広報・会議・資金調達…『ワールドトリガー』が重視する組織を強くする機能

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)」を共著した、代表の山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

外部との適切な関係を築く、ツールとしての情報発信
物事を進める会議、侮れない「根回し」
あらゆる活動を支える資金の力、軽視せず有能な人材配置を

月刊漫画雑誌『ジャンプSQ(ジャンプスクエア).』で連載中の葦原大介先生のSFマンガ『ワールドトリガー』(以下ワートリ、集英社)。異次元からの侵略者との防衛戦の中で、主人公らがチームをつくり、組織内で仲間と競い合う姿からは、現実のビジネスでのチームづくりに必要な考え方を学ぶことができます。第1回では、ワートリの中に数多く登場するチームを題材に、勝てるチームのつくり方を考えました。第2回では、主に会社組織で見逃されがちな広報や会議などの機能の重要性を考えます。

【作品紹介】『ワールドトリガー』(葦原大介/集英社)

ある日突然、異次元への「門(ゲート)」が出現した都市・三門市を舞台に、ゲートからの侵略者と防衛組織・界境防衛機関「ボーダー」の戦いを描くSF漫画。組織全体で侵略者「近界民」に立ち向かう戦いに加え、組織内のチームの順位を競うランク戦、交渉術を駆使した組織内の派閥のパワーバランスを巡る争いが描かれている。

外部との適切な関係を築く、ツールとしての情報発信

少年漫画に登場する組織としてワートリのボーダーがユニークなのは、登場初期から広報部を持っていることです。大人の広報部長に加え、第1回で触れたように広報業務を担うA級部隊の嵐山隊が存在します。作中では広報部が中心になって、メディアに対して大規模侵略の結果を説明する記者会見などを開くシーンが描かれます。

ボーダーは地域内外で子どもらを隊員として採用し、戦いの最前線に送り出します。高校や大学とも提携しており、一定程度地域社会に根付いていると言えますが、未知の部分が多い異世界からの侵略者との戦いを子どもに任せているということもあり、記者会見でメディアから厳しい追及を受けるなど「社会」から厳しい批判にさらされることもあります。侵略者との戦いには意図や武器など未知の部分が多く、説明しきれないという事情もあります。

こうした批判を和らげ、「侵略者から街を守る」などの目的を達成する道をつくるのが広報の役割です。ワートリの世界では、防衛の成果をデータで示し、メディア工作を交えながら、自らの行動を支えるために世論を味方に付けようとします。日々の生活を守る存在であっても、人間は未知の組織には警戒心を抱きやすい。ボーダーは広報活動を通じてこのハードルを下げようとしているようにも見えます。

こうした広報活動は、組織と組織の外をつなぐコミュニケーションの一つと言えます。現実のビジネス組織でもこうしたコミュニケーションが重要なのは言うまでもありません。組織やチームが提供する製品やサービスだけでなく、組織そのものを知ってもらうために、適切かつ戦略的な情報発信が求められます。組織やチームのブランドを高める情報発信は、最終的には事業活動をしやすい環境をつくることになります。

このとき何を発信するかは、「組織やチームを外からどう見られたいか」という戦略が左右します。ボーダーがメディアに対し、異世界からの侵略者による大規模侵攻の被害が過去に比べて減ったことを、データを使って提示したように、相手の理解度を踏まえた上で、何をどう見せるかが問われます。

もちろん、全ての情報を公開しなければいけないわけではありません。ワートリの中のボーダーも、今までのところ設立の過程やテクノロジーなど、全ての情報を公開しているわけではありません。企業であればビジネス上の戦略など、その時点では外部に公開したくない情報もあるでしょう。重要なのは、持続的な活動を可能にするためにどこまで情報をオープンにすべきかを内部で判断し、適切に発信していくことです。

物事を進める会議、侮れない「根回し」

組織の活動を円滑にするのは広報だけではありません。組織やチーム内で情報を共有し、物事を前に進める場としてワートリで重視されるのは会議です。

一般にビジネス組織では、会議は時間を取られるつまらない場所だと見なされます。かつて『踊る大捜査線』の映画内で「事件は“会議室”で起きてるんじゃない!“現場”で起きてるんだ!!」というセリフが有名になったように、組織を目的に向かって動かすときにはどうしても最前線の現場を重視しがちです。ただ組織やチームの中で情報を共有して意思を統一し、次の戦略のため布石を考えるには、打ち合わせは欠かせない要素です。

SF漫画であるワートリは、侵略者やボーダー内のほかのチームとのランク戦の描写と同じくらい、戦術や戦略を共有したり情報を共有したりするための会議や打ち合わせのシーンが丁寧に描かれます。上層部や各部の隊長が次の異世界からの侵略者の情報を共有したり、逆にボーダーが採るべき次の戦略を検討したりすることもあります。

ワートリで会議が肯定的に描かれるのはそれぞれの会議に目的があり、かつその目的に必要な人を適切に選んで開いている(たまに関係ないキャラクターの乱入もありますが)からです。作品を見る限り、上層部を含めて少人数で多くの課題を抱える組織を動かしているため、会議の時間も短めです。目的を絞り、ほかの活動の邪魔にならない会議が、組織のメンバーの参加を促し、運営に協力しようと思わせるものになります。

この会議の場では、自分が望む結論を引き出すため「交渉力=根回し」の力も侮れません。ワートリでは、三雲隊の隊長・三雲修が隊全体の力を底上げするため、異世界からの大規模侵攻の際、捕虜となった敵のキャラクターを隊員として勧誘することを決めます。もちろんボーダー上層部の反対は必至。そこで三雲は、同じ支部に所属し会議にも出席する人に、入隊を認めるかどうかを判断する会議においてあえて反対してもらい、その意見に対してロジカルに反論することで入隊を認めさせます。もちろん事前に反対意見を出してもらうのを仕込んだ上でのことです。

根回しというと、裏で動いているようなネガティブなイメージがどうしても付きまといます。しかし会議も一つの活動の場として捉えれば、根回しは自分の考えや物語に対し事前に「味方」をつくっておくこととも言えます。自分の描いたシナリオに沿って物語を進めるために、周りの協力を仰ぐことはビジネスでは定石。同じことを会議の場だけはやらないという手はありません。

あらゆる活動を支える資金の力、軽視せず有能な人材配置を

営業や企画、そして広報や研究開発――組織やチームのあらゆる活動を支えるのは資金の力です。十分な資金がなければ、組織の活動を前に進めることも、将来に向けた投資をすることも難しくなります。

街の防衛を主眼とするボーダーは、営利企業のように収益を生み出すことができるわけではありません。隊員に払われる給料や報奨金、研究開発の原資は、主として外部のスポンサーからの資金提供に頼っています。そのため、ボーダーの資金力には限界があることが描かれます。

異世界からの侵攻を受け、ボーダーは多くの若手隊員を敵にさらわれます。ボーダーの技術には、戦いの最中に自発的に戦場から離脱し、本部などの拠点に自動的に戻るシステムがありますが、入隊直後であるC級の隊員まで全員をカバーしているわけではありません。大規模侵攻後の記者会見で記者からこの点を指摘された際、研究開発の担当者は資金面の制約を理由として挙げました。

資金力を十分に蓄えるためには、限られた資金の中でできることを内部で模索すると同時に、外部から資金を集める力を最大限に高めることが必要です。ワートリでも組織内に有能とされる外務・営業担当者を置き、活動を支援するスポンサー企業との交渉を担います。広報や防衛線の戦略を考える人を別に置くことで、担当者を外部との交渉に専念させることが可能になっています。

資本主義社会の中で組織やチームを運営するのであれば、活動に必要な資金の確保は不可欠です。組織としてできることを増やすためには、適切な人材を責任者として置き、彼らの活動を後押しすることが求められます。このとき資金調達の担当者に必要なのは、組織内のネットワークからの情報収集に基づいた的確な組織やチームの状態の把握と、それを外部の利害関係者に伝える力。組織内のほかの役割を担う部署や人とは違い、冷徹な損得勘定も求められます。

かつての日本企業では、組織内のお金に関する役割は、経理処理や銀行との交渉が中心でした。外部からの資金調達は、銀行融資が中心だったためです。銀行員に向けた財務関連の書類をまとめ、かつ内部の資金の動きを細かく把握することが求められました。しかし、個人からのファンドレイジングや投資家など幅広い資金の調達先がある今は、前述の広報力と併せ、適切な情報発信を通じて組織やチームに最適な資金の集め方を模索し、それが担える人材を抱えることが成長を後押しします。

企業組織では、営業や企画といった物事を直接前に進める役割が注目され、それ以外の役割は軽視されがちです。しかしチームや組織としてうまく機能させるには、広報や会議、資金調達といった円滑な営業活動や企画立案を可能にする役割を無視することはできません。組織やチームを考えるとき、こうした要素もバランスよく強化することが必要になります。

【連載一覧】
分業、スカウト、個人の成長…『ワールドトリガー』に学ぶ成果を出すチームのつくり方

文/bookish、企画・監修/山内康裕