望まない離職を防ぐために – オフィスでの「食」を切り口に、健康経営を考える

株式会社OKAN

代表取締役CEO 沢木 恵太(さわき けいた)

1985年、長野県生まれ。フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う企業で事業立ち上げに携わり、web系ベンチャー企業での事業責任者、教育関連事業のスタートアップに初期メンバーとして参画。食生活の乱れから体調を崩した自身の経験を通して、2012年に株式会社OKAN(当時:CHISAN)を設立。法人向けぷち社食サービス「オフィスおかん」、組織課題の可視化ツール「ハイジ」を運営。

健康経営には“アップサイド”と“ダウンサイド”の両面でメリットがある
「望まない離職」に直結する健康問題を取り除くために
健康経営の施策を従業員に浸透させるための、3つの取り組みポイント

「健康経営」(※1)というワードを最近耳にした、という人は多いのではないでしょうか。経済産業省からの推進を受けて、「健康経営銘柄」(※2)に選定された企業を投資面から評価する動きもあり、多くの企業で関心が高まっています。

(※1)健康経営はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。
(※2)東京証券取引所の上場会社の中から選定される、従業員の健康促進に寄与する取り組みを行う企業。

 
とは言え、健康経営とはどのように行うものなのでしょうか。また、従業員の健康が守られることで、企業の経営にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

「食」の面から従業員の健康を支える取り組みとして、オフィスにお惣菜を常備できるサービス「オフィスおかん」を提供している株式会社OKANの代表・沢木恵太氏に、健康経営とはどのような考えなのか、また今なぜ経営課題として考えるべきなのかを伺いました。

健康経営には“アップサイド”と“ダウンサイド”の両面でメリットがある

「オフィスおかん」は2014年からサービス提供されていますが、当時と比較してユーザー企業のニーズに変化はありますか?

健康経営には“アップサイド”と“ダウンサイド”の両面でメリットがある

沢木氏:
サービスを開始した当時は、「オフィスおかん」を“なんだか目新しいモノ”という観点で取り入れてくださる企業が多かったですね。最近は「オフィスおかん」を使ってどのようなことを達成したいのかという、目的をより意識されている企業が増えていると感じています。

その中でもよく聞かれるのが「健康経営」です。「ホワイト500(健康経営優良法人のうち上位500社)」の取得や、「健康経営指定銘柄」を目指したいといった目的があり、そのための手段として「オフィスおかん」を導入する企業がいらっしゃいます。

これらの動きもあり、健康経営のために何かしらの取り組みをしようという企業が増えていることは感じていますね。

健康経営を行うことでもたらされるメリットには、そうしたイメージアップなどもあるのですね。

沢木氏:そうですね。社内にもたらされるメリットとしてはもう2つあります。1つは生産性の向上。単純に考えて、健康な人の方がパフォーマンスが高く、意欲的に仕事に取り組めるでしょう。こうした生産性やコストパフォーマンスの向上を促進する“アップサイド”の役割に加えて、私たちのサービスがより重視しているのは、もう1つの“ダウンサイド”側のリスクヘッジです。

リスクを減らすための健康経営ですか?

沢木氏:2000年以降、日本の労働人口は減少トレンドに入っています(参考:厚生労働省『厚生労働白書』)。従業員が辞めてしまったときに、次の人材を採用するのが難しくなってきました。いかに採用するか、というエントリーマネジメントに加えて、いかに離職せず自社で長く働いてもらうか、というリテンションマネジメントの視点で考える必要が出てきたのです。

実際に、「オフィスおかん」を導入されている企業は、IT系や医療福祉、サービス業など、特定職種の離職率が高い企業がやや多いことから、辞めてしまう人を減らすための施策に取り組んでいるのではないかと考えています。

リテンションマネジメント

「望まない離職」に直結する健康問題を取り除くために

健康経営と離職問題は切っても切れない関係なのですね。

沢木氏:私自身、新卒として入社した企業では無茶な働き方をしていたんです。連日長時間の残業をし、食事はオフィスの置き菓子をつまむ程度。それでも仕事は楽しくやりがいを感じていたし、辞めたいと思ったことはありませんでした。でも、体はそれについてこられない。やがて体調を崩し、思うように働くことができなくなりました。そのとき「今の仕事を辞めなくてはならないかもしれない」と不安になったんです。

周囲を見渡してみると、健康問題以外にも育児や介護、人間関係など、仕事と直接関係のないことが原因で離職する人たちが意外と多いことにも気付きました。そうした経験の中で、特に健康を損なうことによる「望まない離職」をなくしたいなと思ったのが、「オフィスおかん」の始まりです。

「望まない離職」に直結する健康問題を取り除くために

健康経営には、生産性向上などのアップサイド面と、離職防止などのダウンサイド面からアプローチできます。従業員がより高いパフォーマンスを発揮でき、離職に直結するような致命的な問題が起こらない状態を理想とするなら、「オフィスおかん」も従業員の健康面からそこに寄与できるのではと感じました。

職場での健康を支える手段として、特に“食”にフォーカスしたのはなぜでしょうか?

沢木氏:健康経営というのは、つまり職場での生活習慣の改善を指します。人間の基本的な生活習慣は食事・運動・睡眠ですが、その中で最も職場で取り組みやすいのは食事だと考えました。会社員の多くは勤務中に食事を取りますから、食事にまつわる施策は日常的な行為として浸透しやすいだろうと。

健康経営に関する施策で失敗しやすいのは、制度として開始しても、健康意識の高い一部の従業員にしか利用されないことです。ですが、健康経営に参加してほしいのは、むしろ健康に対して無頓着で意識の低い従業員のはずです。食事に関する取り組みであれば、そうした人たちも巻き込みやすいのではないでしょうか。

健康経営の施策を従業員に浸透させるための、3つの取り組みポイント

健康診断で異常がないので、健康については特に気にしない…という従業員を抱えている企業も少なくなさそうです。こうした従業員にはどのようにアプローチするのがよいのでしょうか?

沢木氏:大切な要素として、「モチベーションをつくること」「日常に溶け込んでいること」「メッセージング」の3つがあります。まずモチベーションづくりですが、いくら健康に良いと言われても、健康に関心のない人を動かすのは難しいですよね。そのため、健康以外のポイントでモチベーションをつくるのが効果的です。

たとえば「オフィスおかん」のお惣菜は栄養士が考案したメニューをそろえて健康に配慮をしていますが、1個100円と安価ですし、オフィスの中に置かれているので社外へ買いに行く必要がありません。「健康」以外に「安い」「便利」というメリットを用意して、健康意識の低い人たちにも利用するモチベーションを持ってもらいやすくしています。

健康経営の施策を従業員に浸透させるための、3つの取り組みポイント

さらに、より日常的なものにすること。奇をてらった制度や特別感の強い制度は、どうしても参加ハードルが高くなります。健康経営について「何かやってみよう」と新たにトライするときほど、できるだけハードルを下げて成功体験を得るのが大切ではないでしょうか。施策を行う側も、「社員の健康意識を高める」という高過ぎる目標ではなく、その第一歩として日常的に制度を利用してもらう、というような小さな行動変容を目標にするのも良いですね。

3つ目の「メッセージング」というのは?

沢木氏:その取り組み自体をなぜ行うのかを、人事やトップがしっかりと発信することです。「オフィスおかん」の導入企業の社員の方にヒアリングを行うと、「なぜ『オフィスおかん』が導入されていたのかわからない」という人が想像以上に多いんですよ。

ある企業では、「オフィスおかん」の導入をはじめ、健康経営にまつわる取り組みにチャレンジしたチームに「社長賞」を与えて表彰しました。「オフィスおかん」というサービスを導入するだけでなく、その責任者を評価することで、自社が健康経営に積極的に取り組む企業であると、社内に伝える役割も果たせます。

メッセージング

健康経営において、企業が気を付けるべきなのはどのような点でしょうか?

沢木氏:目的をはっきりさせることです。従業員が健康になることそのものは、極端に言えば経営に直接プラスになることではありませんよね。従業員の健康状態が改善した結果、生産性が向上する、離職者が減る、採用費用が下がる…といった数字の変化を起こすのが、健康経営の目的です。

健康経営そのものが目的になるのではなく、健康経営を通して自社のどのような課題を解決したいのかを企業がしっかりと意識し、取り組む必要があるでしょう。

健康経営を通して自社のどのような課題を解決したいのか

【取材後記】

健康への関心が高いか低いかにかかわらず、全ての社員が行う“食事”を通して健康を支える「オフィスおかん」。健康経営の目的は従業員の健康促進だけでなく、その先にある経営課題の解決であると沢木氏は強調しました。従業員にも企業にもネガティブな出来事である「望まない離職」を防ぐためには、自社が解決すべき課題を明確にして、健康経営に取り組む必要があると言えそうです。

(取材・文/藤堂 真衣、撮影/長野 竜成、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・齋藤 裕美子)