アクシアから学ぶ、価値観が合う人材を母集団形成するため、経営者がすべきこと【連載 第8回 隣の気になる人事さん】

株式会社アクシア

代表取締役社長 米村 歩(よねむら・すすむ)

プロフィール

2022年9月まで全7回にわたりお届けした「隣の気になる人事さん」。人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、先進的な取り組みを進める企業へ質問を投げかけていく本企画が再開しました!

第7回の記事に登場した株式会社土屋の大庭竜也さんが気になる人事として挙げたのは、「残業ゼロ・有給消化率100%のIT企業」として知られる株式会社アクシアの代表取締役社長・米村歩さんです。

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アクシアは2012年に業務改革を進めて残業ゼロを実現し、以降10年以上にわたって継続しています。中小企業を対象に月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上へ引き上げられた(2023年4月1日以降)中で、その取り組みから学べることは多いはず。
(参考:『「働き方改革」の実現に向けて-政省令告示・通達|厚生労働省 』)

「個人の権利を侵害する」ブラック企業になっていないか

——米村さんは以前にもd’s JOURNALにご登場いただき、「業務の見える化」「業務の廃止」「業務の自動化」「業務の標準化」を通じた残業ゼロの実現について伺いました。一方、中小企業では時間外労働をなかなか削減できずにいるところも少なくありません。

米村氏:2023年4月以降は中小企業にも大企業と同じ基準が求められ、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上に引き上げられました。こうした変化は中小企業の現状を反映したものだと言えるでしょう。残業ゼロに近づく企業が少しでも増えることを期待したいですね。

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——いわゆるブラック企業は減っていくでしょうか。

 

米村氏:私は、採用市場での「ブラック企業」の意味合いが変わりつつあると感じています。法令に違反している企業はそもそも論外として、単純に労働時間が長いことだけを取り上げてブラック企業だとも言い切れません。

では、どんな企業がブラックだといわれるようになるのか。それは「従業員を自分の意のままに操れる」と考えている経営者の企業ではないでしょうか。契約上の労働時間が1日8時間、週40時間であるならば、会社はそれ以外の個人の時間にはそもそも干渉できないはず。早出や残業をせざるを得ない雰囲気は、個人の時間に干渉する経営者の意識から生まれている可能性もあります。

時間だけではありません。たとえば従業員のSNS利用を規制したり、逆に強制したりする企業もありますよね。こうした動きがあると、従業員側は「自分の権利が侵害されている」と無意識に感じ、会社と距離を取ってしまうかもしれません。

——米村さんは同じ経営者の立場ですが、なぜそうした思考に陥らないのですか。

米村氏:組織づくりの基本として「ルール順守」を原則としているからです。私は会社員時代に、ルールや法律に反することを上司の勝手な判断で押しつけられることが嫌で仕方ありませんでした。まさに自分の権利が侵害されていると感じていたんです。だからアクシアでは従業員に対してルールを守ることをかなり厳しく要求していますし、私自身もルール順守を徹底しています。

価値観がマッチする人材と出会うために、経営者は「素の自分」を発信するべき

——転職希望者が企業を見る目も、変わってきていると感じますか?

米村氏:確実に変わってきていると思います。世の中の変化に伴って、当たり前の基準は変わりますから。

10年前は長時間残業が当たり前の世の中だったので、残業ゼロを実現しているアクシアは極めて珍しい存在だと思われていましたし、採用市場でもインパクトがありました。しかし最近では世の中全体で残業時間が短くなってきており、残業ゼロとまではいかなくとも、残業が少ないことがスタンダードになりつつあります。企業は、世の中の基準がどこにあるかを常に認識しておくべきでしょう。

 

——そうした採用市場において、アクシアの採用活動ではどのように母集団形成を図っているのでしょうか。

米村氏:母集団形成というよりは、私たちと価値観が近い人に出会える可能性を高められるよう意識していますね。採用に携わっている方なら、企業と応募者の価値観が近い方が採用活動を進めやすくなることに同意していただけると思います。しかし採用が必要になったタイミングで募集をかけるやり方だと、価値観のマッチングにまではなかなか至りません。

そこでアクシアでは、常日頃から会社の価値観を発信し続けることを重視しています。経営者である私の人柄や人格をブログやSNSで届け、素の自分を伝えていくことも大切です。そうした情報を見て共感してくれる人は私たちと価値観がマッチする可能性が高いですし、価値観が合わないと感じる人は自ら応募を避けてくれるはずです。

——素の自分を伝えていく。たしかに大切なことだと思いますが、一方で実践するのはなかなか難しいようにも感じます。発信のコツも教えていただけますか?

米村氏:経営者が自分の言葉で発信しないと、素の思いは伝わりきらないと思います。コーポレートサイトや採用サイトを整え、会社の価値観をきれいな文章で説明することも大切なのですが、もっと深い人柄や人格を伝えるには自分の言葉がないと難しい。その意味でSNSは有効だと思いますし、経営者は普段から自分の生の言葉で伝えていく習慣を持つことが大事です。

素の自分たちを理解してくれている人が多い状態で募集を始めれば、自社の価値観とマッチする「相性のいい人」が集まってくれるようになります。これは定着率を高めることにもつながっていきます。

極論を言えば、こうした努力をせずに自社と合わない人ばかり集めて母集団をつくっていっても、意味がないのかもしれません。

経営者のダイレクトな言葉が聞けなければ、応募の対象から外されてしまうかも

——もし現在の米村さんが経営者ではなく、転職活動中の立場だとしたら、企業のどんなところに注目して活動しますか? 

 

米村氏:SNSや動画投稿サイトなどを通じて、その企業の経営者が発信しているダイレクトな言葉をチェックしますね。プロフェッショナルが関わって整えられた言葉だけでなく、経営者自身の生々しい言葉を聞きたいです。私の場合は、その情報がないと応募する対象から外してしまうと思います。同じように考えている転職希望者は多いのではないでしょうか。

世の中に完璧な会社なんてありません。どんなにうまくいっているように見える企業でも、理想的なホワイト企業だと注目されているような企業でも、何かしらの問題を抱えているはず。入社後、そうした問題が顕在化したときに、経営者に共感できない状態だと自社のことが嫌いになってしまうかもしれませんよね。

経営者といっても普通の人間。いつどんな問題が起こるかわかりません。だからこそ私たちは、良いことも悪いことも包み隠さず開示していくべきなのだと思っています。

取材後記

良いことも悪いことも包み隠さず開示する——。米村さんが発信するTwitterブログを見れば、この言葉が誇張でないことはすぐにわかります。2022年、アクシアでは元役員の不正が発覚したり、米村さん自身がうつ病を発症したりといったアクシデントが続きましたが、こうした情報も米村さんは全てオープンに書いているのです。そして米村さんは、経営者だけでなく人事・採用担当者も「日頃から自分の生の言葉で伝える習慣を持つことが大事」だと話していました。いかに人事・採用担当者が個人として素の思いを伝えられるか。一朝一夕には大きな成果を出せないテーマだからこそ、今すぐに小さなことから始めることが大切なのかもしれません。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央

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