マーケティングDXは「デジタル化して完了」ではない。変化を阻む日本特有の組織の特徴とは

2022.02.09
株式会社ベーシック

取締役 COO 事業本部長・ferret One 事業部長
林 宏昌

2005年、リクルート入社。新築マンション首都圏営業部で、優秀営業を表彰する全社TOP GUN AWARDを2年連続で受賞。2014年、リクルートホールディングスにて経営企画室室長を担い、株式公開を経験。2015年、広報ブランド推進室室長兼「働き方変革プロジェクト」プロジェクトリーダーに就任。その後、広報ブランド推進室室長、働き方変革推進室室長を歴任。2017年、リデザインワークを創業。大手企業の働き方改革のコンサルティングを推進。2018年ベーシックに入社しCHROとして人事制度を刷新、現在はCOOとしてferret One事業を中心に事業全体を管掌する。

日本の組織が抱える「マーケティングDX」の課題
営業・マーケティングDXの基本を踏まえる
マーケティングDXが成功している組織の特徴は?
マーケティングDXのよくある失敗例は?
駄目なら組織外のDX専門家の力を借りるべき?

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation)の推進を掲げる企業が増加。マーケティング領域にもDXの波が押し寄せており、Webを軸とした顧客創造のニーズが高まっている。

しかし、日本では営業部がマーケティング機能を担うケースも多く、慣れ親しんだ営業手法が定着している場合、DX化などの変化を嫌う組織も少なくない。特にB to B市場においては、その傾向がより顕著だという。

今回は、国内最大級のWebマーケティングメディア「ferret」を運営し、オールインワン型BtoBマーケティングツール「ferret One」などを提供する株式会社ベーシック(本社:東京都千代田区、代表取締役:秋山勝/以下、ベーシック)の取締役 COOの林 宏昌氏に、マーケティングDXの現状について話を伺った。

自社でマーケティングツールの導入や組織編成を検討している企業は必見である。

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日本の組織が抱える「マーケティングDX」の課題

■デジタル化によって業務の効率化・生産性の向上を促す「DX」が加速しています。マーケティング領域でもDXが進んでいますが、推進において各企業が抱える課題をお聞かせください。

林氏:マーケティングのデジタル化については、実践していくための環境がまだ整っていないと感じています。

日本でも、B to C事業ではマーケティング部門がありますが、圧倒的に市場規模の大きいB to B事業においては、専門のマーケティング部門を持つ会社はまだ少数派です。

これまでB to B事業における”マーケティング的活動”といえば、営業部員による「足で稼ぐ」「電話で新規獲得する」「展示会で名刺交換」といったスタイルが主流でした。

旧来のこうしたやり方では、大きな成長は見込めないという課題を感じ始めていたところに、新型コロナウイルスの影響で対面の営業活動が難しくなり、にわかにWebマーケティングの重要度が増してきたのです。

営業の人たちが足で稼いできた領域を、「お客様自身が企業を探し、問い合わせをしてくれる」という営業手法へシフトする必要性を、多くの企業が痛感し始めました。

こうした変化にまだ対応できていないB to B企業は多いですが、一方で顧客側はオンラインで必要なサービスや商品を探すようになっています。

例えるなら、目抜き通りに人が集まっている状態なのに、デジタル化という施策が打たれた店はまだ少ないというのが現状です。施策を打って目抜き通りに出店すれば、成果が出やすい状態になると言えるでしょう。

マーケティング手法をアップデートしていくことも大切ですが、そもそも「マーケティング」という言葉の定義そのものがあいまいだということも大きな課題です。

「営業部のマーケティング領域をデジタル化しよう」と声をあげても、実際には「何をやったらいいかわからない」という声や、「マーケティングの意味がわからない」という基本的な質問さえ聞かれます。

■組織内には「営業的な仕事」と「マーケティング的な仕事」の力関係もありそうです。とはいえ、コロナ禍で営業環境は激変し、旧来の業務プロセスをデジタルシフトする必要性が生じていると思いますが、現場ではどのようなニーズがありますか。

林氏:マーケティングの領域では、売上を上げるために「新規顧客の獲得」「既存顧客の深耕」などのニーズがあります。

一方、営業の領域では「業務プロセスの効率化」のニーズが高まっています。誰がどんな案件を抱えていて、何の商談をしているのかなどといった情報群です。属人化した情報の可視化が組織成長には欠かせません。

多様なニーズがある中、目的を整理した上で手段を検討することが重要です。

DXはあくまでも手段。ですから、あらかじめ「DXを通じて何をしたいか」という部分をクリアにしておくことが大切です。目的がぼんやりしたままDX化を進めてしまうと、デジタル化・オンライン化すること自体が目的になってしまい、肝心の顧客獲得や業務改善にはつながらない施策に終わってしまうということです。

営業・マーケティングDXの基本を踏まえる

●営業・マーケティングのデジタル化によって、「業務フローの効率化」や「新規顧客の獲得」が可能になるまでの基本的な流れを教えてください。

林氏:ケースに応じて異なりますが、大きくは以下3つのステップに分けられます。

【STEP1】サービス・商品のサイトを構築
企業のコーポレートサイトを見てみると、商品・サービスについての情報が乏しいサイトが散見されます。マーケティングDXでは、商品の詳細や活用事例、セミナー情報、資料請求などを網羅した商品・サービスの専用サイトを構築することから始めることが多いでしょう。

自分たちでWebサイトの内容をアップデートし、新しい情報を発信できる環境を整えていきます。

【STEP2】集客
潜在顧客に情報を届け、Webサイトへの訪問者が増えるように、SEO対策などを施します。セミナーなどを通じて、将来の顧客となりうる「見込み顧客」とのつながりを獲得し、見込み顧客を安定して獲得できるようになってきたら、次のステップへ移ります。

【STEP3】MA(マーケティングオートメーション)
データを蓄積・活用することで、成約に結びつきやすい見込み顧客に効率のよいアプローチが可能になります。そして見込み顧客が求めている情報を適切なタイミングで提供できるフローを構築。さまざまなコミュニケーションを通じて、見込み顧客との関係を温めます。この段階になると、成果が出るスピードが早まっていきます。

マーケティングDXが成功している組織の特徴は?

■Webマーケティングのノウハウを蓄積しているベーシックから見て、マーケティングDXが成功している企業の共通点はありますか?

林氏:マーケティングDXがうまくいきやすい企業には、特徴があります。それは、「実験的」「実証的」「トライ&ラーン(Try & Learn)的」であることです。

まずはミニマムなコストでやってみる。やってみた成果や課題を分析し、方向性が合っているかどうかを確かめる。フィットしない点があれば、議論・修正を重ねていく、という感じでしょうか。

ひと昔前のIT感覚だと、「システムの初期投資が数億円」「5年かけて減価償却」というようなイメージを持つ人もいますが、現在のマーケティングツールは、コストは使った分だけにかかるものが主流です。

ですから、「自社にフィットしなかったらやめる。フィットしたら継続して規模を拡大する」という選択がしやすくなっているのです。

小さくはじめて試行・検証を重ねていくというのは、マーケティング分野に限らず、他の領域でも重要なスタンスだと思います。

■成功しやすい企業の組織体制について教えてください。

林氏:旧来の日本企業では、会社が中長期の戦略を立て、従業員がその戦略を実現すべく業務を行い、中間管理職がその現場を管理するという組織が多いでしょう。

しかし、DX化が成功しやすい組織では、会社が掲げた方針に対して現場サイドで試行錯誤しながら手段を見つけ、良いと思ったものに対して経営者側がコストや人員の投資をするという傾向が強いようです。

マーケティングDXのよくある失敗例は?

■続いて、マーケティングDXがうまくいかなかった例についてお聞かせください。

林氏:よくある失敗の代表例が、最初から「MA(マーケティングの効率化)」に着手してしまうケースです。

一般的には、先述したようにデジタル環境を整え、まとまった数のリード(見込み顧客)を獲得してから「MA」のプロセスにうつるのですが、そのプロセスをスキップして効率化を図ろうとしてもうまくいきません

そうなると「数少ない見込み顧客リストを条件で絞ってみたら、アポイントにつながりそうな企業が1社しかない」、といったケースも出てくるでしょう。

■マーケティングのデジタル化が停滞している組織の特徴は?

林氏:検討の段階で、うまくいかないことを前提に話が進んでいる傾向があります。「他社の事例を出して」「他社は他社でも、うちの業界の事例じゃない」「同業でも、うちはあの会社とはちがう」いう具合です。

そうした現場では意思決定の軸が具体的なデータではなく、経験者の感覚に委ねられています

意思決定者が懸案しているリスクを紐解いていくと、根底にあるのが「コストがムダになる」ということに行きつきます。うまくいくかどうかもわからないことにコストはかけられない。だから、意思決定ができずに旧態依然とした体制が続く、というのが停滞の一番の原因だと思います。

■組織の体制を鑑みると、日本では営業とマーケティングのDXは密接につながっているように思います。営業色の強い組織においてマーケティングをデジタル化する際に留意すべき点は?

林氏:Webマーケティングでは、Web集客、資料のダウンロード、セミナー開催、商談と、プロセスを踏んでいく必要があります。営業部の中には、明日のアポイントを取ることに切羽詰まっている組織もあるかもしれませんが、「顧客を育てていく」という意識を大切にして欲しいと思います。

駄目なら組織外のDX専門家の力を借りるべき?

■自社内で相応のスキルを持ったメンバーがいない場合、あるいは育成する土壌がない場合、外部からスペシャリストを採用するのが妥当でしょうか。

林氏:たとえ知見とリソースを持った外部の人を連れてきても、それでうまくいくとは限りません。DX化の目的と手段をクリアにしたうえで、「どういう体制で進めていくのか」を明確にしておくこと、そのために必要なリソースに投資をすることは大前提です。

あとは、意外と見落としがちなのが社内の「機運」です。

「よくわからない人がきて、仕切り始めた」「うちの組織のことがよくわかっていない」という不満が組織内にまん延すると、DX化の機運を逃します。外部の人を組織内に呼び込むのであれば、社内の責任者や周囲の人たちが、外部からくる有識者の「機運作り」を支援できるかどうかが大切なのです。

組織の雰囲気によっては、外部の方にプロジェクトを率いてもらうのではなく、「内部の推進リーダーのブレイン」という形にした方がうまくいくということもあるでしょう。

■今後、マーケティングDXへの関心はますます高まっていくと思います。ベーシックの成長戦略についてお聞かせください。

林氏:コロナ禍以降、B to BのWebマーケティング市場が拡大し、ベーシックの成長率も加速しています。

今後、Webマーケティングのサービスに投資する企業は増え、競争はより激しくなっていくと思いますが、市場が広がっていくことは望ましいことです。しかし現場からは、まだまだ「何をしたらいいかわからない」「手間がかかる」といった声が聞かれます。

マーケティングツールを提供しているベーシックとしては、サイトの更新やセミナーの集客などを「ワンストップでできる」「現場の人たちが自分たちで簡単に操作できる」という簡単さ、手軽さ、便利さを徹底的にブラッシュアップしてきたいと思っています。

当社はこれまでに1,000社以上のマーケティングに寄り添ってきた実績があります。蓄積してきたノウハウを活かし、B to B市場の活性化に貢献していきたいと思います。

【取材後記】

当然のことながら「DX推進」と「デジタル化」は異なる。「DX」の本質は、デジタルを活用して、業務の効率化やフローの改善、問題解決に挑むことにある。コロナ禍により、旧来の営業手法による成果が頭打ちになっている今、マーケティングの領域のデジタルシフトが新規顧客の獲得のカギを握っていると言えそうだ。これを機に組織変革を促してみてはいかがだろうか。

取材・文/鈴政武尊・北川和子、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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