分業、スカウト、個人の成長…『ワールドトリガー』に学ぶ成果を出すチームのつくり方

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)」を共著した、代表の山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

「エース」と「リーダー」は分業に!木虎藍の加入がチームにもたらしたもの
「個人の成長」に依存しない!三雲修がチームとしてできることを増やすために取った行動は 
チームを強くする成功と失敗のサイクル、事前準備の重要性も

月刊漫画雑誌『ジャンプSQ.(ジャンプスクエア)』で連載中の葦原大介先生のSFマンガ『ワールドトリガー』(以下ワートリ、集英社)。異次元からの侵略者に対し、個人とチームを内部の競争で徹底的に鍛えて立ち向かう様子が描かれます。彼ら・彼女らは、個人とチームの両方に用意されているランク戦を通じて、ほかの人の戦い方や戦略を知りながら、自分たちの強みを磨いていきます。学生中心の若い組織を短期間で鍛えるために考え抜かれた仕組みは、現実のビジネス組織が参考にできる部分が少なくありません。第1回では、ワートリの中に数多く登場するチームのつくり方を題材に、勝てるチームづくりを考えます。

【作品紹介】『ワールドトリガー』(葦原大介/集英社)

ある日突然、異次元への「門(ゲート)」が出現した都市・三門市を舞台に、ゲートからの侵略者と防衛組織・界境防衛機関「ボーダー」の戦いを描くSF漫画。組織全体で侵略者「近界民」に立ち向かう戦いに加え、組織内のチームの順位を競うランク戦、交渉術を駆使した組織内の派閥のパワーバランスを巡る争いが描かれている。

「エース」と「リーダー」は分業に!木虎藍の加入がチームにもたらしたもの

ワートリの主な舞台となるのは、三門市にある界境防衛機関「ボーダー」です。ボーダーに所属する隊員は、街を守るために異次元から侵入してきた敵と戦ったり、最新の技術などを導入するために異次元への「門(ゲート)」の先にある世界にも遠征したりします。そのため、隊員は個人のスキルを鍛えながら、チームとして侵略者と戦えるようになることが求められます。

作中で最前線の隊員として描かれるのは、主に10~20代の若者です。それぞれの隊員が戦う理由やチームの組み方、狙いもさまざま。その中で、彼らが「なぜ強いのか」「なぜ強くなったのか」を描写していきます。

ここではA級5位の嵐山隊についてご紹介しましょう。

ボーダー内の隊員は、S~B級の正隊員とC級の訓練生に分けられ、A級は精鋭ぞろい。その中で嵐山隊は通常の防衛任務のほかに、ボーダー全体の広報業務も担った上でA級5位に位置する「強いチーム」として描かれます。作中ではその嵐山隊がA級の中で上位に位置する理由の一つとして、チーム内の隊長とエースを分けたことが挙げられています。

ボーダーでは、新規隊員の加入や既存隊員の除隊などで不定期にチームメンバーが入れ替わります。嵐山隊結成の経緯はまだ作中で明確には描かれていませんが、結成当初は隊長の嵐山准が隊長とエースを兼務していたことが明らかになっています。ボーダー内で各隊の順位を決めるために行われるランク戦では、積極的に対戦相手を倒して点を取るエースと、状況に応じてチーム全体の戦略を考えてほかの隊員の指揮を執ることが求められる隊長を兼務したままでは、よほど隊員全員が飛び抜けた能力を持たない限り、厳しい戦いを勝ち抜くのは難しいもの。

伸び悩んでいた嵐山隊の飛躍のきっかけになったのが、エースとなる新しい隊員・木虎藍の加入です。結果的にエースと隊長が分かれ、それぞれの役割に専念できたことで嵐山隊がランク戦を勝ち進むきっかけになります。なお、中心となるキャラクターの一人、三雲修がつくった三雲隊はくしくもエースと隊長が分かれてそれぞれの役割に専念するタイプ。もちろんワートリに登場する隊には、同じ人がエースと隊長を務めてランキングを上げるチームも描かれますが、必ずしもそうしたチームだけではないことが明記されます。

現実のビジネス組織でも、現場の最前線で売り上げや利益に直結する実務を担うエースと、チーム全体の戦略を監督するマネージャーを分けるという考え方は有効です。むしろ大手企業では、昇進過程で、現場のエースが昇進してマネージャーになることが少なくありません。エースの立場のまま昇進し続けることが難しいためです。実務を担う人材と全体の戦略を考えるマネージャーに求められる能力が違うことを考えると、エースがマネージャーになったとしても成果を出し続けられる保証はなく、組織にとっても本人にとっても必ずしもプラスとは言えません。

ワートリでは、チームとしてのランキングとともに隊員個人のランキングも公表され、エースはエースのまま組織内の評価を上げることが可能です。メンバーが得意なことに専念し続けられるよう、現場のエースをエースのまま、組織内で適切に評価する仕組みをつくることが結果的に組織全体を強くすることになります。

「個人の成長」に依存しない!三雲修がチームとしてできることを増やすために取った行動は 

チームや組織が個人で形成されている以上、組織を強くするにはまず個人を成長させようと考えがちです。チームや組織が個人の力の掛け算・足し算である以上、個人の成長は不可欠。しかし、短期的に成果を出すときには「個人の成長」は不確かで、必要なときまでに力を付けることができないこともあります。チームづくりを考える上では、個人の成長に頼れないときに何をするべきか考えることが求められます。

ワートリでは、三雲修が結成する三雲隊の戦略に、この考えが表れています。強い隊員のおかげでランク戦を勝ち抜くものの、勝ち抜けば勝ち抜くほど対戦相手は強くなり、さらに研究もされ、敗北を経験します。負けた後にチームを強くするために何をするかを考え、隊長である三雲自身は個人的なトレーニングを重ねます。

しかし、三雲修は隊長に必要な指揮能力以外は、ほかのボーダーに所属する隊員に比べてそもそもの基礎能力が低く、短期間で急激な成長を遂げるのは難しいキャラクター。ランク戦の解説をしていたボーダーの先輩にも「勝つためには、自分の成長という不確かな要素ではなく具体性のある手立てを用意するべきだった」と指摘されます。この指摘を受け、三雲修はワートリに登場するキャラクターの中でもトップクラスの力を持つ人物を自分のチームにスカウトしにいきます。

現実のビジネス組織でも、成果を出すための組織の成長は短期と長期の両方の視点で考える必要があります。長期的な視点に立てば、思考と成功・失敗を繰り返すことで個人の成長を促すことは不可欠です。ただ、ワートリの作中で指摘されたように、個人の成長の進展にはメンバーの間で差があります。また、必ずしも計画的に進むわけではありません。

長期的な成長を視野に入れつつ、短期的に成果を求めるのであれば、個人の成長以外にも組織を前に進めるための要素が必要になります。それは、ワートリで三雲修が実践したように、組織の外部から力を持つ人材を採用することや、ほかの組織との提携などが当てはまるでしょう。

短期的でも外部の力を取り込むことは、共に働くことを通じてチームメンバーに知識や方法を蓄積させ、長期的には個人の成長にもつながります。外部の考えが入ることで、チームの抱えていた課題や限界を超えることも可能になります。組織は長期目標だけでなく存続のために短期的な目標の達成を迫られることがあります。そうしたときに、組織のメンバーに無理な負担をかけずに目標を達成するにはどうすればいいのか。ワートリはこうした疑問を考えるきっかけにもなります。

チームを強くする成功と失敗のサイクル、事前準備の重要性も

結成したチームを強くするには、考えた戦略などを実践の場で成功と失敗を繰り返しながら洗練させていくことが必要です。ワートリの中では、ボーダー内の個人・チームの間のランク戦として描かれます。

ボーダーの主な目的は街の防衛ですが、防衛に携わる隊員を鍛えるために、ボーダー内では定期的にチーム間のランク戦が開催されます。このランク戦の結果を通じて、A級・B級それぞれのチームの順位が決まります。ランク戦の目的は前述の順位を決めることですが、もっと重要なのはランク戦への参加を通じてほかのチームの戦略を知り、かつ自分たちのチームの戦略がほかに通用するのかを考えることとして描かれます。このため、各ランク戦は全て記録され、記録映像は若手のチームの研究材料になっています。

このランク戦で勝ち抜くためには、事前の準備や作戦会議が必要であることもきちんと描かれます。それぞれの対戦の前に、チームごとに集まり、対戦相手やその日の戦略を確認。相手の戦略を想定しつつ、そのとき自分たちの隊はどう動くのかを、時間をかけて検討していきます。かつ対戦が終わった後は、解説者から良かった点や改善ポイントも指摘されます。もちろん解説はボーダー隊員全員に共有され、ランク戦を通じてボーダー全体の戦力の底上げを進めていくのです。

もちろん漫画なので、数多いキャラクターの中には天賦の才に恵まれた人物も登場しますが、ワートリには、勝ち負けを繰り返す中で学び、力を付けていったキャラクターが多く登場します。彼ら・彼女らにとっては個人・チームそれぞれで参加できるランク戦はまたとない学習の機会となっています。

そもそもボーダーという組織全体が、過去に侵略者との戦いで多くの死者を出したことへの反省から、より多くの隊員を集め短期間で隊員を鍛えるにはどうすればいいのかを考えた結果作られています。そのため隊員の間だけでなく組織の上層部でも「近界民」に対する意見ははっきり分かれています。しかし作中で指摘されているように、過去の失敗を踏まえて組織を見直したからこそ、その後の戦いで成果を出せているのです。

現実の売上高がかかったビジネスシーンで、失敗を許容しながら挑戦できる場所を用意するのは難しいかもしれません。ただ、頭の中で考えた戦略や手法が実際に通用するのかを知るためには、実践の場を用意するのが早いことは事実です。組織のメンバーが可能な限り挑戦できる環境をつくることは、長期的に見て個人の能力を底上げし、チーム全体を強くすることにつながります。

【連載一覧】
広報・会議・資金調達…『ワールドトリガー』が重視する組織を強くする機能

文/bookish、企画・監修/山内康裕