成功する組織の秘策は“感情”にあった。成果を出すリーダーが実践する「感情マネジメント」と「EQの鍛え方」

株式会社アイズプラス

代表取締役 池照佳代(いけてる・かよ)

プロフィール
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  • 管理職が自らの感情をマネジメントできるようになれば、リーダーシップやコミュニケーションの質が向上する
  • EQ(感情知性)は「知る」「選択する」「活かす」の3ステップで高められる。すぐに活用できるツール「ムードメーター」も紹介
  • 必要なのはTO DOではなく「TO BE」リスト。自らの感情と向き合い、うまく活用する秘策は「感情の予約」

事業環境や働き方の変化に伴い、管理職には以前にも増して難しいかじ取りが求められるようになりました。部下とのコミュニケーションをどのように図っていけばいいのか、どうすれば部下のモチベーションを高められるのか。そんなチーム運営の悩みを抱える管理職も少なくありません。

数多くの企業のコンサルティングに携わる池照氏は、著書『感情マネジメント 自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす』(ダイヤモンド社)において、“感情マネジメント力こそがリーダーに最も必要なスキル”だと指摘しています。自分自身や部下の感情を知ることで日常のコミュニケーションが変わり、ひいてはリーダーシップの在り方も変わるのだと。

感情マネジメントは組織にどのような好影響をもたらすのでしょうか。その鍵を握るEQ(Emotional Intelligence Quotient:感情知性)の高め方についても聞きました。

正解がない時代。感情は知性を伸ばすために重要なリソース

——数々の企業で人材開発や組織開発に携わってきた池照さんが、「感情マネジメント」に着目することになった背景をお聞かせください。

池照氏:さまざまな要因が重なったこともありますが、ひとつは、私自身が管理職を長く務める中で「一番の課題は自分自身のマネジメントではないか」と感じるようになったことでした。以前の私は定量的な成果ばかりを重視し、周囲や自分がいかに機嫌良く過ごしていけるかをまったく気にしていなかったんです。だから表面上は何とかなっていても、実際には人が本音ではついてこなかった。

そのモヤモヤを抱えながら出会ったのがEQに関する本でした。なぜプロジェクトがうまくいかないのかを言語化してくれたのが、感情マネジメントという分野だったわけです。

 

——そもそも“EQ”とは?

池照氏:私はEQを「自分の感情をマネジメントするとともに、自分や周囲の感情を適切に理解し働きかける能力」と定義しています。EQを高めることは、管理職やリーダーにさまざまなメリットをもたらしてくれます。

まず、自分自身の特性や感情の動きを知ること、次に周囲の人の感情を理解することで、周囲を巻き込むリーダーシップの質が向上します。チーム全体に対してどんな言葉を、どんな表情で、どんなタイミングで語りかけるか。これらはEQ によって大きく変わる要素です。

EQを高めることによって部下とのコミュニケーションの質も向上していくでしょう。1on1などの場面で、部下が何に喜び、何に恐れを抱き、どのような場面で活躍できるのかを理解しながら問いを投げかけていけば、より有意義な対話の時間となるはずです。

現在ではどんな組織でも画一的なマネジメントは通用せず、視点も価値観も感じ方も多様な個人をマネジメントしていくことが求められています。この時代の管理職に必要なのは、決まった正解に早くたどり着くための「知能」ではなく、正解がない中でも自分の情報や経験、感情を活用して答えを探求し続ける「知性」です。自らの知性を高めていくために、感情はとても重要なリソースとなるのです。

“感情を共有するツール”によって離職率を大幅に低減

——EQを高めるためのトレーニング方法を教えてください。

池照氏:EQについて学ぶ際は、「知る」「選択する」「活かす」の3ステップを意識することが重要です。EQを高める過程で自分自身の感情を知り、場面に応じて次につながる行動を選び、目的達成に向けて感情を活かせるようになっていきます。

 

すぐに取り組めるトレーニングとしてオススメしたいのは、米イェール大学が開発した「ムードメーター」という今の気分を数値化、言語化できるツールを活用すること。これはもともと国籍や民族、宗教など多様なバックグラウンドを持つ生徒をマネジメントする教員向けにつくられたツールで、自分の「エネルギーレベル」と「フィーリング」をそれぞれ1〜10点で数値化し、わかりやすく色で表しています。

 

朝すっきりと起きられて気分が良いのでフィーリングは8点、筋肉痛があるからエネルギーは7点、といった使い方です。ムードメーターを1on1やMTGの冒頭など日常的に使うことで、自分や部下の感情がどんな状態なのかを可視化し、互いのコンディションを把握した上で働きかけられるようになります。

——池照さん自身もムードメーターを活用しているのですか?

池照氏:はい。当社では私を含めた全メンバーが毎朝のルーティンとしてムードメーターを使い、チャット上でコンディションを共有しています。感情は日常の中で湧き上がり、揺れ動くものなので、仕事のことに限らずプライベートで起きたことについて会話することもありますね。

ちなみに私の場合はいつもエネルギーレベルが高く、部下にもハイテンションで接することがほとんど(笑)。しかし相手の状態によっては、私のハイテンションについていけないと感じることもあるかもしれません。そんなときは、相手の気分に合わせて自分のテンションを落ち着かせて接するようにする。このように感情の特性と機能を知り、相手と感情を活かし合うことで、互いに働きやすく、力が発揮しやすい関係づくりにつながります。

ある企業はムードメーターを1on1で必ず使うようになって、離職率24%の状態から1年後には8%に改善しました。ムードメーターの結果について会話する中で、部下が「このチームでは弱みや不安も含めて話していいんだ」と感じるようになり、心理的安全性を高めることにつながったということです。

気が重くなるような会議もポジティブになれる!?「TO BEリスト」の工夫

——管理職の中には、これまで自分自身の感情に目を向けてこなかった人も多いかもしれません。

池照氏:かつての私もそうでした。ただでさえ多忙な日々の中で、自分自身のことを振り返る時間はなかなか取れませんよね。それでも、1日に1分だけでもいいので、自分が今どんな感情を持っているのか、立ち止まって考える習慣を持っていただきたいです。

 

たとえば誰かの言葉にイライラしているとき。イライラしているのは言われた相手によるものなのか?それとも言われた内容が問題だったのか?そんなふうに客観的に分析することで、自分の感情をより深く理解し、パターンを知ることができます。知ることが「対応」に繋がるのです。

慣れてきたら、イライラレベルを数値化するのもいいですね。イライラレベルが10点のときと2点のときでは何が違うのか。たとえばイライラしたとき。部下に対して敬語で話すのが無意識のうちに増えていることが、本人は無意識でも部下がその変化に気付いた。数値化するまで自分の感情や態度の変化に気づけていなかった…というような発見につながることもあります。

——突発的に湧いてくる感情をコントロールするのは難しいものですが、自分なりに理解して向き合えば、感情との付き合い方が変わるのかもしれませんね。

池照氏:そうですね。私自身の取り組みをもう一つ紹介すると、朝起きたときにはTO DOリストではなく「TO BEリスト」をつくっているんですよ。今日やらなければいけない予定のリストではなく、その日の予定に対してどんな気持ちで向かうかを計画しています。

仕事の予定でちょっと気が重くなるような会議が入っているとしたら、「タフな会議になりそうだけど、落ち着いて真摯に向きあう!」ことを決めたり、子どもが最近反抗期だけど夕飯時には家族と笑顔でいたいと思ったら、「私自身が最高な笑顔でいる!」と決めたりする。言うなれば「感情の予約」をしているわけですね。

こうしたEQの応用は、仕事はもちろん、人生全般に良い影響をもたらしてくれます。ぜひ取り入れてみてください。

上層部のコピペではなく、「私」のメッセージを語れる管理職

——管理職がEQを高めてチーム運営に活かし始めると、どのような変化を期待できるのでしょうか。

池照氏:EQ発揮度が高いリーダーにはいくつかのポジティブな特徴がありますが、中でも私が変化を感じるのは「自分を主語にしてリーダーシップを取る」ことです。自らの感情や思考という情報から“自分”を知ることで、主語を「I(私)」にして「私はこの選択をする」「なぜなら私にはこんなニーズがあり、感情(価値観)があるから…」と、自分の言葉を持ち、発信するようになります。

組織の上層部から言われたことをコピー&ペーストで伝えるのではなく、「私」としてメッセージを伝える。そうなれば部下への響き方も変わります。

会社全体の方向性と自チームの方向性がまったく同じではないこともあります。「全社の方向性は理解しているが、うちのチームは環境や顧客の変化を鑑み、協働しながら優先順位やアプローチを変化させる」など、「I(私)」を主語に感じ、思考し、意思決定につなげる。自分の言葉で本質を語る上司は信頼できますよね。

もし管理職自身がモヤモヤを感じているなら、時にはその感情を部下と共有し、一緒に考えるのもいいと思います。部下もさまざまな反応をするはずです。互いに感情を共有し、理解し合うことで、一人ひとりの強みを活かすチームとなるでしょう。

資料提供:株式会社アイズプラス

取材後記

日本企業の多くは従業員の感情面へのケアを軽視し、スキル育成の取り組みに偏っているのかもしれません。「感情」という言葉に、どこか捉えどころのなさを覚える人も多いでしょう。しかし池照さんは「感情マネジメントは良い人になるためではなく、ビジネスの目的を達成するために必要なもの」だと言い切ります。目標管理やエンゲージメントスコアなどの定量面では良い傾向が出ているのに、なぜか組織が活性化しない…。そんな悩みを抱えている企業こそ、個人の感情に着目するべきではないでしょうか。

企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/安井信介

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