採用決定後に口説き始めても遅い!入社承諾前辞退を防ぎ、入社意向を高める「オファー面談」ノウハウ
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転職希望者は企業のフック(魅力)で応募を決め、ネック(不安要素)が払しょくされることで入社を決める。オファー面談は“ネック払しょく”に極めて重要
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オファー面談は「信頼関係構築→情報収集→説得・勧誘」の3ステップ。応募者の本音を聞き出すには「ちなみに質問」がオススメ
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ネックに関する質問にアドリブで返すのはNG!想定質問に対する回答スクリプトを用意し、採用関係者全員で共有するのが良い
新たな採用手法としてダイレクト・ソーシングが広がり、企業からのスカウトを受けて選考に臨む転職希望者が増えています。こうした転職希望者は志望動機があいまいだったり、企業理解が深まっていなかったりするケースも少なくありません。結果として面接・選考辞退に悩む企業も増加しています。
そんな中、注目されているのがオファー面談(採用条件通知後の面談)です。実際に多くの応募者がオファー面談を決め手として入社意向を高め、転職を決めています。面接・選考辞退を防ぎ、応募者の入社意向を高めるオファー面談を実施するためには何が必要なのか。数多くの企業の採用支援に携わる、株式会社人材研究所の安藤氏に聞きました。
心理的な“不安を払しょく”するオファー面談で「最後のひと押し」
——パーソルキャリアが実施した「最終面接での対応」に関するセミナーでは、参加者から「オファー面談は必要なのか?」「オファー面談の重要性は?」といった質問が複数寄せられました。安藤さんはオファー面談をどのようなものだと捉えていますか?
安藤氏:オファー面談は極めて重要なプロセスだと考えています。
オファー面談というと、年収など条件面での擦り合わせをイメージするかもしれませんが、応募者ごとに提示する条件を整えて行うのはあくまでも「条件面談」。オファー面談はもう少し広義の意味合いで、選考過程から応募者の希望を聞き、その上で心理的な不安要素を払しょくするための面談だと言えるでしょう。
——実態としては、選考を通じて入社意向を高め、オファー面談を決め手として転職を決めている応募者が多いようです。
安藤氏:応募者の志望度や入社意向度は、選考プロセス全体を通じて高まっていくもの。選考中のアトラクト(自社の魅力づけ)や口説きをおざなりにして、オファー面談だけを頑張っても入社意向は高まりません。つまり、「採用決定後に口説き始めても遅い」ということです。
それでもオファー面談は最後のひと押しとして重要。応募者はその企業のフック(魅力)で応募を決め、ネック(不安要素)が払しょくされることで入社を決めます。選考中からアトラクトし、採用決定後の最後のひと押しとして不安要素を払しょくするためのオファー面談を行う。これが基本だと考えてください。
一般的に面接官は、アトラクトとジャッジでは後者をメインの役割として担うことが多いでしょう。特に中途採用では、面接を担当する現場関係者がジャッジに集中することが多いです。その意味では、人事・採用担当者が応募者をフォローするコーディネーター役としてアトラクトを担い、そのままオファー面談を担当するのが効果的ではないでしょうか。
オファー面談の3ステップ「信頼関係構築→情報収集→説得・勧誘」
——効果的なオファー面談を実施するために準備しておくべきことを教えてください。
安藤氏:オファー面談で大切なのは、相手に合わせた口説き方をすること。人それぞれ価値観や重視することが異なるからです。しかし、これを理解していない人事・採用担当者は意外に多いと感じます。
社内で早く出世して稼ぎたい人もいれば、落ち着いてスキル習得に励みたい人もいるでしょう。その人によって魅力に感じるポイントは異なり、それぞれにベストな口説き方があるのです。この認識を持っておくことが大前提だと思います。
準備としては、応募者がこれまでどんなことをやってきた人か、何を大切にしている人なのか、選考・面接で把握できた情報を具体的に整理しておくべきでしょう。その際には「モチベーションリソース」「キャリア観」「自社への志望動機」「不安要因」「意思決定スタイル」などを軸に整理しておくことで、ベストな口説き方を見いだせるはずです。
面接でこれらの要素をすべてヒアリングできていないこともあるでしょう。「不安要因をつかみきれていない」「意思決定スタイルが見えない」などの現状も整理し、オファー面談の場で改めて確認するようにしてください。
こうした要素を押さえ、相手に合わせて伝えることで、応募者は「自分のことをわかってくれている感」を持ちます。また、応募者は多くの場合、自分のことを一番わかってくれた会社を選ぶもの。自社より条件が良い採用競合があったとしても、最後の最後に非合理的な選択をしてもらえることもあります。
たとえばある商品を買おうとして、A店とB店を比較しているシーンを思い浮かべてください。A店は価格が高いけど自分のことを理解して商品の使い方などを熱心に説明してくれる。B店は価格がA店より安いものの接客が無機質で頼りない。価格面では非合理的な選択でも、気持ちの面でA店を選ぶ人も多いのではないでしょうか。
——応募者を理解した上で、話し方や伝え方ではどんなことに気を付けるべきでしょうか。
安藤氏:「口説く」というと、最初から熱心に説得するイメージを持つかもしれません。しかし目の前の相手を本当に口説きたいなら、まず信頼関係を構築し、情報収集し、その上で説得・勧誘に進むという3ステップが必要です。
オファー面談の序盤では信頼関係構築に努め、応募者に胸襟を開いて話してもらえるようにしましょう。そのためにはまず人事・採用担当者が自己開示すること。自分がどんな人間なのかを伝え、「私も過去にこんな軸で転職しました」など、応募者との共通点を見つけることも効果的です。応募者が「この担当者は親身になり、自分のことも本音で話してくれる」と感じてくれている状態がゴールです。
その後は情報収集。採用決定段階まで進んだ応募者でも、最終的な意思決定ができない不安要素をまだ抱えているかもしれません。それをうまく聞き出せるかがオファー面談の成否を分けます。
——効果的な聞き出し方があれば教えてください。
安藤氏:応募者にプレッシャーを与えずに聞くために「ちなみに質問」をオススメします。
「ちなみに、◯◯さんは転職先を決める際にご家族に相談されるんですか?」「ちなみに、当社を検討する中でネックになっているところはありませんか?」といった聞き方です。序盤の信頼関係構築ができていれば、応募者は自然に話してくれるはずです。
そこで聞くことができた情報を基に、いよいよ説得・勧誘に進みます。ここでも応募者が重視している情報や求めている情報を提供しながら押していくことが大切です。応募者が仕事内容を重視しているなら、仕事の魅力を語るなどですね。
また、応募者へ選考評価ポイントをフィードバックすることも重要なポイントです。フィードバックの目的は、応募者に「自分はこの会社でやっていけそう」という自己効力感を持ってもらうこと。「あなたは素晴らしい」とただ褒めるのではなく、「あなたが培ってきたこのスキルは、当社でこんなふうに活かせると思います」など、具体的かつ丁寧に事実を伝えることが効果的です。
アドリブ対応はNG!ネックに関する質問には「スクリプト」を準備
——オファー面談では、応募者から改めて質問されることも多いと思います。どのような質問を想定し、準備しておくべきでしょうか。
安藤氏:応募者から寄せられる質問には、事業や仕事内容、働き方、組織風土、既存社員の入社動機、会社の展望、事業方針、ビジョン・ミッションなどさまざまな観点があると思います。特に注意すべきなのは、応募者が抱いているネックについての質問です。オブラートに包んだ言い方で聞かれるとは思いますが、具体的には「長時間労働で激務なのでは?」「退職者が多くて職場の雰囲気が悪いのでは?」といった内容が考えられるでしょう。
こうした質問に対して、「その場の対応でどうにかなるだろう」と高をくくり、アドリブで返そうとするのは本当に危険です。応募者を本気で口説くなら、短い回答でもいいので、事実とデータに基づいたスクリプトを用意すべきでしょう。あいまいな回答ではぐらかしたり、焦って感情的に言い返してしまったりするのは絶対にNGです。
用意したスクリプトは、事前に採用関係者全員へ共有しましょう。さまざまな視点を入れることで「自社はこんなネックを抱かれやすい」というポイントを洗い出し、カウンタートークを充実させることにつながります。
——それでも想定外の質問が寄せられた場合は?
安藤氏:「丁寧に回答したいので持ち帰らせてください」と伝え、できるだけ早く回答しましょう。オファー面談の3時間後に電話で回答するなど、早く、かつ真剣さが伝わる方法を取ることをオススメします。面談時に「確認してお伝えしたいので、電話できる時間帯を教えてください」と聞いておければベストですね。
——応募者との信頼関係の度合いによっては、ネックに関する本音の質問をしてもらえないかもしれません。
安藤氏:もし「胸襟を開いてもらえていない」と感じたなら、1回のオファー面談で終わらせずに、もう一度場を設けるべきです。むしろここからが本番。応募者になるべく負担をかけないよう、現職の勤め先の近くに出向いて面談するなど、人事・採用担当者としてできる限りの対応をしてください。
オファー面談の結論は、入社受諾か入社承諾前辞退しかありません。応募者に「辞退します」と言われてしまったら試合終了ですが、そこまでは全力を尽くして頑張っていただきたいです。
——中小企業では採用にかけるリソースが限られ、人事・採用担当者を1人で担当する「ぼっち人事」であることも珍しくありません。そうした企業でオファー面談をやり切るための秘訣は?
安藤氏:私の知っている中小企業のケースでは、営業経験者を人事に異動させたり、採用を手伝ってもらったりすることで効果的にオファー面談を進めています。
ここまでお伝えした内容から何となく感じ取れるかもしれませんが、オファー面談を効果的に進めるポイントは、営業活動を効果的に進めるポイントと非常に近いんですよね。そのため営業のハイパフォーマーは採用活動における口説きにも長けています。営業部門に協力者を見つけられれば、ぼっち人事の方にとってはとても心強い仲間となるのではないでしょうか。
■参考記事:【マンガから学ぶ】ぼっち人事、兼任人事も!「リクルーター制度」導入で優秀な人材を採用しよう -第5話-
取材後記
大企業と比べて条件面や知名度で劣ることが多い中小企業では、オファー面談に全力を尽くしても、応募者が感じるすべてのネックを払しょくすることはできないかもしれません。「それでも“ここまで向き合ってくれた”という感覚が応募者に残ることは大きい」と安藤さんは話します。中途採用では条件や知名度に劣る会社が最終的に選ばれることもある——。安藤さんはそうした現象を「下克上採用」と呼んでいました。応募者を徹底的に理解し、応募者のための情報提供に徹するオファー面談は、下克上採用を起こすための最重要ポイントなのかもしれません。
企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
応募者の入社承諾前辞退を防ぎ、入社意向を高める!オファー面談準備シート
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