週3日勤務で副業OK。ジョブ型雇用で「社員のやりたいこと」を支援する双日の、新たな成長戦略とは

双日株式会社

人事部 人事企画課 成広和美(なりひろ・かずみ)

人事企画課長として、人事諸施策の企画・運用を推進。双日プロフェッショナルシェア株式会社(SPS)の主管部責任者。

双日プロフェッショナルシェア株式会社

取締役 丸山優敏 (まるやま・まさとし)

双日人事部からSPSに2022年1月に出向。同社常勤取締役、および管理部長を兼任。

双日プロフェッショナルシェア株式会社

村山宏(むらやま・ひろし)

双日で化学品営業、人事を経験し、2021年10月にSPSに転籍。週4日双日本社の二つの部署にて勤務。週1日は金型加工メーカーの経営・人事面のコンサルティング支援を行っている。

週2日を自由に使える。70歳定年でリカレント教育支援も充実
三つの仕事をパラレルにこなし、幅広いキャリアを積む
緩やかな外部ネットワークの形成が企業の競争力を高める
キャリア自律の必要性を自分事として感じてもらうために

パーソル総合研究所「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」によると、現在ジョブ型雇用を導入済み、および導入を検討している企業は60%に達する勢いです。人材流動化が進む中、各企業は人材確保に向けて雇用制度の見直しを検討しています。また、法改正により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、シニアの雇用にも知恵を絞らなければなりません。一方、働き手は、コロナ禍を機に副業を始めるなど、専門性を活かした多様な働き方を求めるようになりました。

こうした状況下で総合商社の双日は、2021年に新会社「双日プロフェッショナルシェア」(以下、SPS)を設立しました。SPSは、35歳~55歳の希望する双日社員がやりたいことを支援するプラットフォームで、ジョブ型雇用を採用。週2日は双日以外での勤務が可能で、さまざまな仕事を経験することができます。

同社の狙いや制度設計、働き手にとってのメリットなどについて、SPS設立に携わった皆さんにお話を伺いました。

週2日を自由に使える。70歳定年でリカレント教育支援も充実

──双日プロフェッショナルシェア株式会社(SPS)を設立した背景についてお聞かせください。

 

成広氏:双日では、「多様性を競争力に」をテーマにダイバーシティ経営に取り組んでいます。働き方の多様化が進む中、その多様性を受容する仕組みづくりに向けて、2020年初頭から議論を続けてきました。そして、独立・起業を企図する社員のために双日のリソースを提供し事業を支援する「独立・起業支援制度」の導入、双日退職者によるビジネスネットワーク構築のプラットフォーム「双日アルムナイ」の設立とともに、2021年3月に双日100%子会社のSPSを設立しました。

 

双日からSPSに移籍した社員は、双日で週3日相当の業務を行いながら、残り2日は個人がやりたいことに取り組めるようになっています。起業や副業のほかに、介護、家業、リカレントなど、週2日の使い方は個人の自由ですし、双日のグループ会社での兼業も可能です。

 

村山氏:SPSへの移籍の条件としては、総合職の双日社員の内35歳~55歳が対象で、本人の希望・同意による移籍という形になっています。勤務形態はフルフレックスを基本としつつ、個別に契約して条件を設定できますし、フルリモート勤務も可能です。SPSでは、ジョブ型雇用を採用していますが、定年が70歳なので、それぞれのスキルを活かして長く働いていただくことができます。

また、個人がやりたいことを実現するためのリカレント教育支援として、資格取得費用の80%、最大100万円までの補助を行います。双日にもリカレントの支援制度はありますが、補助額は最大10万円なので、かなり手厚い支援になっています。

──報酬体系は、どのようになっているのでしょうか?

丸山氏:双日の業務を行う部分については、双日の給与体系をベースに支給しています。たとえば、今まで勤務していた部署の業務を週3日引き受けるのであれば、これまでの給与(一定の賞与含む)の5分の3が支給されるという形です。

──勤務時間の10%程度を自分の好きなことに使えるという会社はよく聞きますが、週2日を自由に使えるようにしたのはなぜでしょうか?

 

村山氏:社員それぞれの価値観や事情に基づいて、制約がなるべくない形で働き方を選択できるようにと議論を進めた結果です。ですので、最初は週4日を双日の業務以外に使ってもらうというケースも想定しましたし、実際、制度上は週1日だけ双日で勤務することも可能です。

ただ、そうなると厚生年金保険・健康保険が使えなくなり、個人の負担が大きくなってしまいますよね。もちろん、個人が完全に独立して、国民年金や国民健康保険を使っているという企業さんもありますが、当社では引き続き双日のグループ社員として、一定の福利厚生を確保するというコンセプトがありました。そこで、週20時間以上勤務という法律上の制約をクリアするために、一つのベンチマークとして週3日勤務の設定にしたわけです。

──これまでにSPSを選ばれた方はどれくらいいらっしゃいますか?

丸山氏:2021年3月にSPSを立ち上げたばかりですが、キャリアパスについてかなり高い意識を持った数人が移籍しています。SPSのプラットフォームを有効に活用してもらうために、社内説明会を一通り行い、管理職研修でもキャリア自律の重要性についてレクチャーしています。

また、社員面談などの場でも、SPSが自己実現できるプラットフォームであることを訴えてきましたので、コロナ禍で自分の働き方や将来について見つめ直そうと考え始めた社員の中には、チャレンジしてみようかという人も出てきているのではないかと思います。

三つの仕事をパラレルにこなし、幅広いキャリアを積む

──SPSへの移籍は、いわゆる出向や転籍とは次元の違う話なのですね?

 

丸山氏:ええ、これはローテーションやリストラといった話とはまったく違います。あくまで自分のやりたいことを実現させるための仕組みですから、SPSに移籍した人のモチベーションは、むしろ上がっているはずです。

成広氏:SPSの設立は、ジョブ型雇用に向けての第一歩だと考えていますが、強制的にそれを押し付けて経験させるための受け皿をつくったわけではありません。自分のキャリアを自律的に考えている人が前向きなチャレンジができるような機会をつくるというのがコンセプトですし、逆にそういう意識が薄い人がSPSに行っても長続きしないでしょう。

 

丸山氏:自発的なチャレンジが大前提ですから、移籍の手順についても、会社が候補者を選出するのではなく、SPSに行きたいと思った人が自分で手を挙げて申し出るという形になっています。申し出は、通年いつでもOKですが、まずは上司と話してもらいます。

現在その人が担当している業務が5分の3しかできなくなるわけですから、業務の振り分けや職場の体制変更などを、移籍する前に調整しなければなりません。その部分については、人事も加わって話し合うことになっています。

その上で、キャリアの棚卸しの意味で本人に経歴を書いてもらい、SPSの担当者が面談を行います。面談に当たっては、今後のキャリアについてどう考えているのか、SPSに移籍して本当にやっていけるのかなどをきちんと判断します。移籍して続かないということになると、本人にとっても不幸ですからね。

──SPSに移籍した方が、どのような働き方をされているか、具体例をお聞かせいただきたいのですが、村山さん、いかがですか?

村山氏:私は、週3日は引き続き双日の人事部の業務を行い、それ以外の1日は双日の自動車関連の営業部署でマーケティングの仕事を行い、もう1日は地方にある金型メーカーで経営や人事に関するコンサルティング業務をしています。

私は、双日人事部に異動するまでは営業をずっと担当しており、昨年MBAも取得しましたので、それらの知見も生かして営業部署でのマーケティング業務を手伝うことにしました。金型メーカーは、双日グループの会社ではないのですが、営業時代にお付き合いしたことのある会社なので、その人脈をたどっていろいろお話しさせていただき、先方からもオファーをいただいて働かせてもらうことになりました。

──これまでに培ってきた知見やスキル、人脈を活かして新たな業務に取り組んでいるんですね。SPSでは、外部の企業とのマッチングの仕組みなどもつくられているのですか?

丸山氏:今その仕組みをつくっているところですので、現時点では企業さんからいただいたお話に対して、SPSに移籍した人に個別にオファーしている形です。双日のグループ会社に関しては、すでにニーズ調査なども進めており、その結果を基にマッチングを進めているケースもあります。

また、外部企業については、内閣府が地方創生の一環として推進している人材マッチング事業に参加して、そこから上がってくる案件に応募するようにしています。地方の企業には、「先端的な技術を持っているが、それをうまく展開できておらず、販路を広げたい」「経営戦略についてアドバイスがほしい」といったニーズを持っておられるところも多く、当社の人材でそのお手伝いができればと考えています。

──双日社員の豊富な経験値に期待する企業が多く、SPSの考えとマッチしているんですね。村山さん、新しい働き方を経験しての感想を伺えますか?

 

村山氏:まったく異なる三つの職務をパラレルにこなすことで、幅広い経験ができていますし、毎日密度の濃い時間を過ごせていますので、充実感がありますね。こういう形でキャリアを積むことは、双日だけで働いていてもなかなか難しいと思いますし、仮に独立という道を選んだとしても結果は同じでしょう。SPSというプラットフォームがあったからこそ、このようなキャリアプランが実現できているのだと思います。

また、私のようなケースだけでなく、介護などがあって週5日フルタイムで働くのは難しいという人にとっても、このプラットフォームの利用価値は高いのではないでしょうか。それぞれの環境に合わせて、やりたい仕事に思う存分取り組めるという点で、SPSを設立した意義は大きいと感じています。

緩やかな外部ネットワークの形成が企業の競争力を高める

──村山さんは、SPSに移籍して大きな充実感を得ていますが、双日としては、この仕組みが人材流出などのデメリットを生むのではないかという危惧はありませんか?

 

成広氏:村山さんが人事企画課に週3日しかいないのは、部署の責任者である私にとっては正直大きな痛手です(笑)。でも、本人が真剣に考えた上で、こういうキャリアを積んでいきたいという結論を出したのですから、心から応援したいですし、するべきだと考えています。

双日は、2030年の目指す姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を掲げており、SPSのコンセプトとして、「双日で培ったスキル・経験を所属部署のみならず、社内外で生かして価値を提供する」とうたっています。最適な人材が外部に流出するのは一時的にはデメリットではありますが、双日で培ったものを広く社会と共有していくことが、最終的には双日グループ全体の価値の向上にもつながるという考え方です。

村山氏:双日は、SPSや双日アルムナイの設立、独立・起業支援策を通じて緩やかな双日グループを形成し、既存の事業領域にとらわれない事業機会やイノベーションを創出することを目指しています。双日が輩出した人材が、グループ外の企業で働いて新たな事業・イノベーションを生み出す。そして、そうした企業・人材とのネットワークが広がることで、さまざまな成果が還元され、双日の競争力や企業価値を高めていくのではないかと思います。

成広氏:人事企画課の業務で生み出される価値以上のものを、村山さんが双日グループに還元してくれることを期待しています!

──責任重大ですね(笑)。一方、SPSに対する社員側の期待値はいかがでしょう?

丸山氏:終身雇用が当たり前という時代ではなくなってきていますが、ここ最近の風潮からみても、若い世代になればなるほど「同じ会社で一生働くつもりはない」という回答率が非常に高くなっています。そういう若手にとっては、SPSというプラットフォームはかなり魅力的に見えているのではないかと思いますし、「35歳からではなく、もっと早く応募したい」というニーズも現場から聞こえてきています。

キャリア自律の必要性を自分事として感じてもらうために

──SPSの今後の課題は何でしょう?

 

丸山氏:今SPSに来ているのは、キャリア形成に対して高い意識を持っている人たちですが、日々の仕事が手いっぱいで自分のキャリアを主体的に考えるところまでいっていない社員が多いのが現状です。そういう層のキャリア自律をどのようにして促すか。自分なりのキャリアプランを考え、将来こうなりたいというビジョンが描けていないと、SPSを選択するのをためらうでしょうし、SPSに来たとしてもうまくやっていけない可能性があります。そうなると、せっかくSPSを作ったのに、十分に活用されないままになってしまいます。

成広氏:この課題に関しては、双日とSPSが連携しつつ、それぞれに手を打っていかなければならないと思っています。たとえば、双日では年1回、自分のキャリアについて上司と面談する機会を設けています。このような場を通じて、自律型人材になってもらうようなマインドセットの醸成を進めていくことが一つのポイントになります。

村山氏:キャリアを主体的に考えるところまでいっていない人も多いという話が出ましたが、私自身、3年前に人事部に来た当初は、自分のキャリアについてそれほど強く意識していませんでした。それが1年ほど前から人事企画課でSPSの立ち上げに関わるようになり、社員にキャリア自律の必要性について説明するうちに、自分事としてキャリアプランを真剣に考えるようになったのです。

キャリア自律という考え自体、社員になじみがないため、それを自分事として捉えられるようにはそう簡単にならないでしょう。実際、SPSについての説明会を一通りやりましたが、SPSのコンセプトがまだ十分に伝わっていない気がしています。アナウンスの仕方も工夫しながら、コンセプトをきちんと伝え、キャリアの選択肢の一つとして、SPSがあるのだということを認識してもらうようにしなければなりません。

──ジョブ型雇用や働き方の多様化への対応を検討されている企業の皆さんに、SPSの経験に基づいてアドバイスをお願いします。

丸山氏:新たな制度や仕組みを作る際には、経営のメッセージとして、そのコンセプトが社員に確実に浸透するようにしなければなりません。SPSにしても、「肩たたき」のようなものではなく、前向きなチャレンジをしたい人のための受け皿なのだということを伝えていかないと、社員は不安になってしまいます。

成広氏:人事の姿勢としては、丁寧なコミュニケーションを心掛けることも重要ですね。若手社員はもちろんのこと、上司の方々も部下が働き方を変えると職場の戦力が失われてしまうのではないかと危惧するかもしれません。今まで通りに仕事が回るように組織面でのフォローをするとともに、キャリア自律を促すことが会社全体のメリットになることをしっかり説明して、部下のチャレンジを応援する気持ちになれるようにしていただきたいと思います。

 

資料提供:双日株式会社

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取材後記

人材の流動化や働き方の多様化が進む中、ジョブ型雇用の導入や社員のキャリア自律の促進に注力している企業は多いと思いますが、双日の取り組みが一味違うのは、「社員がやりたいことを実現する」ための支援策であること。「仕事の幅を広げたい」「介護しながらでもできる働き方をしたい」など、1社の枠組みにとどまっていては実現できないキャリアや働き方へのニーズに応えることで、社員のモチベーションアップを図っています。

また、同社は社員の独立・起業や他社での勤務をデメリットとは捉えず、外に出た人材が同社のネットワークを拡大し、新たなビジネスチャンスやイノベーションを生み出すことを視野に入れています。このような自社の枠にとらわれない取り組みが広がれば、日本の企業や社会全体の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森英信(アンジー)、撮影/中澤真央