事業成長を妨げる思考停止から脱却せよ。コロナを言い訳にしない組織づくり

株式会社RECOMO(リコモ)

代表取締役社長CEO 橋本 祐造

1978年生まれ。2002年に早稲田大学卒業後、NHKに入局、営業職として従事。その後、人材コンサルティング会社を経て、GMOインターネット株式会社で人事として活躍。以来、複数社で人事責任者として全社の人事戦略の策定や実行に携わる。2019年4月に株式会社RECOMOを創業。「人の可能性・価値を最大に広げる社会を創ること」を理念に掲げる。

コロナ禍を機に、人と組織の間にズレや思考停止が起きた
変わるHRトレンド。世の中に「逆行」することで得られるもの
人事部は、企業の価値を上げる「バリューアップセンター」

2020年は新型コロナウイルス感染拡大により、人々の働き方や価値観に大きな変化が起きた年でした。経営者や人事担当者はこの変化をどう捉え、何を学び、企業人事の将来像をどのように描いていけばいいのでしょうか。この漠然とした問いのヒントをいただこうと、株式会社RECOMO(リコモ)CEOの橋本祐造氏にお話を伺いました。

橋本氏は新卒3年目から15年間、人事領域で現場、マネジメント、経営のレイヤーで経営者のビジョンを実現する人事組織戦略の策定・実行の経験を積んできました。前回(※)お話を伺った後にRECOMOを立ち上げ、現在は数多くの経営者のパートナーとして縦横無尽に活躍されています。「人の可能性と価値を最大化したい」…そう願う彼がこの激動をどう捉え、どう行動してきたのか。また目まぐるしく変化するHR業界の中で、気になったトレンド・キーワードを振り返っていただきました。

※参考:中途入社=即戦力ではない。社員定着率97%の橋本氏が語る中途入社者への向き合い方

コロナ禍を機に、人と組織の間にズレや思考停止が起きた

──今回約2年ぶりにお話を伺いますが、その間に橋本さんは独立されましたね。何か変化やきっかけがあったのでしょうか?

橋本氏:ありがたいことに、2019年初頭から「CHRO(最高人事責任者)として我が社に来てくれないか」というお話をいただく機会が増えたことが、独立を考えるきっかけになりました。こうした打診が増えた背景として、HR業界の緩やかな変化を感じています。

 

橋本氏:私はスタートアップやベンチャーといった急速に拡大・成長する企業で、プレイヤー、マネジメント、経営チームの中で人事経験を積んできました。こうした環境では、ひとまず人材を獲得して、会社の成長やスピード感についてこられない方は切り捨てていくような事例が比較的多かったと感じます。

しかし私は、ただ採用するだけではなく、経営者のビジョン実現の視点から、いかに中長期で人材を組織に定着させるかという「オンボーディング」を重視し、会社全体で実行していました。事業成長と組織成長はセットで考えないと、成長の途上でじわじわと組織が崩壊していきます。こうした考えが企業の経営層にも浸透してきたからこそ、CHROとしての引き合いが増えたのではないかと考えています。

──オンボーディングが大切だという橋本さんの考えが、世に浸透するようになったんですね。オファーをくれた企業には入らなかったのですか?

橋本氏:私はもともと「人の可能性や価値を最大に広げたい」という想いを持ち、企業の経営資源の中の「人」が鍵を握っていると考えたことから、人事の道を選びました。なるべく多くの企業が人を軸にした強い組織の状態になるように貢献したかったんです。

お誘いいただいた企業に入れば、おそらく安定した人生を送ることはできたでしょう。でも自分で起業し、いろんな経営者の相談に乗ったり、人事戦略や事業について一緒に考えたりするような存在になれたら、より多くの会社を支えられると考えました。信頼できるパートナーと出会えたことが最大の契機となり、2019年4月にRECOMOを設立したのです。

──その起業から1年と経たないうちに、激動の2020年がやってきました。この1年でHR領域で最も大きく変化したことは何だと思いますか?

橋本氏:この1年で起こったのは一見、「リモートワーク」や「ジョブ型雇用」など働き方の仕組みの変化だと捉えられがちです。しかしそれ以上に大きかったのは、働く人と組織との間で大きなズレ・隔たりが生じたことではないでしょうか

まず働く人にどんな変化が起きたのか。たとえば2020年4月に入社した新入社員の中には、まだ一度もオフィスに出社したことがない方もいるかもしれません。しかも同じ事態が日本だけではなく世界中で起こっている。世界共通で働き方の大きな変化に直面しているのは、歴史上初めてだと思います。

ただこの新しい動きに対して、人を受け入れる企業側はあまり変わっていません。在宅ワークやフレックス勤務などが採用されやすくなっただけで、定時や定年など既存の枠組みは残ったまま。以前から人と組織との関係性はズレがちではありましたが、この1年でさらにかみ合わなくなったと感じています。

──人と組織のズレが促進されてしまった主な理由は、何だと思いますか?

橋本氏:対面コミュニケーションができなくなったことが主な理由です。今まではオフィスで顔を合わせて会話したり、顔色をうかがいながら仕事を頼んだりして、自然とズレを解消していました。

しかし、現在のコミュニケーションはチャットベースになり、「今よろしいですか?」と一言声を掛けてから本題に入るように。気軽なコミュニケーションが難しくなってきたことで、人と組織とのズレが大きくなってきたと感じています。

こうした環境の中で、私が一番まずいと思っているのは「思考停止が起きている」ことです。

──思考停止。それはどのようなことでしょうか。

橋本氏:たとえば、働き手側からは「うちの会社は副業ができないから駄目だ」「リモートワークができないのは困る」、会社側からは「副業は本業に差し障りがあるから認められない」「リモートワークは統制が取れないから難しい」といった声をよく聞きます。

本来は「じゃあこの現状をどう変えていけばいいのか」と会社側が考えなければならないのに、「駄目」「できない」というところで思考が止まっているケースが多いです。

その原因は2つあり、1つはチャットベースのコミュニケーションになったことで、意思決定者の心のシャッターが下りやすくなっていること。対面なら感情が動いたであろうことも、テキストだけだと難しく見えて、すぐ「できない」という判断になってしまうんです。もう1つは、施策を誤ったときに、社会的な批判が起こりやすい環境になったからです。

――確かにSNS上で、自社や他社の取り組みに対する批判を目にすることが増えました。

橋本氏:これまでは、会社の意思決定者に面と向かって「こうやって変えていきましょう」と進言できていたのに、最近はなぜか話が通りづらいと感じている人事担当者がいると聞いています。

しかし、働き手によってより良い制度を導入したり、 変更を提案したりできるのは、人事担当者がやるべきことの一つです。制度導入・変更のメリット・デメリットや最適なタイミングを、冷静に分析して進言すること。これを地道に続けていけば、思考停止脱却への道が開けると思います。

変わるHRトレンド。世の中に「逆行」することで得られるもの

──近年のHR業界では「リファラル採用」「複業」「DX」など、さまざまなトレンドワードが生まれました。橋本さんが注目されているワードは何ですか?

橋本氏:どのワードも気になりますが、私は特に2つのワードに注目しています。1つは、「パーパス(purpose・存在意義)」。社会の中で自分たちの会社なぜ存在しているのかという存在意義を、経営理念に記載する企業も見掛けるようになりました。

これまで主流だったミッションやビジョンでは、「会社から与えられるもの」という印象が強く、個々人に落とし込みにくかったという背景があります。しかしパーパスは、自分がこの会社で働く理由ともつながりやすいので、結果的に人と組織とが同じ価値観で働けるようになる効果があるのではないでしょうか。今後は「ミッションとビジョン」ではなく、「パーパスとビジョン」を掲げる組織も増えていくと考えられます。

(RECOMO提供)

──確かにパーパスは、自分の内から出てくるイメージがありますね。

橋本氏:もう1つ注目しているのは、「生産性」です。私には以前から、自分が何に対してどれぐらい時間をかけているのかログを取り、定期的に眺めるという趣味がありまして(笑)。そのログを見返していたとき、自分は「今、興味関心を持っていることに時間をかけているんだな」と気づきました。

これを仕事で考えてみると、「自分は経営者もしくはお客様のパートナーとして、適切な業務に時間を十分にかけられているんだろうか?」という見極めポイントが生まれます。ビジネスパーソンとしての生産性をチェックするために、行動ログを取ってタイムマネジメントに意識を使うことは、実はとても重要なことではないかと思っています。

自分の行動を全社員に公開している経営者もいますよね。その行動を見れば、経営者が何に時間を使いたいと思っているのか、その意思がわかるはずです。

──他にもDXなどデジタル領域のワードも多く出てきていますが、このあたりについてはいかがでしょうか。

橋本氏:おっしゃる通り、トレンドワードには比較的デジタルの話が多く挙がりますよね。そういうとき私は、逆にアナログに注目します。たとえばメールやチャットといったデジタルツールがメインで使われている今、たとえば手紙を送ると間違いなく印象に残るでしょう。

そして数年後に時代がアナログ寄りになったら、次はデジタルの手法を使っていく。世の中にあえて逆行すると、さまざまなアプローチがより際立って効果的になると考えています

──これまでにはどのような「逆行のアプローチ」をされていましたか?

橋本氏:私が人事になりたてのころは求人広告の活用が一般的で、人材エージェントは「単なる人の紹介屋」と揶揄されていたんですよね。私はあえて、徹底して人材エージェントを活用しました。すると飽和状態になっている求人広告よりも高確率で、会社にマッチした人材と出会うことができました。

その後人材エージェントがメインで利用される時代が来たら、私はダイレクトソーシング、つまりスカウトメールを使うようにして。その次はリファラル、そして求人広告と、常に逆張りの発想で行動しています。

──業界の動きは、橋本さんを追随しているように思います。やみくもに周りと逆のことをするのではなく、ある程度先読みする力が必要ですね。

橋本氏:逆行のアプローチの大本は、「本質を捉えること」ではないかと思うんです。たとえばリファラル採用やダイレクトソーシングが上手に扱えるようになったとして、この先トレンド転換した後もその手法が役立つとは限りません。常にアプローチスキルばかりを追っていると、労力の割に自分の身になる財産は得られないのではないでしょうか。

企業が人を採用する本質は、持続的な成長を実現するためです。そして人が企業に入社する本質は、自分がやりたいことを会社や仕事、チーム・組織を通じて実現することにある。ですから採用のシーンで問われるのは表面的なスキルや経験の確認ではなく、どんな人生を送りたいのか、大事にしている価値観は何か、という人の本質的な部分の対話だと考えています。

人事部は、企業の価値を上げる「バリューアップセンター」

──先ほどチャットコミュニケーションの話もありましたが、普段から経営層とのコミュニケーションに課題を感じる人事の方は多いです。何かアドバイスはありますか?

橋本氏:はい、私が相談に乗っている企業からも、チャットコミュニケーションが主軸になったことで、経営陣からは現場のメンバーが何を考えているのか分からない、現場のメンバーからは経営陣が何を考えているのか分からない、という声を以前よりも一層聞くようになりました。こうした悩みの裏には、チャットコミュニケーションに移行する以前の対話でも、経営陣、現場の両方で、本当の姿が見えにくい状況があったのだと思います。

経営者と話す際に大事にした方がいい鉄則は、「経営者の言語」で話すこと。その言語とは、売上や利益などの経営指標・財務指標の数字です。直近の話であれば損益計算書(PL)、未来の話なら貸借対照表(BS)に記載されている数字に直結するような話をします。「うちの会社をもっと良くしたいんです!」という話し方だけでは、なかなか受け入れられないでしょう。

さらに経営者は3年から5年、10年先の未来を見据えて、アナログ・デジタル、マクロ・ミクロという4つの視点から物事を俯瞰して見ています。よって経営者と話すときは、直近ではなく未来の話をするようにします。長期的に見てそのアイデアが会社にどのような利益をもたらすのかを考えた上で、施策などを提案してみてはどうでしょうか。

──なるほど。経営者と同じ視座を持つのですね。

橋本氏:あとは、経営者の気持ちを想像してみること。視座を合わせるとは、つまり「相手の気持ちになって考えること」だと思います。経営者が今何を考えていて、どうしたいと思っているのかを考えてみましょう。

経営者は基本的に孤独なんですよね。経営に不安があっても社員には相談できないですし、会社で融資を受ける際に借金をつくったと家族に言えば、過度に心配されるじゃないですか。そんな経営者にいつでも寄り添って、「実は昨日こんなことがあってね」と愚痴を言われるくらいの存在になりたいですよね。

ただ、その経営者側の言葉を用いて社内スタッフに話をすると、これもまた受け入れられません。

──言語が違うからでしょうか?

橋本氏:その通りです。現場では数字や未来の話ではなく、感情を込めた言葉で。さらに時間軸は直近の話をするのがポイントです。こうした2つの話し方・考え方を使い分けられると、人事担当者として一段レベルアップできると考えています。

──HR業界は今後も変化を続けると思います。その中で人事担当者はどのような行動を取り、荒波を乗り越えていけばいいのでしょうか?

橋本氏:私が人事担当者に必ず言っているのは、自分たちを自ら「コストセンター」と言うのではなく、企業の価値を上げる「バリューアップセンター」だと言うようにすること。まずはこの認識を持って、どうしたら企業の価値を上げられるのかを考えることから始めたらいいと思います。

そして経営者と現場に対して、それぞれの言語と考え方で関わりながら、ミッション・ビジョン・パーパスを社内外に対して発信していきます。経営者と同じ視座を保つ努力をしていないと、採用計画の達成や1人当たり採用コストの削減など、些細な目先の目標にとらわれてしまうでしょう。

そして現場では、一人一人の想いや可能性、価値をしっかりと拾い上げて、感情をもってその人に寄り添っていきます。あなたは社員やスタッフの入社理由や働く目的、成し遂げたいことを知っていますか?

働き手一人一人に横断的に接することができる唯一の部署が人事部です。その気概で業務に当たれば、何か新しい制度や施策を実現するときにも、おのずと味方が増えるはずですよ。

──経営者と現場に対して適切に切り替えながら、フルスロットルで関わっていく。ある種のバランス感覚が必要そうですね。

橋本氏:そうですね。人事担当者は最終的に人格者になることを目指すのが良いと思います。ただ、一足飛びにそうなることはできないので、日々の中で起きる事象に本気で向き合い、少しずつでも自身の人間力を高める努力をしていくと良いのではないでしょうか。まずは今流行しているものがなぜ大衆に受け入れられているのかを分析してみると、人の心の動きや本質が見えてくると思います。

取材後記

2019年に続き2回目の登場となった橋本さん。さらにパワーアップされた橋本さんが今思っていることを、率直に語っていただきました。

世の中が大きく変化する中でも、変わらないのは「人」。そう橋本さんが語っていたのが印象的でした。どこまでも人の可能性に焦点を当て、人を大切にする姿勢はこれからもずっと変わらないのでしょう。どんなに忙しくとも、丁寧かつ真摯に人に向き合っていこうと思った時間でした。

画像提供:株式会社RECOMO
取材・文/金指 歩編集/檜垣 優香(プレスラボ)・d’s JOURNAL 編集部