくなります。
新人教育を行うときの5つのコツ
新入社員と関わるうえでは、既存の従業員に接するのとは異なるポイントを押さえる必要があります。ここでは、新人教育を効果的に進めるためのコツを以下の5つに分けてご紹介します。
・新人教育の目的や意義を明確にする
・適切なフィードバックを行う
・心理的安全性の高い職場づくりを推進する
・新入社員ごとにカリキュラムを見直す
・失敗を織り込み済みで挑戦させる
新人教育の目的や意義を明確にする
新人教育を行う際は、なぜ新人教育を行う必要があるのか、目的や意義を明確にすることが大切です。新人教育を成功させるには、計画の立案から実行、評価、改善までのプロセスに一貫性を持たせる必要があります。
例えば、「新入社員を1年間で戦力にする」場合と「3年以内離職率を10%以下にする」場合とでは、当然ながら優先すべき事項や評価の尺度が変わってきます。そのため、育成計画を立てる段階で、経営層や現場の責任者とも意見交換しながら、育成のゴールと方針を定めておくとよいでしょう。
ハッキリとした方向性が示されていれば、教育担当者も最適なアプローチを見極めやすくなり、自信を持って新入社員に向き合うことができます。
適切なフィードバックを行う
具体的な教育プログラムを実施するにあたっては、適切なタイミングと内容でフィードバックをすれば効果が高まります。例えば、対象者が与えられた目標を達成したり、決められた期限を経過したりしたタイミングで、時間を置かずにフィードバックを行うことが大切です。
「Aという目標は達成できたが、Bという目標は〇〇という課題があり達成できなかった」というように、どのような点が伸びているのか、どのような課題が残っているのかをこまめに共有することで、対象者は自分なりの目標を立てられるようになります。
その結果、取り組みに対する手ごたえを感じられるようになり、高いモチベーションで業務に臨んでもらえるでしょう。また、フィードバックは教育担当者に対しても行うことが大切です。
全体のスケジュールから見て、現在どのあたりまで育成が進んでいるのか、どのようなアプローチに効果があるのかを適宜確かめながら、細かな軌道修正を重ねていくとよいでしょう。
そのうえで、一通りのプログラムが完了したら、取り組み全体を振り返りながら改善点などを教育担当者の間で共有していくことも重要です。収集したデータや意見は、次年度以降の新人教育に活かせる財産となります。
心理的安全性の高い職場づくりを推進する
新人教育の目的を達成するためには、必要なときにいつでも相談できる体制を社内に整えるなどして、「心理的安全性」の高い職場づくりを進めていくことも大切です。 心理的安全性とは、組織内において自分の気持ちや考えを否定される心配がなく、安心して意見を表明できる環境が保たれた状態を指します。
いわゆるなれ合いの間柄ではなく、思いついたアイデアや意見をしっかりと口にできる空気や関係性のことであり、心理的安全性が保たれた組織では議論が活発になりやすいのが特徴です。一般的に、新入社員は業務だけでなく、会社になじむまでにそれなりに時間がかかります。
悩んでいることがあってもなかなか口にできないため、いつまでも疑問や不安が解消されず、成長を妨げる要因が生まれやすいといえるでしょう。業務における悩みをいつでも相談できる体制を構築すれば、納得した状態で育成プログラムに向き合ってもらえるため、より成長スピードも速くなっていくはずです。
新入社員ごとにカリキュラムを見直す
効率的に育成を進めていくには、すべての新入社員を対象に一律で進めるものと、新入社員ごとにカリキュラムを見直していくものを切り分けて考えることが重要です。なぜなら、新入社員といっても、個々の従業員で能力や適性に違いがあり、得意分野や苦手分野が異なるからです。
社会人としてのビジネスマナーなどは一律で身に付けてもらう必要がありますが、業務を遂行するにあたって求められる知識やスキルは、個々の配属先や職種によって異なります。
そのため、まずは一律で実施すべき範囲を明確化し、そのうえで配属先の状況に応じたカリキュラムを作成していくとよいでしょう。また、より効果的なアプローチを目指すには、個人の資質や適性に合わせた柔軟なプログラムを整えられるのが理想的です。
一人ひとりの進捗や成長度をこまめに確認し、状況に応じて取り組みの変更や調整が行えるように柔軟性を持たせておきましょう。
失敗を織り込み済みで挑戦させる
人材育成においては、「失敗を経験させる」ということも重要なプロセスです。経験しなければわからないことも数多くあるため、過度に教育担当者が先回りするのではなく、自分で考えさせる場面を設けるのもポイントといえます。
そのためには、失敗した事実にフォーカスするのではなく、積極的に挑戦を推奨して失敗できる状態をつくるのがコツです。ミスや失敗を経験することで、「なぜ手順を守らなければならないのか」「どうすれば無理なく業務を遂行できるのか」を自分で考えられるようになります。
そうなれば、単に受け身で知識に触れるよりも、格段に成長率が高くなるでしょう。また、失敗することに慣れていないメンバーに対しては、ミスの受け止め方についても丁寧に指導する必要があります。
感傷的になるのではなく、冷静に原因を振り返りながら改善策を見つけ出していく習慣をつけてもらえるようにサポートしましょう。
新人教育における6つの基本ステップ
具体的な新人教育の進め方は、取り組む施策によっても異なります。ここでは、OJTによる新人教育を行うケースを例に挙げて、取り組みの基本的な流れをご紹介します。
1.育成計画を作成する
2.育成マニュアルを整える
3.業務を伝えて実行させる
4.柔軟に指導内容を変える
5.フィードバックを行う
6.次への課題を一緒に見つける
育成計画を作成する
まずは、綿密な育成計画を定めることが新人教育の第一歩です。育成計画を立てるにあたって必要な要素として次の4つが挙げられます。
・求める人材像の確立
・必要なスキルの洗い出し
・育成方法の決定
・スケジュールと中間目標の策定
自社が求める人材像については、人事担当者や教育担当者だけでなく、管理職や経営層なども交えて明らかにしていきましょう。また、目標の設定においては、「SMARTの法則」を意識しながら進めるのが効果的です。
SMARTの法則とは、以下の5つの頭文字をとったルールのことであり、目標の有効性を確かめるのに役立つ考え方です。
・Specific(具体的)
・Measurable(計測可能、数値化されている)
・Achievable(現実的に達成可能)
・Relevant(最終目標との関連性)
・Time-bound(期限が明確)
育成計画を立てる際は、SMARTの法則を考えの軸にして進めてみましょう。
育成マニュアルを整える
育成計画を策定したら、具体的な指導が行えるように育成マニュアルを整備します。一般的な新入社員向けの育成マニュアルに含めるべき事項としては、次のようなものが挙げられます。
・基本的なビジネスマナー
・企業理念、ビジョン
・社内ルール
・業務の役割、手順
・コミュニケーションツールの使い方
内容の形式化・形骸化を避けるためにも、各部署や教育担当者にもヒアリングをしながら、現状に即した必要事項を盛り込んでいくことが大切です。
業務を伝えて実行させる
育成マニュアルの整備が完了したら、教育担当者から新入社員に業務内容と具体的な進め方を伝え、実施してもらいます。業務の内容や性質によっては、先に業務マニュアルを読んでもらう時間を設けて、予習してもらうのもよいでしょう。
ただし、自主性を育むためにも、「頻繁に進捗状況を報告させる」「業務の細かな部分にまで指示を出す」といったようにあまり細かすぎるマネジメントを 行うのは禁物です。必要に応じてサポートを行うことは重要ですが、対象者の考えを尊重しながら、ときには失敗も思い切って経験させるようにしましょう。
柔軟に指導内容を変える
業務の達成度合いをチェックしながら、対象者の適性や習得レベルに応じて、指導内容を柔軟に調整していきます。例えば、当初の予定よりも進みが早いメンバーに対しては、無理に周囲と足並みをそろえさせるのではなく、先のステップへ進んでもらうことも大切です。
また、不安な箇所があるメンバーについては、本人の意向も確かめながら、時間をとって重点的にフォローしましょう。
フィードバックを行う
OJTを実施するうえでは、担当者によるフィードバックをセットで行う必要があります。ただし、いきなり担当者側が所感を伝えようとすると、対象者から自分で考える機会を奪ってしまう可能性もあるので注意が必要です。
まずは、当初の目標に対して、どのような成果を得られたか、または得られなかったかを新入社員自身に振り返ってもらいましょう。そのうえで、一緒に取り組みの振り返りを行うことで、質の高いフィードバックを実施しやすくなります。
次への課題を一緒に見つける
業務に触れるなかで得られた成果を洗い出し、どのような取り組みがうまくいっているのかを対象者と一緒に分析していくことが大切です。小さな成功体験を着実に積ませ、成長の手ごたえを実感してもらうこともOJTの重要な目的だといえます。
そのうえで、さらなる成長を促すためには、どのような課題があるのかを対象者自身に考えてもらうことが大切です。そして、考えがまとまったタイミングで、担当者へ報告してもらいましょう。
その内容を改めて振り返りながら、一緒に次への課題を見つけることができれば、OJTの一つのサイクルは完了となります。獲得したスキルと発見した課題をもとに、次に着手すべき目標を固めていきましょう。
教育担当者に求められるスキル
新人教育を成功させるためには、担当者の選定にもきちんと力を入れる必要があります。実務能力と教育の能力は異なる領域にあるため、教育担当としての資質を細かく見極めなければなりません。
ここでは、新人の教育担当者に求められるスキルとして、代表的なものをピックアップしてご紹介します。
教育担当者に求められる4つのスキル
・コーチングスキル
・ティーチングスキル
・フィードバックスキル
・メンタリングスキル
コーチングスキル
「コーチングスキル」とは、対象者の自律性と向上心を引き出すための特別なコミュニケーション技術のことです。より具体的な能力として分解すれば、相手の気持ちや考えを深く理解するための「傾聴力」や細かな変化や成長を感じとれる「洞察力」、誤解なく意図を伝えるための「表現力」、思考を活性化させるための「質問技術」などが挙げられます。
例えば、傾聴力や洞察力があれば、対象者の内面にまでしっかりと目を向けて、その場に応じた的確なアドバイスができるようになります。また、優れた質問技術があれば、回答範囲を制限しない「オープンクエスチョン(※1)」と回答範囲が固まっている「クローズドクエスチョン(※2)」を使い分け、対象者の発想を柔軟に引き出すことが可能です。
※1 オープンクエスチョン・・・「〇〇について、どう思いますか?」「今後どのような予定を考えていますか?」など、相手が答える範囲を制限しない質問方法のこと。
※2 クローズドクエスチョン・・・「はい、いいえ」の二者択一などで相手が答えられるように、回答する範囲を限定した質問方法のこと。
これらのコーチングスキルについては、後天的に訓練できるものである ため、教育担当者の研修項目に加えておくのも一つの方法です。コーチングスキルを身につけるためには、外部のコーチングのプロを招いて、教育担当者が実際にコーチングを受けてみることで、どのような流れで進めていけばよいかをイメージしやすくなるでしょう。
また、知識を増やすだけではスキルが向上しないこともあるので、社員同士でロールプレイングを行ってみると実力を高めやすくなります。
ティーチングスキル
「ティーチングスキル」とは、具体的な経験や知識をわかりやすく伝え、スムーズに理解させる能力のことです。ティーチングを行うには「わかりやすく伝える力」に加えて、客観的な説得力を持たせるための「論理的な思考力」や、新入社員から信頼を得る「関係構築のスキル」が必要となります。
関係構築のスキルには、話し方や声色、表情、キャラクターといった複雑な要素が影響を与えるため、本人の資質を丁寧に見極めることが大切です。ティーチングスキルを身につけるには、コミュニケーションやロジカルシンキングに関するセミナーなどを受講したり、日頃から業務を指導する立場についてもらったりすることで向上します。
フィードバックスキル
これまで見てきたように、新人教育では次のステップや改善点を伝えるための良質なフィードバックが欠かせません。質の高いフィードバックを行うには、失敗を責めない「受容力」や過度なプレッシャーを与えない「人当たりのよさ」、冷静に結果を捉えられる「分析力」、自信を持たせるための「褒める力」などが求められます。
具体的には、「誰にでも失敗やミスはある」という姿勢で部下に接したり、1on1ミーティングなどを通じて「〇〇という課題が前回残ったので、今回はこの課題を設定した」というように目標設定の根拠をきちんと示したりすることが挙げられます。
フィードバックスキルを身につけてもらうためには、教育担当者に基本的な目的やルールを徹底するとともに、実際にロールプレイングしながら試行錯誤してもらうのも有効です。
メンタリングスキル
「メンタリングスキル」とは、対象者の精神的なサポートを行うための能力のことです。具体的には「コミュニケーション能力」や「面倒見のよさ」、変化を見逃さない「観察力」などが挙げられます。
入社間もないタイミングは、さまざまな環境の変化に見舞われるため、どうしても心理的な負担が集中しやすい時期です。メンタリングスキルの高いメンバーが教育担当者に就けば、新入社員は安心して自身の役割に向き合えるようになり、育成をスムーズに進めることができます。
メンタリングスキルを身につけるためには、メンタルヘルスケアに関するセミナーを受講したり、産業医などの専門家に相談したりすることでスキルを向上させられます。
新人教育の成功事例を紹介
新人教育を成功に導くためには、すでに実践している企業の事例を参考にしてみるのも一つの方法だといえます。ここでは、3社の事例について各企業の取り組みをご紹介します。
国際自動車|ウォーキング研修
大手タクシー会社である国際自動車株式会社では、「タクシードライバーとして都内の地理や名所を理解・把握すること」「同期との絆を深め、達成感を得ること」などを目的として新人教育の一環で、ウォーキング研修を実施しています。
ウォーキング研修は、グループに分かれて35キロメートルを決められたコースで歩いたり、東京の名所などのチェックポイントを約12時間かけて巡ったりするといった内容で構成されています。研修を通じて徒歩で都内をじっくりと巡ることで、業務で必要な知識と仲間意識を強めることに役立っているといえるでしょう。
(参考:国際自動車株式会社『新入社員研修kmウォーキング「みんな仲間だ」2016を開催しました 』)
第一生命|学生から社会人への意識転換
大手生命保険会社である第一生命保険株式会社では、「学生から社会人への意識転換」を目的として新人研修を実施しています。社会人としてのマナーや主体的な行動を身に付けてもらうことを狙いとしています。
具体的には、同社が考える2つのマインドセット(「失敗を恐れず、自発・自律的に行動して実践経験を積みながら自分を高める」「自分とは異なる価値観を持った相手を受容し、変化に対して前向きに対応する」)を軸とした新人研修を行っているのが特徴的です。講師が一方的に研修を行うのではなく、新入社員に学習目標の設定や振り返りを行ってもらうことで、研修効果を高めています。
(参考:第一生命株式会社『人財育成 』)
LDcube|集合研修をDX化
組織開発や人材開発を手がける株式会社LDcubeでは、「集合研修のDX化」という取り組みを行っています。新入社員同士のコミュニケーションを促進させることを目的としており、AIを活用したデジタルプラットフォームを導入することで、インプットとアウトプットをうまく組み合わせた研修を実施しているのが特徴です。
自己紹介の動画を新入社員に作成してもらい、同期や上司が閲覧してコメントをもらうといった取り組みを実施しており、Z世代ならではの心理を理解して、モチベーションのアップに努めています。
(参考:株式会社LDcube『新入社員研修についていけない状況への対処法とは?Z世代に合わせた学習方法を解説! 』)
新人教育における注意点
新人教育を行うときは、次の3つの点に注意が必要です。
新人教育における3つの注意点
・一方的な指導を避ける
・初めから大きな成果を期待しない
・教育担当者を孤立させない
それぞれの注意点について解説します。
一方的な指導を避ける
新人教育は教育担当者の指導や事前に策定したプログラムに沿って行いますが、一方的な指導は避けるようにしましょう。なぜなら、一方的に教えるだけでは新入社員の自発的な行動や発言を引き出しづらく、自ら成長していく機会を失わせてしまうからです。
基本的な知識を教えたり、体験をしてもらったりした後は、新入社員の意見や感想などを述べてもらう機会をつくるようにしましょう。他の新入社員の意見などにも触れることで、異なる価値観や考えを知ることになり、学びの効果をさらに高められるはずです。
また、研修で実施するプログラムについても、新入社員の意見も取り入れながら行ってみましょう。「自分たちで考えて決める」といったプロセスを新人研修などでも盛り込むことが大切です。
初めから大きな成果を期待しない
企業としては新入社員に早く成長してもらいたいという気持ちが強くあるものですが、初めから大きな成果を期待しないことも重要です。指導を熱心に行うあまり、最初から本人の実力以上の現実離れした目標を掲げてしまうと、モチベーションの低下につながる可能性があります。
最悪の場合は、早期離職の原因にもなる恐れがあるので注意が必要です。個々の新入社員のレベルや適性に応じて、無理のない目標を設定するように心掛けましょう。
小さな成功体験を積ませることで自信をつけてもらい、より大きな目標に挑戦してもらうといったアプローチを行っていくことが大切です。
教育担当者を孤立させない
指導が必要な新入社員の人数が多いほど、教育担当者の負担も増加するため、教育担当者を孤立させない取り組みも必要です。教育担当者のモチベーションが低下してしまえば、新人教育そのものの質も低下する恐れがあるので注意しましょう。
新人教育にあたってもらっている期間は、普段の業務を減らしたり、いつでも相談できるように相談窓口を設置したりしてサポートしてあげることが重要です。また、新入社員への指導方法などで悩んでしまわないように、教育担当者向けの研修なども定期的に実施してみましょう。
まとめ
企業が持続的に成長していくためには、新人教育の質を高めていくことが重要です。自社としてどのような人材を育成していきたいかの方針を明確にして、中長期的な視点に立って人材育成に取り組んでいきましょう。
新入社員の早期離職を防ぎ、安心して働き続けられる職場環境や教育を受ける機会を提供していけば、組織全体の活性化や生産性の向上にも結びつくはずです。個々の新入社員の適性や能力をよく見極めながら、自立した行動がとれる従業員を育てていくことが大切です。
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(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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