事業拡大に必要な人材確保。自社採用に力を入れるソフトバンクの採用戦略

ソフトバンク株式会社

人事総務統括人事本部 採用・人材開発統括部人材採用部 部長
兼 未来人材推進室 担当部長 兼 SBイノベンチャー株式会社 管理部部長
兼 MICEプラットフォーム株式会社 取締役 兼umamill株式会社 取締役
兼conect.plus株式会社 取締役
杉原 倫子

日本テレコム株式会社入社。2003年に人事部門へ異動。人事制度全般の企画・運用や人事システム構築の統括を経て、2016年から人材開発の責任者として人材開発領域の各種施策を担う。2019年4月より現職、ソフトバンクらしい攻めの採用の実現に向け、地方創生インターンなどユニークな施策をけん引する。

新領域への挑戦には、自社にはない専門性を持つ人材が不可欠
採用手法は、欲しいポジションごとに使い分ける
自社採用力が求められる、スカウト型採用、リファラル採用、採用イベントの特徴
キャリア採用で大切なのは、ミスマッチ防止とスピードアップ
自社採用力強化に向けたリクルーターのあり方とは?(質疑応答)

事業戦略を加速するため、自社にはないスキルや経験、今まで採用したことのない職種やポジションをよりスピーディーかつ的確に充足させるために、人事・採用担当者はどのようなことが求められるのでしょうか。

コアである通信から新領域まで幅広い事業展開を目指すソフトバンクは、まさに人材採用戦略の転換点にあると言います。そこで今回はキャリア採用の責任者として、攻めの採用を推進してきた杉原倫子氏がご登壇。Beyond Carrier(ビヨンドキャリア)を掲げ、さまざまな新領域へ挑戦しているソフトバンクのキャリア採用戦略についてお話しいただきました。

(本記事はdodaが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています)

新領域への挑戦には、自社にはない専門性を持つ人材が不可欠

新領域への挑戦には、自社にはない専門性を持つ人材が不可欠

ソフトバンクグループは1981年の創業以来一貫して、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、情報革命を通じた人類と社会への貢献を推進してきた企業グループです。日本だけでなく、世界規模で通信事業を展開してきました。「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指し、時代に必要とされる最先端のテクノロジーと優れたビジネスモデルを用いて、情報革命を推進しています。そのソフトバンクグループの国内主要会社である当社ソフトバンクは、コア事業である通信をベースに、近年ではロボットやAI・機械学習のサービスなど新領域にも事業を拡大中です。それに伴って、キャリア採用に力を入れています。

実は当社は数年前までキャリア採用をほとんど行っていませんでした。今では年間500人の採用を目標としていますが、社内の人材が持つ技術やスキル、経験だけでは新事業を推し進めることができません。複数の成長事業を具体化していく人材も不可欠です。そこで、それらを推進する、専門性の高いプロフェッショナル人材を採用する必要がありました。

とはいえ、売り手市場といわれ、企業間の採用競争は激化の一途をたどっている昨今。IT人材不足問題に見られるように、先端技術を扱う専門性の高い人材は企業からのニーズが高いにもかかわらず、人数そのものが不足している状況です。そのような中で、必要な人材をいかに確保していくか。試行錯誤を繰り返しながら、さまざまな施策を立ててきました。

採用手法は、欲しいポジションごとに使い分ける

採用手法は、欲しいポジションごとに使い分ける

一口に採用といっても、スカウト型採用やリファラル採用、エージェント利用などさまざまな手法があるわけですが、具体的なアプローチをする前に「欲しい人材は、どのようなカテゴリーにいる人なのか」を明確にし、「どこに時間とお金をかけるのか」を考えることが大切です。当社では常時約100ポジションを募集していますが、すべてのポジションに同じ採用手法を用いているわけではありません。ポジションによって、合う手法と合わない手法があるからです。

そこで合う手法を見極めるためにも、まず、各ポジションで求められている人材が「転職市場にいる人材(顕在層)」と「専門性が高く、転職市場にあまりいない人材/出現しない人材(潜在層)」のどこに当てはまるかを整理します。

当社のこれまでの経験から言うと、「転職市場にいる人材、且つ、複数人募集」の採用は、エージェント(人材紹介サービス)やRPO(Recruitment Process Outsourcingの略語。採用代行サービス)と相性が良い傾向があります。一方、「専門性が高く、転職市場にあまりいない/出現しない人材」に対しては、自社採用に力を入れている状況です。自社採用に力をいれていくためには、リクルーターの力価値を向上させることもそうですし、採用ブランディングにも注力しなければなりませんが、自社採用として実施している手法は、スカウト型採用、リファラル採用、そして採用イベントです。採用コストの面から見ても自社採用をもっと活性化させたいと考えています。

自社採用力が求められる、スカウト型採用、リファラル採用、採用イベントの特徴

自社採用力が求められる、スカウト型採用、リファラル採用、採用イベントの特徴

「専門性が高く、転職市場にあまりいない人材/出現しない人材」を求めるための手法について、簡単に説明していきましょう。

スカウト型採用

当社の場合ですが、応募から内定受諾まで進む割合が、エージェント利用よりも高いのが特徴です。そして、その後の定着率も90%以上です。なぜ内定承諾まで進む割合が高く、その後活躍しているのかー? それは、各ポジションが求める要件をしっかり把握しているリクルーターが直接スカウトしているからです。もちろん、ポジションを正しく理解し、自分の言葉で説明できるレベルにまでならないとスカウト型採用はうまくいきません。そのために、リクルーターは募集部門とのコミュニケーションを徹底しています。また、候補者には企業や仕事への理解を深めてもらうことが何よりも大事ですので、選考前のカジュアル面談も積極的に行っています。候補者と接点を多く持つ中で、正しい情報を伝えることができるので、ミスマッチが少なく入社後の定着率も高いのです。一方、スカウト型採用は時間がかかる割に、多くの人数を一度に採用できないという声もあるかもしれません。その声も正しいのですが、逆に「専門性が高く、転職市場にあまりいない人材/出現しない人材」を採用するには合っている方法だと考え、地道に活動を続けています。

リファラル採用

会社や部門のことを理解している社員からの紹介ということもあり、応募から内定受諾まで進む割合だけではなく、その後の定着率も95%と非常に高いです。ここでポイントになるのは、紹介してもらう社員に「良いことばかりを言わず、会社の実情を正しく伝えるように」とお願いすることです。社内の雰囲気や働く環境を下手によく見せようとせず、ありのままを伝えてもらうように働きかけています。しかし当社の場合、募集しているポジションが100ぐらいあるので、社員も一つひとつの仕事内容や人材要件を理解しているわけではありません。「この人にはどんなポジションを紹介できるのかな」と迷ってしまったり、その人に合った正しい情報を伝えられなかったりすることもあるでしょう。リファラル採用は、人事と現場部門が一体となって、自分たちと一緒に働く仲間を探そうというときに効果を発揮するという印象です。当社としてもリファラル採用はもっと活性化させていきたいと考え、様々なことを試行錯誤している最中です。

採用イベント

採用イベントはリクルーターが自ら企画・運営しており、部門の社員に登壇してもらっています。実際に活躍している社員の話やソフトバンクで取り組んでいるプロジェクト・技術紹介を通じて、企業や仕事に対する理解を深められるため、参加者の満足度は非常に高くなっています。しかしながら、直接的な採用に多くつながっているというわけではありません。弊社では、短期的な採用戦略ではなく、「専門性が高く、転職市場にあまりいない人材/出現しない人材」と中長期的に接点を持つためのタレントプールやブランディングの一環として活動しています。

このようにポジションに応じて複数の採用手法を組み合わせて用いています。企業によって募集しているポジション数や採用の複雑性などは異なると思いますので、実情に合わせた戦略をとっていただければと思います。自社採用として実施する施策のほかに、普段からWebサイトやSNSなど、自社コンテンツを充実させることで、会社や職場、仕事や働いている社員のことをもっと知ってもらえるよう、検証改善をしながら取り組んでいます。社員インタビューや平均年齢や男女比などデータでわかるコンテンツが人気ですね。

キャリア採用で大切なのは、ミスマッチ防止とスピードアップ

キャリア採用で大切なのは、ミスマッチ防止とスピードアップ

毎年500人のキャリア採用を目指す当社の採用体制は、リクルーターとコーディネーターから構成されています。リクルーターは募集部門とのコミュニケーション、スカウトや書類面接、候補者フォローといった採用のフロント業務を、コーディネーターは選考管理や面接日程調整、入社手続きなどの業務を担当しています。実は当社には、人事経験年数が長いリクルーターは多くありません。さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっており、現場を理解している人が多いです。採用のフロント業務だけでなく、マーケティングやブランディング、データ分析など、本人の志向に合わせた業務も任せています。お互いのノウハウを共有することはもちろん、ブラッシュアップするための勉強会を開催し、みんなで採用を盛り上げていこうとしています。

先ほども少し触れましたが、リクルーターが普段から心がけているのは、各部門との密なコミュニケーション。いかに各部門のキーマンを採用に巻き込んでいけるかがポイントです。このことは求める人材の要件を正確に把握するということ、そして選考スピードを上げるために大切だと考えています。取り巻く状況が常に変化する新規事業では、求める人材の要件も変化が多いもの。求人内容や募集ポジションが変わったなんてことはしょっちゅう。だからこそ、各部門と頻繁にコミュニケーションをとることで、募集部門が求めることを常にキャッチアップし、変化に臨機応変に対応していく必要があるのです。また、当社でもHRBP(HRビジネスパートナー)がおりますので、密に連携するように心掛けています。「リクルーターは入社まで」という考え方も多いですが、オンボーディングも重要だという考え方から、HRBPと連携し、入社後の活躍サポートまできちんと見届けることで、採用改善にもつなげています。

そして選考のスピード。応募から内定までの期間が短いほど、決定率は高くなるとされています。つまり候補者への案内が遅くなるほど、選考から離脱する人が増えるということ。面接官の日程調整が難航して選考スピードが遅くなることは、機会損失につながるのです。だからこそ、リクルーターは普段から各部門のキーマンに選考への協力をお願いしています。「事業を推し進めるために必要な人材の採用なんです」と。

求人票やスカウトメッセージの作成方法、面接の仕方などのスキルを磨くことはもちろん大切ですが、とにかく採用はスピードアップが鍵を握っています。その他、スピーディーな選考を実現するために「その日のうちに内定を出す1day選考会」を実施するなど優秀な候補者を逃がさないような取り組みをどんどんトライしています。また、業務効率化として選考ステータスの管理やオファーレター作成、入社手続きなどのコーディネーター業務にRPA(Robotic Process Automation)やクラウドを活用することで、生産性・効率性を上げることにも挑戦中です。

自社採用力強化に向けたリクルーターのあり方とは?(質疑応答)

Q:普段から各部門に足を運び、密なコミュニケーションをとるようにはしています。でも、なかなか協力してもらうのが難しいと感じています。どうすれば信頼を得られるでしょうか。

自社採用力強化に向けたリクルーターのあり方とは?(質疑応答)

杉原氏:数字を用いて説明すると説得力を持たせられます。採用は人事部門の中でも珍しく、数字で結果を表せる業務です。「このポジションの目標採用人数は何人で、現時点でこのぐらい集まっている。ボトルネックと考えられるのはこの部分」など、数字を根拠に進捗報告をしてはいかがでしょうか。数字でしっかり見せていくことで、信頼を得られやすくなると思います。

中途採用においてまず現場が求めるのは、「▲▲の経験者」「●●の実績3年以上」といったスキル・経験です。しかし、最近現場の社員と話していて思うのは、ポテンシャルや相性などが改めて重要視されているということ。当社は事業変化が激しいので、ポジションや役割を変更することも多々起こりえます。そこで「前向きに捉えられるか」「環境変化へ対応できるか」といった定性的な人物要件も重視するようになってきたように感じます。つまり、数字データも大切ですが、「面接でなぜNGにしたのですか?」といったことを部門で面接官になる人にヒアリングする、定性面のすり合わせをしっかり行うことも重要です。

Q:現場をかなり巻き込んでいるとお見受けしましたが、面接官のトレーニングはどのように行っているのでしょうか。

杉原氏:部門で面接官になる人(=役職者)を集めて愚直に研修を行っています。あとは細かいフォローですね。しかし、トレーニング以上に大事なのは、選考スピードを意識してもらうことです。「スピーディーに面接日程を調整しますよ」「選考結果はすぐにフィードバックしてくださいね」など、協力をお願いすることが大切です。事業を加速するために必要であることを、繰り返し伝えることを徹底するようにしていますね。

Q:リクルーター間で担当するポジションはどのように分けているのですか。

杉原氏:組織ごとに担当を決めています。スカウト型採用、リファラル採用、採用イベントと採用手法ごとに担当リクルーターがいるわけではありません。大事なのは「現場とのコミュニケーションを密にとって、現場を理解していること」。そのため、同じリクルーターがすべての施策に関わることで、そのポジションに合う採用手法を見つけるための感覚を磨いていけるからです。そして、求める要件に変更があったとしても、柔軟に対応できることもポイントです。

当社ではこのように、大小さまざま施策を地道に続けてきました。これら培った知見をもとに、現在は自社の採用だけでなく、グループ会社の採用支援をするなど、グループ全体の事業戦略に携わっています。まだまだ試行錯誤している途中ですが、人事の側面から企業成長に貢献できるように努めていきたいですね。

【まとめ】

これまで新卒採用について語ることは多かったものの、キャリア採用については、ほとんどその機会がなかったというソフトバンク。ここ数年間、試行錯誤を繰り返してきたノウハウを存分にお話ししていただきました。

最新テクノロジーを駆使した幅広い事業展開で、時代の先端を行くソフトバンクの採用戦略は、多くの企業にとって課題を解決するためのヒントになることでしょう。そして、人事・採用を担当する上で大切なのは、各部門担当者とスムーズな連携を図ること。また、密なコミュニケーションを取って、最適な人材の採用を進めること。経営戦略を実現する人材マネジメントとは、企業全体を巻き込んだ、人と人とのコミュニケーションを最重要視することで、初めてかなうと改めて実感しました。

(文/泉山 馨、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)