苦戦しがちなIT業界でキャリア採用数を倍増。即戦力となるハイクラス層のエンジニアも継続採用

BIPROGY株式会社

人事部 採用マネジメント室 キャリア採用課 課長 樋口隆俊(ひぐち・たかとし)

プロフィール
BIPROGY株式会社

人事部 採用マネジメント室 キャリア採用課 担当マネージャー 吉村里花(よしむら・りか)

プロフィール

日本初の商用コンピュータを導入したSIerとして知られる「日本ユニシス」は、2022年4月、「BIPROGY(ビプロジー)」に社名変更を行いました。「デジタルコモンズの社会実装」を掲げるとともに、2030年を展望した「Vision2030」を策定し、既存事業の強化・刷新と新規事業の創出による企業変革を進めています。

新たな事業への進出に伴い、即戦力となるハイクラス層を含めて多様な人材が求められる中、同社の人事部はキャリア採用を強化しました。従来、年間50人弱だったキャリア採用数を110人まで拡大しています。採用数を2倍以上にまで引き上げた原動力は、一体、何だったのでしょうか。キャリア採用を担当する人事部採用マネジメント室キャリア採用課の樋口氏と吉村氏に、採用拡大に至る取り組みを伺いました。

「両利きの経営」を実践。企業変革を実現するためのキャリア採用強化

——現在、BIPROGYは即戦力人材などキャリア採用を強化していると伺いました。まずは、採用強化の背景を教えてください。

樋口氏:採用強化の背景には、当社の企業変革の取り組みがあります。当社は1947年に前身企業が設立し、1955年に日本で初めての商用コンピュータを東京証券取引所と野村證券に導入するなど、SIerとして長い歴史を築いてきました。終戦直後から高度成長期、バブル期と、戦後の日本経済の成長をITの専門家集団として支えてきたと自負しています。

しかし、1990年代のIT革命と呼ばれた時期を境に、多くの企業がITに関するノウハウや知見を自社内で蓄積、開発・運用するようになり、顧客企業の情報システムを支える旧来型のビジネスモデルだけでは、持続的な成長を実現するのは困難になりました。今後も企業として成長を続けていくためには、既存のビジネスモデルから脱却し、顧客の真の課題に向き合い、解決策を提案できる企業でなくてはいけません。

そうした中で、当社は企業変革の取り組みを開始しました。2022年には、その意気込みを社内外に発信する意図を込めて、旧社名の日本ユニシスからBIPROGYに社名変更を行っています。新社名には、光が屈折・反射した時に見える7色(Blue、Indigo、Purple、Red、Orange、Green、Yellow)の頭文字をとった造語で、未来に光を当てていくという意思が込められています。「デジタルコモンズの社会実装」を掲げ、既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う「両利きの経営」を事業部門ごとに実践し、ビジネスモデルの強化と刷新を進めています。これらを実現していくためには、企業変革を後押しする多様な人財ポートフォリオの確立が必要不可欠であり、その実現のために、キャリア採用強化に取り組むことになりました。

 

——企業変革に取り組む中で、キャリア採用はどのように変化しましたか。

樋口氏:当社は伝統的に従業員を大切にする社風が根付いており、新卒定着率が比較的高いこともあり、従来のキャリア採用は欠員補充的な位置付けでした。BIPROGY単体の従業員は約4500人ですが、2021年度までキャリア採用は例年50人弱程度です。以前の採用活動は「新卒一本足打法」といっても過言ではありませんでした。

もちろん、従業員の定着率が高いのはよいことですし、同じ組織で過ごす中で醸成される「あうんの呼吸」がチームワークを支える面もあると思います。しかし、それは言い換えると「従業員の同質性が高い」ということでもあります。新たな価値を創出し、ビジネスモデルを変革するためには、組織内に新たな価値観を持ち込む人財が必要です。そのため、2023年4月に採用マネジメント室内に専任部署の「キャリア採用課」を設けて、新卒採用とキャリア採用で組織体制を分け、採用の強化に取り組んでいます。

また、従来は採用メンバーが採用活動を主導していましたが、現在は求人票の作成や求める人財像の要件定義などに、各ビジネスユニットの役職者や主要メンバーにも積極的に関与していただいています。本来、求める人物像を最も正確に把握しているのは、現場で働く皆さんです。日々のビジネスを推進する現場組織が主体的に採用に関わることで、当社によりフィットする人財の獲得を目指しています。

——社名変更に伴い採用活動の影響はあったのでしょうか。

樋口氏:ポジティブな面でいえば、企業変革に関する意気込みや、当社の理念に共感いただくなど、好印象に捉えていただける方も多かったですね。特に新規事業に関わるポジションなどに魅力に感じて、応募いただいています。一方、知名度に関しては旧社名と比較するとまだ認知いただけていないケースも多いです。引き続きプレスリリースなどを発信しながら、会社認知度の向上を図っています。また、面接の場でもビジョンや事業についても積極的にお話ししています。

「やれることはすべてやる」人材紹介サービス中心から採用手法を拡大

——即戦力人材のキャリア採用強化に向け、採用の体制を整備したわけですね。採用手法に変化はあったのでしょうか。

 樋口氏:はい。従来、キャリア採用は人材紹介サービスがほとんどでしたが、現在では「やれることはすべてやる」を目標に、多様な採用手法を実践しています。具体的には、人材紹介サービスに加え、ダイレクト・リクルーティング、リファラル採用、アルムナイ採用などを展開中です。さらに、以前は非公開だった求人票をコーポレートサイト上で公開し、転職希望者から直接の応募も受け付けています。

採用手法の多様化に伴い、転職希望者へのアプローチも変化しました。従来は、人材紹介サービスの利用が中心で、「転職顕在層」のみへアプローチしていましたが、広く母集団形成を進める上で「転職潜在層」へのアプローチも欠かせなくなりました。

そのため、ダイレクト・リクルーティングを活用し、すぐに転職を検討しているわけではなく、情報収集を目的にサービスに登録している方にも接触を試みていますね。「転職潜在層」へもアプローチすることで、「こんな会社があるんだ」と認知いただくことに加えて、すぐ応募に至らなくても、いざ本格的に転職活動をしようと思った際に応募しようと想起されることもあります。また、企業ホームページでは、新規事業のローンチなどの際にはプレスリリースを積極的に配信しています。そのようなことも転職に向けた動機形成につながると考えます。

——採用手法を増やしたことによる手応えはいかがでしょう。

 吉村氏:従来の採用手法ではリーチできなかった層を採用できていると感じています。ダイレクト・リクルーティングでのアプローチを通して、今までリーチできていなかった即戦力層からも反応があり、「こんな業界の方が応募してくれるなんて!」と驚いたことがしばしばありました。また、プレスリリースの発信にも手応えを感じていて、面接で「プレスリリースの内容に共感して応募しました」というお声をいただくこともあります。

ITエンジニア人材に「社会貢献度」をアピール。当社ならではの強みを活かして口説く

——一方で、即戦力人財の採用における課題についてお聞かせください。

 吉村氏:IT業界に共通した課題ではありますが、ITエンジニア職については転職市場における需要が高く、他の職種に比べて応募数が少ないのが課題でしょうか。当社でも数多くの求人を出していますが、競合求人も多い中、応募喚起につなげること、そして選考の中でどう魅力を感じてもらうかは工夫が必要だと思っています。そのため、採用のプロセスでは当社ならではの強みをアピールするよう心がけています。

——BIPROGYならではの「強み」とは何でしょう。

 樋口氏:冒頭でもお話しましたが、当社は1955年に東京証券取引所と野村證券に日本初の商用コンピュータを導入した実績を持ちます。その後もフルバンキング勘定系システム「BankVision」の提供を通じて、地方の金融機関を中心に国内の金融システムを支えてきました。

そのほか、電力やガスなどのインフラ業界とも深い関わりを持ち、数多くの企業・団体を支援しています。こうした実績からもわかるとおり、当社の社会貢献性はIT業界でも際立っているといえます。数あるITエンジニア職の募集の中でも、社会貢献度の高い仕事ができる点が当社の特徴です。

加えて、クラウドやAIなど日々進化する最先端のテクノロジーを用いながら、新しいサービスやソリューションで企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援しているため、最先端な技術を活かして社会貢献度の高い仕事に取り組めます。そんな特徴や、今後の目指す未来を転職希望者へ伝えています。

また、人を大切にする社風も強みの一つです。当社では人財を企業における重要な資産(アセット)として位置付けており、社員が最大限の力を発揮できるようにさまざまな制度や福利厚生、安心して長期的に就業できる環境を用意しております。そうした人を大切にする制度や社風を、面接などを通じてアピールし、転職希望者の興味関心を喚起しています。

人事部だけでなく、事業の最前線に立つ各事業部門が自律的に人財を採用する「自走する採用組織」を目指す

——お二人はBIPROGYでキャリア採用の実績が倍増した要因は何だったと思いますか。

 樋口氏:まずは、採用活動に各事業部門を巻き込んだことだと思います。企業変革の取り組みが全社に浸透する中で、それぞれの事業部門が新規事業の創出に取り組むなど、さまざまな施策に主体的に関わるようになっていきました。そうした中で、キャリア採用にも積極的に取り組んでもらえるようになり、新規募集の依頼が急増したんです。その一つひとつに私たちも伴走させていただきながら、協力して具体化していったのが、採用数が急増した一因だったと考えます。

 

吉村氏: 事業部門から提出された求人票は、求める人物像や要件について詳細化しすぎていたり、漠然としていたりと粒度にバラつきがある場合もあり、採用メンバーが個別に打ち合わせを行い、求める人物像や職務内容を整理しながら求人票の精度を上げていきました。

そのような過程において採用活動に関するノウハウが蓄積していき、求める人物像にマッチした求人票を作成できるようになっていったのです。求人票の精度が向上すれば、その分、採用に至る確率も高まるはず。その意味では、事業部門と私たち採用マネジメント室が密に連携し、採用活動に関する知見を共有していったのも採用数増の要因だったと思います。

——では、最後に、今後のキャリア採用の展望をお聞かせください。

 樋口氏:最終的には、各事業部門が求人票の作成から募集、面接、採用、オンボーディングまでを一貫できるのが理想です。各事業部門が自ら必要な人財を見極め、獲得し、活用する流れが確立すれば、より強靭な組織が構築され、企業変革はさらに加速するでしょう。

ただ、今すぐすべての採用活動を各事業部門に委ねるのは難しいので、これまで通り相互連携を続けながら、採用活動に関する知見をさらに深めていくつもりです。その取り組みの先に、事業部門が「自走して採用できる組織」となっている未来が描けるのだと考えています。

取材後記

企業変革の実現に向け、BIPROGYは多様性ある人財ポートフォリオへの転換に挑みました。こうした取り組みには、全社一体となった採用活動が欠かせません。しかし従来、人財の採用を人事部に委ねていた事業部門が主体的に採用活動を進めるのは至難の業。その実現には何らかのサポートが必要でしょう。BIPROGYでは採用マネジメント室がサポート役として各事業部門を支援し、各事業部門に知見を共有しながら採用活動のリテラシーを高め、その末にキャリア採用の倍増を実現しています。全社一体となった採用活動を推進するBIPROGYの取り組みは、その問いに対する一つの解答といえるかもしれません。

企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/島袋龍太、撮影/中澤真央

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