ホラクラシーとは?ティール組織との違い、導入のためのポイント

d’s JOURNAL編集部

ホラクラシーとは、明確な役職や上下の階級を設けず、誰もが意思決定できるフラットな組織体制を指します。ホラクラシー型の組織にはさまざまなメリットがあり、特に環境変化が激しい現代においては、「スピーディーな意思決定が行える」という強みに注目が集まっています。

一方で、導入にあたってはデメリットや注意点もあるため、自社に合っているかどうかは慎重に見極めることも重要です。

この記事ではホラクラシーの特徴やメリット、実際に導入している企業の事例などを見ていきましょう。

ホラクラシーとは

ホラクラシーとは、組織のあり方を示す概念の一つです。組織形態に関する考え方にはさまざまなものがあり、社会的な変化や企業に求められる役割などに応じて、新しい概念へと進化を続けています。

ここではまず、ホラクラシーの基本的な定義を確認したうえで、他の組織形態との違いなどにも触れながら理解を深めましょう。


ホラクラシーの定義

ホラクラシーとは、社内に役職や階級などがないフラットな組織形態のことを指します。大きな特徴は意思決定権が組織内で分散されるという点にあり、それにともなって責任の所在もそれぞれの部署やチーム、あるいは社員個人に分散されます。

具体的な動きとしては、役割によって紐づけられたグループ(サークル)が能動的に活動を行い、自主管理型で業務を進めていくという仕組みです。サークルは基本的に自由度が高い状態で行動するものの、完全に無秩序で動くというわけではありません。

ホラクラシー型の組織では、サークルに関する結成や変更、解散などのルールを定め、それをもとに活動を行います。また、サークルは原則として立場の違いがないフラットな組織として運営されるものの、便宜上は管理を行う進行管理役が設置されることが多い傾向です。

このように、組織運営に最低限必要とされるものを除き、可能な限りフラットかつシンプルな構造で動くのがホラクラシー型組織の特徴といえます。それぞれがより大きな裁量を持ち、自主的に仕事に取り組めるようになることが期待できるため、新たな組織の形として注目されています。

ヒエラルキー型組織との違い

ホラクラシー型組織の対義語として、「ヒエラルキー型組織」があります。ヒエラルキーとは階層のことであり、ヒエラルキー型組織には文字どおり管理職やリーダーといった階級・役職が存在するのが特徴です。

組織としてのまとまりが生まれやすく、意思決定の通達が単一方向で済む効率のよさから、日本の多くの企業では古くからヒエラルキー型組織が採用されてきました。しかし、意思決定やとりまとめ、マネジメント、人事評価などは管理職やリーダーが行うため、本来の業務以外にこれらの負担も組織内の誰かが抱えることとなり、過重労働の原因になる場合も少なくありません。

ティール組織との違い

ホラクラシーと類似した概念に「ティール組織」があります。ティール組織とは、2014年に組織学のスペシャリストである「フレデリック・ラルー」の著書『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』で紹介されたのが始まりであり、比較的に新しい概念といえます。

ティール組織は「生命体」とも表現される組織モデルであり、上司や社長のマイクロマネジメントなしにチームで意思決定をし、自走する組織の名称です。ホラクラシーと同じように、フラットな関係性と自主管理型の運営方式に特徴があります。

実際のところ、両者は異なる概念というわけではなく、ティール組織に含まれる組織形態の一つとしてホラクラシー組織が存在しているととらえるのが妥当です。

ホラクラシー組織が注目される理由

ホラクラシー組織が注目を集めているのは、従来のヒエラルキー型組織における弱点を改善する必要性が高まっているためです。ヒエラルキー型組織では、現場の従業員がリスクに気づいたり改善案をあげたりしたとしても、1人の上司で拾い上げることは現実的に難しいといえます。

さらに、社内には複数の階層が設けられているため、実際に意思決定を行う上位階層に意見が届くまでには、かなりの時間がかかってしまいます。この状態では、上司1人で複数の部下をマネジメントすることには限界があるといえるでしょう。

特に、環境が目まぐるしく変化する現代においては、ヒエラルキー型・ピラミッド型の組織では決断に時間がかかり、対応しきれない場面も増えていきます。その状態が長く続けば、やがては組織全体としての競争力が失われてしまいます。

そこで、サークルそれぞれが能動的に活動するホラクラシー組織の可能性が注目されるようになっていったのです。

ホラクラシー組織の4つのメリット


ホラクラシー組織には具体的にどのような強みがあるのでしょうか。ここでは、4つの長所について解説します。

個々の意見が反映されやすい

ホラクラシー組織では、個人の意見であっても、一定の賛同が得られればすぐに実行することが可能です。計画の実行について、上位役職の承諾を得るというプロセスが省略されるため、スピーディにアイデアを実現できるのが魅力といえるでしょう。

また、できるだけ立場の上下を設けず、フラットに意見交換し合えるという仕組みであるため、そもそも積極的な発言が生まれやすいのもメリットです。メンバーそれぞれの主体性や責任感が芽生えるため、会議が活性化しやすくなり、イノベーションを引き起こす土壌を耕せるのです。

変化に対応しやすい

ホラクラシー組織では、従来型組織のように意思決定を上位役職に任せることがないため、その場の判断で行動できるのが強みです。前述のように、現代のビジネス環境はグローバル化やDXへの対応などで大きな変化を迎えています。

長く企業を支えてきた技術が役に立たなくなってしまったり、自社の主力製品を脅かすようなイノベーションが起きたりする可能性も少なくはありません。そうした状況にあっては、組織の硬直化を避け、柔軟性やスピード感を維持させることが重要な課題となります。

ホラクラシー組織では、意思決定から実行までのスピードが速いため、状況変化を迎えても競争力を落とさずに対応できます。

それぞれの役割が明確になる

ホラクラシー組織における個人は、サークルのなかで明確な役割を持ったうえで行動することとなります。個々の社員は自分の果たすべき役割に集中できるため、従来型の組織と比較して1人あたりの生産性向上が期待できるのがメリットです。

また、自分の意見やアイデアが目に見える形で反映されるため、メンバーそれぞれがやりがいを持って動けるのも特徴です。自分の役割を果たすことで、目標を達成したりプロジェクトが成功したりしたときには、ヒエラルキー組織以上に大きな達成感を味わえるでしょう。

ストレスの軽減につながる

ヒエラルキー型組織のように上下関係の強い組織では、どうしても部下側は上司の機嫌を損なわないよう過剰に気を遣い、上司側は管理負担が増加してしまうといった精神的なストレスが発生します。また、物事を進めるうえでは、さまざまな立場の相手への影響を考慮しなければなりません。

そのため、従業員には立場を問わず、それぞれにストレスがかかってしまいやすいのが欠点といえます。それに対して、ホラクラシー組織ではサークルが自走しながら活動するため、役職間の摩擦が起こることはありません。

組織構造がシンプルである分、気を遣う範囲も小さくなるため、精神衛生上のトラブルを防止しやすいのもメリットといえます。

ホラクラシー組織のデメリット

ホラクラシー組織にはメリットとデメリットの両面があります。ここでは、主なデメリットを2つに分けて解説します。

理念が浸透するまでに時間がかかる

従来型のヒエラルキー組織からホラクラシー組織に移行する場合、初めのうちは組織内にさまざまな混乱や戸惑いが生まれるケースも十分に考えられます。たとえば、もともとマネジメントを行っていたメンバーからは、「自身の経験が無駄になってしまう」と反発されてしまうこともあるでしょう。

また、従業員それぞれに企業文化が定着するまでは、一時的に生産性が下がることもあります。しかし、ホラクラシー組織の本来の目的は「自走できるサークルの構築」にあるため、導入の段階から上意下達型で組織づくりを進めるわけにはいきません。

ホラクラシー組織のメリットを十分に活かすためには、従業員それぞれと丁寧に概念や目的を共有し、納得と共感を得る必要があるのです。したがって、実際に組織改革を行うためには時間とコストがかかることを理解しておかなければなりません。

役割が多くなるため負担が大きくなる恐れがある

それぞれの従業員に大きな裁量を与えるため、仕事の管理が煩雑になりやすいのもデメリットです。十分に従業員の能力が育成されていない場合は、業務の優先順位に迷ってしまったり、有効な意思決定が行えなかったりすることもあります。

そうなれば、結局のところは経験豊富な上司や先輩に意見を求めることとなり、ホラクラシー組織のよさが活かされなくなってしまうのです。また、それぞれの役割が複雑に横断するため、人事評価が難しくなる傾向もあります。

たとえば、給与については、役職が明確なヒエラルキー組織のほうがシステムを構築しやすいのが明らかです。ホラクラシー組織では社員が各自で役割を組み合わせてポートフォリオを作成し、それをもとに判断していくため、市場価値の比較対象を見つけることが困難になります。

ホラクラシー組織を導入するときの4つのポイント

ホラクラシー組織への移行は決して簡単なことではありません。特に、長くヒエラルキー組織で運営してきた企業であればあるほど、多くの困難が待ち受けていると考えるのが自然です。

ここでは、ホラクラシー組織を導入するうえで押さえておきたい注意点を見ていきましょう。


責任の所在を明確にする

役割分担を行う際には、メンバーに対してその責任までを明確に提示したうえで、意思決定を求めることが大切です。それには、各メンバーに全体的な視点を持ってもらう必要があります。

つまり、企業やチームとして目指すべき方向性をきちんと示したうえで、担当する役割の意味や影響を理解してもらわなければならないということです。また、責任だけでなく、それぞれの具体的な貢献内容や度合いも明確にする仕組みをつくるとよいでしょう。

それによって各メンバーに自覚が芽生え、仕事に対する意欲も自然と向上していきます。

チーム単位で制度を導入していく

始めから大々的に組織改革を行うと、現場にはさまざまな混乱を生んでしまうものです。ホラクラシー組織を導入する際は、いきなりすべての仕組みを変えようとするのではなく、数人のチームなどの単位からスタートしましょう。

たとえば、社内の一つの部門や部署をホラクラシー組織につくり替え、小さな範囲から成功事例を積み重ねていく方法がおすすめです。あるいは、新規プロジェクトを立ち上げる際に、スタートからホラクラシー組織で運営を始めるといった方法も効果的です。

セルフマネジメント能力のある従業員で構成する

ホラクラシー組織にはさまざまなメリットがあるものの、構造をつくり替えるだけで自動的に効果が出るというものではありません。自走するサークルによるスピード感や柔軟性を活かすためには、各メンバーに主体性や優れた判断能力が求められるのです。

セルフマネジメント能力のある従業員でなければ、ホラクラシー組織は十分に機能せず、かえって組織としての力が低下してしまう恐れもあります。そのため、まずは既存のメンバーの適性や特質をきちんと見極めたうえで、ホラクラシー型が適しているかどうかをしっかりと検討することが大切です。

情報をオープンにしていく

メンバーそれぞれが自主的に意思決定を行うためには、分け隔てなく情報が行き届く状態を築き、いつでも判断材料が入手できるようにしておく必要があります。「誰がどの業務を担当しているのか」「責任の所在はどこにあるのか」「各メンバーの功績」など、業務や役割の様子がわかるように情報をオープンにすることが大切です。

そのためには、社内SNSやチャットツールを積極的に活用し、いつでも誰でも必要な情報にアクセスできる仕組みを整えるとよいでしょう。また、ホラクラシー組織では、給与体系もオープンにされるのが一般的です。

基本的には、各業務について、市場での相場を考慮しながら給与を設定するといった方法がとられ、インセンティブや勤続年数による追加給は発生しないケースが多い傾向にあります。誰がどのような業務を行い、その業務にどれだけの対価が支払われるのかもすべての従業員が把握できることで、評価の透明性・公平性が保たれる仕組みとなっています。

このように、重要な情報をオープンにすることがホラクラシー組織の基本となるため、当然ながらセキュリティに関するリテラシー教育も欠かせません。

ホラクラシー組織が向いている企業の特徴

ホラクラシー組織にはメリットとデメリットの両面があるため、すべての企業や組織に向いているわけではありません。まずは、セルフマネジメントのできる従業員の集合体であることが、実現のための最低条件です。

明確な管理職を置かない状態で生産性を向上させるためには、メンバー1人ひとりが主体的かつ能動的に行動することが求められます。責任感があり、主体的に動ける風土が築かれている組織であれば、比較的導入の効果を得やすいといえます。

また、形の上だけで上下関係を撤廃したとしても、ホラクラシー組織の本来の目的は達成できません。そのため、もともと社内でのコミュニケーションが十分に図れており、風通しのよい組織づくりがある程度うまくいっている企業のほうが相性はよい傾向にあります。

壁のない建設的な意見交換ができる体制があり、従業員も自発性や主体性に優れているという企業であれば、ホラクラシー組織への移行が成果につながる確率は高い傾向です。

まとめ

ホラクラシー組織は、明確な上下関係を設けないフラットで簡潔な組織体制を指します。従来型のヒエラルキー組織と比較して、メンバー個人に意思決定の大きな裁量があるため、生き物のように柔軟でスピーディーな動きがとれるようになるのがメリットです。

一方で、従業員にはセルフマネジメント力が求められ、すでに風通しのよい組織づくりが行えているなど、よい効果を実現できる条件は限られている面もあります。また、今回ご紹介した事例からは、導入に成功している企業が、いずれも「組織をホラクラシーという型に当てはめるという考え方をしていない」ことがうかがえます。

どちらかといえば、フラットな組織づくりを目指すなかで、その企業に合ったホラクラシー組織へ行き着いたというイメージに近いのです。そのため、自社でホラクラシー組織を導入する際は、実情を分析したうえで、時間をかけて最適な形を見つけることが大切です。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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