【社労士監修】会社側が行う退職手続き|期間や順番・方法を解説<チェックリスト付>

従業員が退職する際に会社側が行う「退職手続き」の内容は多岐に渡ります。
決められた期間の中で円滑に手続きを進めるには、各手続きにかかるスケジュールを把握しなければなりません。
この記事では、退職手続きの内容やそれぞれの実施時期、必要な書類などを、社労士監修のもと、わかりやすく解説します。
人事担当者さまが簡単、かつ抜け漏れなく手続きを進められるチェックシートもダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
退職手続きを行う重要性
従業員の退職に伴い、会社が行う退職手続き。退職にはさまざまな分類があり、退職理由や性質によって、人事や労務担当者が取るべき対応も異なります。英語では、「procedure for resignation」と表現されます。特に退職金や有給休暇などの取り扱いについては、退職する従業員とのトラブルにならないよう、注意が必要です。事前に就業規則を確認し、それにのっとった対応を行いましょう。
また、退職手続きの中には、期限が決まっているものもあり、対応が滞ると会社と退職者の双方が、後に不利益を被る可能性も考えられます。退職者との関係を良好に保つためにも、定められた期間の中で適切に手続きを進めましょう。
この記事では、従業員から申し出があった場合の「自己都合退職」を前提として、解説します。
(参考:『依願退職の意味と解雇との違い。社員からの申し出は拒否できる?退職金や失業保険は?』)
退職手続きの流れ
従業員の退職時は、従業員だけでなく会社側にもさまざまな手続きが発生します。
従業員と会社の双方に求められる手続きを、以下の表にまとめました。
従業員側と会社側で異なる退職手続きの主な内容
従業員側 | 会社側 |
---|---|
・退職の意思表示 ・退職届の提出 ・業務の引き継ぎ ・貸与物などの返却 |
・退職届の受理 ・貸与物などの回収 ・社会保険と雇用保険の喪失手続き ・税金関連の手続き ・各書類の発行、郵送 |
より詳しい流れについては後述しますので、そちらを参考になさってください。
会社側が行う主な退職手続きの内容と実施時期や順番
従業員の退職に伴い、会社側が行う一般的な対応や手続きには以下が挙げられます。
退職に伴う会社側の対応
・退職日の決定
・退職(願)届の受理
・退職者へ必要な手続きの説明
・貸与物や健康保険証の回収
・社会保険資格喪失手続き
・雇用保険資格喪失手続き
・税金関連の手続き
・源泉徴収票・離職票などの発送
一つずつ詳しく見ていきましょう。
退職日の決定
従業員の退職の申し出を受けてから実際に退職するまでの期間は、従業員や会社側の事情によって異なります。
従業員が、会社の就業規則によって定められた期日、または民法にある退職予定日の2週間よりも前に退職の意思を示した場合、会社はその申し入れの拒否はできません。
ちなみに、退職日は就業規則よりも民法上の定義が優先されます。
就業規則上に「1カ月前の申し出が必要である」という旨の記載があったとしても、従業員が、たとえば15日前に申し出ても法的な問題はないということです。
一方で従業員の希望退職日が、申し出から2週間未満の場合は、希望する期日での退職は認められません。
このケースでは、従業員に民法上の期日を伝え、従業員と会社の双方で協議したうえで、改めて退職日を決めましょう。
ただし、2週間よりも前に申し出があっても、会社が合意した場合には希望する期日での退職が認められます。
雇用期間に定めがない従業員は、期日関係なく退職を申し出ることが可能です。
退職届(願)の受理
退職の申し出については明確な決まりがないため、口頭のみでも問題ありません。
しかし退職日に認識の食い違いが発生するといったトラブルを防ぐためには、原則として退職届を書いてもらうことをおすすめします。
「退職願」は従業員が会社に対して退職の意思表示を行う書類であり、「退職届」は会社による退職の可否を問わず、自身の退職を通告するための書類です。
退職の申し出を受けた従業員には、退職届の提出を依頼しましょう。
退職日の1カ月前には退職届の提出を求めたいところですが、民法上では退職日の2週間前までに提出があれば問題ありません。
このあとの退職手続きをスムーズに進めるためにも、できるだけ早く提出してもらえるよう協力を仰ぎましょう。
なお会社都合による退職では、退職届の提出は求めないケースがほとんどです。
退職者へ必要な手続きの説明
退職届を受け取ったら、従業員の退職に伴う手続きの説明を行います。
主に、退職時に渡すものや回収するものの概要、退職日までに提出してほしい書類などについて説明します。
必要な手続きを、リストにして手渡しておくのもおすすめです。
また、退職に伴う書類を郵送するために、退職後の住所についてもこの時点で確認しておきましょう。
貸与物や健康保険証の回収
退職者への貸与物や健康保険証は、最終出勤日あるいは退職日までに受け取りましょう。
退職者から回収する貸与物の例
・社員証や名刺
・PCや携帯電話
・制服やユニフォーム
・健康保険証
・仕事に関する資料やデータ
退職者は、最終出勤日以降に有給消化となるケースがあるため、必ずしも退職日に出勤するとは限りません。
1つでも回収が抜け漏れると、退職後の郵送で時間がかかるだけでなく、回収しきれずにトラブルにつながるおそれもあります。
事前に退職者の最終出勤日を確認したうえで、業務上作成した資料やデータなども含めて貸与物はすべて回収しましょう。
ただし健康保険証は、最終出勤日以降も退職日までは使えるので、退職日翌日以降に速やかに郵送してもらう必要があります。
もし扶養家族がいる場合は、その健康保険証もあわせて回収してください。
社会保険資格喪失手続き
会社が行う必要のある手続きには、社会保険資格も挙げられます。
具体的な手続きについては、以下の表にまとめました。
社会保険資格の喪失手続きの概要
期限 | ・喪失日から5日以内 |
---|---|
手続き先 | ・管轄の年金事務所 |
必要書類 | ・健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届 ・本人および扶養家族分の健康保険証 |
提出方法 | ・電子申請 ・郵送 ・窓口持参 |
退職日の翌日が保険資格喪失日となりますので、3月31日が退職日の場合は、4月1日が資格喪失日となります。
この場合は、上記の手続きを4月5日までに行わなければなりません。
なお、会社として健康保険組合に加入している場合は、被保険者資格喪失届を年金事務所と健康保険組合の2か所に提出する必要があります。
その際、健康保険組合に健康保険証を書類として添付します。
参照元:日本年金機構
雇用保険資格喪失手続き
雇用保険の資格喪失手続きも、以下に記載した期限が設けられています。
雇用保険資格喪失手続きの概要
期限 | ・退職日の翌々日から10日以内 (土日祝日の場合はその翌日) |
---|---|
手続き先 | ・管轄のハローワーク |
必要書類 | ・雇用保険被保険資格喪失届 ※離職票を発行する場合は以下の書類も提出 ・雇用保険被保険者離職証明書 ・賃金支払い状況と離職理由が確認できる書類 |
雇用保険被保険資格喪失届は、上記の期限内に提出がなければ、退職者に不利益となりトラブルにつながるおそれもあるため、期日までに必ず手続きを完了させましょう。
なお離職票は、退職者が59歳未満で本人が希望する場合と、退職者が59歳以上の場合には発行しなければなりません。
参照元:厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」
税金関連の手続き
従業員の退職後には、税金関連の手続きを進めます。
ここからは所得税と住民税に分けて、具体的な手続きの流れを解説します。
所得税の手続き
所得税に関して会社が対応しなければならないのは、源泉徴収票の交付です。
源泉徴収票は、1年間で従業員に支払った給与や賞与、また納付した所得税額などの情報が記載された書類のことです。
従業員の退職後1カ月以内に、退職した年の1月1日から最終支払分までの額について、源泉徴収票を発行しましょう。
会社は源泉徴収というかたちで、所得税を差し引いた金額を給与として従業員に支払っています。
そして年末調整や確定申告によって、その年の所得税が確定するわけですが、その際に源泉徴収された所得税の合計額を確認するために、源泉徴収票が必要となるわけです。
源泉徴収票の交付は所得税法によって義務付けられているため、違反すると罰則の対象になる可能性があります。
必ず、退職後1カ月以内に交付しましょう。
住民税の手続き
住民税を特別徴収によって納付している場合は、停止手続きが必要です。
住民税は、従業員の給与から天引きして翌月10日に納付する「特別徴収」と、従業員が直接納付する「普通徴収」の2つの徴収方法に分けられます。
普通徴収の場合は、会社が行う手続きはありません。
特別徴収を停止する場合は、以下の内容をもとに手続きを進めてください。
特別徴収の停止手続きの概要
期限 | ・退職日の翌月10日 |
---|---|
提出先 | ・退職者の居住地の市区町村 ※前年中に転居していれば、転居前の市区町村にも届出が必要 |
提出書類 | ・給与所得者異動届出書 |
手続きを怠ると会社宛てに督促状が届くことがあるため、期限内に完了させましょう。
源泉徴収票・離職票などの発送
従業員に渡すものの多くは、退職後に従業員の住所に郵送します。
退職後の従業員に送付するもの
・源泉徴収票
・雇用保険被保険者証
・退職証明書
・離職票
・健康保険資格喪失証明書
前述したものもありますが、改めてそれぞれの概要を確認しましょう。
源泉徴収票
源泉徴収票は、退職した従業員が確定申告をしたり、転職先で年末調整を受けたりする際に必要となる書類です。
退職後1カ月以内の交付が義務付けられているので、期限を過ぎないように注意してください。
雇用保険被保険者証
退職者が雇用保険に入っていることを証明するための書類が、雇用保険被保険者証です。
従業員が転職先に提出する際だけでなく、教育訓練給付金の申請時にも必要となります。
退職者の雇用保険被保険者証を会社が保有している場合は、退職日までに返却する必要があります。
退職証明書
退職者が退職証明書の発行を希望した場合には、会社は発行する義務があります。
退職者が希望しないケースでは発行不要ですが、手続きを滞りなく行えるようにあらかじめ用意しておくとよいでしょう。
退職証明書のフォーマットは決められていないので、会社独自のものを使用して問題ありません。
まだ、退職証明書をお持ちでない場合は、こちらからテンプレートをダウンロードできます。
Word版・Excel版それぞれに日本語バージョンと英語バージョンがありますので、ご活用ください。
離職票
離職票は、退職者が雇用保険の失業給付を受けるために必要です。
発行にあたって、会社は資格喪失届と離職証明書だけでなく、退職日以前の賃金支払い状況、さらに離職理由が確認できる書類をハローワークに提出します。
それを受けたハローワークが離職票を発行し、会社を通じて退職者に送付する流れとなります。
離職票は原則発行するものですが、退職者が59歳未満、かつ本人が希望しない場合の発行は不要です。
退職者が59歳以上の場合は、本人の希望にかかわらず離職票を発行しなければなりません。
(参考:【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~)
健康保険資格喪失証明書
従業員が退職後、国民健康保険へ加入する際の手続きに必要となる書類が、健康保険資格喪失証明書です。
協会けんぽや健康保険組合に交付申請を行うことで交付されますが、会社が必ず申請しなければならないという義務はありません。
退職者本人から希望があった場合には交付申請を行い、発行された書類を退職者に渡しましょう。
【退職日まで】退職手続きの内容と流れ、必要書類一覧
ここまでで、会社が行うべき退職手続きの内容を、具体的にイメージいただけたのではないでしょうか。
ここからは、退職の申し出から退職日当日までの流れを、目安のスケジュールとともにご紹介します。
必要な書類を抜け漏れなく準備して、スムーズに退職手続きを進めたいとお考えのご担当者さまは、ぜひ参考になさってください。
①【~1カ月前】退職の意思確認・退職(願)届の受理
従業員から退職の申し出があったら、実際の退職日を相談し、退職届を提出してもらいます。退職届は退職願とは異なり、受理された時点で退職、すなわち労働契約の解除が決定する、法的効力のある書類です。退職の理由が自己都合なのか、会社都合なのかは、退職金の支給や雇用保険の失業給付を受けるタイミングに関わるため、理由をきちんと確認することが大切です。後の労使トラブルを防ぐためにも、書面に残しておきましょう。
②【~1カ月前】退職日の決定
退職日は、「引き継ぎ期間」や「誰を後任者とするか」「人員補充の必要があるか」などを踏まえた上で、決定しましょう。他の従業員に混乱が起きないよう、年次有給休暇の取得期間についても十分話し合った上で決めることが重要です。
③【~1カ月前】業務の引き継ぎ
退職日が確定したら、退職者の業務の引き継ぎを進めます。
退職者の業務量を踏まえて、退職日から逆算してスケジュールを立てますが、不測の事態が起きた場合に備えて、退職日の3日前までに完了できるスケジュールが目安です。
引き継ぎの説明を直接受ける従業員以外にもわかるように、口頭だけでなくマニュアルの作成など、目に見えるかたちで引き継いでもらうのが理想です。
引き継ぎが中途半端になることを避けるために、当初のスケジュール通りに進んでいるかどうか、引き継ぎの進捗も随時確認しながら進めることをおすすめします。
④【~3週間前】取引先への挨拶
退職する従業員が担当していた取引先には、退職日の2~3週間前までに挨拶を済ませます。
ただし、退職日まで口外無用としている場合もあるので、事前に自社の規定を確認したうえで、取引先への挨拶を済ませるスケジュールを退職者に伝えるのが賢明です。
取引先への挨拶は、直接足を運ぶのが理想ですが、事情により難しい場合はメールや電話などによる連絡でも問題ありません。
メールで挨拶をする場合は、一斉送信ではなく個別の連絡だと良い印象を残せるので、後任の担当者とも引き続き良好な関係を築けることが期待できます。
なお、取引先への後任者の紹介や、連絡先の共有も確実に済ませておきましょう。
⑤【~2週間前】退職時誓約書の締結
退職に伴い、秘密保持や競業避止などを約束する「退職時誓約書」を取り交わしておくと安心です。会社側から内容について説明し、退職する従業員の署名・捺印をもって締結しましょう。
退職時誓約書は、下記からダウンロードして利用できます。
⑥【~2週間前】退職手続きの説明
退職に伴うさまざまな手続きに先立って、従業員本人に説明を行います。以下に、確認・対応するべき項目をまとめました。
(1)健康保険の任意継続の意思確認
(2)住民税の徴収方法の確認
(3)退職証明書・離職証明書の必要有無の確認
(4)退職所得の受給に関する申告書への記入(退職金を支給する場合)
退職日までに2カ月以上継続して被保険者期間がある退職者は、健康保険の「任意継続制度」により2年間を限度に利用できます。任意継続を希望する場合は、従業員本人が、退職日の翌日から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に健康保険組合または全国健康保険協会に加入申請を行うことが必要です。ただし、保険料が全額退職者の自己負担になるため、併せて説明しておくとよいでしょう。健康保険の具体的な手続き内容は後述します。
住民税の支払い方法には、企業が従業員から源泉徴収して納付する「特別徴収」と、個人が支払う「普通徴収」などがあります。転職を理由とした退職のように、退職後すぐに他の企業で給与を受けることが決まっている場合は「特別徴収」、そうでない場合は「普通徴収」が一般的です。納付方法によって会社側で必要な手続きが異なるため、先に確認しましょう。
なお、健康保険や住民税の具体的な手続き内容については、後述します。
(参考:全国健康保険協会『健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について 』)
(参考:『健康保険法とは?2020年10月の改正で何が変わる?企業の義務をわかりやすく解説』『【よくわかる】社会保険料とは?実はサクッと計算できる!知っておきたい基礎知識と手続き』)
⑦【~退職日】返却物の確認
退職日には、事前に貸与していた備品や必要な書類などを従業員から受け取ります。
従業員から回収する主な返却物を、以下にまとめました。
退職者から受け取る主な返却物
・健康保険証
・社員証
・名刺
・PC
・携帯電話
・業務上作成した書類
・業務上のデータ
・制服
・鍵
なお、健康保険証に関しては退職日までは有効です。
退職者が最終出勤日以降に有給消化をする場合は、退職日が過ぎたあとに郵送などで返却してもらうのが一般的です。
⑧【~退職日】退職証明書の準備
退職証明書とは、「退職の事実を証明する」ために企業が発行する書類です。退職者が転職先から提出を求められる場合や、離職票が発行される前に社会保険の手続きを行いたい場合などに利用されます。従業員から退職証明書の発行を求められたら、会社は応じなければなりません。必ずしも退職とともに用意しなければならないといった決まりはありませんが、退職者が手続きを滞りなく行えるように、必要に応じてあらかじめ用意しておくことが望ましいでしょう。
退職証明書には決まった様式はなく、企業が独自のフォーマットで作成します。退職証明書に法的に記載すべきとされている内容は、「使用期間」「業務の種類」「その事業における地位」「賃金」「退職の事由」の5つのみです。また、労働者が請求した項目以外を記載してはならないと定められています(労働基準法第22条第3項)。
(参考:『【社労士監修】退職証明書の正しい書き方と離職票との違い。フォーマット・記載例付』)
⑨【~退職日】離職証明書の準備
離職証明書は、正式には「雇用保険被保険者離職証明書」といい、ハローワークが退職者に交付する「離職票」の基になる書類です。離職票は、失業給付を受ける場合に必要となりますが、すでに再就職先が決まっているなど、従業員が離職票の交付を希望しない場合には、離職証明書の作成は不要です。ただし、退職する従業員が59歳以上の場合には、本人の希望の有無にかかわらず、離職票の交付が義務付けられているため、離職証明書の発行が必要になります。
離職証明書には会社側が退職理由を記載し、その記載内容について従業員本人に確認してもらいます。本人の合意を得た上で、離職票に署名・捺印してもらうことが必要です。退職日に間に合うよう、余裕をもって作成を進めましょう。
⑩【~退職日】退職金支給準備・支給
退職に伴い退職金などの退職手当を支給する場合、従業員本人に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらいます。この申告書は、退職金から税額を控除する際に必要です。申告書の提出の有無によって、源泉徴収額が異なるため、提出し忘れないよう退職する従業員に注意を促しましょう。
退職する従業員から申告書を受け取ったら、就業規則にのっとって速やかに退職金の金額を計算します。退職手当は給与などとは別に源泉徴収する必要があるため、その額を差し引いて退職日までに指定の方法で支払いましょう。退職手当に係る源泉徴収票の発行も必要です。
(参考:国税庁『退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)』『No.2732 退職手当等に対する源泉徴収』)
退職日以降に必要な手続きと必要書類
従業員の退職日以降に必要となる手続きや必要な書類について、手続きが発生する順番に解説します。
⑧【退職の翌日から5日以内】社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き
社会保険(健康保険・厚生年金)の喪失手続きは、従業員が退職した翌日から5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を、事業所を管轄する年金事務所に提出します。在職中に70歳以上に到達した従業員には、専用の様式が必要です。健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出の際は、本人および扶養親族の健康保険証の添付が必要となるため、退職時に忘れずに回収しましょう。万が一、健康保険証を回収できない場合は、「被保険者証回収不能届」を添付します。
書類の提出は、郵送や窓口に持参するほか、電子申請も可能です。
(参考:日本年金機構『従業員が退職、死亡したとき』)
⑨【退職の翌々日から10日以内】雇用保険の手続き
雇用保険に加入していた従業員が退職した際には、雇用保険の喪失手続きが必要です。従業員が退職した翌々日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を、事業所を管轄するハローワークに提出します。その後、会社が提出した雇用保険被保険者離職証明書を基に、退職者が失業給付を受給する際に必要となる「離職票」をハローワークが発行します。
雇用保険被保険者離職証明書の提出の際は、離職の日以前の賃金支払状況などを確認できる書類として、「出勤簿」や「賃金台帳」、退職理由を証明するための書類として「退職届」などの書類の添付が必要です。
(参考:厚生労働省『事業主の行う雇用保険の手続き』、『雇用保険被保険者離職証明書についての注意』)
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』)
⑩【翌月10日まで】住民税の手続き
住民税の手続きは、すでに転職先が決まっている場合と、そうでない場合とで対応が分かれます。また、退職する時期によっても対応が変わるため注意が必要です。
転職先が決まっている場合
すでに転職が決まっており、給与の支払いに間がない場合は、「特別徴収の継続手続き」を行います。特別徴収とは、企業が本人の給与から天引きした税金を、本人に代わって納付する、一般的な納税方法です。
まず「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を用意します。新しい勤務先を記入する箇所に必要事項を記入した上で、退職する従業員が転職する先の会社へ書類を引き渡します。その後は転職先の会社が、従業員住所地の市区町村に書類を提出し、特別徴収が継続されます。
再就職まで期間がある場合
再就職まで期間がある場合は、従業員本人が住民税を納付することになります。この場合は、従業員の退職日の翌月10日までに、従業員本人が「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職時に居住している市町村に提出する必要があります。届出をすることで、従業員本人宛に住民税の通知が郵送され、住民税の納付ができるようになります。再就職まで期間がある場合には、住民税の手続きが必要になる旨を退職する従業員に伝えましょう。
退職する従業員が住民税を納付する場合の注意点
住民税は、従業員の退職月によってその年度中に納付すべき住民税の徴収方法が異なります。例えば、6月1日~12月31日退職の場合は、「普通徴収」となりますが、従業員本人から申し出があれば「一括徴収」でも問題ありません。1月1日~4月30日退職の場合は「一括徴収」となりますが、給与と退職金などが少額で一括徴収できない場合は「普通徴収」にすることも可能です。
なお、退職日が5月中の場合は、住民税の残額は5月分のみとなるため、通常通り最終給与から特別徴収として処理されます。新年度の住民税特別徴収に関しての届出が必要となりますので、6月10日までに「給与所得者異動届出書」を従業員所在地の市町村へ提出しましょう。
⑪【退職から15日】健康保険被保険者資格喪失確認通知書の送付
健康保険被保険者資格喪失届を提出すると、「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が発行されます。この通知書は、退職者が退職後に保険の切り替えをするために必要な書類です。健康保険被保険者資格喪失確認通知書が会社に届いたら速やかに、退職した従業員に送付しましょう。
⑫【退職から1カ月】離職票の送付
離職票は、会社が提出した「離職証明書」を基に、ハローワークが退職者に対して交付する書類です。退職者が雇用保険の失業給付を受けるときや、年金・健康保険の手続きを行うときに必要になるため、離職票が会社に届き次第、速やかに従業員に送付しましょう。
(参考:『【社労士監修】離職票と退職証明書の違いと交付方法~人事向け離職票マニュアル~』)
⑬【退職から1カ月】源泉徴収票の発行・送付
退職日から1カ月以内に、退職した年の1月1日から最終支払給与までの額で、「退職源泉」と呼ばれる源泉徴収票を発行します。退職した従業員が同年中に新たに職に就く場合は、その収入を合算し、新たな就職先が年末調整を行います。退職する従業員に対しても、就職先に退職源泉を提出する必要がある旨を伝えましょう。同年中に再就職しない場合は、年末調整がされないため、源泉徴収された所得税の合計額に過不足が発生しているので確定申告の手続きが必要になる旨を伝えましょう。
退職時に従業員から受け取るもの・渡すもの
退職に伴い、従業員から回収するものや、渡さなければならないものについては、下記のチェックシートが役立ちます。無料でダウンロードできるので、自社用にカスタマイズしてご活用ください。
退職時に従業員から受け取るもの
退職する従業員から回収するものは主に5つです。
回収できないリスクを防ぐためにも、必ず確認しておきましょう。
退職届
退職届は、従業員の退職の意向を正式に表明する書類です。
提出が義務化されているわけではありませんので、就業規則で規定している場合にのみ提出してもらいます。
すでに触れている通り、民法により退職日は申し出た日から2週間後と定められているので、最低でも2週間前までに退職届を受け取る必要があります。
ただし、業務の引き継ぎなど、退職の手続きにかかる時間を考慮して、退職日の1カ月前までの提出と定めている就業規則が一般的です。
そのため、できるだけ就業規則で定められている1カ月前までに提出してもらうようにしましょう。
退職届に記載すべき内容は法律で決められていませんが、「退職理由」「退職日」「氏名」は最低限記載してもらってください。
健康保険証
退職する従業員は、退職後に健康保険の資格を失います。
会社は退職日の翌日から5日以内に、退職者の健康保険証を管轄の年金事務所に返却しなければなりません。
そのため、扶養家族がいる場合は、従業員の健康保険証だけでなく、扶養家族の健康保険証も回収する必要があります。
何らかの理由で健康保険証が返却されない場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を被保険者資格喪失届に添付して、同じく管轄の年金事務所に提出しましょう。
参照元:全国健康保険協会 協会けんぽ「健康保険被保険者証・資格確認書回収不能届」
制服・ユニフォームなどの貸与物
会社が貸与していた制服やユニフォームなどは、すべて回収してください。
従業員への貸与物は一覧として作成しておき、事前に渡しておけば回収漏れを防ぐことができます。
顧客情報や業務に関する資料やデータ
従業員が業務のために作成した資料やデータも、回収の対象です。
個人情報の流出や機密情報の漏洩を防ぐために、保有していた顧客データも必ず回収します。
退職者による機密情報の流出を防ぐためには、入社時に秘密保持契約書を締結したり、システムのアクセス権限や履歴の管理を厳重にしたりといった対策が重要です。
身分証明書・社員証・名刺
退職した従業員が、その会社の一員であることを証明できるような身分証明書や社員証、名刺などの回収も欠かせません。
なお、従業員の名刺はもちろんのこと、担当していた取引先から受け取った名刺も回収必須です。
トラブルを防ぐために、名刺の取り扱いについてもあらかじめ規定しておくことをおすすめします。
退職時に従業員に渡すもの
従業員に回収すべきものが複数あるのと同様に、従業員に渡すものもあります。
スムーズに進めるためにも、以下で紹介する6つの書類をできるだけ事前に準備しておきましょう。
雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者証は、退職者が転職先に提出する場合や、雇用保険の失業手当を受給する場合に必要です。
会社が保管している場合は、退職時に必ず返しましょう。
年金手帳
厚生年金の加入者である旨を証明する年金手帳は、原則退職者本人が保管しているものですが、紛失防止のために会社が保管していることもあります。
退職者は転職先でも同じ年金手帳を使うことになるので、会社で保管している場合は返す必要があります。
万が一、従業員本人が年金手帳を紛失してしまい、対処法を相談された場合は年金事務所で再発行してもらうように伝えましょう。
冊子形式の年金手帳は2022年に廃止されているので、基礎年金番号通知書を発行してもらう流れとなります。
源泉徴収票
源泉徴収票は、従業員が年末調整や確定申告を行う際に必要なので、退職日から1カ月以内に本人に渡します。
年内に退職する従業員は年間の給与額が確定していないため、源泉徴収票を会社から受け取り、転職先に提出します。
給与や賞与は最終支払い分までの源泉徴収票を発行しますが、退職金を支払う場合には、別途、源泉徴収票の発行が必要です。
これにより、退職金制度を設けている会社は、退職者の源泉徴収票を2枚作成する必要があるため注意しましょう。
離職票
離職票は雇用保険被保険者証と同様、雇用保険の失業手当を受給するための申請に必要な書類です。
退職者本人の希望がある場合は作成しますが、希望しない場合は作成の必要はありません。
発行には時間がかかるため、手渡しではなく郵送にて届けるケースもあります。
退職証明書
離職票と同様に、退職証明書も退職者本人が希望する場合にのみ発行します。
退職者が会社に求めることのできる証明事項は、以下の通りです。
退職証明書に記載できる事項
・雇用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由
退職証明書を拒否したり、理由がないまま遅延したりすると、労働基準法の違反となり30万円以下の罰則が科されます。
また、退職者が希望していない事項の記載も禁止されているので、あわせて注意してください。
退職証明書のフォーマットはこちらからダウンロードできます。
Word版・Excel版それぞれに日本語バージョンと英語バージョンがありますので、ご活用ください。
健康保険資格喪失証明書
健康保険資格喪失証明書も、退職者からの希望を受けて発行する書類です。
従業員が退職後、国民健康保険に加入するために本人からの希望があれば、会社が協会けんぽや健康保険組合に交付申請を行う必要があります。
協会けんぽや健康保険組合によって交付された証明書を、従業員に渡しましょう
今から使える退職手続きのやるべきことチェックリスト
ここまでお読みいただくと、退職者に対して会社がやるべきことが数多くあることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
会社として従業員に渡す書類だけでなく、従業員から受け取るものについても、抜け漏れがないように注意しなければなりません。
そのようなときにおすすめしたいのが、d’s JOURNALが提供するチェックシートです。
入社して初めて従業員の退職手続きに携わる人事担当者さまでも、安心して手続きを進められるように必要な項目をまとめています。
以下URLから入力フォームにご記入のうえ、送付されたチェックリストをご活用ください。
【ケース別】退職手続きで注意したいこと
退職手続きで注意したいことを、ケース別にご紹介します。
パートやアルバイトの場合
パートやアルバイトといった非正規雇用の従業員の場合でも、退職手続きの基本的な内容や方法は正社員と同じです。ただし、社会保険に加入していない場合や納税をしていない場合など、従業員個々の状況によって必要な対応が変わります。社会保険の加入有無や、納税の有無などを確認した上で、手続きを行いましょう。
派遣社員の場合
派遣社員は、派遣先ではなく、派遣元の派遣会社と雇用契約を結んでいます。そのため、派遣社員の退職手続きは派遣会社が行います。派遣先の会社が直接手続きを行うことはありませんが、業務が滞りなく進むよう、派遣社員が担っていた業務の引き継ぎ方法を検討するなど、業務面での調整は必要になるでしょう。
技能実習生など外国人の場合
退職の手続きは、原則日本人と同様です。外国人のみに必要な手続きとしては、ハローワークへの外国人雇用状況の届出の提出があります。届出が必要となるのは「外交」「公用」以外の在留資格を持つ方で、氏名や在留資格などを明記します。また、1年以上雇用保険に加入している場合は失業保険の給付対象となるため、日本人と同様に「離職票」の交付が必要です。
外国人の従業員の場合、就業規則で「退職の申し出は1カ月以上前」としていても、決まりを十分に理解していない場合も考えられます。個々の理解状況に合わせた、丁寧な説明が必要となるでしょう。
(参考:厚生労働省『2 適切な雇用管理 雇入れ・離職時の届出』)
退職に伴う手続きが遅れると、どのような問題がある?
退職手続きが遅れると、会社側には、「納付する必要のない社会保険を納付しなければならない」「本来利用できない被保険者証で間違って給付が発生してしまい、事後精算が必要になる」などの不利益が生じる可能性があります。一方、従業員にとっても、失業給付の受給開始が遅れたり、受給できる総額が減ってしまったりすることが考えられます。退職手続きの遅れは、双方にとってデメリットが大きいため、滞りなく手続きを進めましょう。
65歳や70歳以上の高年齢者の退職手続きをする場合
高年齢の従業員の場合も、退職手続きは一般的な手続きと同様です。ただし、退職後の生活に不安を持つ方もいるため、丁寧な説明が必要になるでしょう。
健康保険については、退職後に再就職を行う際は従来通りの手続きを行います。一方、再就職をしない場合や再就職先が健康保険適用事業所でない場合、「健康保険に加入している家族の被扶養者になる」「任意継続被保険者として全国健康保険協会や健康保険組合に加入する」「国民健康保険に加入する」のいずれかを選択することになります。選択によって必要な手続きが異なるため、それぞれの場合に応じた説明を実施しましょう。
厚生年金保険の手続きとしては、70歳以上の従業員が退職した場合は、「厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を退職日の翌日から5日以内に企業の所在地を管轄している年金事務所に提出します。
2017年1月より、65歳以上の方も「高年齢被保険者」として、雇用保険の適用対象となりました。高年齢被保険者として退職する従業員が再就職を希望している場合、受給要件を満たせば「高年齢求職者給付金」が受けられます。高年齢求職者給付金は年金と併給が可能です。
なお、給付金を受けるには、離職後に住居地管轄のハローワークへ求職の申し込みをした上で、以下の受給資格の決定を受ける必要があります。
・離職していること
・積極的に就職する意思があり、いつでも就職できるが仕事が見つからない状態にあること
・離職前の1年間に雇用保険に加入していた期間が通算6カ月以上あること
高年齢者の退職の際には、退職後の再就職の意思を確認するとともに、高年齢求職者給付金についても、説明を行いましょう。
(参考:厚生労働省『雇用保険の適用拡大等について』)
弁護士などの退職代行から連絡があった場合
退職代行とは、退職の意志の伝達やその後の手続きを従業員に代わって行うサービスです。退職代行から従業員の退職に関する連絡を受けた場合も、基本的に従業員の退職を拒否することはできず、円満な退職に向けて手続きを行うことになります。その際、代行者によって対応できる業務が異なるため、代行者の職業を確認し、権限や合法性を確認することも重要です。
退職代行を利用する従業員は、パワハラやセクハラなど、会社との間に何らかのトラブルを抱えている場合が少なくありません。そのため、個別のケースに応じた対応が必要となるでしょう。また、退職代行を利用するケースでは、退職までの期間に本人が勤務しない場合も十分に想定されます。業務の引き継ぎや周囲への影響に配慮する必要があることにも注意が必要です。
(参考:『【弁護士監修】もし退職代行から突然連絡が来たら?適切な対応方法と、企業が対応すべき7つのこと』)
まとめ
従業員の退職が決まったら、担当者は退職までの期間の中で、退職金の準備や退職証明書など関連書類の作成、社会保険や雇用保険、税金の手続きなどを的確に行う必要があります。
退職する従業員の意向や退職後の再就職の有無によって必要な手続きが異なる場合もあるため、従業員の意思や状況を確認しながら進めることが大切です。
また、退職の種類や雇用形態などによっても、必要な手続きが異なるため、就業規則をはじめとする規則の確認も欠かせません。チェックリストも参考にしながら、退職手続きを滞りなく進めましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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