地方中小企業で応募数5倍。自社をまる見えにする「バーチャル会社見学」が転職希望者にウケる理由【連載 第9回 隣の気になる人事さん】

有限会社ニッティ・グリッティ

代表取締役社長 小笠原啓吾(おがさわら・けいご)

プロフィール

人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、先進的な取り組みを進める企業へ質問を投げかけていく連載企画「隣の気になる人事さん」。

第8回の記事に登場した株式会社アクシアの米村歩さんは、VRを活用したバーチャル会社見学をサービスとして提供する有限会社ニッティ・グリッティのCEO・小笠原啓吾さんを気になる人事として挙げました。

▶米村さんが登場した第8回の記事はコチラ
アクシアから学ぶ、価値観が合う人材を母集団形成するため、経営者がすべきこと

小笠原さんは日本初となるバーチャル会社見学まとめサイト「企業まる見え.com」を開発。当初、自社で活用し母集団形成や入社動機向上につなげるとともに、現在では多くの外部企業へも、採用手法としてバーチャル会社見学を提案しています。

文字情報中心では、「リアリスト」のZ世代に届けきれない

——「企業まる見え.com」で提供するバーチャル会社見学の概要を教えてください。

小笠原氏:私たちは“日本一働く人の日常が見えるサイト”を目指して「企業まる見え.com」を運営しています。

バーチャル会社見学では、会社内を360度見渡すことができるVR動画を掲載。ユーザー自身が操作して見たいところを見にいけるほか、登場する従業員をクリックすれば個別のインタビュー動画を視聴することもできます。こうした機能を通じて、「何となく良さそう」「自分に合っていそう」と思える企業が見つかる、“直感的就活”を実現したいと考えているんです。

——なぜ直感的就活が必要だと考えたのでしょうか。既存の情報発信手段に感じていた課題とは?

 

小笠原氏:既存のナビサイトや企業の採用サイト、求人票などは、基本的に文字情報が中心となっていますよね。しかし文字情報だけでは、同じくらいのネームバリューで同職種、同条件の複数社を比較するときに、転職希望者が自分に合う企業なのかを見極めきれないと感じていました。

「企業まる見え.com」の開発に当たって実際にニーズを調べていくと、Z世代の就職・転職活動で最も使われているのはTwitter、その次にYouTube、Instagramと続きます。つまり、既存のナビサイトや採用サイトだけでは求める情報が得られないので、みんなSNSなどで一生懸命に情報収集している状況なんです。

——若手人材の確保が大きな課題となっている中で、企業は若手人材が求める情報を届けられていないのですね。

小笠原氏:Z世代はリアリストだと言われます。私は40歳手前の世代で、親がバブル期を過ごしてきたこともあってか楽観的な側面がありますが、Z世代は物心がついたころから不景気や大規模自然災害を経験しています。そのため、物事を決断する際にはリアリティを重視する傾向があるのではないでしょうか。

また、情報があふれすぎている時代だからこそ、「情報を簡単に鵜呑みにしたくない」という意識が高まっているようにも感じます。SEO対策などがやり尽くされ、インターネットで検索した情報も本当に正しいとは限りません。与えられている情報を本当に信じていいのか?その情報が本当に全てなのか?良い意味で疑いを持つことが当たり前になっているZ世代だからこそ、「企業をまる見えにする」コンテンツに価値があると考えています。

導入後に応募数5倍。「能動的に見られる会社見学」が企業への親近感を高める

——実際の採用活動で、バーチャル会社見学はどのような効果を発揮しているのでしょうか。

 

小笠原氏:当社の場合は、「企業まる見え.com」への掲載に加え、コーポレートサイトにもバーチャル会社見学のバナーを貼って転職希望者を誘導しています。導入前後で比較すると、応募数は約5倍になりました。

岡山県にオフィスを構える10人規模の中小企業であるにもかかわらず、今では1職種に対して50人近くの応募が集まる状況となっています。そして応募者のほとんどは、バーチャル会社見学や私へのインタビュー動画などを見てくれています。

——応募数5倍とは大きな変化ですね。自社でYouTubeチャンネルなどを運用しても、なかなかここまでの成果は得られない企業が多いのでは。

小笠原氏:「自分で操作できる会社見学」という目新しさが大きな要因だと思います。企業が発信する動画は「見るか・見送るか」の判断しかできませんが、バーチャル会社見学であれば自分で画面を操作しながら能動的に見られますから。

また、面接の場でもバーチャル会社見学のことを話題にしてくれる応募者が多いですね。動画で話している社員の様子を見て親近感を抱いてくれたり、「こんな話も聞いてみたいと思った」と感想を伝えてくれたり。転職希望者や応募者にとって情報を一方的に押しつけられるのではなく、自分の意志で能動的に見られるからこそ、ポジティブな感想を持ってもらえるのかもしれません。

——現在では外部企業も続々とバーチャル会社見学を導入していますね。

小笠原氏:自社で動画コンテンツやSNSを運用してきた企業にも、新たな手法としてバーチャル会社見学を導入していただいています。転職市場がどんどん売り手有利になっていく中で、「従来の採用手法だけでは選ばれなくなる」という危機感が広がっているようです。

今後は、普段はなかなか見学できない建設業や運輸業の現場を伝えたり、金融機関など厳しい守秘義務が課せられている企業の職場の中を紹介したりといった活用方法も広がっていくと考えています。

自社をまる見えにし、自社の弱みと真摯に向き合える企業こそが選ばれる

——多くの企業の採用支援に携わる中で、採用成功のために「やるべき」だと感じていることがあれば教えてください。

小笠原氏:応募者へ自社の課題や改善点を積極的に伝えることですね。面接や説明会では自社の良いところ、キラキラした部分ばかりを伝えがちですが、これが企業と応募者とのミスマッチの原因となるからです。

当社の面接では、自社の欠点と言えるようなことをたくさん話しているんですよ。「社員からこんな不満が上がっている」「最近はこんなことで社員から怒られた」といったように。面接後には応募者と社員の食事の場をセッティングするのですが、ここでも社員には「みんなが思う不満点を応募者へ語ってほしい」とお願いしています。同時に、私にもその不満点を伝えてもらっています。

経営者としては、社員に不満をぶつけられて落ち込むこともありますが、同時に現状の改善点が明確になります。採用は入社してくれる方の人生を背負う行為でもあるので、全てをまる見えにして伝えることが絶対に必要だと思っていますし、採用活動を契機に改善点を克服していければ、会社としても大きく成長することができます。

こうした変化は当社だけではなく、バーチャル会社見学を導入するクライアントにも現れています。たとえば、動画撮影の準備をする中で、「社員が何を考えているのかがわかった」と話す経営者や人事・採用担当者も多いんですよ。自社をまる見えにし、自社の弱みと真摯に向き合える企業こそが、今後転職希望者に選ばれていくのではないでしょうか。

 

——今後のサービス展開についてもお聞かせください。

小笠原氏:現在は、「定着してくれそうな人材をAIが見極めるシステム」を開発しています。「企業まる見え.com」を通じて応募してくれた人のデータを活用し、企業ごとに人材の定着可能性を判定できるようにする仕組みです。

大手とは違い、中小企業には採用のプロがいないことも珍しくありません。そんな状況でも定着してくれそうな人材を見極め、ミスマッチをなくし、ゆくゆくは入社時のみならず配置・配属にも活用できる新たな仕組みを提供していきたいと考えています。

写真提供:有限会社ニッティ・グリッティ

取材後記

応募者にはキラキラしていない部分も伝えるべき——。その言葉通り、ニッティ・グリッティのバーチャル会社見学ではオフィスの裏側をたくさん見ることができます。古い一軒家を改装した同社のオフィスには、決してきれいとは言えないスペースも。こうした面を隠すことなく、一方では「男女別のトイレを完備していること」など、転職希望者が気になりそうな点を押さえてきめ細かに紹介していることが印象的でした。地方の中小企業でも多数の応募を集められるのは、転職希望者本位の姿勢と情報発信があるからこそではないでしょうか。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介