『鬼滅の刃』遊郭編 炭治郎らを率いた宇髄天元から学ぶ“即席チーム”のつくり方

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方」(集英社)を共著した、代表・山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

組織内で即席チームを機能させる宇髄の機転と観察力
炭治郎が見せる、一つ高いレベルの仕事への挑戦
チャンスを広げる組織外との連携

『鬼滅の刃』のテレビアニメ第2期「遊郭編」では、音柱・宇髄天元が竈門炭治郎らを率いて、遊郭に潜伏する鬼と対峙します。宇髄が蝶屋敷の看護部隊を無理やり連れて行こうとしたところ、炭治郎らが代わりに立候補し、宇髄に同行することに。この“即席チーム”で鬼と戦うこととなります。不完全ながらも、戦いの中でチームとして機能させる宇髄の力が問われる場面です。
それでは、即席でも本来の個人の力を引き出し、勝利に導くチームのつくり方を一緒に見ていきましょう。

組織内で即席チームを機能させる宇髄の機転と観察力

同行が決まってから互いの自己紹介をしたように、宇髄と炭治郎らは、出会ったときはお互いのことをほとんど知りません。この即席チームが機能できたのは、宇髄の機転の利いた采配に加えて、炭治郎らが自分たちの力を自覚した上で、そこから独自の行動を取ったことによります。

出会った当初、宇髄は炭治郎らに多くは求めません。要求するのは、女装して店に入り込み、情報を見聞きしてくることだけ。出会ったばかりの炭治郎らの力をよく知らないからです。宇髄の指示は「鬼殺隊に所属している隊員であれば、情報収集ぐらいはできるだろう」という想定に基づくものなのでしょう。炭治郎ら3人は宇髄の指示を受けて、それぞれの店で鬼についての情報を集めます。

調査を進めた結果、鬼の実力の高さを察知した宇髄は、今のチームでは力が不十分だと判断し、炭治郎らに作戦から撤退するように指示します。命に優先順位を付けて、力のないものがむやみに命を落とすことを避けるためです。

しかし、それまでの戦いで実力を付けたことを認識した炭治郎らは、鬼との戦いを継続。戦いの中で自らの実力や鬼に立ち向かう姿勢を示したことで、炭治郎らは「逃げない根性がある」と宇髄に認められ、戦力となります。これは、宇髄が戦いの中でも炭治郎らから目を離さず、戦場で使えるかどうかを見極めようとしていたから。炭治郎らの実力が不十分だと判断すれば、戦いに巻き込まなかったでしょう。炭治郎らを認めたからこそ、「こいつらは三人共優秀な俺の“継子(つぐこ)”(=宇髄ら柱が才能を認め自ら育成する隊士)だ」というセリフが出てくるわけです。当初は1人で倒すことを想定していた宇髄ですが、最終的には戦いの全体像に炭治郎らを組み込んでいきます。宇髄の観察力と炭治郎らの前進がかみ合ったことで、即席チームは鬼を倒すという「成功」につながりました。

遊郭編の戦いの描写からは、宇髄と炭治郎らが場面に合わせて臨機応変に戦術を変えていく様子がうかがえます。遊郭に潜伏していた鬼は、「上弦の陸」という二体で一体になった強力な鬼です。当初は宇髄と炭治郎の2人が一体に、我妻善逸と嘴平伊之助の2人が組んでもう一体に立ち向かいます。しかし善逸と伊之助の2人だけでは一体を相手にするには荷が重かったと見え、炭治郎を呼び寄せて3人で戦い、相手を追い詰めます。さらに宇髄が追い詰められたことを察すると、炭治郎は素早く援護に入りました。これも、チームを組んでそれぞれが目を配りながら戦っていたからできたことです。

宇髄の観察に基づく情報収集力は、味方だけに向けられたものではありません。宇髄の強みの一つに、戦いの最中に「譜面」という独自の戦闘計算式を構築できることが挙げられます。これは戦いの最中に相手の行動などを分析して、敵の行動の律動を読み、「音」に変換します。その音を基にして譜面が完成すれば、敵の癖や死角がわかり、攻撃が届きやすくなるというものです。万全の状態で譜面を完成させれば、優位に立つことができます。実際の会社組織で言えば、敵の代わりとなる営業先など、企画を売り込みたい相手について徹底的に調査することが当てはまるでしょう。

宇髄の行動からは、即席チームを結成した際のチームのトップとしての采配を参考にすることができます。初対面では、まずメンバーに無理をさせない。実際の組織に置き換えれば、事前にチームのメンバーがどのようなタイプかがわかれば、彼らの情報に基づき、どのような仕事を振り分けられるかを判断できるでしょう。

さらに、チームのトップの仕事はそこで終わりません。宇髄が戦いの最中に、炭治郎らの動きを見極めていたように、実際に仕事を進める中でメンバーに関する情報を更新していく必要があります。チームメンバーのできること/できないことを実際の業務の中で捉え、相手についての情報を常に最新のものにし、改めて仕事を割り振ります。即席で組んだチームほど、この情報更新を素早く進める必要があります。

炭治郎が見せる、一つ高いレベルの仕事への挑戦

宇髄の即席チームが機能したのは、炭治郎らが宇髄の高い期待に応えたからだとも言えます。

前述のように、宇髄は遊郭に潜伏する鬼の強さを察した段階で、力が足りないと考えた炭治郎らを一度撤退させ、自分だけで対処しようとします。しかし、上弦の鬼との戦いを傍観せざるを得なかった「無限列車編」のときとは違い、自らの成長を実感していた炭治郎らは、自己判断で作戦への参加を決断します。結果として、前述のように宇髄に炭治郎らの戦いにおける有用性を認めさせ、チームとして鬼に立ち向かうことになりました。もちろん炭治郎らだけでは、戦闘レベルの高い鬼に立ち向かうことはできなかったでしょう。作戦全体の図面を描き、全体をけん引する宇髄がいたからこそ、炭治郎らも十分に力を発揮できたのです。

現実の社会でも、チームがより大きな力を発揮するには、優秀なトップが適切に役割を割り振りするだけでは不十分です。チームのメンバーが割り振られたことをやり遂げるだけでなく、それ以上に自分にできることはないかを模索していくことが必要になります。それは、チームのトップが「このぐらいならできるのではないか」と当初想定していた範囲を超える、より大きな成果につながることがあり得るからです。「遊郭編」のように、自分の力よりも少しだけ難しいことに挑戦すれば、自分の限界を知ると同時に、自らの能力を底上げできる可能性が生まれます。

実際に、「遊郭編」でそれまでよりもはるかに高いレベルの鬼と対峙した炭治郎は、水の呼吸と父親から学んだヒノカミ神楽を組み合わせて、独自の技を土壇場で生み出します。炭治郎自身は、その時点で自分にそれほどの才能があるとは気づいていません。彼は特別の才能がなくても、それまで学んだこと全てを無駄にせず、その時点で自分が持っているものを相手にぶつけました。厳しい局面でしたが、炭治郎は追い詰められたからこそ、これまでの以上の力を発揮し、次の段階へ進むことができたとも言えます。

もちろん、炭治郎らだけの力では鬼に勝つのは難しかったように、このような挑戦は力が不十分なメンバーだけではできません。宇髄のように全体の動きに目配りしながら、いざというときは全部をカバーできる実力者がチームにいてこそ、可能な挑戦だったと言えます。

チャンスを広げる組織外との連携

『鬼滅の刃』で見られる連携は、宇髄と炭治郎らのように組織内で起こるものだけではありません。遊郭に向かう前、宇髄らが「藤の家」に立ち寄ったように、組織外のコミュニティーとの連携も重視されています。

「藤の家」とは、鬼殺隊の外にある支援組織です。鬼殺隊に助けられた人たちを中心に、各地で鬼殺隊の活動を支えています。鬼との戦いに向かう隊員の食事や寝床の提供だけではなく、藤の家周辺で鬼に関わる情報を収集したり、それぞれの作戦に必要な物資を提供したりします。

「遊郭編」では、遊郭に向かう途中で、宇髄らが藤の家に立ち寄ります。食事や寝床を確保するほか、遊郭に潜入する炭治郎らの変装に必要な着物などを調達することが目的です。

さほど明確ではありませんが、鬼側にはこのように組織外で彼らの活動をサポートしてくれる組織の存在が描かれません。鬼側があくまで単独で情報を集め、鬼殺隊が攻めてくるのを待っているのに対し、鬼殺隊は隊員以外の人々からも、藤の家などを通じて鬼に関する情報を集め、かつ隊員の活動が円滑になるように支援を受けていると言えます。鬼殺隊外のコミュニティーである藤の家を活用し、隊の中だけでカバーできる活動よりもさらに範囲を広げていることも、鬼殺隊が鬼側よりも優位に立っている一因だと言えそうです。

【まとめ】

「遊郭編」で、宇髄天元は炭治郎らと即席のチームをつくり、上弦の陸という二体で一体の強力な鬼に立ち向かいます。しかも、この鬼は二体の頸を同時に切り落とした状態にしなければ倒せないという、難しい条件付き。しかし、これまで多くの柱を倒してきた上弦の陸を、宇髄らがやっと倒すことができたのは、即席でつくったチームから、うまく機能するチームへとまとめ上げられたからにほかなりません。これは、宇髄から任された役割の範囲を、炭治郎らがそれを大きく上回ったことで可能になりました。ここでは、観察に基づいた誤りのない情報収集や、チームリーダーの的確な判断なども問われます。「遊郭編」での宇髄のチームのまとめ上げ方は、即席でチームをつくらざるを得ない局面でこそ参考になるでしょう。

企画/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、文/bookish、監修/山内康裕