知らないうちに転職希望者から嫌われる!?ダイレクト・ソーシング“NG例とその対策”

株式会社VOLLECT

代表取締役 中島大志(なかしま・たいし)

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • ダイレクト・ソーシングは企業の能動的なアプローチ。他の採用手法と比べても特にスピーディーに対応すべき
  • スカウトメール開封率・返信率を上げるための「年収確約」にも要注意。現場との連携が取れていないと、応募者は困惑
  • ダイレクト・ソーシングを正しく運用する秘訣は、採用管理ツールや転職希望者情報を現場と共有し「面接価値」を知ってもらうこと。全員採用体制を築くことで採用力が向上する

採用難が続く中でダイレクト・ソーシングに取り組む企業が増えています。同時に多く聞くようになったのが、転職希望者からのクレームやトラブルなどの「NG事例」。SNSをのぞけば「企業からスカウトメールが届いたのに落とされた」といった怒りの声も…。こうしたクレームやトラブルは必ずしも企業側の対応に起因するとは限らず、転職希望者との間で何らかの誤解が生じている可能性もありますが、いずれにしても採用活動によって企業ブランドが低下してしまうのは避けたいところです。

そこで本記事では、ダイレクト・ソーシングの戦略策定から運用までを支援する株式会社VOLLECTの中島氏に「現場で起きているNG事例と対策」について伺いました。転職希望者と良い関係を築き、採用成功につながるダイレクト・ソーシング実践のポイントとは——。

約束を守らない、日程調整が遅い…。「スカウトメール」に起因するNG事例

——早速ですが、中島さんがこれまでに直面した「ダイレクト・ソーシングのNG事例」を教えてください。

中島氏:ダイレクト・ソーシングの現場では、人事・採用担当者が自覚せずにNG対応をしてしまっていることもあります。実際によくあるケースを6つ、ご紹介します。

【NG事例1】
社長の名前でスカウトメールを送っているのに、社長ではない人が面談を担当

中島氏:これは非常に多いです。転職希望者にしてみれば社長の名前でスカウトメールが届き、「お会いしたい」などと書かれてあれば、社長が面談をしてくれるものだと思いますよね。しかし企業に足を運んでみると面談に対応するのは人事・採用担当者や現場担当者。これでは「おとり広告」のように捉えられてしまっても無理はありません。

最近ではこれが頻発し、転職希望者側があまり期待せずに返信するケースも増えています。

「スカウトメールなんて話半分で読んだほうがいい」とさえ思われ、迷惑メールのように扱われてしまうのです。この状況が続けばダイレクト・ソーシングという手法全体の信用を損ないかねません。社長や役職者の名前でスカウトメールを送ると、開封率や返信率が上がる可能性はありますが、記載された方が面談しなければ採用成功率は下がってしまいます。

当たり前のことではありますが、大切なのは、転職希望者に“嘘をつかない”ことです。スカウトメールの差出人と異なる人物が、実際の面談を担当するのであれば、「面談では、より現場目線でお話できるメンバーが対応させていただきます」「まずは人事・採用担当者と面談していただき、興味を持っていただけたら、ぜひ私とお話の機会をください」など、一言スカウトメールに添えるようにしましょう。差出人を社長や役職者にせず、人事・採用担当者など確実に対応できる人の名前で送信するのも良いと思います。

【NG事例2】
「面接確約」の条件でスカウトメールを大量に送ったのに、応募多数となったため面接をしない

中島氏:面接確約をうたってスカウトメールを送っておきながら、実際には全員と面接をするリソースがなく、転職希望者には「この採用は終了しました」と簡単に伝えて面接をしないケースもあります。転職希望者にしてみれば約束を守ってもらえなかったわけですから、その企業のイメージは低下してしまいますね。

企業側と話していると、「この運用で問題ない」と思い込んでいる担当者も散見されます。私たちが外部パートナーとして連携する際、後工程を考えずに大量にスカウトメールを送ろうとしている場合には、面接リソースが間違いなく確保されているかを確認させていただいています。自社で対応する場合にも、「面接を確約して本当に大丈夫なのか」を丁寧にチェックして進めていただきたいです。

【NG事例3】
スカウトメールを送っておきながら、面談・面接の日程調整が遅い

中島氏:面談や面接の日程がなかなか決まらず、転職希望者をイライラさせてしまうパターンです。昨今の転職希望者は同時に複数企業へ応募するのが当たり前なので、日程調整が進まないと自社のことを忘れられてしまうかもしれません。1〜2週間が過ぎてようやく日程を返信しても、すでに他社の選考で最終段階に進んでいるかもしれないのです。

気を付けていただきたいのは、“ちょっとした対応の仕方が転職希望者を不快にさせてしまうこともある”ということ。私が実際に目撃した例では、スカウトメールを送って転職希望者から返信が来た際に「面談の候補日程をいくつか出してください」と転職希望者側に依頼している企業もありました。もしこれが営業活動ならあり得ない対応ですよね。自分から営業電話をかけておいて、相手が興味を持ってくれたのに「私と会いたい日程候補をいくつか出してください」と言っているようなものです。

こうした対応になってしまっているのは、人事・採用担当者が忙し過ぎることも原因の一つでしょう。また大企業によくある、母集団を集める前工程フェーズと、採用決定まで持っていく後工程フェーズを担当するチームが分かれていることなども原因となります。人材紹介サービスなどの他の採用手法と同じ方法で後工程を実施してしまっているのです。人材紹介サービスを利用することで、担当者が転職希望者との間を取り持ってくれるため、こうした対応を減らすことはできると思います。しかし、そのオペレーションのままダイレクト・ソーシングに対応しても、うまくいくはずがないのです。

ダイレクト・ソーシングは自社から声をかけている分だけ、他の採用手法と比べても「特にスピーディーに対応すべき」「人材紹介サービス経由の転職希望者とは別のオペレーションを組み、営業活動と同様に、丁寧な対応を心がけるべき」と認識していただきたいです。

「カジュアル面談」に潜む罠も。面談・面接の前後で発生しがちなNG事例

【NG事例4】
メール件名に「年収◯◯○万円以上確約」と付けて送るも、現場は認識しておらず採用決定後に別条件を提示

中島氏:一時期、スカウトメールの開封率や返信率を高めるテクニックとして、「年収○○○万円以上確約」「現職年収以上確約」といった文言をメール件名に盛り込む方法が注目されました。職務経歴書や履歴書、登録情報などを確認した上で実際に確約できるなら、このように書くことは間違いではありませんし、実際に開封率や返信率を高める意味でも効果的だと思います。

しかし、選考が進む中で、あるいは採用決定の後で違う条件を提示してしまったら、応募者にとっては疑心暗鬼になってしまうのです。スカウトメールの件名を把握していない現場には一切悪気はありません。選考の入り口だけでなく、採用決定後のことも見据えて、人事と現場で丁寧にコミュニケーションを取る必要があります。

現場にどのような件名で、どのような内容のスカウトメールを送って面談に至っているのかを伝えるなど、適切な申し送りに努めましょう。

【NG事例5】
過去の面接で不採用とした人に、別経路でスカウトメールを送ってしまった

中島氏:これは採用規模の大きい「大企業あるある」と言えるかもしれません。大量に面接を行っている企業も要注意です。転職希望者にしてみれば、過去に落とされた企業から再びスカウトメールが届くのは気持ちの良いものではありませんよね。

とは言え、スカウトメールを送る段階では、個人名まで見えていないケースがほとんどでしょう。企業としてはこうした事例が発生してしまうのは致し方ないことでもあります。転職希望者を不快にさせないよう、メール内には「システム上、個人を特定しない形でお送りしています。そのため過去に当社へご応募いただいた方にもメールが届く可能性があります」とただし書きを入れておいたほうがいいと思います。

部門ごとに採用活動を積極的に進めている企業では、すでに自社の選考を受けている途中の人に、別部門からスカウトメールを送ってしまうケースもあります。これも致し方ないことかもしれませんが、事前に想定し得る限りは、メール内の文章に気を使っていただければと思います。

【NG事例6】
「カジュアル面談」として転職希望者を呼んでいるのに「面接」をしてしまう

中島氏:明確にカジュアル面談だと伝えていなくても、メールのやり取りで「まずはざっくばらんにお話をしましょう」と書かれていたら、転職希望者がカジュアル面談だと理解して足を運んでしまうこともあります。それなのに志望動機などを聞くあからさまな面接が待っていたら、転職希望者の心象は悪くなってしまうでしょう。

スカウトメールを人事・採用担当者が送り、面談を現場が担当する場合などの申し送りも要注意です。現場は最初の接点がカジュアル面談であることを理解しておらず、転職希望者と会った瞬間に職務経歴書や履歴書を回収しようとしてしまうかもしれません。事前に人事・採用担当者から「カジュアル面談とは」について丁寧に共有しておくべきでしょう。特に上位層をアサインする場合は気を付けてください。

近年ではカジュアル面談の概念が浸透し、「カジュアル面談の場で志望動機などを聞くのはNG」だと認識している企業も増えていますが、カジュアル面談と面接の線引きに迷うこともあるかもしれませんね。人事・採用担当者としては、カジュアル面談であっても転職希望者の転職意向などを詳しく聞きたいのが本音でしょう。

その場合は面談の冒頭で「ベストな情報提供をしたいので、◯◯さんについて何点か聞かせてください」と前置きすることをオススメします。この一言があるだけで転職希望者の印象は大きく変わるはずです。

■関連記事:
カジュアル面談とは?採用面接との違いや実施するメリット・当日の流れを解説
【成功体験談付】エンジニア採用にも有効!「カジュアル面談」活用術

採用管理ツールや転職希望者情報を現場と共有し、「面接価値」の認知を広げてほしい

——こうしたNG事例が発生してしまう大元の原因としては、どんなことが考えられるのでしょうか。

中島氏:採用が難しくなり、対応すべき課題が高度化していく中で、つい自社の都合が優先になってしまっているのかもしれません。

もはや企業は人材を選ぶ立場ではなく、人材から選ばれる立場になっています。かつては「仕事を提供してあげる側」のスタンスが一般的だったのかもしれませんが、現在は完全に個人のほうが立場が上ですよね。

このような時代に、採用を簡単に進める魔法のようなやり方は存在しません。企業は超売り手市場の現実を踏まえて、一つひとつの採用活動が転職希望者のためになっているのか、自社都合で進めてしまっていないかを丁寧に見直すべきだと思います。

——「転職希望者のためになるダイレクト・ソーシング」を運用するために、人事は何をすべきでしょうか。

中島氏:採用管理ツールなどを使いこなすことは、これまで以上に大切になってくると思います。

先ほどの事例にあった「過去に不採用とした人」の例で言えば、スカウトメール送信の段階で特定できないのはやむを得ませんが、面談・面接の場に至っても気付けないのはよくないですよね。転職希望者の情報を個別に、かつ適正に管理する体制を整えなければいけません。

また、ツール自体を活用していても、現場と情報共有できていないケースも多いです。現在の市況を考えれば、現場を巻き込んで全員で採用活動を進めなければうまくいきません。現場にも売り手市場であることを認識してもらい、転職希望者情報を正しく共有していくべきです。

そのためには現場からもスカウトメールを送ってみてもらうのが有効ではないでしょうか。100通のスカウトメールを送っても、実際に会えるのは一人だけかもしれない。そんな現実を知ってもらえれば、現場でもこれまで以上に面接の場を大切にするようになると思うのです。

ダイレクト・ソーシングを支援し、この手法で企業と転職希望者の幸せな関係を拡大していきたいと考えている一人として、私は「面接価値」の重要性が広く認知されていくことを切に願っています。

写真提供:株式会社VOLLECT

■関連記事:
採用できないのは“自分たちのスタンス”が原因かも…。プロ直伝!ダイレクト・ソーシングの成功法
中小企業の人事・採用担当者必見!“ぼっち人事”でも効率的に進められるダイレクト・ソーシング

関連お役立ち資料

取材後記

取材の中で中島さんは、人事と現場が連携して「全員採用体制」で取り組むダイレクト・ソーシングの意義をくり返し強調していました。自社のリソースを割いて自社で進めるダイレクト・ソーシングは、他の採用手法と比べて難易度が高いのも事実。「だからこそダイレクト・ソーシングに真剣に取り組むことで企業の採用力が向上する」と中島さんは話します。ダイレクト・ソーシングがうまくいく会社は人材紹介サービスの活用やリファラル採用でもうまくいくが、逆は少ない——。そんな言葉も印象的でした。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

求職者への“口説き方”が分かる!職種別採用DM文例集

資料をダウンロード