初めて後輩や部下を持ったときに読みたいマンガ5選

マンガナイト
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春になり、異動や新入社員の入社などで後輩や部下ができた人もいるでしょう。自分の業務だけでなく、人のことを考え、教えるというのは大変なこと。「自分が後輩・部下だったときはこうだったのに」と悩んだり、時には「あいつは甘えている」と憤りを感じてしまったりすることもあります。今回は、初めて後輩や部下を持ったときに読みたいマンガ5作品をご紹介します。決して完璧ではない彼・彼女らの振る舞いから、部下や後輩を持ったときの心構えを学んでみてはいかがでしょうか。

熱い気持ちで仲間を鼓舞する―赤木剛憲 『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社)

『SLAM DUNK(スラムダンク)』(井上雄彦/集英社)の赤木剛憲(あかぎ たけのり)といえば、湘北高校バスケットボール部のキャプテン。197センチメートルの巨漢で、愛称は「ゴリ」。とにかくバスケットボールが好きで、小学生のころから夢は全国制覇でした。

赤木はキャプテンとしてチームにとってかけがえのない精神的な大黒柱で、リーダーシープのあるキャラクターです。しかし、主人公の桜木花道(さくらぎ はなみち)や流川楓(るかわ かえで)らが入学する前、赤木と他の部員には溝がありました。赤木は、他の部員がうそをついて部活をサボっていること、そして自身の「全国制覇」の夢をばかにされていることをたまたま知ってしまいます。赤木はそのばかにしたチームメートを投げ飛ばしてしまいますが、彼から言われたのは「強要するなよ 全国制覇なんて」「お前とバスケやるの息苦しいよ」というセリフでした。

楽しく、わいわいバスケットボールをしたい部員にとって、赤木は厄介な存在だったのかもしれません。しかし、高い目標を掲げる赤木が間違っているかといえば、必ずしもそうではありません。現に湘北高校が勝ち上がれたのは、赤木が高い目標を掲げていたからでしょう。

赤木のように高い目標を掲げる際には、周りのモチベーションが下がっていないか、独りよがりになっていないかを常に意識する必要があります。赤木のように、自分が人一倍頑張ることで部員のやる気を引き出せれば、よい先輩・上司になれるでしょう。

「自分ならこうするのに」とイライラしてしまう―東島旭 『あさひなぐ』(こざき亜衣/小学館)

『あさひなぐ』(こざき亜衣/小学館)の主人公・東島旭(とうじま あさひ)は「強くなりたい」という思いから、高校でなぎなた部に入ります。運動が不得意で、入部してしばらくは部内でも落ちこぼれの存在でしたが、努力を重ねることで精神的にも肉体的にもだんだんとたくましくなっていきます。

2年生に進級して後輩ができますが、そのうちの一人・大工原唯(だいくはら ゆい)は、おどおどしていて声が小さく、体力もありませんでした。旭は「あの子にどうしてあげたらいいのかわからない」と言い、「自分ならこうするのに」と、内心ではイライラしてしまいます。

旭が強くなったからこそ、「できない」「諦めてしまう」後輩に対して不満が募ってしまうのです。「向いていない」と泣きながら部活を諦めようとする後輩に対して、旭は優しくするのではなく、「あなたを強くしてあげられるのは、あなたしかいない」とハッパをかけます。

旭が「先輩なんて、全然楽しくないじゃない」「後輩でいられたらよかったのに」と思うように、先輩になれば時には後輩を後押しするために、嫌な役を引き受けることも必要になります。しかし、その振る舞いが、後輩にとって一皮むけるきっかけになるかもしれません。どこまで厳しく指導すればよいのかというラインは難しいところですが、相手に嫌われたくないからと、ただ優しくするのではなく、必要があれば厳しく接することも求められます。

人によって「仕事」「働くこと」の意味は違う―松方弘子 『働きマン』(安野モヨコ/講談社)

『働きマン』(安野モヨコ/講談社)では、週刊誌「JIDAI」の編集部を舞台に、スクープを求めて取材、記事の執筆に奮闘している編集部員たちが描かれます。仕事に没頭するタイプや、努力を嫌う個人主義など、さまざまな編集部員が登場します。

一度仕事のスイッチが入ると、普段の3倍の速さで仕事に没頭できる特技を持つ松方弘子(まつかた ひろこ)は、周囲から「働きマン」と呼ばれています。松方は、男か女かという前にまず一生懸命働く人であることが最も重要だと考えます。一方、松方の後輩である22歳の田中邦男(たなか くにお)は、新人編集者なのに偉そうな態度をとり、半人前の仕事しかできません。彼の尻ぬぐいも先輩である松方の役目でした。

「仕事したなーって思って死にたい」という松方に対して、「仕事しかない人生だったと思って死ぬのはごめんだ」と考える田中。連載が開始された2004年に比べて、田中のような考えの人はおそらく増加していることでしょう。ワークライフバランスが重視され、「仕事人間」という言葉にマイナスの印象を持つ人も少なくありません。その人にとっての「仕事」や「働くこと」の意味は、それぞれの環境や目標などによって大きく異なります。

さまざまな考え・信条を持つ人が働く上で、大切なのは後輩に対して自分の価値観を決して押し付けず、「業務」だから指導するということ。田中の考え方は決して「悪」ではありませんが、半人前の仕事しかできない時点で未熟な存在。先輩としては、そのことに対して人格を否定するような行動を避け、感情的にならずに指導したいところです。

言葉にすることで周りの「人」を理解していく―ジルベール 『Artiste』(さもえど太郎/新潮社)

『Artiste(アルティスト)』(さもえど太郎/新潮社)は、パリのレストランで働く気弱な青年ジルベールが成長していく物語です。ジルベールは内気で引っ込み思案な性格ですが、鋭すぎる嗅覚を持っていて、料理人として類いまれなる才能があります。下っ端である皿洗いの仕事をしていたジルベールですが、ある事件でやり手のシェフ・メグレ―の目に留まり、新店舗でソーシエ兼副料理長を任されることになります。

人の上に立つどころか、人の顔や名前を覚えることすら苦手なジルベールは、部下から「あんたみたいな男の下で働きたい奴いないよ」と言われてしまいます。しかし、ジルベールは少しずつ部下となるメンバーと会話をし、人となりを理解しようとすることで、だんだんとコミュニケーションが取れるようになっていきます。

作中でジルベールの性格が大きく変化したわけではありません。ジルベールは、部下が何を考えているのか、どうしたら相手に自分の思いが伝わるのか、どうしたら問題が解消できるのかなどを悩みながら、少しずつ解決に向けて行動しました。すると、自然と彼の頑張りが周りによい影響をもたらします。「チームの上に立つのが苦手」「人に教えるのが苦手」という人におすすめです。

違う価値観の部下に、組織の文化をどう伝える?―島耕作 『ヤング島耕作 主任編』(弘兼憲史/講談社)

「サラリーマンマンガ」として知られる「島耕作シリーズ」(弘兼憲史/講談社)。島耕作(しま こうさく)は28歳で平社員から主任になり、初めて「後輩」ではなく「部下」を持ちます。初めて部下になったのは、会社のロゴデザインを手掛けた世界的デザイナーの息子・亀渕雄太郎(かめぶち ゆうたろう)。アメリカからやってきた亀渕は「組織の輪」を尊重せず、個人主義を貫きます。島は「みんなの作業が終わって初めて仕事が終わったと考えるべき」と説明しますが、それに対して仕事は「組織ありき」ではなく「個人ありき」であるべきだと反論する亀渕。島はそれに激高するのではなく「一理ある」と理解を示した上で、「一理あるが俺は嫌いだ」と考えていました。

その後、亀渕がカタログの入稿ミスをしてしまい、一人で仕事を抱え込もうとしますが、島は「一人が徹夜しても間に合わない」と言い、社内で手伝える人を募り、チームで訂正作業を行います。その出来事があり、亀渕は自分の考え方を改め、組織での働き方の大切さを学ぶことになります。

この一連のエピソードで、島は部下に対して決して感情的にならず、あくまでも組織の一員として振る舞うべきだと説明し、冷静に解決策を提示します。島耕作シリーズはバブルの時代から今に続く、日本経済変遷の字引、サラリーマンとして組織の一員となって働く人に必読の書です。

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