現場から採用したい人物像を聞き、そのまま求人票や選考基準に落とし込む。しかし、いざ採用を始めると応募が集まらず、面接をしても「求めていた人材と違う」と言われてしまう。
こうした事態を避けるには、人事自身が市場データに基づく「見立て」を持ち、現場と採用要件をすり合わせることが欠かせません。
人事を「採用プロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)」と位置づけ、現場との協働を続ける株式会社エイチームホールディングス。営業職の採用ではこの協働体制のもと、わずか3カ月で即戦力となる人材4名の入社承諾を実現しました。
その背景には、人事と現場で採用要件をすり合わせ、明確な役割分担によって採用活動を進める協働体制があるといいます。採用要件の具体化や現場と協働する際の工夫、選考中の軌道修正まで、同社の採用力の秘訣を聞きました。
厳選採用でさらに重要性を増した「現場との協働」
──まずは、現在の採用体制について教えてください。貴社が2020年に受けたインタビューでは、社員数が1,000名を超える中(当時)、人事と現場が一体となった
「ONE TEAM」で採用に取り組んでいることが紹介されていました。
山森氏:現在は採用担当2名とアシスタント1名で、エイチームグループ全体の中途採用活動を担っています。
独自の人事機能を持つ一部のグループ会社を除けば、採用体制そのものは以前から大きく変わっていません。グループ会社は当時の7社から12社へ増えましたが、年間採用数は約60名から、ここ2~3年は20~30名ほどへ落ち着いています。
──厳選採用にシフトしたのですね。
山森氏:はい。背景は大きく二つあります。
一つは、コロナ禍を機に組織体制や人員配置を見直したことです。まずは社内の人材を適切に配置し、それでも不足するポジションや、今後の事業に必要な人材に絞って採用する方針へ変わりました。
もう一つの背景は、AIの台頭です。仕事内容や人のはたらき方が変わっていく中で、「本当にこのポジションで人を採用する必要があるのか」と議論する機会が以前より増えましたね。
──採用人数を絞ったことで、人事と現場の関係に変化はありましたか?
山森氏:当社の採用活動では「人事と現場がONE TEAMで動く」という考え方を大切にしており、現在も変わっていません。むしろ、一人ひとりを厳選して採用するようになったからこそ、現場協働の重要性は高まっています。
この採用体制が作られたきっかけは、エンジニアをめぐる採用競争が激化し、人事だけで転職希望者の入社意向を高めることに限界を感じたことでした。そこで、仕事の専門的な魅力や一緒にはたらくイメージを現場から直接伝えてもらうようにしたのです。
エイチームにはもともと、現場社員が積極的に採用活動に協力してくれる文化もありました。採用市場の状況や人事の課題を理解した現場からは「自分たちも力になりたい」という声が上がり、エンジニア採用で始まった協働体制は、他の職種にも広がっています。
「キックオフミーティング」で人事と現場の目線を合わせ、採用活動開始
──ただ、現場の関与が深まっていくと、採用要件を巡って人事との認識がずれることもあるのでは?
山森氏:そうですね。現在でもそうしたズレを感じることがあります。特に多いのは、現場の即戦力志向が高まり、求める要件が高くなりすぎてしまうケースです。
今は採用人数を絞り、一人の入社によって事業や組織にどれだけ良い影響が生まれるかを重視しています。そのため、現場が自分たち以上の経験やスキルを持つ人材を求めるのは、ある意味で自然なことだと思います。
当社は従来、人柄を重視した採用を行ってきましたが、近年はスキルの比重も高まっています。スキルと人柄の両方に高い水準を求めれば、採用難易度は当然上がります。
──そうしたケースでは、どのようにして現場とコミュニケーションを取っているのですか?
山森氏:「その人材は採用市場にほとんどいません」と人事が感覚的に伝えるだけでは、現場は納得できませんよね。大切なのは、数字やデータを示すことだと思います。
当社では、求人をオープンする際、ポジションごとに人事と現場による「キックオフミーティング」を実施しています。私たちが特に重視しているのは、ミーティングそのものよりも人事側の事前準備です。
現場から「こんな人が欲しい」という大まかな要望を受けたら、複数のエージェントから市況を聞き、スカウト媒体のデータベースでも該当する人材の人数や動向を調べます。少なくとも2~3社の情報とデータベース上の数字を照らし合わせ、求める人物像や必要な母集団、採用手法、決定までのKPIについて仮説を立てているんです。
その上でキックオフミーティングに臨み、採用背景や入社後に期待する役割、入社希望時期など、現場にとって動かせない条件を確認します。もし入社時期を優先するなら、「即戦力だけでは間に合わない可能性が高いため、ポテンシャル層まで広げましょう」と提案することもあります。
──採用活動を始める段階で、現場と徹底的にすり合わせを行っているのですね。
山森氏:はい。現場から出された理想の要件をそのまま持ち帰るだけでは、採用につながらず、結果的に人事と現場の双方が困ることになります。
最初の準備には手間がかかりますが、人事が市場に基づく見立てを持ち、採用市場の実情に即した要件へ調整しておくことが、結果的には双方のためになると考えています。
こうしてスタート時点で人事と現場の目線を合わせておけば、選考中の軌道修正もしやすくなるんです。
要件のズレによって書類通過率が極端に低くなったり、一次面接で高く評価された転職希望者が最終面接で不合格になったりした場合は、原因を見極めます。
面接官による言葉の捉え方や評価基準の違いなら、すぐに現場へ確認して軌道修正。一方、要件と採用市場の状況が合っていないと思われる場合は、応募数や通過率などのKPIを一定期間観測し、「このままでは希望時期までに採用できない」という現実を共有しながら要件を見直すこともあります。
行動レベルまで言語化した「ペルソナ」を現場と共有
──現場とすり合わせる採用要件は、どの程度まで具体的に言語化しているのでしょうか?
山森氏:注力度や部署によって粒度に差はありますが、優先度の高いポジションでは、単なる採用要件ではなく「ペルソナ」まで作り込みます。
年齢や経験社数、在籍している業界、どのような業務を担い、仕事にどんなモチベーションを持っているのか。その人が書類選考や面接に現れたときに、「まさに話していたのはこういう人だ」と思えるところまで解像度を高めていますね。
一例として、直近で注力したグループ会社である株式会社エイチームライフデザインの営業職採用が挙げられます。すり合わせたペルソナで選考を進めていく中、採用枠が残り1人になったタイミングで、現場から「最後は組織の起爆剤になる人が欲しい」という追加の要望が出ていました。
しかし、「起爆剤」だけでは人によって捉え方が異なります。そこで、組織の中で誰にどのようにはたらきかけ、他のメンバーにどんな変化をもたらせる人なのか、具体的な行動レベルまでペルソナの解像度をさらに高めました。
こうして現場と一緒にペルソナを言語化しながら高速でPDCAを回した結果、3カ月で即戦力となる営業人材4名の合格・入社承諾につながりました。
──大きな成果を生んでいるのですね。選考では経験やスキルだけでなく、人物像や考え方などのフィット度合いを見極めることも重要だと思います。どのように対応していますか?
山森氏:当社では、エイチームで活躍する人材の共通の価値観を表した“Ateam People”を大切にしています。「お互いを認め合える」「『儲ける』を理解する」「『勝つ』にこだわる」「貢献欲を持っている」「自分をオープンにできる」「学び続ける」という6つの価値観です。
選考では、基本的に現場が書類選考や一次面接で経験・スキルを確認し、代表や事業責任者が最終面接で人物タイプや志向性を重点的に見極めています。
“Ateam People”が共通の価値観として社内に浸透していることに加え、採用基準でもあるため、一次面接の時点でも、価値観が大きくずれることは多くありません。
人事が「PM」として採用プロジェクトを動かし、現場を盛り上げる
──ここまでお話を伺い、人事と現場が深く協働しつつも、明確に役割分担していることが印象的でした。
山森氏:エイチームには以前から、「採用担当者はPM(プロジェクトマネージャー)である」という考え方があるんです。
採用成功に向けた全体戦略やプランを作り、KPIを管理しながらプロジェクトを推進するのが人事の役割。一方、現場には専門的なスキル・適性の「見極め」と、仕事や組織のリアルな魅力を伝える「意向醸成」を任せています。
一次面接も現場で行っており、担当した面接官には、面接後の評価を必ず採用管理システムへ記入してもらっています。この時点で内容が抽象的だったり、事前に合意した基準と異なっていたりすれば、PMである人事がSlackや直接の会話ですぐに確認します。
あいまいな評価ではエージェントに不合格理由を説明できず、次の推薦を改善するPDCAも回りません。現場には「何のために詳しいフィードバックが必要なのか」まで伝えるようにしていますね。
──こうした現場との協働によって、転職希望者の反応にも変化はありましたか?
山森氏:直近1年間で最終面接へ進んだ転職希望者を対象に、最終面接前にエージェントおよびご本人へヒアリングを実施したところ、約76%が当社を「第一志望」または「第一志望群」と評価してくださいました。
事前のすり合わせを踏まえ、現場と二人三脚で転職希望者に魅力を伝えてきたことが、この高い意向度に寄与していると感じています。
現場が転職希望者と本当に一緒にはたらくことを想像しながら選考すると、面接でかける言葉も変わるんですよね。入社承諾者を招くオフィスツアーに、一次面接を担当した社員が自発的に顔を出し、「先日面接を担当した○○です」と声をかけてくれることもあるんです。