【事例5社】コロナ禍で社員のやる気低下?リモートでやる気をアゲる「マネジメント・制度・コミュニケーション」術

スマホで「在宅」と検索すると、「やる気」「暇」「眠い」など、モチベーションの低下に関連するワードが上位に表示されます。株式会社emphealの調査によると、在宅勤務により「若年層で、集中力・モチベーションが低下気味」「疲労感の蓄積は、やはりストレス面にも影響」といった結果が出ています。最初は新鮮さもあり、在宅で柔軟に働けることを歓迎する声もあったリモートワークですが、次第にリモートワーカーの多くが、ある壁に直面するようになりました。それは「やる気の低下」です。

本記事では、オンラインでも社員のやる気の維持・向上に成功している5社の事例をご紹介。「マネジメント」「制度」「コミュニケーション」の3つの視点から、社員のやる気をアゲるTipsやベースとなる考え方が見えてきました。

『マネジメント』でアゲる――「1日1褒め」の実施と属人化を防ぐチーム制

(写真提供:株式会社ニット)

バックオフィス系業務の生産性向上に貢献する、オンラインアウトソーシングサービス「HELP YOU」を提供する株式会社ニットは、約400名のメンバー全員がリモートワークです。国籍や性別を問わず、多様性あふれるメンバーが、世界中で業務を行っています。同社の代表取締役である秋沢崇夫(あきざわ・たかお)氏に、メンバーのモチベーションを支える秘訣について、マネジメントの視点から伺いました。

「リモートワークにおいて、メンバーのモチベーションを保つには、『オフラインマネジメントをそのままオンラインに適用するだけでは機能しないこと』を理解することが大切です。たとえば、当社は1on1ミーティング(月1回)や、コミュニティーマネージャーとのミーティングなど、対話の機会を定期的に実施。また日々のコミュニケーションでは頻度を大切にしています。週に数十分の時間を確保するよりは、毎日3分でもメンバーと話す方が重要ですまた、『1日1褒め』を心掛けて、メンバーに歩み寄ることを大切にしています。

チーム制の目的(写真提供:株式会社ニット)

また、ニットではチーム制を取り入れています。リモートワークでは、コミュニケーションが減少し、業務の属人化が起こりがち。そこで1つのタスクを複数のメンバーで担当し、タスクの見える化とフォローし合えるチーム制の関係構築をしています」

これから先、オンラインマネジメントは市場価値の高いスキルになるでしょう。コロナ禍による働き方の変革を前向きに捉え、オンラインの良いところを最大限に活かすことで、メンバーのコミットメントを引き出すことが求められます。

『制度』でアゲる――マーブルワークスタイルと在宅勤務環境整備のための特別支援

(写真提供:株式会社ミクシィ)

株式会社ミクシィでは、リモートワークとオフィスワークを融合させたマーブルワークスタイルを2020年7月から試験運用開始。同社の労務部 労務企画グループ西花菜(にし・はな)氏に、マーブルワークスタイルの制度や、リモートワークでの支援について伺いました。

「マーブルワークスタイルは、出社を基本とし、週3日までリモートワークを可能にして、フレックスタイム制のコアタイムは従来の10〜15時を12〜15時に短縮。社員は、日々の業務内容やミーティングの有無などに応じて、リモートワークとオフィスワークを選択することができます。

リモートワークに移行した昨年3月末以降、在宅勤務の生産性向上のために、段階的に支援策も充実させました。初期のリモート環境構築のために、合計2万円を上限とする補助を行ったのち、在宅勤務環境を充実させるための特別賞与5万円を社員に支給。慣れないリモートワークの中でも成果を上げることができるようにと考えました。

マーブルワークスタイルの目的は、社員の生産性を最大化する働き方を実現すること。これが実現できれば、自ずと社員のモチベーションは向上すると考えています」

注意すべき点は、モチベーション向上のために、よく考えずに制度を始めてしまって収拾がつかなくなってしまうこと。今後ミクシィでは、リモートワークを活用したより広い概念のマーブルワークを視野に入れて、福利厚生ではなく成果向上につながる働き方の実現を目指しています

『コミュニケーション』でアゲる――定期的に現場の声を吸い上げる場「何でも質問会」「毎月のサーベイ」

(写真提供:株式会社SmartHR)

クラウド人事労務ソフトを提供する株式会社SmartHRでは、昨年163名(全社員のおよそ半分に相当)の新入社員(※)が入社しました。新入社員のモチベーションをオンラインでどのように高く保ち続けることができるのか、人事グループの六原恵(ろくはら・めぐみ)氏と、執行役員・VPヒューマンリソース(人事責任者)の薮田孝仁(やぶた・たかひと)氏の2名に伺いました。

(※)新入社員は全て中途入社者。2021年3月現在、新卒採用は行っていない。

同社は、オンボーディングとしてさまざまな対策を実施しています。特に注目すべきは、オンラインで社員が積極的に参加したくなるような交流の「場」づくりの工夫

「実はわかっていなかった、聞けていなかったことをまとめて質問する場としての『何でも質問会』は、入社後3週間ごろに実施し、他にもシャッフルランチや締め会(前月のおつかれさま会)なども開催しています。新入社員が、既存社員や経営陣と関わる『場』を一度ではなく何度も設けて、交流のハードルを下げることが人事の役割ではないでしょうか」

また、新入社員に限定したアンケートとサーベイを計測し続けていることも、同社のオンボーディングにとって重要な意味を持ちます。社員数が急激に増え続ける中、モチベーションの落差を生じさせないためにも、全社的な対策だけにとどまらず、各部門・個人の意見にも耳を傾けることで、現場の声を定期的に吸い上げる必要があります。

ローマは一日にして成らず。突然、派手な対策を実施するよりも、地道な対話を積み重ねていくことが、モチベーション継続には大切です。

『コミュニケーション』でアゲる――バーチャルオフィスでコミュニケーションを「見える化」

ソニックガーデンのバーチャルオフィス「Remotty」の画面(写真提供:株式会社ソニックガーデン)

「納品のない受託開発」を提供し、ビジネスの成長をソフトウェアで支える株式会社ソニックガーデン。2016年にオフィスを撤廃し、現在全ての社員が「Remotty(リモティ)」(同社が手掛けるバーチャルオフィス)で毎日勤務しています。バーチャルオフィスでのコミュニケーションだけでもリモートワーカーのモチベーション向上につなげることができるのでしょうか。Remottyの責任者である八角嘉紘(ほすみ・よしひろ)氏に伺いました。

「Remottyは、とことん『オープン』なオフィスです。社員の表情をはじめ、談話室に誰がいるのか、あるいはチャットの内容など、あらゆることが可視化されています。すると、他の社員の視線を意識して集中力がアップするだけではなく、リモートワークで失われがちなカジュアルな交流で、働きがいの向上へとつながります

職場のコミュニケーションに対するデジタルソリューションの4象限(写真提供:株式会社ソニックガーデン)

バーチャルオフィスはリアルオフィスの代わりではなく、次世代の新しいオフィスだということソニックガーデンではコロナ禍に関係なく、社員がバーチャルオフィスに集まって働くことで、生産性が高い状態をつくっています。

リアルオフィスの不便なところを取り入れる必要はありません、むしろプラスアルファの価値を提供できると考えています。たとえば、あらゆるコミュニケーションを可視化して記録しておくことは、経営・人事戦略においてモチベーション向上にとどまらない価値をもたらします

バーチャルオフィスは決して万能薬ではありません。大切なことは、導入の目的をきちんと考え抜き、社員の意識と歩調を合わせて、少しずつ準備を進めていくことです。そうすれば、リモートワークでも社員のやる気をUPさせる頼もしい味方となるでしょう。

『コミュニケーション』でアゲる――年間5万PV。本気すぎる社内報『GNN』で社員同士をつなぐ

(写真提供:株式会社GA technologies)

「世界のトップ企業を創る」をビジョンに掲げ、Prop Tech(不動産×テクノロジー)サービスを手掛ける株式会社GA technologies(GAテクノロジーズ)の本気過ぎる「インナーコミュニケーション」について、Chief Communication Officer(CCO)の川村佳央(かわむら・よしひろ)氏に伺いました。

GA technologiesが取り組むさまざまなインナーコミュニケーションの中でも、同社のイントラネット内の社内報『GA NEWS NETWORK(GNN)』の事例が興味深いです。

「『GNN』は、200%の急速な成長を遂げる当社の社員同士を知る・交流する場として、年間約5万PVを誇ります。社員数が増えれば増えるほど、ましてやオンラインで顔を合わせない自部署以外の社員は、業務で関わる人を除いてほとんどが知らない顔になります。たとえば『GNN』の社員名鑑では、全社員一人一人にフォーカスし、抽選でランダムに選んだ社員の紹介記事を順に公開。仕事での役割や、これまでの経歴、趣味などパーソナルな情報まで合計30を超える質問に回答していただく形式で公開しています。

GNN、社員名鑑の画面(写真提供:株式会社GA technologies)

また、社員番号2桁までの古参社員が語る動画企画「KATARI BAR」では、創業期の同社のエピソードを展開することで、カルチャーを語り継ぐ取り組みを実施。

コンテンツを提供するだけではなく、データを分析することで社員のエンゲージメントを測定しています。たとえば、1年間『GNN』へのアクセスがない社員がいれば、モチベーションの状況を上長にヒアリングするなど、社員のモチベーション低下を防ぎます

こうした取り組みを、ただまねるだけではまったく意味がありません。大切なことは、課題の発見から解決に至る思考プロセスを明確にして対策を打つことです。

まとめ

5社の事例に共通することは、「オンラインだからできること」にスポットライトを当てて、単発形式で終わらせずに導入すべき理由を考え、検証データを蓄積し、それを今後の改善に活かす。地道に実直にリモートワークと向き合っていることです。

さらに、オフラインの代替としてオンラインを捉えるのではなく、オンラインを活かして、これまで生み出されてこなかったイノベーションや、生産性の向上につなげているところも共通しています。

以上から、5社の事例をただまねるのではなく、自社の経営理念やカルチャー、ビジネスモデルにマッチするかどうかを、きちんと検討する必要があります。社員は、企業や事業の核となる資産。社員のやる気の低下は、企業にとって大きな経営課題です。5社の事例より、企業によってアプローチがさまざまで、絶対解はありません。しかし学ぶべきことは多くあります。本記事がみなさんの参考になれば幸いです。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/師田賢人