中途採用10人全員が退職したことも…。「他己紹介推薦文」必須!大都の徹底したカルチャーフィット採用戦略【連載 第15回 隣の気になる人事さん】

株式会社大都

代表取締役 山田岳人(やまだ・たかひと)

プロフィール
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  • 自社に最適な高スキル人材でもカルチャーが合わなければ定着せず、カルチャーが壊されてしまう懸念もある
  • 選考に「他己紹介の推薦文」を必ず入れることで、採用見込み対象者を立体的に理解できる
  • カルチャーフィットするかどうかを入社前に確認するため、選考にワークを必ず入れる

全国各地の人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、気になる取り組みの裏側を探る連載企画「隣の気になる人事さん」。

第14回の記事に登場した木村石鹸工業株式会社の木村祥一郎さんは、プラットフォーム型BtoC向けオンラインショップ『DIY FACTORY』やBtoB向けオンラインショップ『トラノテ』を運営する株式会社大都を気になる企業として紹介してくれました。

▶木村石鹸工業の木村祥一郎さんが登場した第14回の記事はコチラ
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大都は昭和12年創業の老舗企業でありながら、現社長の山田岳人さんが就任してからは大胆な風土改革を実施。社内では年次・役職関係なくイングリッシュネームで呼び合い、山田さん自身も「ジャック」(敬称なし)と呼ばれています。そのユニークな社風は採用プロセスにも現れており、面接時には必ず「他己紹介の推薦文持参」を採用見込み対象者に求めるといいます。

 

10人を中途採用するも、1人も残らなかった痛い経験

——大都ではなぜユニークな採用手法を取り入れているのでしょうか。

山田氏(以下、ジャック):過去の中途採用で経験したミスマッチが原点にあります。

私たちは組織文化やカルチャーをとても重視していて、現状では新卒採用を中心としているのですが、過去には上場準備に向けて管理系高スキル人材の中途採用に挑んだことがありました。

大阪市生野区という下町で事業をしており、勤務地としての魅力が飛び抜けているわけではない状況の中、人材紹介サービス経由でどうにか10人の高スキル人材を採用したんです。しかし結果的には1人も定着しませんでした。

——10人を採用して1人も残らない。なぜそうなってしまったのでしょうか。

 

ジャック:当社の独特なカルチャーにフィットしなかったんです。イングリッシュネームで呼び合う習慣や、自由な働き方を中途入社者になかなか理解してもらえませんでした。

たとえば当時は毎朝、笑顔で1日をスタートするために朝礼の中にゲームコーナーを設けていたんですね。既存のメンバーはそれを楽しんでいたのですが、中途採用で入った人からは「この無駄な時間を業務に使ったほうがいいんじゃないか」と真顔で指摘されることもあって…。

中途採用って本当に難しいですよね。スキル面でどれだけ最適な人でも、自社に合わない人もいる。下手をすると自社のカルチャーを破壊されてしまうかもしれない。そんな経験から、カルチャーフィットを最重視した採用活動を行うようになりました。

採用見込み対象者が築いてきた「人との関係性」を知るための推薦文

——現在の面接では「他己紹介の推薦文」を採用見込み対象者に求めていると聞きました。

ジャック:結論から言うと、私は人の本質を知るための手法として、「面接自体にはあまり意味がない」と思っているんです。採用見込み対象者はその会社に入りたいと思っているので、どうしても会社が喜ぶことを言おうとしますよね。それなら、その採用見込み対象者の周囲の人に推薦文を書いてもらうほうが本質を理解しやすいのではないかと考えました。

もちろん面接の前提となる一定条件はあります。中途採用でいえば、必要なスキルセットを満たしていることが大前提。その上で、面接時の人柄の良さだけを見るわけではないということです。

 

——推薦文を提出してもらう際、「誰に書いてもらうか」といった条件はあるのでしょうか。

ジャック:まったくありません。推薦文は誰に書いてもらってもいいし、何人に書いてもらっても構いません。書式も自由です。ただし、内容を改ざんできないように、原則として推薦してくれたご本人から大都へ直接郵送していただくようにお願いしています。

実際の例をご紹介しましょうか。

現在管理部で活躍している女性メンバーは、5年前に中途入社しました。彼女のときは推薦文が4通届いて、そのうちの1通は親友から。ノートの16ページ分を使い、過去の思い出の写真などを交えて「彼女はこんな人間です。御社に一目惚れしたと言っているのでぜひ採用してください」という熱いメッセージが書かれていました。

親友から届いた16ページにも及ぶ推薦ノート(提供:株式会社大都)

他の3通は前職の会社関係者からでした。驚いたのは、前職のトップである会長さんから書いてもらっていたことです。

——これから辞めていく社員のために、別企業への推薦文を書く…。前職での良い関係性がうかがえますね。

ジャック:そうですよね。誰に書いてもらうかによって、採用見込み対象者が築き上げてきた周囲の人との関係性が見えてくる。推薦文にはそんな効果があります。私自身、推薦文の内容を見て採用可否を決定しているわけではなく、誰がその人を思って推薦してくれているのかを見て、本人が人間関係をどんなふうに築いてきたかを判断材料にしたいと考えています。

先ほどの女性メンバー以外の例でいえば、両親やきょうだい、学生時代のサークルの仲間、アルバイト先の店長、ゼミの先生など、さまざまな人からの推薦文を受け取ってきました。

厳しいことを言えば、周囲の人との関係性構築を怠り、誰にも推薦文を書いてもらえない人は大都に入社できません。仮に入社できたとしても、大都の仲間が大切にしているカルチャーになじむのは難しいでしょう。

——誰かに推薦文を書いてもらったという事実は、採用見込み対象者本人にとっても大きな財産となりそうですね。

 

ジャック:そうですね。採用決定後は、集まった推薦文を入社時に本人に渡しています。残念ながらご縁がなかった人にも、不採用通知の後に推薦文を送っています。転職のタイミングで、自身の人間関係を見つめ直す契機にしてほしいとも思っているんです。

転職活動中には、なかなかうまくいかなくて自己肯定感が下がってしまうこともあるかもしれません。そんなときにも、自分を応援してくれる人の存在を感じてほしいんですよね。

採用する側としても、新たな仲間の一人ひとりのストーリーを知ることで、相手を立体的に見て理解できるようになります。採用するということは、「誰かに大切にされている誰か」を受け入れるということ。企業は本当に大きな責任を背負っているんですよ。

カルチャーフィットを徹底追求したら「ボウリング採用」が生まれた

——大都では他にもユニークな選考を実施しているのでしょうか。

ジャック:面接にあまり意味がないと考えているので、当社は他社に見られるような「面接らしい面接」をやりません。選考の段階で脱出ゲームをしたり、チームに分かれてラジオCMを考えてもらったり、DIY工房で一緒に何かをつくってみたり。そうしたワークを入れることで、困っている人を助ける人やリーダーシップを発揮する人が見えてくるんですよね。

以前は「ボウリング採用」もやっていました。

——ボウリング採用?

ジャック:中途採用の最終選考では、採用見込み対象者と待ち合わせをして、採用部門の上司や役員とともに食事をするんですね。採用見込み対象者と合流したら、食事に行く前に「ボウリングか麻雀、どっちがいい?」と聞いて、4人でやるゲームに誘うんです。これまでに麻雀を選んだ人はいませんが(笑)。

 

2対2のチームに分かれてボウリング対決し、負けたチームはこの後で食事に行く居酒屋の店員さんを笑わせるなどの罰ゲームも用意します。こうしてボウリングをプレーしていれば採用見込み対象者の人となりがわかるんですよ。もし「最終面接でボウリングなんてあり得ない、ついていけない」と採用見込み対象者が感じたのなら、その時点で辞退していただきます。この段階でついて来られないと、入社後は絶対にフィットしませんから。

——まさにカルチャーフィットを徹底追求した採用活動だと感じます。

ジャック:会社で起きる問題のほとんどは、人に起因するものだと思っています。社内で会社の悪口を言ったり、仲間の悪口を言ったりする人が出てくると、大切にしているカルチャーが一気に崩れ去ってしまう。だからこそ採用の入り口を最も重視しているんです。同時に、入社後も成長の場面をたくさん用意できるように意識しています。

ボウリング採用の話をすると勘違いされることもあるのですが、大都は決して楽しいだけの会社ではありません。企業として業績を上げ、生産性を高めていかなければならないことは大前提。そのためのアプローチとして社内の心理的安全性を高め、結果的に生産性が高まって儲かる流れをつくっています。

私たちの場合は、その良い流れの根底にあるのがカルチャーなんですよね。今後はリファラル採用も拡大していくと思いますが、どんな採用手法であっても、採用見込み対象者のストーリーを理解し、私たちのカルチャーを理解してもらう努力を続けていきたいと思っています。

取材後記

取材の中でジャック(山田さん)は「企業は(特に中小企業)もっと、“丁寧に”採用活動をするべきでは」と問題提起してくれました。ひたすら母集団形成に取り組み、採用見込み対象者のことをほとんど知らないまま面接をする。そして高年収の人材を採用する際にも2〜3回会っただけで決定する。採用難と言われる時代にあって、私たちはつい効率や効果ばかりを追い求めてしまっているのかもしれません。採用見込み対象者のストーリーを理解し、自社のカルチャーを理解してもらう大都の採用活動は、全ての企業が参考にすべき事例ではないかと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/牛久保賢二

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