【弁護士監修】有給奨励日は有給義務化の対策となる?その強制力や設置方法を解説

第一東京弁護士会労働法制委員会、日本CSR普及協会(雇用労働専門委員)、経営法曹会議等に所属。経営者側労働法を多く取り扱い、労働審判・労働訴訟等の係争案件、団体交渉(組合・労働委員会)、労災(行政・被災者対応)、労務DD対応を得意とする。
経営課題を抽出し、依頼者のニーズを踏まえたベストプラクティスの提案を心掛ける。
主著に『労働行政対応の法律実務』(中央経済社 共著)、『「働き方改革実行計画」を読む』(月刊人事労務実務のQ&A 2017年7月号 日本労務研究会 共著)など。

有給奨励日とは何か?
有給奨励日は違法?
有給奨励日を設定する際に注意すべきこと
有給奨励日は年間何日設定できる?
対象となる有給休暇を持たない従業員への対応
派遣社員への対応はどうする?
有給奨励日の設定に当たり、労使協定の締結や就業規則への記載は必要?
有給奨励日は取引先等にも告知すべき?

働き方改革関連法の施行により、義務化が始まった「年間5日の有給休暇取得」。企業ではこれを受けて従業員が確実に有給休暇を取得できるよう、適切な対策が必要となりました。その対策の1つとして注目されているのが、企業が特定の日時を設定し有給休暇取得を推奨する「有給奨励日」です。ただ、本来従業員の権利として取得される有給休暇の時季を、企業が指定することに問題はないかなど、気になる担当者もいるのではないでしょうか。今回は、有給奨励日の概要や設定時の注意事項、有給休暇付与の対象とならない社員への対応などについて、わかりやすくご紹介します。

有給奨励日とは何か?

「有給奨励日」とは、「有給休暇取得を推奨する日」のことです。働き方改革関連法の施行により、2019年度から従業員に対し「年間5日の有給休暇」を確実に取得させることが、企業の義務となりました。これに伴い、企業はそれぞれの従業員に対し、いくつかの方法を用いて有給休暇取得を促す必要があります。有給休暇を確実に取得してもらうため、打開策の1つとされているのが「有給奨励日」です。このほかに有給休暇の取得を促す方法として、企業があらかじめ有給取得日を指定する「計画年休」もあります。

有給奨励日は、有給休暇の取得を強制するものではありません。あくまで「奨励する日」であり、その日に実際に有給休暇を取得するかどうかは、従業員の任意です。この点が、従業員の有給休暇取得日をあらかじめ企業が指定しておく、「時季指定」や「計画年休」とは異なります。
ただ、具体的にいつを有給奨励日とするかについては「計画年休」と同様の使われ方として、休日と休日にはさまれた平日に有給休暇の取得を促す「ブリッジホリデー」とすることが多いようです。英語では「Planned annual leave 」などと表記します。

働き方改革について詳しく知りたい方は、こちらの資料をご確認ください。

(参考:『【弁護士監修】計画年休制度とは。年5日・有給休暇義務化の今こそ取得率UPの切り札』『【弁護士監修】有給休暇は2019年4月に取得義務化へ~買い取りルールや計算方法~』『有給取得率の計算方法と、国別・業種別平均取得率は?』)

有給奨励日は違法?

本来、有給休暇は労働者が請求した時季に与えられることが、労働基準法で義務付けられています。一方で、有給休暇の取得を促進するため、一定の範囲内であれば「時季指定」や「計画年休」で企業が時季を指定することも認められています。そのため、所定の労働日を「有給奨励日」に設定し、有給休暇の任意の取得を促すことは法的に問題ないと考えられます。ただし、有給休暇は従業員に与えられた権利です。既存の権利を侵害する方法での有給奨励日の設定は適切ではありませんし、取得の時季に関して従業員の意向を踏まえたり、有給の総日数を考慮し設定したりする必要があるでしょう。
(参考:厚生労働省『年次有給休暇取得促進特設サイト[労働者向けページ]』)

有給奨励日を設定する際に注意すべきこと

有給奨励日を設定する際は、その意図に沿った設定が重要です。

休日を減らして設定すると不利益変更にあたる可能性が

所定休日を減らして、その分を有給奨励日として設定すると、従業員にとって不利な条件に労働条件を変更する、「不利益変更」にあたる可能性があります。不利益変更は労働契約法によって規制されるものです。仮に不利益変更を行う場合は、従業員の全員と個別に書面を取り交わし、従業員全員の合意を得て就業規則を変更するなどの適正な手続をとることが必要です。すでに就業規則で定められた休日を、企業の判断のみで有給奨励日として変更するのは違法とされる可能性が高く、労使トラブルに発展するおそれがあるため、注意しましょう。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』『【弁護士監修】不利益変更を実施する場合の対応方法とこんな時どうする?16個の事例』)

強制力を持たせてはならない

有給奨励日は、あくまで従業員に任意の取得を促す日であり「必ずこの日に取得する」という強制力があるものではありません。仮に全社や部署で一斉の有給奨励日を定めても、個々の従業員の事情により、有給を取得しないという選択肢もあり得ます。有給休暇取得が強制的に行われると、労働基準法違反となる可能性もあるので、注意が必要です。
なお、有給奨励日に有給を取得できない従業員への対応は、後ほど詳しく説明します。

有給休暇の取得義務化に対する企業の対応については、こちらの資料でもご紹介しています。

有給奨励日は年間何日設定できる?

有給奨励日は、設定できる日数が法的に定められているわけではありません。そのため、設定する日数の下限や上限も設けられていません。あくまで有給奨励日は従業員の有給取得を促進する手立ての1つであり、「有給休暇の年間5日の取得」が確実に行えるよう、適切な範囲で設定するのが望ましいでしょう。

従業員の有給休暇の管理には、こちらのExcel資料もご活用ください。

対象となる有給休暇を持たない従業員への対応

有給奨励日を新たに設定する場合、「有給奨励日の時点では有給休暇が残っていない」「時季指定できる分をすでに取得済み」「有給奨励日の時点では、有給がまだ付与されていない」といった理由から、有給奨励日に有給休暇を取得できない従業員もいるでしょう。対象となる有給休暇を持たない従業員への企業の対応としては、「①個別に特別休暇を設定して休んでもらう」「②休業手当を支払った上で休んでもらう」「③該当する従業員に出勤してもらう」の3つが考えられます。

対応①:個別に特別休暇を設定する場合

特別休暇とは、年次有給休暇などの法定休暇のほかに、企業が独自に設定する休暇のことです。従業員の労働義務を免除するという趣旨によるもので、福利厚生として与える休暇の一種であり、賃金の有無は企業の裁量によって決定できます。特別休暇を設定するには、就業規則への記載が必要です。就業規則に規定がない場合は、「有給奨励日に特別休暇を設定することができる」という旨を記載しておくと良いでしょう。
(参考:『特別休暇の定め方―どんな条件で何日取得可能?就業規則は?|申請書フォーマット付』)

対応②:休業手当を支払う場合

休業手当とは、企業側の事情で休業を実施した際に、休業した従業員に対して支払う手当のことです。有給奨励日に、有給を持たない従業員にも休んでもらう場合は休業手当の支払いが必要になります。また、休業手当は賃金の60%以上を支払うものと労働基準法で定められています。きちんと休業手当を支払った上で、従業員に休んでもらいましょう。
(参考:『【弁護士監修】休業手当はいくら、誰に支払う?計算方法と対象者、活用できる助成金を解説』)

対応③:該当する従業員に出勤してもらう場合

有給奨励日に、適用対象とならない従業員は出勤可能とする選択肢もあります。ただし、有給奨励日は全社や部署内で一斉に取得する場合や、そもそも業務閑散期に取得を促す企業が多いのが実状のようです。該当する従業員に出勤してもらう場合には、社歴が浅い従業員でも1人で業務が遂行できるよう、マニュアルを整備したり、引き継ぎを行ったりするなどして、従業員が手すきにならないような工夫が必要になるでしょう。

派遣社員への対応はどうする?

派遣社員の就労や休日は、派遣元の企業と派遣社員間の労働契約に基づき執り行われます。派遣社員に有給休暇を付与するのは派遣元であり、派遣社員は派遣先の企業が定める有給奨励日の適用対象外となります。そのことから、有給奨励日に派遣社員に対して休みを強要することはできません。本来就業するはずの日を休みとする場合は、休業手当の支払いが必要になります。

では、企業側の事情で派遣社員が本来就業するはずの日に就業できない場合、休業手当の支払いは派遣元と派遣先企業のどちらの責任になるのでしょうか。休業手当は使用者が労働者に支払うものなので、派遣社員と労働契約を締結している派遣元が休業手当を支給する責任を負います。ただし、派遣元と派遣先との関係では、民法や派遣契約の規定が適用されることになります。民法の危険負担という考え方によると、「派遣先企業の事情により派遣社員が債務を履行(就業)できない場合、派遣元は派遣先から派遣料を受ける権利がある」という扱いになります。他方で、民法の扱いとは異なる取り決めを派遣契約で行っている場合は、派遣契約の取り決めが民法に優先されることになります。

有給奨励日の設定に当たり、労使協定の締結や就業規則への記載は必要?

有給奨励日は、計画年休と異なり、労使協定の締結は不要です。有給休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項ですし、従業員とのトラブルを防ぐためにも、「有給奨励日を設定することができる」旨や、有給奨励日に有給休暇の残日数が少ない従業員の取り扱いに関するルールを就業規則に記載しておくことが適切と言えるでしょう。その上で、有給奨励日の目的や運用方法などについて、従業員に周知し理解を得ることが重要です。

有給奨励日は取引先等にも告知すべき?

有給奨励日は、必ずしも取引先に前もって告知しなければならないというものではありません。しかし、従業員の多くが一斉に有給休暇を取得することで、業務が一定期間停止する可能性がある場合には、顧客や取引先にあらかじめ有給奨励日を伝えておくことが望ましいでしょう。

まとめ

有給奨励日は「年間5日の有給休暇取得」を達成するための、対策の1つとされています。先立って奨励日を指定しておく点は「計画年休」と似ていますが、強制力がないことが特徴です。設定する際は、従業員の不利益とならないよう意向を十分に踏まえた形になるよう配慮しましょう。また、有給を持たない従業員への対応をあらかじめ決めておくことも重要です。従業員の有給取得率向上に向け、計画年休とともにこの有給奨励日を取り入れてみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)