その“不適切な対応”で欲しい人材が逃げているかも…。採用成功のための応募者対応ナレッジ

株式会社キープレイヤーズ

代表取締役 高野秀敏(たかの・ひでとし)

プロフィール
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  • 重大トラブルにつながる不適切な応募者対応の多くは、不合格通知を行わないなど基本的なオペレーションの問題に起因する
  • スカウトメールに関する不適切対応をなくすためには経営~人事~外注の「丸投げの連鎖」を解消すべき
  • 応募者の不満や怒りの多くは「サイレント」。人間らしい対応を重視しない企業は知らないうちに嫌われている

ただでさえ母集団形成が難しい時代にもかかわらず、応募者への不適切な対応によって採用成功への機会を逃している企業が後を絶ちません。全国求人情報協会の発信によると、

・Web応募で最低限の個人情報しか入力していないのに「書類選考」で不採用とされた
・求人広告に「未経験歓迎」と書いてあったのに、応募時に経験がないことを理由に断られた
・面接の1週間後に予定されていた採否の連絡がまったく来ない

など、応募者の声を基にした、実際に起きた不適切な対応事例が紹介されています。

採用手法が多様化した近年においては、「スカウトメールが来て、どうしてもと言われて面接を受けたのに“希望給与条件を下げてもらえないか”と言われた」「面接確約のオファーが来たのに、面接をされないまま不採用通知が届いた」「“取扱商品をよく理解してもらうため”という名目で面接時に商品購入を依頼された」といったトラブル事例も。

こうした不適切な応募者対応は、採用成功につながらないだけでなく、企業イメージそのものを低下させることにもつながりかねません。直接応募方式の求人広告やダイレクト・ソーシングを活用している企業にとっては死活問題だと言えるでしょう。

不適切な応募者対応を起こさないためには何を意識し、実行するべきなのか。ベンチャーやスタートアップを中心に多数の転職支援・採用支援実績を持つ、株式会社キープレイヤーズ代表の高野氏に聞きました。

基本的なオペレーションのミス・怠慢を見過ごしていないか

 

——以前からずっと指摘されていることではありますが、不適切な応募者対応によるトラブルが後を絶ちません。こうした事案が起きることで、採用側の企業にはどのような悪影響が考えられるでしょうか。

高野氏:採用が進まなくなることはもちろんとして、不適切な応募者対応は企業自身が気づかないうちに自社の評判を落としていきます。転職情報サイトの口コミに書かれたり、SNSに投稿されたり。

こうした目に見える形で表れなくても、不適切な対応をされた応募者の心には確実にしこりが残るでしょう。応募者の不満や怒りの多くはサイレント。だからこそ怖いのです。

多くの転職希望者から注目されている人気企業や、ゲーム・アパレルなどファンが応募してくれることが多い業界は特に要注意だと思っています。

——最近の転職市場においても、高野さんは不適切な応募者対応を行っている企業を目撃しますか?

高野氏:基本的なオペレーションの部分でミスが起き、それによって不適切な対応になっているケースが多いと感じます。面接調整にものすごく時間がかかったり、面接後に不合格の連絡をし忘れたりといったミスです。

最近では便利な日程調整ツールも増えていますよね。こうしたツールを使えば、応募者とのやりとりにおける基本的なミスは防げるようになるかもしれません。

ただ当社調べでは、ツールを介することで面談に来てくれる応募者の数が減ってしまうこともわかっています。特にカジュアル面談の場合は、ツールのリンクを応募者に送っても日程をなかなか入力してもらえないことがあります。「使い方がわからない」「ログインに手間取ってしまう」といった理由で応募者が離れてしまう場合もあるので、ツールの使い方も含めて丁寧にフォローする必要があると感じています。

——面談や面接の現場で起きがちな不適切対応は。

高野氏:これも極めて基本的なことですが、面接担当者が時間に遅れるのは非常に問題です。面接では応募者を絶対に待たせてはいけません。

応募者は面接の場面で、その企業の社員のビジネスマナーも見ています。万が一、面接担当者が遅刻してしまった場合は、面接の冒頭と最後の2回丁寧におわびをするなどの細かな心配りを忘れないでいただきたいですね。

面接終了後の現場での対応も重要です。面接室に担当者がすぐに現れ、今後についての案内をする会社は好印象を与えます。逆に、面接担当者による面接が終わった後、応募者を10分くらい平気で待たせてしまう会社も。私が応募者だったら、話を聞かずにそのまま帰ってしまうかもしれません。

スカウトメールの不適切対応は「丸投げの連鎖」によって起きる

 

——スカウトメールを通じた採用でも、不適切な応募者対応が多く見られるようです。

高野氏:その原因は、共通フォーマットのスカウトメールを数多くの応募者にひたすら送っていること、そして経営者や役員、時には人事・採用担当者も含めて、面接の重要フェーズで関わる人がスカウトメールの中身を確認していないことにあると思います。

中堅・中小企業では、人事・採用担当者が1人で中途採用と新卒採用を担当していることも珍しくありません。ただでさえ日々の業務に忙殺されているのに、経営者や役員は人事・採用担当者にスカウトメール送信を丸投げしていることがほとんど。忙しい人事・採用担当者は面接数を増やすために、外部のスカウトメール送信代行業者に依頼して幅広い転職希望者に送信し続けてもらう。

こうした状況が続くと、「スカウトメールでどんな内容を伝えているのか」を意識せずに面接に臨んでしまい、ちぐはぐな対応になってしまいます。中には、面接確約オファーを送っているのにもかかわらず、面接が実施されないまま不採用になったケースも。

盲点になりがちなのは、スカウトメールなどを受けて応募者が「社長に会える」と思っていたのに、実際に面接に訪れてみると人事部長が出てきた、というケースです。応募者からすると肩透かしを食らったような気分になりますよね。スカウトメール送信時に社長のアカウントを運用している場合は、特に注意していただければと思います。

もちろんスカウトメール送信代行業者に依頼することが悪いわけではありません。人事・採用担当者もスカウトメール送信代行業社も業務を一生懸命遂行しているのは間違いないでしょう。問題は経営から人事へ、人事から外注へという「丸投げの連鎖」になっていること。代行を依頼する際にも人事・採用担当者が丁寧にディレクションして内容を確認し、経営者や役員もスカウトメールの中身を把握して面接に臨むべきです。

AI時代だからこそ、人間らしい対応が重視されている

 

——こうした事例や対応方法を踏まえて、人事・採用担当者はどんなことを意識すべきでしょうか。

高野氏:最近では個人の価値観も働き方も多様化していて、礼儀正しい会社であることを古くさく感じる風潮があるように思います。でも、そんな時代でも応募者は人間らしい礼儀正しさを見極めているものです。AI時代だからこそ、人間らしい対応が重視されていると言えるのかもしれません。

経営者や人事・採用担当者がどんなに熱意を込めて語っても、あるいは求人広告やスカウトメールにどんなにきれいな文章を書いても、応募者からすれば実際に働いてみるまでは企業の言うことを簡単に信じることはできないのです。だからこそ礼儀正しく、スピーディーに、相手のことを気遣ってやりとりをしなければならないと思っています。

面接確約オファーを送ったのにもかかわらず、面接が実施されず不採用になったケースでは、そもそも面接を行うことは当然ですが、面接後に不採用になった場合でも「充足した」といった方便を使わず、選考の結果が不採用だったと応募者には誠実に伝えるべきです。

目に見える範囲のことで言えば、「会社内がきれいに整とんされているか」も重要ですよ。大きなオフィスや有名スポットである必要はありませんが、オフィスが整理整とんされていないと明確に印象が悪くなります。お金をかけなくても内装を整える工夫はいくらでもできますし、デスクを整理することは言わずもがなです。

「そんなことは当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが、残念ながら、このような基本を徹底しないまま応募者対応している企業は非常に多いです。そしてこうした企業が、口コミなどで触れられることもなく、サイレントに嫌われていくのです。

写真提供:株式会社キープレイヤーズ

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取材後記

労働災害防止の文脈でよく引用されるハインリッヒの法則では、「1件の重大事故の背後に29件の軽微な事故があり、そのさらに背後には300件のヒヤリハット(事故寸前の危険な状態)がある」とされています。

面接官が応募者レジュメに目を通していない。前の面接を担当した面接官と情報共有していない。一次面接で聞いた基本的な情報をまた二次面接で聞いてしまう…。よく聞かれるこれらの問題も、応募者対応における軽微な事故と言えるのではないでしょうか。高野さんが指摘する「サイレントに嫌われる企業」にならないためには、目の前にあるヒヤリハットを改善していくことが何よりも大切なのだと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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