福祉・医療の専門人材がエンジニアも⁉営業も⁉「全社員面接」を通じて多様な人材獲得・開発を実現しているデジリハの採用術【連載 第11回 隣の気になる人事さん】

株式会社デジリハ

東京生まれ。幼少期の8年間をサンフランシスコで過ごし、音楽漬けで帰国。母と祖父の病気や死がきっかけで高齢者介護・障がい児支援の仕事に従事。現在は医療福祉がテーマのクラブイベントや謎解きイベント事業・居宅介護や重度訪問介護や移動支援などの福祉事業・デジタルアート型リハビリコンテンツ事業・福祉留学事業・レコード屋 などを展開中。

人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、先進的な取り組みを進める企業へ質問を投げかけていく連載企画「隣の気になる人事さん」。

第10回の記事に登場した株式会社FUJIの小山揚平さんは、音楽とデジタルアートを融合させた斬新なリハビリツール「デジリハ」を開発・提供する株式会社デジリハを「気になる企業」として紹介してくれました。

▶小山さんが登場した第10回の記事はコチラ
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リハビリを苦しく辛いものから楽しいものへと変え、「障がい児者とその家族のQOL向上を実現する」ことを目指す同社。そのためのツールはリハビリの現場を知る専門職メンバーによって開発され、その専門職メンバーは福祉・医療業界の内外から多様な人材が集まっているといいます。

リハビリの現場を熟知するメンバーが新たな役割を担う

——貴社が開発する「デジリハ」は、すでに特別支援学校やリハビリテーション病院など39施設で導入されています。どのような組織体制で提供しているのでしょうか。

岡氏:当社は10名ほどの小さな組織ですが、理学療法士や作業療法士、社会福祉士、看護師、保育士など、リハビリや障がい児者支援の知見を持つ専門職メンバーが集まっており、障がい児の当事者家族も3名所属しています。私自身も障がい児支援や高齢者介護などの現場を経験してきました。

私たちの特徴であり強みにもなっているのは、こうした専門職人材がサービス開発を担っていること。エンジニアとして活躍する作業療法士、カスタマーサクセスを担う看護師、総務を取り仕切る理学療法士、人事・マネジメント全般を統括するゼネラルマネージャーの理学療法士といった具合です。

リハビリの現場を理解し、ユーザーさんとも現場の肌感覚で話せるメンバーが、新たなスキルを身に付けてデジリハを開発・提供しているんです。

 

——アプリ開発などの業務では、福祉・医療の専門職人材だけではなくテクノロジー人材を集めていく必要もあるのでは。

岡氏:社内メンバー以外では、エンジニアリングやグラフィックデザインなどはフリーランスの方々に外部契約の形でお願いしています。現在ではさまざまな分野でフリーランスとして活躍する方が増えているので、募集すればスムーズに見つけることができるんです。

外部契約といっても、私自身とは10年来の付き合いになる方もいて、社内と同じ感覚の良いチームワークで仕事ができていると思います。長い時間をかけてフリーランスの方をお誘いし、社員として入社してもらったこともあるんですよ。

専門職人材の採用ミスマッチを防止する「全員参加の3次面接」

——専門職人材を中心とした採用の手法についてお聞きします。福祉業界全体では採用難が顕著だと思いますが、どのようにして母集団形成を行っているのでしょうか。

 

岡氏:確かに採用は決して簡単ではありません。ただ当社の場合は、テクノロジーやゲーミフィケーションの考え方を応用してリハビリを支援するデジリハの事業そのものが差別化要素になっていると思います。

福祉・医療系施設の現場では、思い描くケアの形を実現できずに悩む専門職人材も少なくありません。私自身も障がい者施設や高齢者施設で働いた経験があるので、その気持ちは理解できます。

そうした人たちがマスメディアやネット、動画共有サイトなどを通じてデジリハを知り、「この事業なら理想のケアを追求できるかもしれない」と考えて問い合わせをしてくれるんです。

一方、当社で働くためには、プログラミングや営業、総務など新たな分野のスキルを勉強してもらわなければいけません。福祉・医療専門職として築いてきたキャリアとはギャップが大きく、ミスマッチにつながってしまう可能性もあります。

——ミスマッチを防止する工夫は。

岡氏:当社の選考では少なくとも3次面接まで、多いときは5次面接まで行っています。ベンチャー企業でここまでプロセスを踏んで採用する会社は珍しいかもしれません。

ゼネラルマネージャーが1次面接を行い、私が2次面接を担当。その後の3次面接に進んだ場合は、全社員と面談してもらいます。ここで既存メンバー全員が納得すれば採用決定。もし誰かから懸念が出てきたら、ゼネラルマネージャーと私で4次・5次の面接を行って見極めることもあります。

 

——基本的には「全社員面接」が最終面接となるのですね。

岡氏:はい。ともに長い時間を過ごす仲間を気持ち良く迎え入れるためには、全員が採用プロセスに関わることが大切だと考えています。一人ひとりが承認した上で採用しているので、「なぜ会社はこんな人を採用したんだろう…」といった不満が出ることはありません。全員が採用への責任意識を持つことで、オンボーディングでの関わりも充実していきます。

見極めるべきは現場で働く際の責任感。採用の決定権は社員が持つ

——全社員による面接では、採用候補者の見極めポイントなどのガイドラインを設けているのでしょうか。

岡氏:いいえ、ガイドラインやマニュアルはまったくありません。社長と人事(ゼネラルマネージャー)は入らず、メンバーだけで面接してもらっています。お願いしているのは「互いに健やかに働けるかどうかだけを判断してほしい」ということだけ。カジュアルな会話をしながら、既存メンバーとの相性を見ています。

——社員の皆さんと、社長・ゼネラルマネージャーの意見が割れることも?

岡氏:ありますよ。最近の例だと、私とゼネラルマネージャーは採用したいと考えていたのですが、メンバーから反対の声が上がり、4次・5次まで面接を行った上で最終的に不採用となったケースもあります。社員の意見はそれだけ強いんです。

 

——どのような場合に懸念の声が上がるのでしょうか。

岡氏:社員の多くは、人の命を預かる現場の専門職を経験しています。現場と同様の緊張感と責任感を持って障がいや難病を抱えるユーザーさんと向き合える人なのか。その点はとても厳しく見ていますね。

サービスとしてのデジリハに強く興味を持ち、テック系の知見や経験を活かしたいと考えて応募してくださる方も少なくありませんが、命を預かることに対する責任感を共有できないと感じる人は採用できないんです。私は、そうした社員の意見を尊重しています。

——なぜここまで、採用の権限を社員に委譲しているのですか?

岡氏:私には「できないこと」が多いからです。私自身はリハビリの専門家ではないし、プログラミングもデザインもできません。事業を進める上で私がやるべきことは、大きな方向性を示した上で、どのように開発やマーケティング、営業を進めるべきかを専門家である社員みんなに聞くこと。そして意見を取りまとめ、予算を付けていくことです。

採用活動も同じだと思っているんですよ。現場で働く人が、ともに現場で働く人の採用・不採用を決めるのは当然のことではないでしょうか。

——今後も組織規模は拡大していくと思いますが、現在の採用プロセスは、人数が増えても継続していくのでしょうか。

岡氏:はい。これからも現場が主役の採用活動を続けていくつもりです。50人や100人の規模になれば全社員参加の面接は厳しいかもしれませんが、部門ごとであれば継続できるはずです。

社員へ独自の市場価値を提示し、「希望する給与」を実現する

——貴社の事業では、福祉・医療業界とテック業界がともに採用競合となります。いずれも人材獲得競争が激化している業界です。こうした中、待遇・福利厚生などの面で差別化している点があればお聞かせください。

岡氏:たしかにリハビリの現場の知見を持つ人材は引く手あまただと思います。ただ日本では、理学療法士や作業療法士といった専門職でも、一般的な施設勤務ではあまり給与水準が高いとは言えません。

一方、当社の場合は施設で働くわけではなく、これまでの専門性を活かしつつ、開発や営業などの新しいスキルを身に付けてもらいます。つまり当社のメンバーは「作業療法士でありエンジニアでもある」といった独自の市場価値を持つことになるんです。

その市場価値に応えるため、当社では人事考課の中でそれぞれの役割に応じた給与、社員本人が希望する給与を実現できるようにしています。これがこの業界での他社との差別化ポイントになっているかもしれません。

 

——「希望する給与」を実現。どのようにして給与額を決めるのですか?

岡氏:まずは個々人の生活環境を踏まえ、どれくらいの収入を実現したいのかを伝えてもらいます。その上で、希望収入に見合うミッションと目標を擦り合わせ、人事考課シートに落とし込んで管理。半年後に進捗共有し、1年後に給与改定を実現するという流れです。

「子どもが生まれたので収入を増やしたい」「家族との時間を増やしたいので収入を減らしてでも週4日勤務にしたい」などさまざまな人がいますね。必ずしも高い給料が欲しいという人だけではないんです。

大切なのは、社員本人がどんな人生を望み、どうありたいのかをベースにして待遇や働き方を決めること。これも現場を起点とした組織づくりには欠かせないことだと考えています。

お役立ち資料

取材後記

記事内でも語られていたように、全社員参加の面接で採用を決定するようになってからのデジリハでは、新しいメンバーが入社してからのフォロー体制も強化されています。採用前からコミュニケーションがスタートしているため、職種を超えたやりとりも盛んです。現場でのフラットな会話を通じて「○○さんにはこんな強みがある!」といった発見・共有がなされ、新しいポジションが生まれることもあるそう。常に現場を起点にして組織と事業が動く。そんなデジリハのスタンスから学べる企業は多いのではないでしょうか。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也