人材紹介サービスや求人広告を一切使わず250人超の母集団を形成!ロフトワークの「デザイン経営×採用ブランディング」とは【連載 第12回 隣の気になる人事さん】

株式会社ロフトワーク

取締役 COO 寺井 翔茉(てらい・しょうま)

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採用担当 齋藤 稔莉(さいとう・みのり)

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HRディレクター 基 真理子(もとい・まりこ)

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人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、先進的な取り組みを進める企業へ質問を投げかけていく連載企画「隣の気になる人事さん」。

第11回の記事に登場した株式会社デジリハの岡勇樹さんは、世界各地で事業展開を進め、中小企業のデザイン経営支援にも注力する株式会社ロフトワークを「気になる企業」として紹介してくれました。

▶岡さんが登場した第11回の記事はコチラ
福祉・医療の専門人材がエンジニアも⁉営業も⁉「全社員面接」を通じて多様な人材獲得・開発を実現しているデジリハの採用術

特許庁は2018年より、中小企業に必要な取り組みとして「『デザイン経営』宣言」を取りまとめました。事業拡大はもとより、採用ブランディングや母集団形成にも有効と言われているデザイン経営。中小企業はどのように実践していくべきなのでしょうか。

デザイン経営は「企業経営の基本としてやるべきこと」

——特許庁は中小企業がデザイン経営に取り組むことを推奨しています。デザイン経営は、企業にとってどのような意義があるのでしょうか。

寺井氏:特許庁が公開している『中小企業のためのデザイン経営ハンドブック2』では、企業としての人格形成を基盤にして文化醸成や価値創造につなげるアクションの例が示されています。自社の「想い」や「らしさ」を明確にし、それに基づいたアクションを起こしていくことで、企業をより良い姿に導いてくれるということです。

これらは革新的でも、これまでにない考え方というわけでもありません。むしろ企業経営の基本としてやるべきことだと言えるのではないでしょうか。

 

——中小企業では、「これまでに取り組んだことがない」「専門人材がいない」といった理由から、自社とデザイン経営との間に距離を感じてしまう傾向もあるのでは。

寺井氏:私自身もかつてはそうでしたが、専門領域外から見ると「デザイン」という言葉を必要以上に高尚に捉えてしまいがちなのかもしれませんね。でも、デザイン経営に携わるクリエイターが取り組んでいるのは、表層のデザインをきれいに整えることだけではないのです。

このデザインを世の中に送り出している企業(自社)は何者なのか。商品・サービスが生み出される背景には、どんなビジョンや仕組み、社内環境があるのか。こうした企業活動に関わる根幹部分に一貫性を持たせ、経営者と一緒に考えていくのがデザイン経営です。その意味では、全ての企業がデザイン経営に取り組むべきだと考えています。

人材紹介サービスや求人広告に一切頼らず、250人超の母集団形成に成功

——気になるのはデザイン経営と採用活動の関係です。貴社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

齋藤氏:当社では、「企業にとって最も大切な資本は人である」というデザイン経営の考え方に基づき、社員の情報を包み隠さず発信しています。コーポレートサイトでは社員全員の顔を紹介していますし、採用活動の選考過程でも情報をフルオープンにして、採用候補者と腹を割って話すことを大切にしていますね。

中小企業は採用にコストをかけにくいからこそ、デザイン経営の考え方を重視すべきなのだと思います。結果的にロフトワークの場合は、人材紹介サービスや求人広告にほぼ頼ることなく採用が進んでいるんです。直接的に採用にかかっている費用は私と基の人件費くらいではないでしょうか。

基氏:未経験の方にも門戸を広げて採用していることを伝えるために、2022年末からは、現場メンバーも参加する会社説明会を開いています。それ以降は応募数も着実に増えていて、現在は会社説明会を月1〜2回開催し平均20人の採用候補者が参加。年間では250人以上とお会いしています。

——人材紹介サービスや求人広告を一切使わずに250人超の母集団を形成しているのは驚異的ですね。採用候補者はどのような経路で集まるのでしょうか。

基氏:主な経路は、当社が頻繁に開催しているイベントやワークショップです。ロフトワークにはこうしたタッチポイントが常にあるんですよ。京都の拠点だけ見ても、最近だと週に2回以上のイベントが開催されていますね。

——どのようなイベントを開催しているのですか?

 

基氏:真面目なプロジェクトマネジメントに関する勉強会を開くこともありますし、「迷宮のような大阪・梅田の地下都市について話す」といったユニークなイベントもあります。最近では「喫茶シランケド」というタイトルで、語尾にとにかく「知らんけど」をつけていろいろなことを話すという催しもありました。

参考:ロフトワークが開催するさまざまなイベント

齋藤氏:ロフトワークでは、自分の専門領域以外でもリーダーシップを発揮し、社会に対して発信することを推奨しているんです。社員がこうしたイベントを主催したり、外部メディアへ寄稿したりすることを人事評価にも加味しています。

このようにアウトプットできるコミュニティがあることは、ロフトワークの採用上の強みになっていると思います。仕事以外の部分でも個人として興味のある領域を突き詰めることができ、それを楽しんでいる社員も多い。採用候補者はこの体制に魅力を感じてくれています。

参考:働き方のデザインをアップデート。私たちが大切にする3つの価値

あえて対象を広げるイベントを開催し、採用エントリー数を急拡大させた事例

——ロフトワークが支援する企業でも、デザイン経営による変化が起きているのでしょうか。

寺井氏:はい。一つの事例として、工事現場に仮設足場レンタルのサービスを提供する株式会社ASNOVAさまの取り組みをご紹介します。ご承知の通り建設業界は人材不足が深刻であり、さらに足場業界は一般的な認知度が低いこともあって、同社では業界全体の認知向上、人材確保を課題としていました。そこで私たちが約3年間にわたりお手伝いをさせていただきました。

まず取り組んだのは、世間の無関心の壁を突破していくこと。ウェブサイトやオウンドメディア、イベント、研修プログラム開発などあらゆる面で支援しました。結果、世の中からの注目度が徐々に高まり、最終的に採用エントリー数は10倍以上に拡大したのです。

——取り組みとしては他社にも見られる内容だと思いますが、ロフトワークの支援は何が違うのでしょうか。

寺井氏:目先の採用のためだけではなく、長期的かつ広範囲に取り組みを進めていることだと思います。同社とのプロジェクトも、採用だけを目的としたものではありませんでした。

この視点で考えると、イベントの在り方も変わってきます。たとえば同社では、足場の組み立て作業とパルクールを融合させたデモンストレーションを披露し、その後は参加者みんなで実際に足場を組み立てるという、不思議なイベントを開催しました。

場所は名古屋の街中です。足場にまったく興味のない人たちも足を止めて見てくれましたし、参加した子どもたちはハンマーを持って足場を組み立てていく過程を楽しみ、目をキラキラさせていました。

採用目的だけに特化していると対象者が狭いイベントになってしまいがちなので、あえて対象を広げていくことが重要だと考えています。エンターテインメントの要素も大切にして、参加者をどのようにもてなし、楽しんでもらうかを考える。これは人事の仕事にも共通しているのではないでしょうか。

人事が「柔軟な発想で採用活動を楽しめるようになる」第一歩とは

——デザイン経営の考え方を採用活動に取り入れていく場合、人事はまずどんなことに取り組むべきでしょうか。

 

齋藤氏:現場で採用を担う立場として大切にしているのは、採用活動を楽しんでくれる仲間を増やしていくことです。いくら人が好きでも、人材のネガティブな面を見極められなければ正しい採用判断はできませんよね。採用活動に興味を持ってくれる人はこうした観点を持ち合わせていることが多いので、人事の枠を超えて協力してもらうべきだと思います。私は基が採用担当に加わるまで9年ほど“ぼっち人事”だったので、人事・採用担当者の方には、「採用を楽しいと感じる人を見つける、つかまえる」をオススメしたいです!

基氏:採用活動に積極的に取り組んでくれる仲間を増やす意味でも、日頃からの情報発信が重要だと思います。ロフトワークのPR活動では、社員本人が喜んでくれるように、本人の活動や取り組みを外部へ発信しています。会社のブランディングはもとより本人のキャリア形成にもつながり、それによって社員自身が自社の魅力を発信する習慣を持ってくれるんです。

寺井氏:私は、「社内の最高の瞬間を写真に収める」ことから始めてみることを提案します。採用活動を進めていると、「うちは他社と比べて○○が劣っているから……」などと、ついネガティブな気持ちになってしまう瞬間もあるでしょう。でも自分の足で社内をもう一度歩き回り、最高の瞬間を100枚くらい撮りためていけば、自分たちが知らなかった自社の一面を知ることができるのではないでしょうか。自社への見方がきっと変わるはず。そうなれば、今よりも柔軟な発想で採用活動を楽しめるようになるのではないでしょうか。

写真提供:株式会社ロフトワーク

お役立ち資料

取材後記

社員が楽しみながら発信するイベントを軸に母集団形成しているロフトワーク。そんな同社の直近の採用実績を聞いていく中でさらに驚かされたのは、「入社したメンバーの3分の1がリファラル経由」であることでした。これは社員が自社を誇りに思い、本心で知人に勧められるからこその結果でしょう。自社の「想い」や「らしさ」を明確にしてアクションを起こす、デザイン経営の意義をまざまざと感じる取材でした。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介