【3年で男性育休取得率ゼロから100%へ】男性8割のメーカーがイクメン企業に大変貌!その秘訣とは?

株式会社技研製作所

内部監査室 執行役員 簑田美紀(みのだ・みき) 

プロフィール
株式会社技研施工

工務部 工務課/関東 主任 土居陽香(どい・はるか)

プロフィール

2021年に改正された「育児・介護休業法」が、2022年4月から段階的に施行され、企業にはこれまで以上に従業員が育児休業を取得しやすくなるように雇用環境の整備などが義務付けられるほか、「出生時育児休業制度」が創設され、男性の育児休業取得が促進されようとしています。

男性育休の推進は、社員のモチベーション向上や離職防止、キャリア人材の採用のしやすさにもつながるものですが、「男性育休を支援する仕組みが会社にない」「育休を取りづらい雰囲気がある」などの理由から、男性の育休取得率は現在13%にとどまっています。

こうした状況下、高知市に本社を構える建設機械メーカー、株式会社技研製作所では、2018年度まで0%だった男性育休取得率を1年間で30%に引き上げ、平均取得日数110・2日(2019年度)を実現。男性が育児参加しやすい企業をたたえる「イクメン企業アワード2020」のグランプリに輝きました。そして、3年で男性育休取得率100%を達成。社員約670名のうち、男性が8割を占める同社が、どのようにしてこの成果を上げたのか、プロジェクトチームのお二人に話を伺いました。

「前例主義を打破する」プロジェクトメンバーは全員女性

──「ポジティブ・アクション(女性の活躍推進)プロジェクト」のこれまでの取り組みについてお聞かせください。

 

簑田氏:このプロジェクトは、2016年に女性活躍推進法が施行されたのを契機に、現・専務取締役の前田みかが、女性の活躍推進をはじめ従業員満足度や企業ブランドの向上を図るために立ち上げました。当社は、建設工事における公害問題を解決すべく、圧入による無公害型の建設機械を開発した現会長の北村精男が創業した会社です。北村は、「前例主義を打破し、原理原則に則った先進的な取り組みに挑戦する」という信念を持っており、それが当社の社風として社員にも浸透しています。

創業者の北村は、約30年も前から幹部会に女性を参加させてきました。女性の前田が専務に登用されたのも、男女の差別なく能力のある者を要職に就かせるという北村の考えからでしたので、前田が女性活躍を推進するためのプロジェクトを発足させたのは、自然な流れでもありました。とは言え、当社は男性社員が8割を占めており、その中でどこまでの活動ができるのだろうという不安の声も当初はありましたが、次第に社員の理解も深まり、プロジェクトは2018年からスタートして現在4期目を迎えています。

世の中の状況に敏感に反応しながら、当社がやるべきことを取捨選択して取り組みテーマを決めています。現在は「男性育休取得推進」「チャットボット推進」「健康経営」「介護休業体制強化」「女性活躍推進PR」「まい活」「GIKENニューノーマル推進」「SDGs推進」の8テーマに、社内各部門およびグループ会社も含めて横断的に取り組んでいます。男性のアドバイザーも2名いますが、プロジェクトメンバー自体は全員女性で24名。プロジェクトでの活動を通じて、それぞれ課題解決のステップを学び、管理職に必要なスキルを磨いており、発足から4年でこのプロジェクトから6名の女性管理職を輩出しています。

──8つのテーマのうち、特徴的な「まい活」「チャットボット推進」「GIKENニューノーマル推進」は、どのような活動なのでしょう?

土居氏:「まい活」はMy mind(=じぶんの心と考え方)を育てる活動です。今の時代に必要な情報や知識を一人一人が身に付けるために、毎日チームで自己研鑽する時間を設けるようにしています。当初は、1日5分の朝活から始まったものですが、現在はそれを10分に拡大し、SDGsやカーボンニュートラルなど、時節に合ったテーマを毎月選んでチームごとにグループワークなどを行っています。このコロナ禍においては貴重なコミュニケーションの機会となり、チームビルディングにもつながっています。

「チャットボット推進」は、DXによる業務効率化です。社内の手続きなどについて知りたいとき、担当部署にわざわざ連絡して質問するのは非効率なので、汎用的な質問をFAQにまとめて簡単に回答が得られるようにしたものです。チーム創設当時、サブプロジェクトマネージャーだった取締役の藤崎の「こういうやり取りをするのは時間の無駄遣いだよね」という一言がきっかけで始まった取り組みなので、ボットの名前を取締役の苗字にちなんで「ふじこ」と命名しました(笑)。

「GIKENニューノーマル推進」については、今まで当たり前となっていたことを、本当に必要か、という観点で見直し、徹底的に効率化を目指す取り組みです。生産性を高めるための職場環境の構築に向けて、オフィスカジュアルの導入等を進めているところです。これは、個々人の発意に任せる形ではなく、会社全体の取り組みとして進めています。最近ではデニムにスニーカーというスタイルの人も増えていますね。

社員の声を基に男性育休の施策を決定。収入面の不安の解消と意識改革

──男性育休取得推進の取り組みは、どのような経緯でスタートしたのでしょう?

 

土居氏:先ほど簑田が話したように、組織や業務を改革して会社を発展させていこうという創業者の思想が根底にあります。男性育休についても、社会の動きに対応して、社員が働きやすい会社にしていかなければならないという経営判断から、男性育休取得推進チームを発足させました。

簑田氏:当社では、2018年までは育休を取得した男性社員が0名で、育休を取りたいという男性もいませんでしたし、女性でさえ、育児は自分がやるものだという考えに縛られていました。しかし、政府による男性育休取得促進の動きが本格化する中、また働き方改革を推進する中でこのままではいけないという問題意識が生まれ、ポジティブ・アクションプロジェクトの2期目のテーマとして、男性育休取得推進に取り組むことになったのです。

 

土居氏:活動を進めるに当たって、全社員にアンケートを取ったところ、「今後、育休取得の機会があれば取得したいですか?」という問いに、67%の社員が「はい」と回答しました。今まで声には出さなかったけれど、育休を取りたいと思っている人がたくさんいたのだと実感しましたね。一方、「いいえ」「わからない」と回答した33%の皆さんに、その理由を尋ねると、「育休中の収入面が不安」や「同僚に負担がかかることへの罪悪感」という声が多く聞かれました。

──そういう方たちの不安をどのようにして取り除き、活動を進めていったのですか?

土居氏:金銭面の不安を解消するための支援と、社内の意識改革・雰囲気の醸成という2つの面で施策を実施しました。まず、金銭面の不安解消については、給付金のシミュレーションツールを作成し、育休を取った時の収入の変化が一目でわかるようにしました。

 

このツールは、男性育休取得推進チームが、Excelを使って作成したものです。育休中に給付金があることを認識していなかった社員も多く、具体的に自分ならいくらもらえるのかがわかるようにしました。給付金シミュレーションでは最初の6カ月は賃金の67%、それ以降は50%になる雇用保険からの給付金の額が自動計算されるとともに、減額になる住民税や社会保険料の免除といった要素も盛り込まれ、最終的に育休取得者の収入がいくらになるのかをシミュレーションすることができます。利用者は、過去6カ月の給与支給額、直近の住民税、希望する育休取得期間など、数項目を入力するだけで育休取得後の収入の状況が把握でき、税金や保険料の減免などのメリットがあることもわかるので、不安が和らぎます。

さらに2021年からは、当社独自の「育児休業支援金制度」も導入しました。男女問わず、育休を3カ月以上取得した社員に会社から最大15万円を支給するものです。会社の方針として、3カ月以上の長期育休取得率100%を目指してこの制度を創設しましたが、その効果も相まって、現在育休中の社員の約6割が3カ月以上の休暇を取っています。

──社内の意識改革・雰囲気の醸成については、どんな取り組みが行われたのでしょうか?

土居氏:男性育休への理解を深めてもらうために、2019年に育休取得対象者とその上司に対して説明会を開き、2020年には全グループ社員を対象とした説明会も実施して、育休の意義、社員の人生や会社・社会への好影響、パートナーに対する心身のケアの重要性などを説き、積極的な働き掛けを行うよう求めました。

また、「GIKENグループは、育休取得率100%の実現を目指します!」との育休取得推進宣言を社内外に発信するとともに、社内イントラネットに育休専用ページも開設。育休取得の手続きの紹介や育休支援面談シート、業務引き継ぎシートなどを掲載しています。

 

──スタート当初、育休を取ったら職場に迷惑が掛かるとか、今後のキャリアに影響が出るのではないかといった懸念を持つ方はいませんでしたか?

土居氏:最初の年は育休取得に消極的な男性社員もいましたので、草の根活動的に取得対象者全員にコンタクトを取って、不安の解消に努めました。育休取得率を上げるためには、本人だけでなく上司の理解も必要です。上司自身が育休を取ったことのない世代なので、取得対象者の所属長とも話をして、育休取得のメリットを伝えました。また、「いつでも育休が取れる体制になっている職場は、生産性が高い職場である」と、経営陣が育休取得を奨励した職場を評価する旨の発言を繰り返したことで、社員の意識や会社の雰囲気も変わっていきました。

さらに、数年前より毎週金曜日をノー残業デーに設定し、週末を含めた時間を少しでも多く確保できるようにしたり、定時退社を促進するために平日の就業30分前をチャイムで知らせたり、一般的に製造部門で導入される品質管理活動のQCサークルを全社展開したりすることで、普段から業務の効率化や生産性を高める環境づくりを実施していたことも、相乗効果がありました。その結果、2021年度は当初の目標通り、男性の育休取得率100%を達成することができました。

簑田氏:先日も、インタビューを受けた当社代表の森部が、「誰かが育休を取れば、一時的な影響は出るだろうが、それをカバーする体制やコミュニケーションの拡充によって組織力が強化される。また、職場復帰後の育休取得者のモチベーションも高まるので、長期的には大きなプラスになる」と語っていましたが、このようにトップが自らの姿勢を示し続けることが、育休取得の推進力になるのではないでしょうか。

「育休を取ってよかった」の声多数。社外からも大きな反響

──男性の育休取得によるメリットや成果についてお聞かせください。

土居氏:男性が育休を取ることで女性が家事や育児をワンオペでするのではなく、夫婦で協力・協働することでお互いの理解が深まり、家庭生活が安定します。仕事にも前向きに取り組めるようになりますし、家族との時間を大事にしたいという思いから、仕事を効率よく進めて定時退社しようという気持ちが強くなっていると感じます。また、自分が休んでいる間、生活をサポートしてくれた会社や仕事をカバーしてくれた職場の仲間への感謝や信頼感も増していると思います。

 

簑田氏:組織のメリットとしては、業務の標準化や属人化の排除はもちろんですが、ワークライフバランスが保たれることで社員のパフォーマンスが上がり、生産性の向上が図れます。また、いつ誰が休んでも仕事が回るような組織づくりに取り組んでいますが、今後は育休をとった社員が将来上司の立場になれば、部下指導への影響も変わってくるでしょう。さらに、育休だけでなく介護の問題も出てきますので、不測の事態で上司自身や部下が長期休暇に入ったときにも対応できる強靭な組織づくりが進むとみています。またそうなるためにも、この男性育休は重要なテーマになります。

男性の育児参加は、パートナーの負担を軽減することにもつながり、それによって女性管理職が増えるなど、女性の活躍の場も一層広がるという良い循環が生まれることを期待しています。

──育休を取った社員の皆さんからは、どんな声が聞かれますか?

土居氏:社内報で男性育休のコラムを連載していて、育休を取った人たちの体験談などをつづっています。「子育てがこんなに大変だとは思わなかった」「育休を取ってよかった」という男性が圧倒的に多いですし、パートナーからも「夫が家事や育児を手伝ってくれたおかげで何とか乗り切ることができました」と感謝の言葉を頂いています。

 

また、夫婦ともに当社の社員で、ペアで育休を取るというケースもありますが、当社ではその場合も夫婦それぞれに育児休業支援金を支給していますので、手厚いサポートになっていますね。ペアで育休を取った方からは、「2人目が生まれるときにもぜひ取りたい」「次はもっと長く取りたい」という声も聞きますよ。

簑田氏:育休を経験し、子育てや家族の時間を大事にしながら働いている管理職層も増えてきていますので、今後はいろいろなロールモデルを参考にして育休制度をさらにうまく活用できるようになっていくのではないでしょうか。

──男性育休取得推進の取り組みによって、採用面では何か影響がありましたか?

簑田氏:当社の取り組みは、ホームページにも掲載して発信しており、それに対して大きな反響を頂いていますし、問い合わせも急増しています。また、会社説明会の場でも、応募者から「男性の育休取得に力を入れている経営姿勢に魅力を感じる」「取り組み内容についてもっと詳しく知りたい」といった声を頂いていますので、採用ブランディングには大きな効果が出ていると感じています。

土居氏:中途採用者の中にも、「前社では1人目の出産時も2人目の出産時も育休を取れなかった。技研に入って3人目で育休を取ることができてよかった」という人がいます。育休取得推進の取り組みが、さらに多くの企業に広がっていってほしいですね。

──貴社は活動開始から3年で男性育休取得率100%を達成しましたが、これから活動を進めようとしている企業の皆さんにアドバイスはありますか?

簑田氏:一昔前には、男性が育休を取るという発想すらありませんでしたが、これまで常識だと思っていたことが次々に非常識になってきていますので、若い世代が今何を求めているのかに耳を傾けて施策に反映することが必要です。また、この活動は一部の人や部署だけで取り組んでもうまくいきません。当社が成果を出せたのは、経営トップがメッセージを発信し、グループ会社も含めて部署横断で取り組んだ結果だと感じています。

土居氏:当社が行ってきた男性育休への理解促進の説明会や給付金シミュレーションツールなどは、どの企業でも実施できる内容ですので、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

簑田氏:当社も今後、育児中の短時間勤務や子どもの看護休暇のさらなる拡充など、現状にとどまることなく、新たなチャレンジに努めていきます。

 

資料提供:株式会社技研製作所

取材後記

これまで一般的ではなかった男性育休取得の課題に対し、技研グループは、「社員の幸福度・満足度の向上こそ企業発展の原動力」との認識に立ち、経営トップの発信とともに、全社横断プロジェクトで男性の育休取得を推進しました。このトップダウン、ボトムアップ両面からの取り組みが、育休に対する社員の理解を深め、取得率100%の実現につながったと言えるでしょう。

一時の戦力ダウンなどを恐れるのではなく、業務の標準化・効率化やオープンなコミュニケーション推進による相互理解など、より柔軟性のある組織への改革が求められていると感じました。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森 英信(アンジー)、撮影/中澤真央

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