「ティール組織」に到達する方法とは?失敗から学び、終わりなき改革に挑む組織
ポイントモール「ハピタス」を運営する株式会社オズビジョン、トークンペイメント「Pollet」を運営するPollet株式会社からなるオズビジョングループ。ショッピングテイメント企業グループを掲げ、顧客も社員も双方が夢中になる事業の開発を目指す同グループの中核であるオズビジョンは、書籍『ティール組織』(フレデリック・ラルー 著)において日本企業で唯一、紹介されたことで注目されています。同社の組織開発を先導してきた取締役COOの松田光憲氏に、これまでの組織づくりの取り組みについて話を伺いました。
組織全体がまるで生き物のように自律する進化型組織
これまでに多くの企業が組織改革に取り組み、さまざまな組織論がその手法として検討されてきました。そんな中、今、注目されているのが「ティール組織」。これは2014年にフレデリック・ラルーがその著書「ティール組織(Reinventing Organizations)」で提唱した概念です。
ティール組織とは、マネジメント層による管理がなくても、個々の構成員が目的のために自律して動き、組織全体がまるで1つの生き物のように自走する進化型組織のこと。組織の発達理論であり、ティール組織に至るまでには4段階の進化を経るとされています。各段階の特徴をまとめると、以下のようになります。
レッド組織 | 個人が力で支配的にマネジメントする衝動型組織 |
アンバー組織 | 厳格な役割が決められた衝動型組織 |
オレンジ組織 | 階層があり成果によって昇進する達成型組織 |
グリーン組織 | 多様性を認め主体的に動ける多元型組織 |
ティール組織 | 生命体として全体を捉えることができる進化型組織 |
書籍『ティール組織』の中で紹介されたことで一躍脚光を浴びることになったオズビジョンですが、組織改革の取り組みは平たんな道のりではありませんでした。その組織改革の中心となっていたのが、取締役COOである松田光憲氏です。
手痛い失敗の経験を活かし、組織改革に挑戦
松田氏:そもそも弊社が組織改革に取り組んだきっかけは、代表取締役の鈴木が米国のシリコンバレーを訪れたことでした。それまでも数々の問題を乗り越えてきたのですが、さらにアグレッシブな組織にしようと考えたのです。それまで弊社は、家族主義的な雰囲気のある会社で、ティール組織の発達段階で言えば「グリーン」でした。しかし、鈴木があちらで見た企業の在り方に感銘を受けて、自社も夢に向かってガツガツと進んでいくような姿に変えていこうと考え、トップダウンでの改革を目指したそうです。
松田氏:私もそのために入社したんです。他に営業とマーケティングの責任者も新たに採用されました。それまで家族的だった会社に、いきなり外からやってきた人間が“会社のあるべき姿はこうだ”と言って、海外採用を増やしたり、より挑戦的な事業の企画をしたりと、あれこれと会社を変えようとした。結果として、経営と現場の意識にズレが生じていったんですね。
松田氏:そもそも、既存のメンバーは、これといって海外人材の必要性を感じていませんでした。そして、海外から採用した方も、募集の際には会社側がいろいろな理想を語っていたのに、実際の仕事は既存事業のオペレーションがメインであった点で不満を持つことになりました。その結果、離職率が急激に上昇。当時、50名弱ほどの規模でしたが、半年で13名が退職しました。
トップダウンの失敗を謝り、行動基準を全社員で再定義
松田氏:みんなの前で謝って、もう一度、クレド(行動基準)を社員全員で再定義したいと協力を仰ぎました。そして、2018年の7月にクレド委員会を立ち上げました。社歴の長い社員にも話を聞きながら、委員に手を上げてくれた社員と一緒に、それから半年ほど月に一度、丸々1日のロングミーティングを行いました。その内容をメンバーが現場で共有していくことで少しずつ組織が回復していきました。弊社では3カ月に一度、従業員エンゲージメントを測定するeNPS(Employee Net Promoter Scoreの略。従業員の職場に対する愛着・信頼の度合いを測る)のアンケートを実施しています。その結果を見ると、半年ほどでロイヤリティは向上し、退職もなくなっていきました。
松田氏:ティール組織になるためにはマネジメント層の発達が必要ですが、それが不足していました。マネジメント層がエゴを捨て、より多くの視点で捉えることが成功のカギだと思います。
自分らしさを発揮できる、業務委託という働き方
松田氏:入社半年で業務委託に移行しました。
松田氏:会社と、もっとフェアな関係にしたいと思ったんです。雇用者と被雇用者というタテの関係でなく、よりフラットな関係がいいな、と。業務委託のメリットはやはり会社と対等な関係でいられることです。残業も休日出勤も関係なく、いつ働くかは自由です。プロ野球やサッカーの選手が、自分のペースで練習して結果を出すのと同じです。
松田氏:より自分らしさを発揮しやすくなるということだと思います。理想の組織というのは個人の個性、資質から生まれる能力を最大限に発揮できるものだと考えます。強みを引き出して、弱みには目をつぶる。自分の得意な能力を発揮できたら楽しいですよね。だから働くことは苦痛なことではない。嫌なことを我慢してお金をもらうという意識で働かずに済みます。
松田氏:自己実現というと、ゼロからつくり上げていくようなイメージになりますが、そうではなく、大人になるに従って失ったものを取り戻すという感じでしょうか。子どもの頃は誰しも、面倒なことを考えずに自分のやりたいことを次々にやっている。でも、社会に適応していく中で、できることは増えるが、やりたいことをしなくなる。自分を隠していく。自分のほんとうの強みを取り戻していく過程が、自己実現なのだと思います。
だから、仕事というのは決してつらい嫌なものではない。でも楽しいだけでもない。楽しいけど楽じゃないのが仕事なんだと思います。業務委託で自由な時間に働けるのはいいことではありますが、反面、セルフマネジメント能力を求められます。仕事は自己の鍛錬の場とも言えます。
松田氏:おっしゃるような部分に配慮し、それまでの給与に上乗せした契約になっていました。デメリットはあまり感じなかったのですが、たとえば確定申告を自分で処理しなければいけなくなって大変というようなことはあります。それから、いちばん困ったのは正社員でないと住宅ローンが組みにくいことですね。ちょうど住宅購入を考えていた時期なので、これは本当に困りました。このあたりについては働き方が変わるにつれて社会が変わっていくことを期待します。
事業にコミットする長期契約か、プロジェクト単位の短期契約か
松田氏:それはあるでしょうね。そもそも業務委託という働き方が正しいとか、偉いとかではなく、その人に合うかどうかなのだと思います。また、業務委託でも長期契約と短期契約では違います。長期契約の場合は、正社員に近い感覚になるかもしれません。事業や組織成長に中長期的に関わっていきたいという人には長期契約が向いているでしょうし、新しいことをガンガンやってプロジェクトベースの成果を出していきたい人なら短期契約が向いているでしょう。
松田氏:私自身は、欲張りかもしれませんが両方なんです。オズビジョンに軸足を置きつつ、それとは別のプロジェクトに短期的に関わっていくのが理想です。もちろん、1つの企業とフルコミットで関わりたいという人もいるでしょうし、何が正しいということではないと思います。大切なのは自分の個性、資質を知ることでしょうね。
松田氏:そうかもしれません。私自身は人間を知るためにいろいろな見方をする努力をしています。たとえば性格診断や、パーソナリティ理論、脳科学、アーユルヴェーダ(心身のバランス・調和を重視する、インド発祥の伝統的医療)など、何か1つの視点だけで捉えるのではなく、複眼的に捉える必要があると思っています。
日本企業はティール組織になっていく
松田氏:日本企業はティール組織になっていくだろうと思います。ティール組織という考え方は、組織の発達段階の話なので、社会の発達段階が進むに連れて、企業もティール組織になっていくのはないかと考えています。
松田氏:弊社がティール組織になっているかというと、まだまだ至らない点があり、取り組みを続けていかなければならないと思っています。たとえば事業推進部などにおいてもリーダーがマネジメントするのはなく、目標設定もみんなで話し合って決める。個々のメンバーの自律を進め、セルフマネジメントを重視する。ティール組織というのは自走する組織です。
そのためにはトップやリーダーが管理を手放す必要があります。管理権限を握っておきたいのは不安があるからです。メンバーに対して信頼感があり、自分自身にも自信があれば管理する必要も感じないはずです。何を目指すかというゴールだけは明確にして、どうやって目指すかは自由という体制が理想でしょう。そのためには、トップやリーダーの在り方が問われます。メンバーの方も、それなりのスキルと個性が求められます。自らを一定の段階にまで高めなければいけません。信頼に足るメンバーであるための努力は必要です。
組織改革には正解も終わりもなく、常に続けていくもの
松田氏:私自身の失敗から言えることは、自信は持っても過信はしてはいけない、ということでしょうか。自負や自信と謙虚を両立させる。矛盾したことを両立するからこそ成し遂げられることがあると思います。これは組織改革に限らないと思いますが、先ほども言ったように、仕事とは決してつらい嫌なものではない。でも楽しいだけでもない。楽しいけど楽じゃない。しんどいから面白いという矛盾をはらんだものなのではないでしょうか。
そして、組織改革にはこれが絶対に正しいという答えもなければ、終わりもないのだと思います。常に続けていくものなのでしょう。こうすれば発達するという正しい方法があるわけではない。ティールは発達段階の理論ですが、これはビルの階層にたとえられます。1階にいたのでは、2階の景色は眺められない。ある段階に行かないと、その次元の眺めを見ることはできない。ですから、どうすれば今後発達するかを考えることも難しいでしょう。ある意味で、ティール組織は目指して成るのではなく、結果として成っているもので、手法というよりは、在り方の問題なのかもしれません。
松田氏:どんな時代であれ、組織として全ての社員が能力を発揮できる場をつくることが私の仕事だと考えています。そのことで、会社としてよりオズビジョンらしさを出していけるようになればと思います。弊社は、かなり“エモい”会社だと思うんです(笑)。そのエモさをより出していきたい。私たちオズビジョンのありのままの姿を表現していくことで、心を揺さぶられるようなサービスを提供していけたらと思います。
取材後記
“オズビジョンはエモい会社だ”という言葉がとても印象に残りました。失敗から謙虚に学びながら、挑戦し続けることが組織を活性化させる…。「ティール組織」という言葉は、いささかキャッチーな印象を与えますが、実際にそこにたどり着くためには、人間くさい営為の積み重ねが必要です。人のマインドの在り方こそが、組織を活かしも殺しもするのでしょう。
取材・文/宇田川しい、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOURNAL 編集部