日本就労者の本音◆外国人材の定着率向上に必要なマネジメントやコミュニケーション法

株式会社With World 代表取締役

一般社団法人日本国際化推進協会 事務局長
田村 一也【寄稿】

プロフィール

前回『外国人採用を成功させるため、押さえておきたいアプローチと選考・質問方法』では、国内外における外国人の採用方法と選考する際のポイントについて解説しました。今回は、実際に雇用した後、”定着”をテーマに、外国人の日本企業に対する意識調査と事例を踏まえながら、お伝えしたいと思います。

※本記事は、株式会社With World 代表取締役、一般社団法人日本国際化推進協会 事務局長の田村 一也氏に寄稿いただいたものです。

なぜ外国人は日本企業で働くのか

まず、なぜ外国人が働く場として日本企業を選ぶ理由は何か?これについては、以前の記事『【外国人採用】日本企業への就職を目指す外国人材の特徴-彼らが日本で働きたい理由とは』で触れましたが、多くが学習機会を期待して就職します(図1)。

最初の職場を選択することにあたって、重視した要素の回答率(図1)

最初の職場を選択することにあたって、重視した要素の回答率

(3択まで可能、在日外国人留学生n=199)

もちろん、それ以前に、日本での生活を求める方が多いのも事実です。そして、日本企業での就労を希望する外国人は、就職活動をする時点では、「永住」や「10年以上」の長期就業を希望している方が多いというデータがあります(株式会社パソナ『平成30年 留学生調査 ―外国籍留学生に関する就労意識調査』)。しかし、現実には必ずしも長く働き続けてくれないのでは、と、多くの企業で外国人の定着率に対する懸念があることが現状だと思います。実際、(一社)日本国際化推進協会で2018年に行った『日本で働く外国人材に関する調査』では、驚くべきデータが出ました。“過去日本で働いていた方で、現在帰国または第3国で働いている方”の実績ですが、日本を離れるまでに日本企業で働いていた期間(平均勤続年数)は、なんと“2年 ”でした。もちろん、この調査結果が、すべての外国人に当てはまるわけではありませんが、なぜ定着しないのかー? その理由について考えていきたいと思います。

外国人の日本企業に対する不満要因とは

ここに、勤続年数ごとの企業満足度調査の結果があります(図2)。この調査結果で特徴的なところは、勤続年数2~3年で満足度が下がる点です。この結果から考えられることは、就業開始1~2年目は、まだ慣れない仕事に対して学習要素が強い状況であるのに対して、2~3年目で仕事に慣れると、「早く仕事を任されたいと思うこと」、さらには「その成果に対して評価をしてほしいと思うこと」が、表れているのかもしれません。一方で、2~3年目を超えると、再び満足度が上昇しています。これは、退職せずに定着している外国人材が居心地の良さから、満足度が高まっているのではないかと思われます。この傾向は日本人にも通じるところがあるでしょう。

勤続年数ごとの企業満足度(図2)

>勤続年数ごとの企業満足度

(5段階評価、日本で働く外国人n=186)

外国人が感じている不満要素を取り除くことができれば、定着率は高まる可能性があります。

では、彼ら/彼女らが不満に思うこと、実際に退職する外国人の理由は何なのでしょうか。答えは「キャリアの発展性」です(図3)。もちろん、日本人の転職理由がそうであるように、実際には「給与」や「労働時間」など、複合的な理由によって退職を決断する方が多いでしょう。しかしながら、不満要素の最も大きいものが「キャリアの発展性」であることは、押さえておく必要があります。先ほどの勤続年数ごとの満足度にも表れていますが、一人前の社員として自立させた後に「どのような役割(仕事)を任せるのか」そして「どのように評価するのか」がポイントになるように思われます。

日本企業への評価(図3)

企業への評価

(5段階評価、日本で働く外国人n=186)

 

在日(国内)ではなく在外(海外)から採用する外国人には注意を

外国人社員の満足度について、別の視点で興味深いデータを共有したいと思います。図4は、日本企業への就職経路別の満足度を示すデータです。グラフの上から「在外企業から日本企業への転勤」「海外大学から日本企業就職」「在日留学生の日本企業就職」の3つケースで満足度が異なっていることが分かります。これは、おそらく日本文化への理解度やギャップを意味していると考えられます。つまり、在日留学生はアルバイト経験をしている外国人が多く、そこで日本の企業文化やビジネスコミュニケーションを学ぶ機会があります。一方で、既に海外の企業での就業経験がベースにある外国人は、日本企業にある当たり前とギャップを感じてしまうのではないかと考えられます。このような結果から、海外から外国人材を受け入れる際には、在日外国人留学生を採用するときより注意が必要と言えるでしょう。何を注意すべきかは、この後の定着率を高めるための事例にて触れたいと思います。

日本企業への評価(就職経路別)(図4)

日本企業への評価(就職経路別)

(5段階評価、日本で働く外国人n=187)

 

定着率を考える前に確認しておくべき“外国人採用”について

ここまで外国人材の日本企業で働くことに対する意識について触れてきましたが、ここからは具体的に定着させるためのポイントについて、お伝えしたいと思います。定着を考える際に重要なのは「採用」について考えること。日本人を採用することと、ほぼ変わらないことがポイントになると思います。具体的には「自社に合う人材(外国人)をいかに採用するか」です。例えば、「あなたの企業にとって“優秀”とは、どのような能力や素養を指しますか?」「自社で活躍されているか社員は、どのような人材ですか?」など、これら問いに明確に回答できることが重要だと思います。どんなに日本語力が高かったとしても、自社の想いへの共感や適性なくして、長期就業は叶わないでしょう。特に、キャリア志向が強く、向上心のある優秀な外国人に対して長期的に活躍してもらうことは難しくなります。そのような外国人は、より良い機会があれば、自身の能力を試せる環境にチャレンジしていく傾向が強いです。一方で、自社と想いがマッチしていれば、日本語力は内定後にフォローして高めていくという方針でもよいかもしれません。実際、内定から入社までに、外国人の場合はビザの申請手続きに時間が必要になるため、その間に日本語力をトレーニングさせる企業や人材会社もあります。

定着率を高めるための異文化コミュニケーション(外国人マネジメント)とは

定着率を高めるための異文化コミュニケーション(外国人マネジメント)とは
次にマネジメントやコミュニケーションについてです。「日本人(あなた)の当たり前は、必ずしも外国人(他人)にとっての当たり前ではないこと」を認識することが重要です。日本人は、ずっと日本で育った人であれば、ほぼ同一民族で、モノカルチャーの文化の中で過ごしてきました。日本は幸いなことに、学校教育もほとんど日本語で学べます。それゆえ、多くの日本人は日本語しか話せません。そのような中で、ハイコンテクストのコミュニケーションが生まれます。ハイコンテクストとは、“阿吽の呼吸”と言われるように、相手のことを想像して、細かい文脈の説明を略してコミュニケーションを取ることです。具体的な例を挙げれば「あとはヨロシク」というのも、典型的な例でしょう。この“ヨロシク”には、日本人やその企業文化における当たり前が存在します。
あとはヨロシク

しかし、外国人は違います。外国語として日本語を学んでいるので、必ずしも体験的に言葉を身につけているわけではありません。体験的に言葉を身につけるとは、文脈で言葉を学び、解釈して認識するという意味です。前述の例と同じように、会社特有の文化やルールを言語化し、説明ができるか否かが、異文化を持つ人材をマネジメントする際にとても重要です。意思決定の前提となる判断基準や文化が異なれば、違いを説明することが必要になります。それをせずに会社ルールやオペレーションなどを強制すると反発が起きる可能性が高まります。あるいは、それを理解してもらわないと意図しない行動をされてしまう可能性が高まります。その結果、日本人は異文化を持つ人材に対して、自分の当たり前基準で評価し、マイナスに捉えるのですが、異文化を持つ人材は、それが理解できないため納得しません。このサイクルが続くと、異文化を持つ人材は定着しにくくなるでしょう。初めは説明工数を初めとしたマネジメント負荷は大きくなるかもしれませんが、理解してもらえれば、日本人と同じ判断基準で自律的にアクションを取ってくれるようになると思います。

外国人材が働きやすくなるための仕組みづくり

会社風土や人事制度に関する事例を紹介したいと思います。私は”Oshigoto.com”の日本で働く外国籍社員のインタビューを行っているのですが、長く働く外国人に共通することは、口を揃えて「(同僚の人は)皆さん、良い人です」と言うところです。ここで言う“良い人”には「異文化を受容してくれる(寛容さや柔軟さ)」と「分からないことがあったときに聞きやすく、教えてくれる」の2つの意味があります。外国人を受け入れるとは、自分と異なる当たり前(文化・慣習)を持つ人材と一緒に協同作業をすることです。外国人に慣れないうちは、異文化に驚くことも多いかもしれませんが、自分と異なることを一つ一つ受け入れること、そして自身の当たり前を言語化させて伝えることが重要です。

人事制度について、「社内英語化が必要なのか否か」という点があると思います。私が様々な企業を見聞きして考える結論は、“すべてを英語化する必要はない”ということです。もちろん、社内が日本語と英語の両方で、すべての情報を管理でき、コミュニケーションができれば、英語が話せる人材が採用対象に加わるため、採用対象となる人材数はかなり多くなります。グローバルで事業を展開する企業であれば、情報共有のスピードも格段に上がるでしょう。しかし、そこまでする必要がある企業でなければ、英語化の作業は非常に高いコストになります。もしかしたら、英語化することで、英語が苦手な優秀な日本人社員が会社を離れる恐れさえ生じるかもしれません。ある企業では、雇用契約書等の資料の一部のみを英語化し、入社後の仕事は英語ができる人材と一緒に仕事をさせながら日本語力を高めていく方法を取っているケースもあります。日本語力を高めるために、先輩外国籍社員や外国語が分かる日本人が、就業時間後に日本語教室を開いてサポートしているケースもあります。

他にも、外国人の家族に配慮した取り組みをされている企業もあります。具体的には、社内で仕事をする様子を写真に納め、社内報のような形で母国にいる家族に共有している企業があります。外国人の中には、家族意識が高い方は少なくありません。人によっては、短時間で帰省し難いところに実家がある外国人もいます。そのような外国人向けに、長期休暇の機会を提供できればよいのですが、実際には簡単ではないと思います。そのような外国人をサポートするうえで、先ほどのコミュニケーションは効果的な取り組みなのではないかと思います。

【まとめ】外国人の受け入れとその先に

今回「外国人の定着」をテーマに、情報をまとめましたが、事例で取り上げた企業も試行錯誤をしながら仕組みを作っています。大切なことは、“小さく早く始める”ことだと思います。最初から上手くいくことは少ないでしょうし、早く失敗をしながら各社ならではの整備をすることが重要です。「特定の部署のみで採用する」でもよいですし、「まずは正社員ではなく、インターンシップで受け入れる」でもよいと思います。

2019年春から、新たなビザができ、「技術・人文知識・国際業務」もビザ発給条件が緩和されることが予想されます。そのような状況で、異文化を持つ人材の受け入れと活用に早く取り組み、失敗しながらも独自の組織を作ることができれば、今後の競争力は高まる確率が高いと思います。また、定着の問題は、今後、外国人だけではなく、日本人にとっても重要なテーマになると思います。事業環境の変化が早く、人材の流動性も高まることが予想されるためです。その際、アルムナイ制度の仕組みの導入や活用が重要になるでしょう。外国籍社員は、いつか母国に帰る可能性があるかもしれません。しかし、それをネガティブに捉えるのではなく、海外で自社理解の深いパートナーができると捉えれば、自社を離れることになっても海外事業を展開していくうえで貴重な人材であり続けるはずです。