選考歩留まり要因は堅物ベテラン面接官?「データフィードバック」で面接官の意識改革

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ

取締役 酒井利昌(さかい・としまさ)

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • ベテラン面接官の意識変革につながるデータは、入社承諾前(後)辞退率などの「客観的な指標」と、アンケートやヒアリングを通じた「応募者の声」
  • 意識しても誰もがすぐに行動を変えられるわけではない。ベテラン面接官の「当たり前」を疑い、基本を押さえたトレーニングを実施すべき
  • 経営者からのトップメッセージに加え、評価制度を通じたリアルなメリットを返すことで事業部門を本気にさせる

苦労して応募者を集めたのに、面接後の辞退が相次いで採用につながらない…。そんな企業からよく聞かれるのが、最新の転職市場に疎く、意識がアップデートされていない堅物のベテラン面接官への課題感です。

かつての「企業が応募者を選ぶ」時代から「企業が転職希望者に選ばれる」時代になったことを認識しなければ、面接で自社を魅力付けることは難しいでしょう。とはいえ、ベテランに変わってもらうための働きかけは難しいもの。解決策の一つとして考えられるのは、面接にまつわるデータや応募者の声を課題認識につなげる「データフィードバック」です。

データを味方につけて、ベテラン面接官の意識を変える方法とは?数多くの企業の採用活動を支援する株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ取締役の酒井氏に聞きました。

「客観的な指標」と「応募者の声」から現状把握

——堅物のベテラン面接官の意識を変えるためには、どのようなデータを集めるべきでしょうか。

酒井氏:一つは選考の各プロセスで得られる客観的なデータです。

入社承諾前(後)辞退率などの指標を定め、それぞれの段階でどれくらいの数値が適正なのかをあらかじめ目標設定しておけば、実際の面接結果と比較して現在の状況が見えやすくなるでしょう。あるべき姿を設定するからこそ課題が明確になります。

もう一つ、注目すべきデータとしては「応募者の声」が挙げられるのではないでしょうか。面接官とは別に、人事・採用担当者が応募者に面接の感想を直接聞いてもいいですし、アンケートを取ったり、外部のサーベイツールを導入したりして声を拾うこともできます。

人材紹介サービス経由で面接をしている場合は、人材紹介サービスのキャリアアドバイザーから応募者の声を聞けるかもしれませんね。他社も含めた全体平均などの比較対象データがあれば、自社の現状を把握しやすくなるはずです。

——応募者の声を聞く場合は、どのような質問を用意すべきでしょうか。

酒井氏:ぜひ聞いていただきたいのは、「自社の面接を受けてよかったと感じたか」という質問。選考プロセス全体を通じた候補者体験を改善していく際には、自社を受けてよかったと感じてもらうことを第一の目標にするべきなのです。候補者体験についてのポジティブな回答が多い企業は実際の採用成功につながっており、採用力が高い状態にあると言えます。

「受けてよかったと思わない」という回答がある場合には、どこに問題があったのかをできるだけ具体的に確認したいですね。「面接は話しやすい雰囲気だったか」「面接時間は適切だったか」「面接官の質問の意図を理解して回答できたか」など、自社の現状を踏まえて質問項目を考えてください。

——辞退理由にまで踏み込んで聞けなかったり、応募者が具体的に答えてくれなかったりした場合は?

酒井氏:面接の様子を動画や音声で記録し、後で振り返ることをお勧めします。応募者の立場になって見返してみると、面接の中での問題点が見えてくるかもしれません。

私が支援する企業ではすべて、応募者の了承を得た上で録画や録音をさせてもらっています。「社内の採用プロセス向上のために使わせてもらいます」などと明確に目的を伝えれば拒否されることはほとんどありません。これはぜひ導入していただきたいですね。

データを基に意識を変え、基本的なトレーニングを実施

——得られたフィードバックデータをもとにして、ベテラン面接官の行動変容を促していく方法についてお聞かせください。

酒井氏:まずは各面接官と個別に、現状の認識合わせをする場を設けてください。「こんなデータが出ています」「○○に課題があるのかもしれません」と話し合う場ですね。ベテラン面接官に問題点をぶつけるのは勇気がいるかもしれませんが、人事・採用担当者の主観ではなく客観的なデータに基づいていることを伝えれば、理解を促しやすくなるはずです。

とはいえ「分かる」と「できる」は違います。意識しても、誰もがすぐに行動を変えられるわけではありません。そのため、次のステップとして面接官トレーニングを行うことが重要です。

——トレーニング内容はどのように設計すればいいのでしょうか。

酒井氏:人事・採用担当者としては当たり前に行っていることでも、ベテラン面接官によっては意識さえしていない可能性があります。それを念頭に置いて、基本的な項目を押さえながらトレーニングを行うべきでしょう。

たとえば「話しやすい雰囲気をつくらないといけない」という課題が見つかり、アイスブレイクのステップをつくりたいとします。人事・採用担当者は普段から意識せずに行っているかもしれませんが、慣れていない面接官は「アイスブレイクといっても何をすればいいの?」と困惑するかもしれません。どんな会話でアイスブレイクができるのかを例示していくことも大切です。

■参考記事:【面接官必見!】知らないと失敗しちゃうかも?有意義な面接のためのアイスブレイクとは~質問例付き~

また、面接の基本としてNG事項を伝えることも重要。「愛読書はなんですか?」「家族構成は?」など、個別の思想・信条やプライベートに触れることはむやみに聞いてはいけません。当たり前に思うかもしれませんが、ベテラン面接官の中にはずけずけと聞いてしまう人もいます。「今どきそんな人はいないよね」と軽く考えるのではなく、トレーニング項目として準備すべきです。

加えて、面接で聞くべきことを事前に標準化しておきましょう。面接の中で次に何を聞くべきか迷ってしまうと傾聴できず、一問一答のようになってしまい、応募者が不安を感じてしまいます。

応募者が「私のことを理解してくれた」「他の会社の面接よりも深く話すことができた」と感じられる状態を目指してください。応募者にとってはそれが「面接を受けてよかった」という体験になります。

■参考資料:dodaの面接官トレーニングサービス資料

事業部門を本気にさせる「メッセージ」と「評価制度」

——昨今では人事と事業部門が連携して採用活動を行うケースが増えています。ただ、事業部門はどうしても本業が優先となり、採用活動にコミットメントしきれない現状もあると思います。目標設定や評価項目の置き方など、事業部門が採用に本気で取り組めるようにするための工夫点をお聞かせください。

酒井氏:この相談は非常に多く寄せられます。人事のマンパワーが足りなかったり、採用の専任担当者がいなかったりする会社では、事業部門を巻き込んで、みんなで採用を進めることが必須になっていますよね。

事業部門の本気度を高めるためにまず必要なのは、経営者の覚悟です。「なんのために採用するのか」をトップメッセージとして社内に伝え、採用への覚悟を示し、「みんなで採用活動をするのだ」という意志を伝えなければいけません。これは人事・採用担当者から経営者へ、強く働きかけてもらいたいです。

とはいえ事業部門としては、本業に振り向けたいと考えているリソースが割かれる現実もあります。気持ちだけではなく、評価制度を通じたリアルなメリットを返していく必要もあるでしょう。

事業部門の採用活動を評価へ組み込んでいく際には、「目標・役割・成果・行動」の観点で、個人が採用目標にどれだけ貢献したかを測ることをお勧めします。採用はチームプレーです。個人の頑張りだけでは成果が出ないこともあります。だからこそ成果だけではなく、行動評価も反映させていくべきです。

——採用活動に加わることで、事業部門の管理職やメンバーの視座が高まることも期待できそうですね。

酒井氏:はい。採用は会社の未来をつくっていく仕事であり、採用活動を通じて自社のことを深く理解することにも繋がります。また、自分自身がなぜ入社したのか、これからどんな将来を目指していきたいのかを棚卸しする機会にもなるでしょう。

本人の視座を高めていく中で、応募者視点を持つことができるようになれば、ベテランであれ若手であれ面接官としての意識は確実にアップデートされていくはずです。

写真提供:株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ

おすすめ関連資料・記事

【無料DL】採用面接前にもう一度読み返したい 人気資料セレクション ~候補者の口説き方からテンプレ面接質問集まで~
【無料DL】Excel版 面接評価・採点シート一括管理表(事前準備、結果チェックリスト付)
【無料DL】Excel版 「採用目的別」面接質問例
【無料DL】Excel版 職種別面接質問集
正攻法付き!“圧迫”と捉えられて辞退につながっているかも…。面接官が気を付けるべき態度と言動
知らぬ間にやっている?応募者の意欲が下がってしまう面接あるある ~面接官質問編~
態度が悪い面接官が応募者の意欲を下げる?面接あるある ~環境・マナー編~

取材後記

取材の中で酒井さんは「候補者体験を意識する」ことの重要性をくり返し強調していました。候補者体験は、自社を認知してもらった段階から始まるといいます。自社に関心を持ってもらったとき、応募してもらったとき、面接を受けてもらうとき、採用決定を出すとき。それぞれの場面で、応募者にどんな心理でいてもらうことが理想なのか。応募者視点に基づいた目標を社内で擦り合わせることができれば、一次面接や二次面接、最終面接などフェーズごとの役割分担がより明確になり、採用力向上につながるのだと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

ミスマッチを防ぐための【面接評価シート】

資料をダウンロード