「社員タレント化」によるX運用で母集団形成→入社承諾率100%!予算・専門人材なしでも始められる“自然体のSNS活用術”

株式会社Smart相談室

Corporate責任者 三浦麻友子(みうら・まゆこ)

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • 社員にSNS運用で成果を出してもらう秘訣は、まず本人が楽しめるようにすること
  • ターゲットの共感を呼ぶポストで自社のファンを増やし母集団形成。「他社を受けない」転職希望者だから入社承諾率100%を実現
  • 人事や広報が伴走して知識をインプットし、SNS運用をサポート。中小企業でもリスク対策はできる

求人情報があふれかえる世の中にあって、転職希望者は「企業のリアルな情報」や「働く人の生の声」を求めています。X(旧Twitter)をはじめとしたSNSでは、企業公式アカウントだけでなく、社員や経営者からの人間味あふれる発信内容に注目する転職希望者も増えているようです。

実際に公式アカウント以外の取り組みで企業・採用ブランディングを向上させる成功例も増えてきました。オンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社Smart相談室の三浦麻友子さんも“注目を集める社員インフルエンサー”の一人です。企業としての取り組みだけでなく個人の考えや思いも積極的にポスト。その発信は見事に採用にもつながり、現在では年間中途入社者の半数がSNSで同社を認知しているといいます。

 

SNSを通じた母集団形成は、知名度が低く予算も限られている中小企業にはうってつけの手法だと言えるかもしれません。三浦さんのような発信者を増やすには?炎上などのリスク対策は?気になるSNS運用の秘訣を聞きました。

SNS運用は本人が楽しむことが第一。やらされ感は簡単に伝わってしまう

——三浦さんのXアカウントでのポストを拝見し、自然体でご自身の思いをつづっているのが印象的でした。

三浦氏:基本的には「楽しもう!」という気持ちで、義務感は一切なく、趣味の延長のつもりで取り組んでいますね。

私が旧Twitterを始めたのは2020年でした。自分自身がメンタル不調になった経験から、Twitterで自分の考えをジャーナリング的に書き出し、言葉を吐き出すことで自分を客観視するようにしていたんです。発信することで心が徐々に整い、他の人の発信によって勇気付けられることもたくさんありました。今では「同じように悩んでいる方のために発信したい」という思いで続けています。

 

——運用方針やルールはどのように設定しているのでしょうか。

三浦氏:最低限、1日1ポストはしたいと考えていますが、厳格なルールを設けているわけではありません。新しいポストが難しい場合は過去の発信内容をリポストして、簡単にコメントするだけの時もあります。

私は会社から発信をお願いされているわけではなく、当社ではSNSの利用はあくまでも個人の自由。会社から「やれ」と言われてやるのはしんどいと思うんです。嫌々ながら発信していると、見ている人にもやらされ感が伝わってしまうと思います。

——たしかに、あからさまな採用・広報目的のポストは見ていて何となくわかりますし、人によっては引いてしまうかもしれません…。

三浦氏:だからこそ、会社でSNS担当者を置いたり、個人として発信してもらったりする場合には、まず本人が楽しめるようにするべきだと考えています。ポストした内容に思った以上の反響が集まれば、「SNSって面白い」と思えるようになりますから。

また、SNS運用を目標設定や評価に組み込むことも有効だと思います。「これを頑張れば次のステップへ行ける」というモチベーションを持てれば、少なくともやらされ感で運用することはなくなるはずです。

驚異の「入社承諾率100%」を実現するSNSきっかけのつながり

——三浦さんの発信はSmart相談室の人材採用にもつながっているのでしょうか。

 

三浦氏:採用につながっているケースはとても多いです。社員の中途採用数は年間15〜20名、そのうちの約半数はSNSで当社を知ってくれた人たちです。

また、当社のサービスの根幹であるカウンセラーの皆さんと外部パートナーとしてつながる場合も、SNSが大きな効果を発揮していますね。カウンセラーにはSNSを駆使している方が多いので親和性が高いのだと思います。私の元へは月に3件ほど「まゆこさんのポストをずっと見ていました」「私はこんな資格を持っています」といったメッセージのDMが届き、DMでのやりとりをきっかけにつながることも多いですね。

私自身に強く興味を持っていただいている場合は、まず私がカジュアル面談を行い、ご意向に応じて人事・採用担当者などを紹介しています。カウンセラーは年間で約100名の新規契約をしているため、SNSでの新たなつながりには本当に助けられています。

——「三浦さんとつながりたい」と思う人が増えていく要因を知りたいです。

三浦氏:私は日頃、矢印を相手に向けて発信することを意識しています。「この投稿はこんな人に届けたいから、こんな言葉遣いにしよう」と見直しながら内容をつくるんです。

たとえば当社への参画を検討してくださっているカウンセラー向けには、私自身の実体験から来る思いを発信しています。私はキャリアコンサルタントの資格を持っていますが、企業内の社員面談くらいしか活躍の機会がなくてくすぶっていた時期がありました。「かつての私のような思いを抱えていませんか?」と完全にカウンセラー目線で伝え、新規登録会を告知することで、予約が満席になることも珍しくありません。

オンラインカウンセリングサービスで相談したいと思っている方に対しては、とても優しい言葉遣い、寄り添う言葉遣いを意識しています。「今見えている景色が全てではない」「その先には明るい未来がある」といったポジティブなメッセージも伝えたいと思っています。

 

一方、私は「スタートアップで活躍する女性」として想起される存在になりたいとも思っているので、同じように女性で管理職などを目指している人へ向けたポストにも力を入れています。美しい夜景を背景に横顔を自撮りし、“エモい”雰囲気を漂わせてポストすることで、女性から「私も頑張ろうと思えた!」と反応してもらえることがあるんですよ。このときには気持ちを奮い立たせるような強めの言葉をあえて使い、絵文字などは入れません。

——ターゲットを意識して伝えるべきメッセージを考える。これは採用コンテンツをつくる際のポイントにも通じるものがありますね。

三浦氏:そうですね。さらに言えば、SNSで生まれたつながりは最初の接点だけでなく、選考を進める中で応募者の入社意向を高める際にも大きな意味を持っています。当社の場合、中途採用での入社承諾率は現状100%なんですよ。

——入社承諾率100%!

三浦氏:SNSをきっかけに当社を知り、ファンとなって私たちを追いかけてくれている方がほとんどだからこそだと思います。「他社を受けるつもりはない」「どんな仕事でもいいからSmart相談室で働きたい」と言ってくださる方も少なくありません。情報発信を通じて社内のメンバーのことも知ってくれているので入社後のギャップもほとんどなし。選考時点である程度のオンボーディングが進んでいる感覚です。

社員インフルエンサーの素質がある人を、リアルコミュニケーションで見抜く

——三浦さんのような「社員インフルエンサー」を自社に置きたい場合は、どんな人に担当してもらうべきでしょうか。

三浦氏:冒頭でお伝えしたように、まずは楽しんでやることが一番。SNSに抵抗がなく、前のめりに「やりたい!」と言ってくれる人にお願いするべきだと思います。年齢はあまり関係がないと感じています。

タイプ的には、自分自身のことをあまり人に言わない人、物事を誰かに相談せず自分で完結させるタイプの人は向いていないかもしれません。逆に普段からよくしゃべる人、よく相談する人は、SNSのテキスト中心のコミュニケーションにも向いていると感じます。

 

——SNS運用を始める際にはどんなサポートを行うべきでしょうか。

三浦氏:初めのうちは人事や広報などの関係者が一緒に伴走するべきだと思います。アカウントのつくり方などの基本はもちろん、誰にどんなメッセージを届けるかなどの運用方針も一緒に考えていけるといいですね。かつ、「他社商品が写り込まないようにする」「個人の肖像権を侵害しない」など、最低限の知識もインプットするべきです。

当社の場合は、SNSを運用していない人も対象とした「SNS研修」を実施し、全社員が1回は受講できるようにしています。研修では基本スタンスとしてSNSは個人の自由であること、会社の公式でも運用していることを紹介し、メリット・デメリットや注意すべきインシデント(炎上の8ステップ)、順守すべき法律やルール、写真を撮る際の工夫などを伝えています。

この先は実際に魅力的な内容をポストし、フォロワーを増やしていくことになりますが、社内にノウハウがない場合も多いのではないでしょうか。それなら「まずはやってみよう」でいいと思います。参考にしたいアカウントを2〜3選び、その人のやり方をまねしていくのもアリ。私自身も、SNS運用を開始してからずっと追いかけているアカウントがあるんです。

SNS運用は怖くない!中小企業にもできるリスク対策とは

——ポスト回数や頻度、フォロワー数などのKPIを設定するのは有効ですか?

三浦氏:これは、なんとも言えないのが正直なところです。私も以前は自分自身でKPIを決めていた時期があったのですが、何となくやらされ感が生じてしまって、今は設定していません。

KPIを設けることで進捗確認がしやすくなる一方、いいね数やフォロワー数を追いかけ始めると、それらを獲得するためにポスト内容が過激になってしまったり、バズることばかり意識してしまったりという弊害もあります。

ただ、定期的に振り返ることはとても大切だと思います。自分たちが何を発信し、どんな反響や効果があったのかを振り返ることで、SNS運用を進化させていけるはずです。

 

——中小企業ではリスク管理の専任担当者がいないことが多く、SNS運用によって起こり得る炎上を懸念して一歩を踏み出せないケースも少なくないと思います。リスク対策をしながら中小企業がうまくSNSを活用していくためには何が必要でしょうか。

三浦氏:当社の対策をご紹介すると、Xで自社名を検索し、どんな投稿が出てくるかの確認を定期的に行っていますね。オンラインのコミュニケーションツールと連携させ、Xで「Smart相談室」というワードが含まれるポストが上がると自動的に通知が来るように設定しています。このやり方であれば手動で投稿を探す手間が省けるのでオススメです。

これによって、万が一社員が問題になりそうな投稿をしてもすぐに発見できますし、お客さまや転職希望者など、外部の人が自社をどう見てくれているのかもわかります。ポジティブに評価していただくポストも多くて励まされていますよ。

同時に、SNSで発信する社員への呼びかけも大切にしていますね。ポストする時点で内容に迷いが生じる場合や、「これはグレーかも」と違和感を抱く場合は投稿しない。このルールを徹底してもらっています。

身近にできることから対策を進めていけば、リスク管理の専任担当者がいない中小企業もSNSを怖がらなくて済むようになります。SNSから生まれるつながりの価値を体感すれば、日々の運用が楽しくなっていくはずです。

取材後記

今回の取材では、Smart相談室の広報担当者にも同席していただきました。印象的だったのは、三浦さんがSNSを活用する上で大切にしているスタンスを広報や人事などの社内メンバーも深く理解し、自然な形で関わっていること。そこには「もっとたくさん発信してください」といったコミュニケーションはありません。求人情報の発信やサービスのPRを主目的にするのではなく、三浦さん個人の思いや信念から生まれる「つながり」を大切にしているからこそ、同社で働きたいと考える熱烈な転職希望者と出会えるのだと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

面接質問集付き!24年度版 すぐに使える採用活動のマニュアル

資料をダウンロード