マタハラとは?定義や具体例の解説と企業がすべき対応とは?
妊娠・出産・育休取得をきっかけとした女性従業員への不利益な扱いや嫌がらせを意味する、マタハラ(マタニティハラスメント)。「具体的に、どのような言動が該当するのか」「企業として、どのような対応が必要なのか」などを知りたい人事担当者もいるでしょう。
この記事では、マタハラの定義や具体例、企業がすべき対応について紹介します。
マタハラ(マタニティハラスメント)の定義
いわゆるマタハラ(マタニティハラスメント)とは、母性を意味する「マタニティ(maternity)」と、嫌がらせを意味する「ハラスメント」を組み合わせた言葉です。一般的には、厚生労働省が示す「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」のうち、妊娠・出産・育休取得をきっかけとした女性従業員への不利益な扱いや嫌がらせを意味します。
同省によると、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」とは、職場において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者等の就業環境が害されることをいうとされています。(男女雇用機会均等法第11条の3、同法第11条の2、育児・介護休業法第25条)
また、同省の資料によると、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」には「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。
(参考:厚生労働省『職場における パワーハラスメント対策 セクシュアルハラスメント対策 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕』)
制度等の利用への嫌がらせ型
制度等の利用への嫌がらせ型とは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に基づく制度または措置の利用に関する言動により、従業員の就業環境が害されることを意味します。具体的には、男女雇用機会均等法に基づく「産前休業」「母性健康管理措置」などや、育児・介護休業法に基づく「育児休業」「子の看護休暇」「所定労働時間・時間外労働の制限」などの請求・利用に起因する言動が対象です。
制度等の利用への嫌がらせ型は、下の表で示した3種類に分けられます。
制度等の利用への嫌がらせ型の種類
種類 | 概要 |
---|---|
解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの | ・制度の利用請求について相談した従業員や、実際に請求または利用した従業員に対し、上司が解雇やその他不利益な取扱いを示唆すること。 |
制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの | ・制度の利用請求について相談した従業員に対し、上司が請求しないよう言うこと。 ・制度の利用請求をした従業員に対し、上司が請求を取り下げるよう言うこと。 ・制度の利用請求をしたい旨を伝えられた同僚が、伝えてきた従業員に対し、請求をしないよう繰り返しまたは継続的に言うこと。 ・制度利用の請求をした従業員に対し、同僚が請求を取り下げるよう繰り返しまたは継続的に言うこと。 |
制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの | ・制度を利用した従業員に対し、上司や同僚が嫌がらせなどを繰り返しまたは継続的にすること。 |
状態への嫌がらせ型
状態への嫌がらせ型とは、妊娠や出産したことなどに関する言動により、女性従業員の就業環境が害されることを意味します。具体的には、妊娠・出産、産休、つわりによる仕事への影響といったことに起因する言動が対象です。
状態への嫌がらせ型は、下の表で示した2種類に分けられます。
状態への嫌がらせ型の種類
種類 | 概要 |
---|---|
解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの | ・妊娠などした従業員に対し、上司が解雇やその他の不利益な取扱いを示唆すること。 |
妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの | ・妊娠などした従業員に対し、上司や同僚が嫌がらせなどを繰り返しまたは継続的にすること。 |
参考:パタハラとの違い
参考までに知っておきたいのが、「パタハラ(パタニティハラスメント)」との違いです。パタハラとは、男性従業員が育休を取得するにあたって、職場から嫌がらせを受けることを意味します。
マタハラとパタハラは「育児」というライフイベントに関連した嫌がらせという点では共通ですが、嫌がらせを受ける従業員の性別に違いがあります。マタハラの被害者は「女性」ですが、パタハラの被害者は「男性」です。
なお、マタハラとパタハラ、ケアハラ(介護休業や介護時短制度を申請・取得する従業員への嫌がらせ)を総称して、「ファミハラ(ファミリーハラスメント)」と呼ぶこともあります。
(参考:『パタハラとは?事例から見る実態と、企業における予防対応方法』)
マタハラの具体例
実際、どのような言動・対応がマタハラに該当するのでしょうか。マタハラの具体例を紹介します。
女性従業員の妊娠報告に対してネガティブな反応をする
妊娠報告に対してネガティブな反応をすることは、マタハラに該当します。
具体例
●妊娠した従業員に対し、上司が「妊娠中はいつ休むかわからないから、重要な仕事は任せられない」と言う。
●妊娠した従業員に対し、同僚が「妊娠するなら、仕事が忙しい時期を避けてほしかった」と言う。
突然の妊娠報告に戸惑うケースもあるかもしれませんが、妊娠報告を受けた際は、まずは「おめでとう」という気持ちを伝えるようにしましょう。
産休や育休といった制度利用を認めない
産休や育休、所定労働時間の制限(育児短時間勤務)といった制度利用を認めなかったり、制度利用に対して否定的な言動をしたりすることも、マタハラに該当します。
具体例
●産休取得の申請をした従業員に対し、上司が「休まれると困る。休むのなら、会社を辞めてもらう」と言う。
●育児短時間勤務で働いている従業員に対し、同僚が「●●さんだけずるい。●●さんのせいで、仕事のしわ寄せがきて、大変だ」と言う。
産休や育休などの制度利用は従業員の権利であるため、制度利用を認めた上で、「業務を滞りなく進めるために、チーム・部署としてどのような対応が必要か」を検討するようにしましょう。
個人的な価値観を押し付ける
妊娠・出産や育児について個人的な価値観を押し付けることも、マタハラに該当します。
具体例
●妊娠した従業員に対し、上司が「出産したら仕事は辞めて、専業主婦になるべき」と言う。
●育休復帰した従業員に対し、同僚が「赤ちゃんなのに保育園に預けられてかわいそう。仕事を辞めたらどう?」と言う。
無意識のうちに、このような発言をしてしまうケースも少なくないでしょう。価値観を一方的に押し付けるような発言をしないよう、注意することが大切です。
女性従業員に対して一方的に業務時間や仕事内容の変更を行う
一方的に、業務時間や仕事内容を変更することも、マタハラに該当します。
具体例
●「この仕事は妊婦には大変だろう」と考え、本人に相談なく仕事内容を変更する。
●「育児短時間勤務の対象期間は、前に育休復帰した▲▲さんと同様で問題ないだろう」と考え、本人に相談なく対象期間を決定する。
良かれと思って、このような対応をしてしまうケースも少なくありません。しかしながら、妊娠経過や産後の状態などは個人差があるため、従業員と相談しながら「どのような調整が必要か」を決めていくことが大切です。
マタハラが発生した場合に企業や加害者が負う責任とは
マタハラが発生した場合、企業や加害者がどのような責任を負うのかを紹介します。
加害者が負う責任
マタハラの加害者は、被害者に対して「不法行為に基づく損害賠償責任」を負う可能性があります(民法709条)。また、マタハラが特に悪質な場合、名誉棄損罪(刑法230条)や侮辱罪(刑法231条)などの刑事責任を負うことも考えられます。
こうした法的責任に加えて、会社から就業規則違反による懲戒処分を下されることもあるでしょう。
企業が負う責任
マタハラが発生した場合、会社は「当該加害者の使用者としての責任(使用者責任)」と「労働契約上の安全配慮義務違反への責任」を問われることがあります。
「使用者責任」とは、従業員が他人に損害を発生させた場合に、企業もその従業員とともに被害者に対して損害賠償の責任を負うこと。マタハラが発生した場合、民法715条に基づき、企業は使用者責任を負います。
「安全配慮義務」とは、従業員が安全・健康に働けるように企業が配慮する義務のこと。マタハラが発生した場合、労働契約上の安全配慮義務違反として、企業は債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(同709条)を問われる可能性があります。
マタハラを防ぐために企業が対応できること
マタハラを防ぐためには、企業としてどのような措置を講じる必要があるのでしょうか。厚生労働省が定める指針に従い、マタハラを防ぐために企業ができることを紹介します。
(参考:厚生労働省『職場における パワーハラスメント対策 セクシュアルハラスメント対策 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕』)
マタハラに対する方針を明確化し、社内に周知する
マタハラの抑止力として有効なのが、マタハラに対する方針の明確化と社内への周知です。具体的には、以下の事項を明確化する必要があります。
明確にすべき事項
●マタハラの内容(マタハラの定義や具体例)
●妊娠・出産や育児休業などに関する否定的な言動が発生の原因や背景となり得ること
●マタハラを行ってはいけない旨
●従業員は、制度や措置が利用が可能であること
●マタハラを行った者を厳正に対処する旨の方針と対処の内容
「社内報やパンフレットの配付」「社内ホームページへの掲載」「研修の実施」などにより従業員に周知・啓発し、方針への理解を促しましょう。
ハラスメント窓口の設置をはじめとする体制の整備
マタハラをはじめとするハラスメントは、会社として気づくのが遅れれば遅れるほど、解決に時間を要すことになる可能性が高いとされています。そのため、ハラスメント問題に対応できる体制を事前に整えておく必要があります。
その一つとして挙げられるのが、ハラスメントをなるべく早期に認識できるよう、ハラスメントの相談窓口を設置することです。相談窓口の設置と併せて、「相談窓口、担当者を定めること」や「相談に対応するための制度を設けること」などを全従業員に周知しましょう。
なお、相談窓口の担当者は、マタハラが現に発生している場合だけでなく、発生の恐れがある場合やマタハラに該当するかの判断が難しい場合であっても、広く相談に乗る必要があります。会社としては、相談窓口の担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう、仕組みを整えましょう。具体的には、「相談窓口の担当者と人事部門とで連携を図る」「相談対応マニュアルを作成する」「相談対応についての研修を実施する」などが挙げられます。
マタハラが発生した場合に迅速かつ適切な対応を行う
企業には、マタハラ発生時に迅速かつ適切な対応を行うことも求められます。なぜなら、マタハラをはじめとするハラスメントは、問題を放置すればするほど、事態が悪化して解決が困難になる可能性が高いためです。
マタハラ発生時には、以下の対応を速やかに実施しましょう。
マタハラ発生時に必要な対応
●事実関係を迅速かつ正確に確認する。
●事実確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行う。
●事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行う。
●再発防止に向けた措置を講じる。
マタハラが発生しうる原因を解消するための措置を講ずる
マタハラを根本的に防止するには、発生原因を解消することが重要です。マタハラは「つわりの影響で、チームの業務が滞る」「育休取得や育児短時間勤務の影響で、周囲の従業員の業務量が増える」というような場合に発生しやすいと考えられます。こうした状況を解消するため、以下のような措置を実施する必要があります。
マタハラの発生原因を解消するための措置の例
●チーム全体で業務分担を見直し、特定の従業員に負担が集中しないようにする。
●業務の棚卸しを行い、業務効率化を図る。
●産休取得に備え、人員を他部署や外部(派遣会社など)から補充する。
併せて講ずべき措置
上で紹介した4つの対応に加え、企業には以下の措置を講じることも求められます。
併せて講ずべき措置
●相談者・行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
●相談ないし事実関係の確認への協力などを理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、従業員に周知・啓発する。
マタハラが発生したり、問題が深刻化したりしないよう、紹介したさまざまな対応を適切に実施しましょう。
まとめ
マタハラには、「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。「産休や育休などの制度利用を認めない」「一方的に業務時間や仕事内容の変更を行う」といったことはマタハラに該当するため、そのような言動・対応をしてはいけません。
「相談窓口の設置」や「会社としての方針の明確化と社内への周知」「マタハラ発生原因の解消に向けた措置の実施」などにより、マタハラが起こりにくい職場、早期に解決できる職場にしましょう。
(制作協力/株式会社mojiwows、監修協力/弁護士 和氣良浩、編集/d’s JOURNAL編集部)
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