KPMGコンサルティングの自社採用力を強化する取り組みと、社員とつながりつづける仕組みづくりとは

KPMGコンサルティング株式会社

マネジャー 吉田有佐(よしだ・ありさ)

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KPMGコンサルティング株式会社

岡井谷佳奈(おかいだに・かな)

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  • 「充実した成長環境」「良い会社への進化」をメッセージの軸として採用ブランディングを強化
  • アルムナイ限定のコミュニティサイトを運営し、自社の現在地と成長した姿も共有
  • 再入社に興味を持つ人向けの専用窓口の設置と、カジュアル面談の実施によりで再入社が増加

転職市場が厳しさを増す中、外部サービスに頼るだけではなく、独自の採用手法を確立しようとする企業が増えています。設立10周年を迎えるKPMGコンサルティング株式会社もそんな一社。

自社で採用できる体制を構築するため、さまざまな取り組みを進めています。ここ数年でアルムナイ制度の運用も促進し、2年間で約40人の卒業生が「再入社」し、それぞれの経験を活かして活躍しているといいます。

DX推進などのトレンドを背景に人材争奪戦となっているコンサルティング業界にあって、どのように採用活動を進めているのでしょうか。その取り組みについて聞きました。

自社のブランド力や採用力を強化するために、複数の採用手法を活用

——現在の事業展開や人材採用方針についてお聞かせください。

 

吉田氏:近年のトレンドに応じたDX支援やシステム導入に力を入れつつ、組織改革や事業戦略、財務・会計、リスク管理・サイバーセキュリティ、ESG対応など新しいイシューも含めて多岐にわたる領域でコンサルティングサービスを展開しています。また、クライアント個社の支援にとどまらず、当社がハブとなってさまざまな企業を巻き込み、社会課題を解決する取り組みも進めているところです。

こうした中でキャリア採用も強化していますが、近年コンサルティング業界では各社が採用を拡大しており、業界経験者の採用は本当に難しくなってきています。そのため最近ではコンサルタント未経験者に向けた育成プログラムを整備し、異業種からも積極的に採用しています。

——キャリア採用ではどのような手法を取っていますか?

吉田氏:ダイレクト・ソーシングやリファラルも活用し、最近ではアルムナイからの再入社も増えていますが、やはり人材紹介サービス経由の採用も多いです。業界を問わず転職市場はますます厳しくなっていくと予想されますので、外部サービスに依存するのではなく自社で採用できる力を付けていく必要があります。自社のブランド力や採用力を強化していくことが重要課題だと考えていますね。

そこで私たち採用チームでは、採用の内製化も見据え、ブログやSNSなどのオウンドメディアや動画共有サイトなどで転職潜在層へも含めて当社の魅力を伝えるコンテンツを発信。興味を持って採用イベントに足を運んでくださった方にはキャリア登録をしていただき、定期的なニュースレター配信を通じて効率的に情報収集していただきつつ、当社のことを良く知ってもらえるようコミュニティづくりに取り組んでいます。

——そうしたコンテンツではどのようなメッセージを届けているのでしょうか。

吉田氏:当社は「人を大切にするNo.1ファームでありたい」というスタンスを大切にしてきました。クライアントに当社のファンになってもらうためには、まず社員にファンになってもらわなければならないと考えています。業界未経験でもコンサルタントとして成長できる研修や仕組みを整えていますし、私たちは自社で責任を持って育成できる人数しか採用していません。

当社が手掛ける案件は数名規模のプロジェクトも多いです。そのため業界未経験者や若手社員であってもアシスタント業務に終始することなく領域を区切って業務を任せてもらえ、早い段階でクライアントに直接向き合うことができます。社内ではよく「打席に立てる回数が多い」と表現していますね。その他、社員のチャレンジを後押しするカルチャーもあり、eスポーツなど社員自らが挙手してゼロからサービスをつくり上げていった例が幾つもあります。

また、設立から10年目を迎えましたが、社員一人ひとりが自分らしく働きWell-beingも実現していくには、まだまだ取り組まなければならないこともあると感じています。

このように「充実した成長環境がある」「良い会社へと日々進化している」ことを直接お伝えしています。

約500人が参加するアルムナイ制度を支えるコミュニティ

——御社はアルムナイ制度にも積極的に取り組んでいます。取り組みを始めて「2年で約40人の卒業生が再入社」という驚きの成果が生まれていますね。

岡井谷氏:アルムナイは、一度は同じ価値観を共有した人たちです。設立から年月を重ねてそれなりに卒業生が増えていく中で、退職によって縁が途切れてしまうのはもったいないことだと感じていました。そこで2021年10月にアルムナイコミュニティを立ち上げたんです。

アルムナイ限定のコミュニティサイトを運営し、退職する社員へ登録を呼びかけたり、制度化前に退職した人も招待したりして、現在は約500人がコミュニティに参加しています。コミュニティサイトでは当社の近況やビジネスに役立つ情報などを発信。一度辞めてしまうと前の会社の情報はなかなか入ってこないですし、個人的に連絡をマメにとって仲間とつながり続けることも大変なので、アルムナイの皆さんには価値を感じてもらえているようです。

——コミュニティサイトにはどのような機能を持たせているのでしょうか。

岡井谷氏:SNSのように、アルムナイに登録している人を検索して自由につながることができます。個人SNSではつながっていない卒業生とも再会できますし、サイト内でダイレクトメッセージを送ってやり取りすることも可能です。

私たち事務局からは「トークルーム」というチャット機能を使って、各種コンテンツやイベント開催のお知らせなどを発信しています。再入社に興味のある人に向けては、直接コンタクトしてもらえる窓口も用意しています。他にも、卒業生同士で自由に投稿できるトークルームもありますね。

 

——発信しているコンテンツの特徴も知りたいです。

岡井谷氏:卒業生の皆さんはそれぞれの道を歩み、コンサルティング業界以外に進んでいる人も少なくありません。全員にヒットする記事を届けるのは難しいかもしれませんが、それでも誰かにとって意味のあるコンテンツにしたいと心掛けています。

内容の特徴としては、一般向けの採用コンテンツなどでは出せない、当社の生々しい近況や数字なども伝えていることでしょうか。たとえば中期経営計画で発表された数字なども、社内の承認を得た上で卒業生にも共有しています。また、新ビジネスの立ち上げや取り組みなどについてその背景や想いも含め、イベントの場で社長から直接語ってもらうようにしています。会社のことを良く知るアルムナイだからこそ、社員と同じ目線で理解してもらえるので、こうした情報を発信しているんです。

——運営にあたり、参考指標はどういったものを設定していますか?

吉田氏:コミュニティ運営の参考指標として登録者数やイベント参加者数などを見ています。再入社者の数を追いかけ始めてしまうと、途端にアルムナイコミュニティの意義が崩れていくと思うんです。登録者やイベント参加者が増えてコミュニティが活性化したり、卒業生に役立つ情報を届け続けたりしていけば、再入社に興味を持つ人も自然と増えていくはずです。これからアルムナイ制度に取り組む企業でも、まずは、登録者数や登録率、イベントの参加率などを見てアルムナイコミュニティの活性化を中間目標に置くことをお勧めしたいですね。

自社の現在地を伝える、戻りやすい空気を醸成する。再入社者が増える要因

——卒業生が数十人規模で再入社している例は少ないと思います。卒業生が戻ってきてくれる要因はどこにあるのでしょうか。

吉田氏:アルムナイのコミュニティサイトやイベントを通じて、当社の現在地と成長した姿を見てもらえているからだと思います。

まだ10年目の会社なので、制度・仕組みが整っていない設立当初に入社し、早い段階で退職してしまった人もいました。そうした卒業生にも会社として成長している姿を伝えることで、ビジネスとしての成熟度や働く上での安心感を感じてもらえたのではないでしょうか。社員が自分らしく生き生きと働けるよう全社で取り組んでいますが、こうした取り組みこそが前提として重要になってくると思います。

 

岡井谷氏:再入社した人の活躍ぶりなどを伝えながら、「いつでも戻ってこられる空気感」を出せるように心掛けています。実際に再入社に興味を持つ方には気軽に相談できる窓口を設け、カジュアル面談にもいつでも対応しています。その後、選考に進みたい方は通常フローで選考となりますが、得意分野やスキルは理解していますし、カルチャーフィットもしている方が多いので、入社後の立ち上がりはスムーズに進むことが多いですね。

——これまでに再入社した方々からは、どんな声が届いていますか?

岡井谷氏:再入社者へのアンケートでは、戻ってきた理由として「以前と比べて働く環境が整っている」「KPMGコンサルティングの社風や人間関係が自分に合っていたと改めて気付いた」といった回答が目立ちますね。一度社外に出て客観的な視点を持てたことで、古巣の魅力に改めて気付いた人が多いようです。また、再入社といっても以前と同じ仕事をするのではなく、社外で積んだ経験をもとに新しい領域にチャレンジしたいと考える人も少なくありません。

 

吉田氏:当社にはもともと、希望に応じて部署異動にチャレンジできる制度や、専門のキャリアサポート窓口に相談できる制度があります。在籍時から当社内での別の可能性を追求でき、辞めてからも再入社という方法がある。個人のキャリアの可能性は大きく広がっていると感じます。

時代的には1社でキャリアを終えようと考える人が減っていますよね。若い世代は特にそうだと思います。私たちは個人がキャリアオーナーシップを持てるようにサポートしていかなければなりません。

卒業生には当社を「キャリアのホームタウン」と感じてもらえたらいいなと思っています。転職や独立などの決断をした結果、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあるでしょう。いつでも戻れるホームタウンがあれば安心できるし、ホームタウンがあるからこそ大胆な挑戦もできるようになるはず。

当社の社員へそうした支えとなれる環境をこれからもつくっていきたいですね。

取材後記

育成プログラムを整備した上でのコンサル未経験者採用、自社の魅力を伝えるコンテンツ発信など、採用力を強化していくことを目的としたKPMGコンサルティングの取り組みが印象的でした。また、一人ひとりの価値観や得意・不得意などを深く理解した上でキャリア構築をサポートしていくことで、「個人のキャリア観を大切にする再入社」が成り立つのだと感じました。一般的には「出戻り」と表現されることもある再入社ですが、同社では“Welcome back”(おかえり)と呼ばれているそうです。

企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

アルムナイ採用 ToDoリスト

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