経営危機から一転。価値観重視の採用とデジタル活用で、やる気と業績が高まる組織へ

株式会社ウィルゲート

専務取締役COO 共同創業者/吉岡 諒(よしおか りょう)

プロフィール
株式会社ウィルゲート

人事部門責任者・ゼネラルマネージャー/北林賢太(きたばやし けんた)

プロフィール

株式会社ウィルゲートは、SEOコンサルティングとウェブ記事作成支援を中心に、デジタルマーケティング全般のコンサルティングを行う会社です。成長中のベンチャー企業に対してデジタル化支援も行っており、自社においても「デジタル変革」と「働き方変革」を実践。8年連続で、日本における「働きがいのある会社」ランキングにも選出されています。組織づくりのノウハウ、ダッシュボードによるコンサルタント職の稼働管理、独自の人事制度などについて、COOの吉岡諒氏(以下、吉岡氏)と人事責任者である北林賢太氏(以下、北林氏)にお話を伺いました。

経営危機を機に「実力採用」から「価値観採用」へ転換

創業から現在の社員140名まで順風満帆に組織を拡大してこられたのですか。

吉岡氏:創業2期目にエンジェル投資家から資金を調達して社員を一気に30名まで増やしたのですが、その直後に経営危機に陥り半年で社員20名が退職しました。私たちはこれをウィルゲートショックと呼んでいるのですが、要因は2つ。1つは社員を増やしたのに売上げが伸びなかったこと。若気の至りで、人を増やせば単純に売上も増えると思っていたのです。

もう1は採用の問題。これが本質的な要因だと思うのですが、前の職場が有名企業で、そこで実績を上げている人を無条件に採用し、その人の価値観や志を軽視していたのです。私たち経営者が、ミッションやビジョンを示したうえで仲間集めをできていなかったので、組織として向かう方向性が統一できていませんでした。必然的に、組織内の雰囲気も悪く、それぞれが下げあうような文化も醸成させてしまったように思います。

ウィルゲートショックをどのように乗り越えたのですか。

吉岡氏:代表の小島が全社員一人ひとりと腹を割って話をしました。会社の現状を詫びつつ、どういう点が悪かったと思うか、これからどうすれば立て直せるかなど本音で語り合ったのです。そこから見えてきたのは、私たちの経営に対する経験不足と、社員とのコミュニケーション不足によって会社の価値観を共有できていないことでした。

ウィルゲートCOO吉岡氏

結果的に20名が会社を去りましたが、10名は残ってくれました。そして、驚いたことに10名でも30名と同じ売上を維持することができたのです。足を引っ張り合っているような状況から、同じ価値観を共有しながら一致団結したことで生産性もアップしたのだと思います。

20名が抜けて人件費が減ったこともあるのですが、3カ月後には何とか黒字に回復しました。この経験から、価値観を共有することの大切さを痛感しました。その後は順調に社員も増えて、「一人ひとりの『will』を実現する」という会社の理念や、7つの行動指針『WinG』を明文化し浸透をはかることで、組織を大きくしてきました。

ウィルゲート社「7つの行動指針『WinG』」

「一緒に歩む仲間」を見つける方針へ

北林氏:ウィルゲートショックでいちばん変わったのは採用基準だと思います。これまでの「実力採用」から「価値観採用」へと大きく転換しました。「スキルに心はついてこないが、心にスキルはついてくる」をスローガンに、共通の価値観や理念に向けて一緒に歩んでくれる人材を求めることにしたのです。

ウィルゲート北林氏

組織投資も増やしました。現状把握のために外部サービスを入れて組織サーベイを実施したり(リンクアンドモチベーション社のサーベイを半年に1回8年間取り続けている)、会社の文化やコミュニケーションを大事にしたいという想いから、たとえば全社アワードや部活動などの組織対策が増えたりしました。

ダッシュボードで社員の業務を見える化し、生産性を改善

年より新しい事業方針を発表されました。

吉岡氏:当社の事業方針(ミッション)を新たに「デジタル化を推進し、誰がやるべき業務か再定義して経営を最適化─Digital & Work Optimization─」としました。近年、テクノロジーの発展や人材リソースの減少により「デジタル変革」と「働き方変革」の実現が求められていて、企業の成長には欠かせない課題となっています。これらを実現するためには、データに基づく戦略立案や業務改善の推進が必要で、多様な人材活用が核となります。

ある仕事を行う際、その会社にしかできないコアノウハウの部分は社内でやるべきですが、AIやシステム化が進む中で、必ずしも人でなくてもできる部分はデジタル変革のアプローチで行っていき、得意分野を持つフリーランスの方にお任せできる部分は依頼することで効率化を図り、働き方も変えていきましょうという提案をしています。

社内でのデジタル化についてお聞かせください。

吉岡氏:Tableau(タブロー)というダッシュボードを使って、これまで把握できなかったコンサルタント職の稼働について見える化を実現しました。毎日スプレッドシートに10分ほどかけて入力するデータを基に、コンサルタント一人ひとりの稼働時間・稼働内容などが一目でわかるようになっています。

たとえば、プロセス内業務(お客さまに付加価値を提供するために定められた定型業務)を青のグラフ、プロセス外業務(お客さまに本来提供すべきでないイレギュラー業務)を赤のグラフで表示することで、コンサルタント一人ひとりの生産性が一目で把握できます。

Tableauによるダッシュボードのイメージ

Tableauによるダッシュボードのイメージ。プロセス内の業務(青)とそれ以外の業務(赤)の縦棒グラフで示される(ウィルゲート社提供。数値は架空のものです)

 
青の多い人はMVPに選ばれる、お客さま満足度アンケートの結果が高いなど、コンサルタントとして優れた成果を出していることが多いという結果が出ています。一方、赤が多い人は稼働内容の多くを資料作成、調査分析、トラブルによるクレーム対応に費やしていたりします。

トラブルに関しては、これまでは役員の耳に入るころには時すでに遅しで解約が決まっていることが多かったのですが、このダッシュボードに日々目を通すことでメンバーにヒアリングすることなく即座に把握し対応することが可能となりました。

Tableauによるダッシュボードのイメージ

Tableauによるダッシュボードのイメージ。担当者別の売上も見える化している(ウィルゲート社提供。数値は架空のものです)

 
見える化したら、改善活動が不可欠です。たとえば、青の多いコンサルタントの稼働割合を分析して、他のメンバーが応用できるよう「型化」することで、部門全体の生産性を高め、業務の標準化を進めています。お客さまごとの稼働時間も見られるので、頂戴しているお金に対する稼働時間を適正化することも簡単にできます。

毎日データを入力することも評価指標に組み入れ、担当者が「データを入れてください」と言い続けた結果、3カ月で運用が定着しました。ガチガチに管理されて嫌かな、という思いもありましたが、純粋に成果を出せばお給料も上がるので、コンサルタント自身の目標が明確になり、モチベーションアップにもつながっています。

定期的なサーベイが、組織の健康診断となる

北林氏:先ほど触れた組織サーベイ(モチベーションクラウド)もデジタル化のひとつと言えるかもしれません。毎回同じような質問をすることで、「この領域は半年前より下がっているぞ」ということがわかるなど、組織の健康状態を見える化できるという点ですごく役立っています。

私たち人事部門も社員とのコミュニケーションは大事だと思っていますが、100名を超えると全員のコンディションをタイムリーに把握することはどうしても難しいです。マネージャー以上の役職は戦略目標を発信していると言っているけれど、部下たちはそれが伝わっていなかったり、働き方に満足しているのは男性だけで女性の満足度が低かったりと、異なる立場からの意見によって課題設定の制度を上げることができると思っています。

さらに、何か仕掛けを打った際にそれがヒットしているかなども参考にすることができますし、役職者とのディスカッションも格段にしやすくなりました。

ウィルゲート北林氏

一人ひとりの働きがいに寄り添う人事制度

人事制度についてお聞かせください。

北林氏:人事制度は、1成長機会を最大化する、2働き方の多様性を広げていく、3縦横斜めのコミュニケーションを活性化させる、4社員の家族も大事にする、という基本方針にのっとって新しい制度もつくるし、解体もします。社員の声はもちろん、サーベイも活用しますし、アンケートも取りながら運用しています。

当社ならではと思うのは、時間単位で有給がとれる「ちょい休」や週4日勤務や時短勤務などが選べる「わくさぽ」、事前承認は必要ですが副業が認められる「副業制度」などの制度です。「ちょい休」は社員の声から生まれた制度で、「副業制度」を利用している人は経験者ベースでは30%ほどです

副業が離職につながるのではないかと言われることもありますが、副業先に行く人はこの制度がなくても行くかもしれませんし、それより成長機会を広げるメリットの方が大きいと考えています。会社にいる人材は、事業や組織の成長によって変わっていくので、過去あった制度についても勇気をもってやめる意思決定を求められることもありました。住宅手当や家族手当がそれにあたりますが、一時的な痛みはあっても、会社方針との一貫性を保つことの方が大事になるときもあると考えています。

8年連続で「働きがいのある会社」ベストカンパニーに選出されていますね。

北林氏:一人ひとり働きがいを感じるところは違うはずで、働き方の多様性と思う人もいれば、周囲とのコミュニケーションと思う人、成長機会と思う人、貢献実感だと思う人もいると思います。それぞれをしっかり捉えて、画一的にこうだよというよりは、その人に合った形で提供していくことが大切。その積み重ねが8年連続につながっているのではないでしょうか。

そもそも当社の場合は、社員全体の当事者意識が高くて、それに組織が支えられている部分が大きいので、経営や人事の取り組みの結果というよりは、会社として育んできたカルチャーが一番大きな要因だとも思っています。

「働きたい友達」にアプローチするリファラル採用
人材採用についてお聞かせください。

吉岡氏:デジタルマーケティングの世界では経験者が少ないため、当社ではリファラル採用に力を入れています。過去3年で4名、7名、15名と増え、中途採用に占めるリファラル採用の比率は、2019年は中途採用合計24名のうちリファラル採用が15人なので60%、2020年では現在のところ100%となっています。

ウィルゲートCOO吉岡氏

リファラルの前は1年半かけて50名面接し、やっと1名決まったと思ったら入社10カ月で退社という例もありました。当社ではリファラル採用に協力したいという自選社員で5名のチームを3つつくりました(事業責任者、役員、営業責任者が各チームのリーダーとなる)。計15名のメンバーがそれぞれ一緒に働きたいお友達を20名書き出すことで、300名の母集団を作成します。

ウィルゲートのリファラル採用組織

リファラル採用チームメンバーが候補者をピックアップしてアプローチしていく(ウィルゲート社提供)

活躍人材の離職率の平均を5~10%と仮定した場合、300名のうち15〜30名が、転職の可能性があることになるので、適切なタイミングを見極めてアプローチしていくようにしています(エンジニア採用にこの方法は向かず、技術の勉強会などで独自のエンジニア人脈をつくる必要あり)。

新卒採用活動時に知り合って、他の企業を選んだ人や、当社を退職した人たちとも引き続きつながりを持ち、長期にわたるフォローもしています。このほか、Twitterや月に10回・各100人ほどが参加する当社オンラインセミナーなども接点をつくる場として積極的に活用しています。

データだけでなくエモーショナルな部分も大切

コロナ後に訪れた働き方の変化についてお聞かせください。

北林氏:コロナ対応は早い段階で全員テレワークに移行しました。現在は週2回出社、週3回はテレワークOKとしています。大事だと思っているのは、その中でどうコミュニケーションを取り、一体感を醸成していくかだと思っています。

吉岡氏:Web上でランチルームをつくり、たとえば人気漫画をテーマにして、好きな人がランチしながら話し合える場を提供したり、お客様とのオンライン飲み会でも3,000円支給したりするなどの取り組みもしています。

課題の明確化が、デジタルツールの活用の秘訣
デジタル化を進める上での注意点があればお聞かせください。

北林氏:データだけでなくエモーショナルな部分も大切にする必要があると思います。数字が出ると、こうしなければいけないとか偏り過ぎることもあるので、人事の方は特に信念と誇りを持って、「こういう文化をつくっていきたいから、この制度をやるんだ」と、曲げずにやっていってほしいと思います。文化が薄れてしまうと、定着率やエンゲージメントが下がってしまうこともありますから。オンラインでは、オフライン以上に気合を入れてやっていかないと文化が薄まりやすく、みんなの気持ちが離れていってしまいます。

吉岡氏:DX化や見える化をゴールにするのではなく、解決したい課題は何かを明確にすることが大事だと思います。見える化を実現しても、経営陣がそれを見る習慣がなければ無意味になってしまいます。私も代表の小島もTableauダッシュボードを愛しています(笑)。

ウィルゲート吉岡氏と北林氏

取材後記

経営危機で倒産寸前まで追い込まれたウィルゲートショックを、残られた10名と共に理念や価値観を共有しながら乗り越えた話に、熱いものを感じました。

また、人材採用ではスキルより心を大切にするというモットーも、デジタル化を推進する企業だからこそ重みのある言葉だと思います。今の日本が目指す「デジタル変革」と「働き方変革」によって、働く人誰もが豊かになることを祈ると同時に、ウィルゲートのさらなる活躍を期待します。

取材・文/鈴木和宏、撮影/大金 彰、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOURNAL 編集部