NTTデータの中途採用者、2年で20名から200名に急拡大。採用戦略に必要な3つの要素とは

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ

社会保障事業部 課長(元人事本部 採用担当課長)
頓所 孝之 氏(とんしょ たかゆき)

プロフィール

ATMなどの金融機関システムから、年金や病院医療費といった大規模な社会基幹システムまで――。民問公共問わず、私たちのビジネスや暮らしを支えるインフラを構築しているNTTデータ。国内トップのシステムインテグレーターであり、グループでの売上高は2兆1636億円、従業員12万3884名、グループ企業は307社ある(いずれも2019年のデータ)。そんな巨大企業のNTTデータではあるが、これまでは学卒の新入社員の採用が主で、中途採用にはあまり注力してこなかったという。しかし時代のトレンドを踏まえ、数年前から中途採用にも注力。すると、わずか2年で中途採用数が以前の20名から200名までに激増。いったいどのような施策を考案し、具体的にどのようなスキームを構築したのか。同プロジェクトの責任者であった頓所孝之氏(以下、頓所氏)に登壇してもらい、過日のウェビナーについてまとめた。

イメージを払拭するためにオウンドメディアを設立

事業概要

「当社は2018年頃から中途採用に注力したのですが、当初は思ったように人材は集まりませんでした。また応募者の属性としても、我々が求める方を集めるのに苦戦していました。そこで入社頂いた方やエージェント様などにヒアリングを重ね、原因を探っていったんです。すると、NTTデータは“おカタい”企業とのイメージを持たれていることが、大きな課題として浮かび上がってきました」(頓所氏)

ハンコ文化などが残っていて、仕事のスピード感が乏しいのではないか。安定で手堅いプロジェクトばかりを手がけている、それもPMポジションが大半なので、最新のITスキルが身につかないのでは、といったマイナスなイメージだ。

たしかに、NTTデータが従来から手がけているシステムの多くは、社会インフラであり止まることが許されない。堅牢さと安全さを高い品質で実現しなければならないシステムが多く、世間の多くがイメージする“おカタく”映る仕事もあるのは事実だという。だが一方で、最新のAI技術を導入し開発されたRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)「WinActor」や、同じく最新テクノロジーのトレンドでのひとつである、自動運転に関する事業なども手がけている。そして今後は後者の領域、いわゆるDigitalな領域にも一層注力していくという。頓所氏は次のように語る。

「これからの新しいビジネスに関するトピックはニュースなどで取り上げられていましたし、弊社としても当然広報はしてきています。しかし世間の私たちに対する印象、特に多くの求職者の方から頂く印象は、先の“おカタい”が拭えない。つまり実際のNTTデータの姿が伝わっておらず、その結果、母数が集まらないことが見えてきました。そこで、自分たちでメディアを構築し発信していくことで、イメージを払拭しようと考えました」。

こうして構築されたのがUpToDataだ。新しいイメージを根付かせる事が目的のため、NTTデータの中でも尖った人材を、様々な現場から集めてインタビューを実施。記事に関しても人事でそれほど手を加えることはせず、できるだけ現在のリアルなNTTデータのメンバーの声を反映するようにした。さらに退職したメンバーと人事担当部長との対談を設け、外から見たNTTデータの印象や改善すべきポイントなどの声を率直に、フラットに記事化し、メディアに掲載していった。

正直、オウンドメディアの運用はリクルーティングではよく見られる施策である。そこで頓所氏はひと工夫加えた。ひとつめは、全従業員参加型のメディアにしたことだ。具体的には、人事部主導でインタビュー対応者を選定し、記事をアップするということは極力避けた。代わりに人材が欲しい各部署が自発的に行えるような仕掛けを組み込み、各部署に営業をかけることで、自律採用文化の醸成もあわせて狙っていった。ある部署で記事が上がると、関連する部署でも「負けまい」という思いが働き、また別の記事が上がるという仕組みである。

ただしインタビューや執筆に不慣れメンバーが多いであろうことを考慮し、同分野のノウハウを持つPERSOL(パーソル)グループにサポートしてもらった。その結果、取材対象者とのやり取りにおいても人事部を介さず、直接行っている。つまり人事部の役割は、あくまでプラットフォームを提供している、ということになる。

記事は次第に増えていった。だがオウンドメディアである。そのままでは一部の人しか見ないことは明白だった。そこで外部メディアであるWantedly、TECH PLAY、日経転職版などと連携し、記事を取り上げてもらった。また共同でコンテンツを作成するなど、メディアの読者を内輪からマスに広げる施策を行ったのだ。

UPtoDATA

採用データの”プール”をグループで共有

オウンドメディアを持ったことで、これまでの採用課題のひとつ、エージェントに頼っていた採用フローも解決していった。具体的にはオウンドメディアに「キャリア登録」の項目を設け、読者の中でNTTデータに興味を持った人に、キャリア登録してもらったのだ。そしてその中から欲しい人材がいた場合には、自分たちで直接アプローチするフローを構築した。

得られたデータはNTTデータに限らず、グループ全体で共有した。実際、メディアの開設から3カ月ほどで100名ほどの登録者が集まり、その中から数名が入社に至るなどの成果が出たのだ。キャリア登録のシステムにおいては、ミイダス(パーソルグループ提供のサービスのひとつ)と連携した。これによりミイダスのリクルーティングプラットフォームを活用している約37万人のキャリア情報を、NTTデータグループで共有する仕組みも構築されたのだ。

「NTTデータに応募してくる方たちの9割がエージェント経由でした。もしこのエージェントとの関係性にトラブルが発生した場合、採用は大きな打撃を受けます。そこで自分たちで採用プールを持つことが重要だと考えました。またホームページもそうですが、オウンドメディア経由の方が採用率も高いですし、フィーもかかりませんからね」と、当時を振り返る。

NTTDATAに興味を持った人を抱える仕掛

頓所氏は、エージェントに頼らない独自の採用プールをさらに増やしていった。具体的な内訳としては、アルムナイのプールがひとつ、もうひとつは新卒時に内定を辞退した学生など、第二新卒者のプールである。現在は、まだプールへの登録者を増やしている段階だが、いずれ登録者が増えた際には、マーケティングオートメーションツールを活用した施策を打つ計画だという。

「同ツールを活用すれば、プールの登録者に送る定期的な案内や、ピンポイントのスカウトメールなどの開封タイミング、閲覧時間、どの内容に興味を示したのか。これらの詳細情報が自動的に可視化されます。ゆくゆくは、その情報と募集ポストならびにタイミングをリンクさせることで、『もともとNTTデータに興味がある』など、”良く知っている人の集まり”である独自の採用プールにいる潜在求職者に対して、ベストタイミングなオファーを展開していくことを想定しています」(頓所氏)。

経験者の受け入れマニュアルで離職を防ぐ

2019年の中途入社数は約200名に急増

このような施策の結果、2019年の中途入社数は約200名に急増した。しかも2020年は300名の採用程度が実現される見込みである。一方で、先述したとおり、NTTデータはもともと学卒の新入社員を育てるプロパー文化が根づいていた。そのためキャリア人材を受け入れる側、現場で業務を共に行う事業部メンバー側の環境整備、という課題も浮かび上がってきた。新たに採用した中途入社者に対して、どのように接したり対応すればよいのか戸惑うので、その受け入れ態勢をどう作り上げるのかといったことだ。

そこで頓所氏は、中途採用メンバー数百名にアンケートを行ったり、実際に会ってインタビューを行うなどして、どのような対応をされると望ましいのか。受け入れが成功している部署ならびにメンバーの状況を詳しくヒアリングした。逆に、働きづらいと感じる環境はどのようなものかも、併せて聞いた。そして、これらの内容をもとに経験者の受け入れマニュアルを作成し、各部署に展開していったのである。

マニュアル作成について頓所氏は、以下のように説明を加える。

「マニュアルはノウハウの塊であるため詳しくはお伝えできませんが、例えば、どんなに優秀な人材であっても受け入れる側の対応により、パフォーマンスが発揮されないケースも出てしまうこと。ノウハウを欲する姿勢が強い学卒の新入社員とは異なり、中途採用者はすでにノウハウを持っているため、どちらかと言うと人間関係に関するというノウフウ(know-who)が重要であることなど、中途採用者が持つスキルや経験を存分に発揮できる環境の構築やその逆、阻害する要因などを盛り込んでいます」。

高いスキルや志があっても、環境がフィットしていないと次第にパフォーマンスが低下していき、半年ほどしても思ったような成果を発揮できないケースもあるという。そこで頓所氏は、中途採用者のメンタル的なパフォーマンスも含めた状況を把握するために、1カ月に一度の頻度で、仕事の満足度を測定するパルスサーベイも導入した。パフォーマンスの低下はもちろん、最悪のケース、退職を決意する前に状況を改善するのが狙いだ。

ここでも外部のツールを活用した。従業員コンディション発見ツール「Geppo(ゲッポウ)」である。質問はシンプルに3つ。ログインも不要で、そのときの従業員の調子が「晴」から「雨」までの5段階で分かりやすく測定できるというもの。例えば、ある従業員のコンディションを見ると、入社時は晴れだったのが次第に曇りになり、やがて雨に変わってしまうといった具合だ。このようなメンバーに対しては、面談を行うなどしてフォローする。ちなみに、このような対策に関しても先のマニュアルに明記しているそうだ。

そして、上記のような取り組みの末に構築・運用されているのが、現在の採用プラットフォームである。頓所氏は運用実施に至るまでの2年間を振り返り、次のようにセッションを締めた。

「プラットフォームは完成しましたが、本当の価値が出るのはコンテンツやキャリア情報などのデータが集まってからですから、コンセプトに沿ったこれからの運用が大事だと考えています。そして運用においては働きやすい環境を整備するなどのリテンション。社内の実情を正確に広く届けるブランディング。そして人事だけに頼るのではない全社的なリクルーティング。この3つをうまくまわすことが大切だと考え動いてきました。

『ALL RECRUITERs』と伝えましたが、人事だけが頑張る採用ではなく、社員全員に採用の文化を根付かせなければ、大きな変革を実現することは難しい(=他社との採用競争に勝てなくなる)ということです。これはまさに、今回のウェビナー資料の表紙(ウェビナー当日は絵画「民衆を導く自由の女神」を使用)にも使いましたフランス革命と同じと思っており、革命を起こすのは先頭に立てて率いる自由の女神(人事)個人ではなく、あくまで、その後ろにいる民衆(従業員)すべての力が必要です。このような考えで進めて行けると、人事における変革も実現できるのではないかと思っています」。

【取材後記】

わずか2年足らずで、中途採用数が以前の20名から200名までに拡大――。NTTデータという企業の実態が世間では伝わりきっておらず、そのイメージを払拭しようと考えたことがすべての始まりだった。その活動の軌跡を追うと、全従業員参加型のオウンドメディアの立ち上げ、採用データのプール、従業員コンディション発見ツールの導入など、ハードからソフトに至るまで”採用活動”を根底から見直していったことが伺える。そうした紆余曲折の末に構築したのが、同社独自の採用プラットフォームだったといえよう。中途採用でお悩みの方は、いずれかの施策にチャレンジしてみる価値はあるだろう。

取材・文/鈴政武尊・杉山忠義、編集/鈴政武尊