【弁護士監修】もし退職代行から突然連絡が来たら?適切な対応方法と、企業が対応すべき7つのこと

六本木法律事務所

弁護士 竹内瑞穂(第一東京弁護士会所属)

「対話」を重視し,クライアントにとって「最適な解決」を定め導くことを信条として活動。
国際的な特許問題までカバーした特許事務所での勤務経験から特許,商標などの知的財産権に精通。また,大手企業内部の労働問題の解決だけでなく,自身の経験を活かし弁護士による退職代行のパイオニアである小澤亜季子弁護士とともに退職・辞任に関する様々な問題の解決にも尽力している。

退職代行とはどんなサービス?
弁護士・退職代行ユニオン・一般の退職代行業者の違いや相場
退職代行に資格は必要?違法ではない?一般の代行業者は違法の可能性も
退職代行は拒否できる?
退職代行から連絡が来た場合に対応すべき10の事項と手続きの流れ
退職代行、これはどうする?7つの疑問
退職代行にまつわるトラブル事例
従業員が退職代行を使う理由は?
退職代行の利用に至らないために企業が日ごろからしておくべきこと

退職を希望する従業員の意思を、本人の代わりに企業へ伝える「退職代行」をご存じでしょうか。近年、退職代行サービスは増加しており、退職を希望する従業員が利用するケースが増えています。従業員の退職意思を退職代行サービスから伝えられた場合、引き継ぎの時間もないまま退職に至るケースもあり、企業は対応に悩む場合もあるのではないでしょうか。今回は、退職代行サービスの種類やサービス内容、退職代行サービスから連絡が来た場合の対応方法などについてご紹介します。

退職代行とはどんなサービス?

退職代行とは、従業員に代わって企業に退職意思を伝え、手続きを行うサービスです。どこまで手続きを従業員に代わって行えるかというサービス内容は、運営企業によって異なりますが、「意思伝達のみ行うもの」から、弁護士が代理人となって「必要な書類・貸与物の受け渡し、退職日や有給休暇などの交渉を行うもの」まで、さまざまです。
以前から、弁護士が未払いの残業代請求などの相談を受けたときに、「手続きの一環」として弁護士が代理人として退職届を提出することもありました。退職代行の登場は比較的最近のことですが、近年の人材の流動化により、転職者が増えたことや、メディアで取り上げられるなど急速に認知度が高まったことで、退職代行を専門とする業者が増え、利用者も増加傾向にあるようです。
退職代行サービスは、従業員が何らかの理由で退職を言い出せない場合に利用されることが多いのが実情です。そのため、退職代行サービスから連絡が来たときは「企業内に労働問題がある」という可能性も視野に入れて、慎重かつ適切な対応を取る必要があります。

弁護士・退職代行ユニオン・一般の退職代行業者の違いや相場

退職代行は、運営元によって「➀弁護士」「②退職代行ユニオン」「③一般の退職代行業者」の3つに分類できます。ここでは、それぞれのサービスの特徴と一般の退職代行業者に対応する際の注意点、労働者側が支払っている料金の相場をご紹介します。

➀弁護士

弁護士が委任契約に基づき、本人を代理して退職代行業務を行うケースです。「一般の退職代行業者」とは違い、弁護士は本人を代理することができます。会社側は、弁護士が提出する委任状等で退職希望者本人から委任を受けていることを確認できるので、安心して対応できます。さらに、会社側が伝えた要求に対し、代理人として交渉を含む対応をしてくれるので、会社側にとってもメリットがあります。なお、労働者側の費用は5万~6万円程度と言われており、弁護士によっては基本料金に加えて、相談料などが別途発生する場合もあるようです。

②退職代行ユニオン

退職代行ユニオンは、いわゆる合同労働組合の一種です。合同労働組合とは、労働組合がない中小企業の労働者や企業別組合から排除された労働者などを一定地域ごとに組織している労働組合のことで、正社員・派遣・パートなどの雇用形態を問わず加入できます。合同労働組合が退職代行を行う場合、従業員が加入している合同労働組合を通して、退職の意思が表示されます。労働者側の利用料金の相場は、2万~3万円程度が一般的です。

③一般の退職代行業者

弁護士資格を持たない一般企業が、本人から依頼を受けて退職代行業務を行うケースです。弁護士資格を有していないことから、「使者」として本人の意思を伝えることができますが、退職条件の交渉を行うことはできません。労働者側の利用料金が3万~5万円程度と低額なことから、退職代行を専門に扱う民間企業による退職代行サービスも増えていますが、企業としては注意が必要です。なぜなら、退職代行業者の中には「使者」としての活動を超えて違法な行為を行っているケースや、退職代行業者が介入することにより、かえってトラブルになっているケースが散見されるからです。企業がきちんと労働者の退職時の処理をする場合には、残業代の支払いや、有給休暇の消化、業務の引き継ぎ、競業避止義務契約書等の取り交わしなど、さまざまな手続きが必要になります。しかし退職代行業者にはこれらの交渉・意思決定をする権利がないため、会社側が必要とする手続きが滞ってしまうのです。

また、中には「即日退職OK」などとうたっておきながら、会社側との合意が得られず、結果的に退職できなかったというケースもあります。それによって退職希望者本人と業者との間でトラブルになり、結局本人が、別途弁護士に委任して再度交渉しなければならなくなった、という事例も実際に発生しています。

退職代行に資格は必要?違法ではない?一般の代行業者は違法の可能性も

弁護士法第72条では「弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関し、代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことはできない」と定められています。そのため、弁護士資格のない退職代行業者が、企業に対して法律事務である「示談交渉」などを行った場合は、「非弁行為」に当たるので違法となります。

つまり、「③一般の退職代行業者」は、従業員の「退職したい」という意思を伝えることしかできません。たとえば、年次有給休暇の取得に関して、取得の意思を伝えることは可能ですが、取得時季や取得方法について企業側から提案があったとしても、一般の退職代行業者がそれ以上の交渉を進めることは違法行為です。従って、企業が従業員のために退職条件の調整を行いたいと思っても、一般の退職代行業者である場合には、交渉や意思決定に関する確認や取り決めなどはできず、結果的に退職手続きが滞ってしまい、企業が一般的に就業規則に定める退職時の必要書類の締結等の依頼もできないというケースが出てきます。

●企業が必要だと認めても、一般の退職代行業者が行うと違法となる行為

・必要な引き継ぎなどについての交渉
・退職時の誓約書、秘密保持誓約書、競業避止義務誓約書等、企業が必要とする契約書の締結
・退職届などの書類作成代行
・未払い給与や残業代についての支払い交渉
・貸与物の返還請求や、私有物の返却等についての交渉
・有給休暇の買い上げや取得の交渉
・退職日の調整や交渉
・企業からの和解に対する条件交渉
・損害賠償請求を受けた際の対応
・パワハラなどに対する慰謝料の支払い交渉

「②退職代行ユニオン」は弁護士ではないものの、団体交渉権を持つ労働組合という位置づけにありますので、「退職日の調整」「未払い賃金の支払い要求」などを含め、基本的には企業との直接交渉が認められています。しかし、企業が従業員に対して損害賠償などを求めた場合、「不服申し立て」はできますが、裁判で代理人を務めることはできません。また、たとえ労働組合という名称を使っていても、その団体が労働組合法における労働組合の定義を満たしていない場合もありますので、確認が必要です。

最も幅広く対応できるのが「➀弁護士」です。代理人として、退職に関する全ての交渉や退職時に発生する必要な手続きを代行できるので、退職手続きの途中でどのような事態が発生しても、最後まで弁護士が対応することができます。このため、企業としても安心して、企業側の希望を伝えつつ、手続きを進行させられるというメリットがあります。

退職代行は拒否できる?

退職代行サービスを通じて退職の意思表示がされたとしても、従業員自身が退職の意思表示をした場合と同様に、企業は基本的に従業員の退職を止めることはできません。従って、退職代行サービスの場合にも、企業側が円満退職を目標にして行動することが原則となります。
民法第627条では、以下のように規定されています。

1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

たとえば、企業の就業規則で「退職の意思は1カ月前までに告知する」と規定されていても、法律が優先されます。そのため、退職を伝えてから2週間が経過すれば、従業員は退職できます。退職理由は問いません。業務の引き継ぎや有給休暇の取得に関する交渉は進められる可能性もありますが、「退職すること」に対しては、適切な範囲の説得以上のことはできません。

なお、退職以外の引き継ぎや有給休暇などについて、「③一般の退職代行業者」が非弁行為に当たる交渉をしてきた場合は、本人からの申し出でなければ応じられないと伝え、対応を留保する必要性も考えられます。一般の退職代行業者が交渉や意思決定をすることは、刑事罰に該当する違法行為をしていることになる上、そもそも代理権限のない当該業者による行為は無効となる可能性があるためです。

そこで、一般の退職代行業者に対しては、「本人が実際にそのように希望しているかどうかの裏づけが取れない限り、適法な退職の意思表示があると認めることはできない」と伝えた上で、退職が本人の意思であることを確認するための代案を提示するなどの慎重な対応が必要になります。また、一般の退職代行業者は交渉などができませんので、残業代の請求があった場合、「本人からの申し出でなければ応じられない」と明確に伝えた上で、会社の顧問弁護士や社労士などと相談の上、本人へ直接連絡するなどの対応を取った方が安全でしょう。

有期雇用の場合は?

民法第627条は、契約期間に定めのない従業員に関する規定のため、雇用期間が決められている従業員の場合は、契約期間満了まで勤務するのが一般的です。ただし、民法第628条では、「雇用の期間を定めた場合でも、やむを得ない事由があるときは、直ちに契約の解除をすることができる」と規定されているため、従業員の退職理由によっては、契約期間内であっても退職が認められるケースがあります。その一例として、「未払い賃金」や「会社の労働基準法違反」といった法令違反による退職理由が挙げられます。これ以外に、「病気」「けが」「妊娠」「出産」「育児」「介護」などが含まれる場合もあります。

退職代行から連絡が来た場合に対応すべき10の事項と手続きの流れ


退職代行サービスから突然連絡が来た場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。正確な状況を把握せずに応じてしまうと、対応を誤り、場合によっては企業イメージの低下につながる恐れもあります。ここでは、退職代行に対する適切な対応方法を10段階に分けてご紹介します。

対応①:誰についての、どこからの退職代行なのかを確認する

連絡してきた退職代行サービスが、先述した「➀弁護士」「②退職代行ユニオン」「③一般の退職代行業者」のうち、どれに当てはまるかを確認しましょう。「どこまでの権限をもっているか」「非弁行為に当たるか、違法ではないか」などをよく把握し、適切な対応を取りましょう。

なお、退職代行の連絡が弁護士以外の場合は、個別に対応方法が変わってきますので、会社の顧問弁護士や退職代行に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。

対応②:委任状等で従業員の意思を確認する

次に、従業員が本当に退職代行サービスを依頼したのかどうかを確認するため、委任状等の提示を求めましょう。正式な依頼内容を示す書類がない場合は、従業員からの依頼に基づくものだという判断ができないため、本人確認のために提出してほしい書類を伝えたり、行ってほしい手続きを伝えたりした上で、「従業員本人の意思であることの裏づけが取れない限りは、退職手続きを進めることはできない」と伝える必要があります。ただし、退職の意思表示に併せて、有給休暇の申請や欠勤届けがある場合には、相手には休みとして扱うことを伝え、そのように処理しましょう。
委任状等が確認できた場合は、従業員が退職代行サービスに依頼している業務内容についても確認しましょう。たとえば、一般の退職代行業者への依頼内容が「退職希望の意思伝達のみ」だった場合、退職理由や退職日などを会社に伝えるための代行者とは認められません。

対応③:回答書を作成する

回答書は、全ての事項がそろわなくてもかまわないので、できるだけ早いタイミングで人事担当者から連絡することをお勧めします。また、回答書をメールや書面で作成して送付することで、会社が適切に対応しているという客観的な証拠を残すことができます。
違法な退職代行業者の可能性がある場合でも、突然本人に連絡をすることは控えた方がいいでしょう。退職代行サービスを利用している以上、本人には「会社と直接対話をする、接触する」ことを避けたいという意図があるはずです。本人に直接連絡を取ることは、退職代行業者に対して依頼内容を確認したものの、なかなか応答が来ない、あるいは依頼内容の確認ができないといったような、やむを得ない事情がある場合にとどめた方がよいでしょう。また、連絡方法は電話ではなく、メールや郵便が望ましいです。電話の場合は、退職代行サービスから本人に対応しなくてもよいと伝えている可能性がある上に、冷静な対応が期待できないケースもあるからです。退職代行サービスや本人に連絡をする際は、「依頼内容を確認できるまでは、退職手続きを進められない」旨を丁寧に伝えましょう。

対応➃:退職代行サービスを利用した従業員の雇用契約を確認する

退職が従業員本人の意思であることが明確になったら、退職代行サービスを利用した従業員の雇用形態を確認しましょう。この際に把握したいのは、無期雇用か、あるいは有期雇用かという点です。無期雇用の場合は、原則として意思表示から2週間で退職ができます。また、有期雇用の場合は、原則として契約期間の満了、あるいは両者の合意によってしか退職できませんので、契約期間の確認も必要です。

対応⑤:退職日を検討する

その後、従業員の希望に加えて、自社の就業規則や雇用契約書、先述した民法に基づき、従業員の雇用契約に応じた退職日を検討します。企業と従業員の間で合意できる場合は、両者の合意によって定められた日を退職日とします。もし合意できない場合であっても、法律の規定がありますので、正社員は退職の意思表示から最短で2週間、契約社員は契約満了日を退職日とするのが一般的です。一般の退職代行サービスから退職日を早めたいという意思伝達があった場合には、それが本当に従業員の意思によるものなのかを確認するため、その都度、意思を確認できる書類の提示や、本人からの連絡を求めることが望ましいでしょう。

対応⑥:退職日までの扱いを検討する

退職日が決定したら、「退職日までの期間をどのように扱うのか」を検討します。
退職日が2週間後に決まった場合、退職日までの2週間は社員の地位にありますから、仕事をしてもらうことができます。本人が出勤する意向を示した場合には、通常業務や引き継ぎ業務を行うように指示できますが、退職代行サービスを利用するケースでは、これまでと同様に出勤できる状態とは考えにくく、年次有給休暇や欠勤として扱うことが多いようです。
有給休暇は、原則として従業員が申請した場合に取得できる従業員の権利ですから、企業から率先して有給休暇扱いにする必要はありませんが、有給休暇の義務化との関係もあり、注意が必要です。有給休暇取得の手続きをあらかじめ就業規則に定めておいたとしても、これを理由に有給休暇の申請に応じなくてもよいことにはなりません。ですので、「有給休暇を申請する」という従業員本人の意思が委任状等で確認できた場合には、有給休暇として扱いましょう。

対応⑦:退職事由を検討する

次に、退職事由を「自主退職」とするのか、あるいは「懲戒解雇」とするのかを検討します。懲戒解雇は、解雇事由に該当する場合にのみ認められるものですから、ほとんどのケースでは「自主退職」となります。仮に、退職日まで出勤する必要があるにもかかわらず、無断欠勤が続いたことを理由に懲戒解雇をしても、解雇無効と判断されることがあるので注意しましょう。
また、退職代行サービスを利用せざるを得なかったことを考慮すると、会社事情による退職である場合もあります。未払い賃金やパワハラを理由とする退職の主張がされる場合、企業側も事情を確認し、退職の条件交渉の一環として、これらの問題も解決しておくことが望ましいです。

対応⑧:引き継ぎを依頼する

業務が滞る可能性もあるため、退職前には引き継ぎを依頼しましょう。退職する従業員が1人で担当していた業務などがある場合、引き継ぎをせずに退職されてしまうと、会社の顧客などに対して迷惑が掛かる可能性もあります。引き継ぎに関して就業規則への定めがあり、引き継ぎを依頼したのに従業員から何の返答もない場合は、懲戒処分および企業の不利益に応じて損害賠償請求をすることも検討できますが、いずれの主張も認められない可能性が高く、企業にとってデメリットの方が大きいと思われます。

対応⑨:貸与物の返還や私物の返還手続きを行う

パソコンやスマートフォン、執務室の鍵、社員証、名刺など、業務で使用していた貸与物の返却、および会社に私有物がある場合の返却方法などを決めましょう。考えられる返却方法としては、郵送、本人に会社まで届けてもらう、代理人に会社まで届けてもらう、といったものが考えられますが、レターパックや宅急便を利用して返却するケースが多いようです。
なお、企業側は退職の意思表示を受けたら、速やかに従業員から返却を受けるべき物品のリストを作成し、いつまでに返却するべきなのか期限を定め、送り先を指定し、メールまたは書面で本人や退職代行サービスに伝えましょう。

対応⑩:退職時の誓約書、秘密保持誓約書、競業避止義務誓約書等や、各種保険や証明書等の手続きを行う

企業にとって大切な書面は、営業秘密や顧客情報を流出させないための誓約書、秘密保持誓約書、競業避止義務誓約書等です。
ただし、退職時に「これらの書類を作成しなければ退職は認めない」と主張することはできません。先ほどご紹介した民法の規定では、会社との合意がなくても退職の効果が生じると定めているからです。こういった書類への署名には、退職の意思表示に対してできるだけ円満に手続きを進めつつ、自主的に従業員に応じてもらう必要があります。
また、それ以外にも健康保険、住民税徴収方法についての確認、雇用保険の資格喪失手続き、社会保険の資格喪失手続き、離職票の交付手続きなど、一般的な退職者が出た場合と同様の手続きを踏む必要があります。なお、企業はこれらの書類を作成することを条件に、上記各種誓約書の作成を要求してはなりません。

退職代行、これはどうする?7つの疑問

退職代行サービスを介して従業員とのやりとりを行う場合、一般的な退職手続きとはフローが異なることもあり、迷うケースがあるかもしれません。ここでは、よくある7つの質問にお答えします。

疑問①:年次有給休暇を使い切ってしまっている場合は?

年次有給休暇が取得できないのであれば、本来は退職日まで出社することが望ましいです。しかし、退職を希望している従業員に対して無理に出社をお願いしても、職場の雰囲気が悪くなったり、他の従業員へ悪影響が及んだりする恐れが懸念されます。企業と従業員の双方で合意できれば、2週間の経過を待たずに、即日退職という判断も可能です。

疑問②:退職届はどうする?

民法第627条には「退職届を提出しなければならない」という記載はありません。よって、申し入れをするだけで退職は可能とされています。しかし、退職代行サービスから退職の意思伝達があった場合は、従業員の依頼に基づいたものなのかどうかが判断できない可能性もあります。従業員の意思や正確な退職理由を確認するためにも、本人直筆の退職届の提出を求めた方がよいでしょう。先ほどご紹介したとおり、回答書を依頼する方法もよいかもしれません。ただし、正当な依頼を受けて作成されている通知の場合、それ自体で退職の意思表示としての効力がありますので、従業員は退職届を再度提出する必要はありません。そこで、企業側は退職届の提出を求めた場合でも、従業員の依頼に基づくものであると確認ができた場合には、最初の退職の意思表示の日時を基準に、手続きを進めるべきです。また、退職届の依頼はあくまで協力要請の位置づけとなることにも配慮して、本人の意思を慎重に確認するために必要であることを説明しましょう。

疑問③:給与はどうなる?

退職代行サービスを利用した従業員に対しても、実際に働いた分の給与を支払うのは企業の義務です。たとえ急な退職であったり、これまで無断欠勤があったりした場合でも、働いた分の賃金は支払わなくてはなりません。労働基準法第23条1項では、従業員が退職した場合には、請求があれば7日以内に賃金を支払わなければならず、また労働者の権利に属する金品(積立金、保証金、貯蓄金など)を返還しなければならないと定めています。会社の締め日とは関係なく支払いが発生することがありますので、注意が必要です。
なお、後で振込金額についてもめないように、企業側は給与の支払いをする前に、あらかじめ支払金額、支払日について本人に確認しておくように努めましょう。

疑問④:退職金はどうなる?

退職金制度がある場合は、原則として支払う必要があります。退職代行サービスを通じての退職だから支払わない、ということにはできません。退職金は法律上で定められた賃金ではなく、就業規則で定めた企業ごとの任意の制度です。就業規則の内容を確認し、適切に対応しましょう。

疑問⑤:離職票等の各種申請は?

「離職票」や「雇用保険被保険者証」「退職証明書」などの、退職した従業員に渡す書類は、作成後に速やかに送付しましょう。ただし、離職票を作成するときは、退職者本人の署名が必要です。従業員本人と直接やりとりができない場合は、退職代行サービスを介して書類を従業員に送付し、署名した上で返送してもらう必要があります。必要書類の作成がスムーズに進まない場合は、事務手続きのみ、企業と従業員間で直接やりとりすることを提案するのもよいかもしれません。
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』『【社労士監修】退職証明書の正しい書き方と離職票との違い。フォーマット・記載例付』)

なお、離職票等の発行は退職日以降になりますから、実際に発行が完了するまでには、1カ月程度かかる場合があります。書類を待つ間、従業員が不安になってハローワークに相談することがありますので、書類発行のスケジュールについてもあらかじめ従業員に伝えておくとよいでしょう。

疑問⑥:社宅に住んでいる場合は?

退職する従業員が社宅を利用している場合には、退去してもらうのが一般的です。退去日は退職日とするか、退職日までの期間が短い場合は、1週間~2週間程度の猶予を設けることなどの検討をします。従業員が期日までに退去できない理由がある場合は、話し合いにより可能な退去日を再検討しましょう。
また、退去時にはどういった点検が必要なのか、鍵の返却方法はどうするのか、といったことも事前に確認しておきましょう。

疑問⑦:私物はどうする?

オフィス内にまだ退職する従業員の私物が置いてある場合は、本人が廃棄してよいと意思表示をしていない場合には、本人へ返却する必要があります。しかし、退職代行サービスを利用しているようなケースでは、私物を引き取りに会社へ行くことが困難であるケースが多く、会社側に着払いで返却してもらうように依頼してくる場合があります。円満退職という観点から、会社側は本人に協力することをお勧めします。

退職代行にまつわるトラブル事例

従業員が退職代行サービスを利用して退職することにより、企業にはどのような問題が生じるのでしょうか。ここでは、従業員が退職代行サービスを利用した企業が陥りやすいトラブルを、3つのケースに分けてご紹介します。

ケース①:他の従業員の業務負担が増えて、不満につながる

退職代行サービスからの連絡を受けた後、すぐに従業員が退職してしまうと、人員補充が間に合わないため、他の従業員の業務量が一時的に増加します。退職した従業員の担当業務の割り振りや得意先への連絡、欠員補充のための採用業務など、やるべき業務の範囲も広いため、残された従業員へのしわ寄せは大きくなるでしょう。一時的とは言え、他の従業員の不満に発展することもあります。

ケース②:企業としての信頼や評判に影響が出る可能性がある

従業員が「退職代行サービスを利用して退職した」という話が広まることで、顧客や取引先での信頼や評判に悪影響が出る可能性もあります。弁護士は守秘義務を負っているため、口外することはありませんが、一般の退職代行サービスや依頼した従業員本人から話が広がる場合もあります。また、企業内にもうわさが流れることで、退職の連鎖が起きるケースもあります。

ケース③:退職を拒んだことで、訴訟に発展する

退職代行サービスからの連絡に対し、企業が退職を拒んでしまうと、訴訟を起こされるケースもあります。企業としては、「一緒に働きたい」「今後に期待している」という気持ちで説得しても、退職を決めた従業員にとっては「無理な引き留めに遭っている」と圧を感じることもあるかもしれません。特に、「パワハラを受けていた」「毎日サービス残業をしていた」などの退職理由があれば、訴訟に発展する可能性もあります。円満退職を希望している場合、退職理由にパワハラなどの記載がないこともありますから、退職を申し出た社員の所属部署などに聞き取り調査を行う必要性も考えられます。

従業員が退職代行を使う理由は?

そもそも従業員はなぜ、退職の意思を直接伝えずに退職代行サービスを利用するのでしょうか。わざわざ費用のかかる退職代行サービスを利用するにあたって、そのようにせざるを得ない理由があると考えられます。

理由①:自分の意見を伝えづらい環境である

従業員が日ごろから「発言すると周りから否定的な対応をされる」「何かトラブルが起こっても誰も助けてくれない」といった心理的安全性が保たれていない状態にある場合、自ら退職の意思を伝えることは難しいでしょう。また、気軽に相談できる人間関係が築かれていない新入社員や、転職したばかりの従業員も、退職代行サービスを利用するケースがあるようです。
(参考:『心理的安全性の作り方・測り方。Google流、生産性を高める方法を取り入れるには』)

理由②:パワハラ・セクハラなどにより肉体的・精神的苦痛を感じている

従業員が心身の問題を抱えており、出社が不可能な状態に置かれている場合も、退職代行サービスを利用することがあるようです。特に心身の問題を抱えることになった要因が、「パワハラやセクハラ」「業務内容や業務量による精神的ストレス」などの場合、職場の人たちと会話することに精神的限界を感じ、やむを得ず退職代行サービスを利用する従業員もいるようです。
(参考:『【弁護士監修】パワハラ防止法成立。パワハラ問題へ企業はどう対応する?対策法を紹介』)

理由③:日ごろから問題行動や規律違反が多い

「自分で退職の意思を伝えるのが面倒」だと考え、退職代行サービスを利用する場合もあります。こういった場合、日常的に「無断欠勤をする」あるいは「他の従業員とトラブルを起こす」といった問題行動や規律違反を起こしている可能性もあります。
(参考:『問題社員の特徴と違法にならない対応方法。協調性がない・無断欠勤…どう対応する?』)

退職代行の利用に至らないために企業が日ごろからしておくべきこと

従業員が退職する場合、トラブルを回避するためにも、できる限り本人から退職の意向を伝えてもらい、話し合いの上で、円満退職に至ることが理想です。そのために、企業ができる3つの取り組みをご紹介します。

取り組み①:意見を伝えやすい企業文化を作る

企業と従業員の双方が納得する形で退職を迎えるためには、従業員が退職の意思を伝えることに対する不安感を取り除く必要があります。そのためにも、日ごろから全社的にコミュニケーションを活発にするための仕組みや取り組みを検討するなど、上司・部下間で何でも話し合える「企業文化」の醸成を意識するとよいでしょう。また、上司や先輩社員と定期的に面談を行う「1on1」「ブラザー・シスター制度」「メンター制度」などを取り入れることも有効です。
(参考:『企業文化とは?事業成長へとつながる企業文化の醸成方法を事例を交えて紹介◆NG例付』『【1on1シート付】1on1で何を話す?失敗しない方法を実施前に知っておこう』『ブラザー・シスター制度は早期離職防止に効果アリ?OJT・メンター制度との違いとは』『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説』)

取り組み②:コンプライアンス委員会の設置

企業内でのパワハラやセクハラ、過重労働といった問題は、退職代行サービスの利用に限らず、さまざまなトラブルにつながります。そのため、定期的に職場の状況を把握し、課題改善のためのコンプライアンス委員会を設置するなどの取り組みも重要です。
(参考:『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説』)

取り組み③:アルムナイの運営

近年、「アルムナイ」という退職者のネットワークづくりを行う企業も増えています。退職者と良好な関係を築き、継続的にコミュニケーションを取ることで、再雇用につながる可能性もあります。アルムナイが退職者にとってもメリットになれば、「円満退職」を心掛ける人も増えるでしょう。
(参考:『アルムナイとは?退職者ネットワークを活用し、工数をかけずに優秀人材の採用へ』)

まとめ

退職代行サービスは、運営元によって業務の範囲が異なります。そのため、もし退職代行サービスから連絡を受けたら、「まず従業員本人の意思なのかどうか」「相手とする退職代行サービスは、どこまでの業務を行う権限を持っているのか」などの正確な状況を確認し、適切な対応を心掛けましょう。
また、一般の退職代行業者は違法であるケースが多く、トラブルにつながる可能性も高いため、できることなら避けたいものです。まずは企業の職場環境や人間関係を見直し、従業員が直接退職を言い出せない状況ではないかを把握することが重要です。その上で、意見を言いやすい雰囲気づくりや、制度の導入を検討してみるとよいでしょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 竹内瑞穂、編集/d’s JOURNAL編集部)