ナレッジマネジメントとは|意味や導入フロー・目的をわかりやすく解説

d’s JOURNAL編集部

従業員個々人が有するデータや知識、技能、ノウハウといった「ナレッジ」を組織全体で共有・活用することを意味する「ナレッジマネジメント」。既存の知を活かし、新たな知を創造するプロセス・経営手法として、注目されています。

ナレッジマネジメントの必要性を感じ、そのメリットや導入フローを知りたいと考えている経営者や人事担当者もいるのではないでしょうか。

この記事では、ナレッジマネジメントの意味やメリット、導入フロー・目的などについて、わかりやすく解説していきます。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントとは、従業員が業務を進める中で得た知見や知識、技能、ノウハウといったナレッジを組織全体に共有・活用することにより、新たな知識を創造する経営手法のことです。英語では「Knowledge Management」と表記し、直訳すると「知識管理」となります。

1990年代に経営学者の野中郁次郎氏が提唱した「知識経営」という考え方が基礎となっており、「新しい知識をつくり続ける経営」として広く知られています。

ナレッジマネジメントの目的は、「企業の成長を促し、競争力を向上させること」です。ナレッジマネジメントを進めることで、「イノベーションの創出」や「組織の生産性向上」「新規事業の開発」などが期待できます。

ナレッジマネジメントが注目される背景

ナレッジマネジメントが注目される背景として、次の3つが挙げられます。

長期就業でのナレッジ継承の困難化

ナレッジマネジメントが注目される背景の一つとして、雇用の流動化により「長期的な人材育成」や「自然な知識・ノウハウの継承」が難しくなっている点が挙げられます。かつての日本企業では新卒で入社した企業で定年まで働くのが一般的でしたが、現在は転職が一般化し、従業員が一つの企業で働き続けることは当たり前ではなくなってきています。

以前は、実務を通じてベテラン社員の知識やノウハウが後輩に受け継がれていましたが、転職者が多い企業では人を介した知識の継承がますます困難な状況になりつつあるのです。こうした状況を受け、企業の持つナレッジの質や量を効率的に高めていく施策として、ナレッジマネジメントに取り組む企業が増えています。

業務の属人化が課題視されている

転職が珍しくない現在では、「その人にしかできない業務」があることは、企業にとってリスクとなります。業務の属人化を回避する手段としても、ナレッジマネジメントは有効です。

ナレッジマネジメントでは専門的な知識を集約し、誰もがその知識を活用して適切に対応できるようにします。ナレッジマネジメントを意識することで、属人的な業務を回避するとともに、業務の最適化を図ることにもつながります。

DXの取り組みに効果的

ナレッジマネジメントは、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むために不可欠な要素としても注目されています。社内でデジタル技術を活用するに当たり、業務手順や現場のオペレーション・状況などが可視化されていないと判断が難しくなるためです。

加えて、自社の変革に必要な技術やシステムを検討する際にも、社内の知識を集約・共有できるナレッジマネジメントが役立つこともあり、その重要性が高まっています。

ナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントを意識することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットを3つご紹介します。

業務の効率化につながる

優秀な従業員の知識や業務の進め方をナレッジとして共有すれば、他の社員もまねすることができ、業務を効率的に進められるようになるでしょう。

例えば、「セールストークのポイントを共有することで、営業経験が浅い社員の成約率を高める」「専門性の高い業務を進める上での注意点を共有することで、属人化の解消につながる」などが期待できます。

このように、ナレッジマネジメントには「業務効率化」だけでなく、「業務の質向上」というメリットもあります。

コスト削減につながる

ナレッジ共有による業務効率化は、コスト削減もかなえてくれます。業務効率化が進むと作業時間が短縮化するため、残業時間の削減につながるでしょう。その結果、残業代や夜間の光熱費といったコストの削減が実現できます。

人材育成が効率化する

ナレッジマネジメントにより、人材育成を効率化できるのもメリットです。業務に必要なナレッジが集約されていれば、教育者は何度も同じことをゼロから教える必要がなくなり、人材育成の効率化につながります。

実践的・専門的な知識やノウハウがより得られやすくなるため、従業員一人一人のスキルアップや知識の底上げも期待できるでしょう。

ナレッジマネジメントの注意事項

ナレッジマネジメントのメリットを十分に享受するため、事前に理解しておきたい注意事項を2つ紹介します。

システム導入にコストがかかる

ナレッジマネジメントを始めるに当たり、「どの情報を共有する必要があるか」について視察やヒアリングを行う必要があります。加えて、利用するツールの検討や環境整備なども発生するため、システム導入までには時間がかかります。

ほとんどのナレッジマネジメントツールは有料のため、導入コストやランニングコストを踏まえた費用対効果も考慮して、自社に最も適したものを選びましょう。

社員に浸透しないリスク

ナレッジマネジメントの重要性が社員に浸透しないリスクにも、注意が必要です。浸透しない理由としては、ナレッジを保有する経験豊富なベテラン社員ほど忙しく、ナレッジ共有に時間を割くメリットを感じにくいことが考えられます。また、中には成果につながる独自のノウハウを他人と共有したくないと考える人もいるでしょう。

社員の理解を得るためには、ナレッジマネジメントを始める前にその必要性を丁寧に説明することが重要です。その上で、ナレッジ共有が進むよう、インセンティブや評価制度への反映を検討してみてもよいでしょう。

ナレッジマネジメントは4種類のタイプに分類できる

ナレッジマネジメントは目的・手段により4つのタイプに分類できます。各タイプの特徴について見ていきましょう。

ナレッジマネジメントの4つのタイプ
(出典:野中郁次郎・紺野登『知識経営のすすめ』)

ベストプラクティス共有型

ベストプラクティス共有型とは、優秀な社員の行動パターン・思考パターンを言語化して共有することで、組織全体のスキルの底上げを図る手法です。「企業内の成功事例」や「日々の業務からの気づき」などの集約・分析により、業務改善に役立てることができます。

専門知ネット型

専門知ネット型とは、専門知識を持つ人々のネットワークを活用し、組織内外の知識をデータベース化する手法です。問い合わせが多い事項をFAQ化することで、必要な情報が各所に届きやすくなるでしょう。

また、ヘルプデスクや情報システム部門などといった、組織内外からの問い合わせが多い部署では、課題解決のスピードアップや応対品質の向上も期待できます。

知的資本型

知的資本型とは、特許や著作権を持つ「制作物・プログラム」「ブランド」といった組織の知的資産をさまざまな面から分析し、経営戦略に活用する手法です。

知的資産を整備・活用することで、収益向上につなげます。IP(知的所有権)戦略ばかりに焦点を当てるのではなく、無形の知的財産として企業全体の活動の中に再配置し、価値を生み出していくことが重要です。

顧客知共有型

顧客知共有型とは、顧客との知識の共有・提供を継続的に行う手法です。顧客からの意見・クレームや顧客対応の履歴などをデータベース化し、顧客対応プロセスの最適化を図ります。

また、部署間でデータベースを共有できれば、顧客対応の標準化が実現し、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

ナレッジマネジメント実践にはSECIモデルが効果的

ナレッジマネジメントの基礎理論として知られているのが、「SECI(セキ)モデル」です。ナレッジマネジメントを実践する際に効果的だと考えられている「SECIモデル」について詳しく見ていきましょう。

ナレッジは「暗黙知」と「形式知」に分類される

SECIモデルを活用する前に理解しておきたいのが、ナレッジの種類です。「ナレッジ」は、「暗黙知」と「形式知」の2つに分けられます。暗黙知とは、言語化されていない主観的・感覚的な知識のことで、人に伝えるのが難しいとされる「職人のカン」や「熟練の技」などが該当します。一方、形式知とは暗黙知を言語化したもので、誰もが理解できるような「マニュアル」や「作業手順書」などのことです。

暗黙知を形式知に変換し、組織全体に共有・活用することで新たな知識を創造する「ナレッジマネジメント」を行うフレームワークとして、次に紹介する「SECIモデル」は活用されています。

SECIモデルの4つのプロセス

「SECIモデル」とは、知識創造のための継続的なプロセスモデルのこと。暗黙知を形式知に変換・移転し、新たな知識を生み出すサイクルを表しています。4つのプロセスである「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の頭文字から名付けられました。

SECIモデルの4つのプロセス

図にあるように、共通の体験や作業を通して暗黙知を伝達・獲得する「共同化」、獲得した暗黙知を形式知に変換する「表出化」、形式知を組み合わせて新たな知識を創造する「連結化」、形式知を実践して知識を体得する「内面化」のサイクルを回すことで、組織全体でナレッジマネジメントを行えるようになるとされています。

ナレッジマネジメントの導入フロー

ナレッジマネジメントを導入する際のフローは、大きく分けて3段階あります。各フローについて詳しく見ていきましょう。

ナレッジマネジメントの導入フロー

導入する目的を明確化する

まずは、ナレッジマネジメントを導入する目的を明確にして、組織で共有することが重要です。「社員と組織にどれだけメリットがあるのか」「どのような目標を達成するのか」の2点から、目的を整理しましょう。

明確化した目的を共有することで、社員はナレッジマネジメントを自分事として捉えられるようになります。

共有する情報を決定する

次に、どのような情報を共有する必要があるかについて検討します。可視化・共有したい情報を策定するに当たり、事前情報として「社員が業務を進める上で困っていること」を収集しましょう。

なるべく具体的にヒアリングすることで、社員が必要としている情報を把握しやすくなります。ナレッジとして共有すべき情報を決定し、それを社員に伝えることで、社員は自身が持つどの知識やノウハウを共有すればよいかを理解できるようになるでしょう。

情報共有する場を整える

ナレッジマネジメントを実践する際には、情報共有のための「場」の整備も欠かせません。ここで言う「場」とは、新たな知識を創造したり、知識資産を効果的に活用するための基盤となる場所を指します。

一例として、業務プロセスの改善やツールの導入などが挙げられます。他にも、評価制度にナレッジ共有について盛り込むなど、情報共有を促進する文化の醸成も大切です。

企業全体にとって必要な情報を「どこで獲得」「どこで共有」「どこで活用する」のかといった視点を持って、「場」の整備を進めましょう。

ナレッジマネジメントを成功させている企業事例

ナレッジマネジメントを実践している企業の成功事例を紹介します。

パーソルワークスデザイン株式会社:日々の業務で得るノウハウや知識を共有し、組織全体のサービスレベルを向上

パーソルワークスデザイン株式会社は、新たなビジネスの創造に向け、ナレッジマネジメントにおけるベストプラクティスとされる方法論・手法である「KCS」を導入しています。

「KCS」とは、「Knowledge Centered Service」の頭文字を取った言葉。サポートセンター業界で活用されているフレームワークの一つで、問い合わせのたびにFAQを更新する手法を指します。

同社では、FAQの更新頻度を上げるために、熟練者など特定の人が持つ経験や知識といった暗黙知を可視化し、メンバーならびに組織全体に共有。さらに、全メンバーが日々の業務で得るノウハウや知識も共有することで、組織全体のサービスレベルのブラッシュアップにつなげています。

(参考:『地方創生、ワーケーション、KCS/AI活用が成長のカギ。新規事業の創出や組織デザインを学ぶ』)

まとめ

個人の持つ知識やノウハウを組織全体で共有・活用するナレッジマネジメントを進めることで、「業務の効率化」や「人材育成の効率化」などが期待できます。

一方で、「導入コストがかかる」「社員に浸透しにくい」などの注意点もあるため、システムを導入する前に目的や共有すべき情報を整理することが重要です。

今回紹介した手法や導入フローを参考に、自社でどのようにナレッジマネジメントを進めていくか検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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