CxO採用のミスマッチを防ぐ「入社前」「入社後」の秘訣【エグゼクティブ人材採用ノウハウ:前編】

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CxO採用の選考プロセスでは、候補者と最初に会うのは社長がベスト。自社を最もさらけ出せる社長が会うことで候補者も本音を話せる
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候補者が知りたいのは企業が抱える「本当の困りごと」。役員や管理職も候補者に会い、現場の困りごとを本音で相談できる場があるのが理想
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入社後のミスマッチにつながる現場の「お手並み拝見ムード」。これを防ぐために、入社直後はミッションを与えず「社長とニコイチ」で動くべき
新規事業推進や組織再編に取り組む企業が増える中、CxO(経営幹部)の採用・招聘ニーズが高まり続けています。その採用難度は非常に高く、多くの企業が苦労を重ねていますが、一方では「入社後に期待通りの活躍をしてもらえなかった」「自社のカルチャーにマッチしなかった」など、ミスマッチが生じてしまうケースも少なくありません。
なぜCxO採用でミスマッチが発生してしまうのか。ミスマッチを防ぐためには何が必要なのか。パーソルキャリア エグゼクティブエージェントの第一線で数多くのCxO採用を支援する、澤本氏に聞きました。
CxO候補者は「商談はお手の物」。表面的な会話では理解できない
——CxO採用でミスマッチが発生するケースには、どのようなものがあるのでしょうか。
澤本氏:大別すると「採用で失敗するケース」「入社後の受け入れで失敗するケース」がそれぞれあると感じています。
CxO採用で失敗するケースでは、選考プロセスにおける接点の数が少なかったり、対話の深さが足りなかったりして、企業と候補者が本音で話し合えていないことがほとんどです。候補者に良いことも悪いこともさらけ出してもらえなければ、せっかくCxOとして入社してもらったのにミスマッチが発覚し、結果的に退任につながってしまうこともあります。

——なぜ「さらけ出してもらう」ことが重要なのですか。
澤本氏:CxOポジションの候補者は、ビジネスで大きな成果を残してきた経営人材候補です。その場の商談をうまく進めるのはお手の物。そのため、お互いまだよく知らない状態の中、取り繕った姿のまま2~3回会って会話をしただけでは本当のことはわかりません。
私たちのようなヘッドハンターの場合は、候補者とできる限り多くの接点を持ち、強みだけではなく弱みも見抜けるよう努めています。しかし、CxO採用がうまくいかない企業では、最も接点を持つべき社長が最終面接だけ出て、1時間ほど業界の世間話をして気が合えば「この人でいいじゃないか」と招聘してしまうこともあります。これは典型的な失敗例だと言えます。
CxO採用の選考プロセスでは本来、候補者と最初に会うのは社長がベストだと思います。なぜなら社長は自社の本音を最もさらけ出せる存在であり、それによって候補者も自分をさらけ出せるようになるからです。うまくいっている企業は、社長が採用活動に積極的に関与して候補者と接する機会をつくり、お互いが本音で話す場を持っていますね。
候補者が聞きたいのは、調べても出てこない「本当の困りごと」
——「まずは企業側がさらけ出すべき」とのことですが、企業はどれくらいの粒度で情報を開示すべきでしょうか。
澤本氏:候補者とNDA(機密保持契約)を交わした上で、自社が抱える本質的な課題や、候補者に助けてもらいたいことなどを余すところなく伝えていただきたいですね。
実際の採用活動では候補者が同業にいるケースも多く、「選考でそこまでは開示できない」と考える企業が少なくありません。また社長が「自社を美しく見せたほうが来てもらえるのではないか」と考え、本音をかたくなに話さないケースもあります。これはとてももったいないことです。
——候補者は企業側からどんな話を聞きたいと思っているのでしょうか。
澤本氏:「ここだけの話、ウチは今こんなことに困っている」という本音を聞きたいと思っています。
企業の大まかな背景情報は事前にヘッドハンターから聞くことができますし、ポジティブな情報は調べればいくらでも見つかるでしょう。しかし、「実は新規事業がピンチの状態で立て直しを図らなければならない」といったような実情は、企業から直接聞かなければわかりません。
候補者はそうした困りごとを社長から直接聞き、自分が入社するとしたら何をすべきなのかを理解したいと考えているのです。それなのに選考の中でも良い情報しか出てこないようでは判断できませんし、自分の腕を振るいたくなる理由が見つからなければ入社を決断できないでしょう。
結果的に、企業の困りごとを聞いた上で「自分では解決できない」と判断することがあるかもしれません。これもミスマッチを防ぐためには必要なことです。
候補者は投資家に近い目線で企業を見ているとも言えるでしょう。収入などの条件が最終的な決め手になることは少なく、それよりも「この社長を助けたい」「この人たちと同じ釜の飯を食べたい」と思えるかで決めている人が多いのです。
私たちも候補者に対して、「この人たちのために」と本気で覚悟を決められる企業へ進んでほしいと伝えています。

——社長はもちろんのこと、選考に関わる役員や管理職も現場の課題感をさらけ出すべきでしょうか?
澤本氏:はい。役員や管理職にもさらけ出していただきたいですね。現場で本当に困っていることがわかれば、候補者は「自分がどのように貢献できるのか」をより明確にイメージできるようになりますから。課長クラスの管理職も候補者に会って、現場の困りごとを本音で相談できるような場があれば理想的です。
ただし、そうした役割に誰をアサインするのかについては注意して選んでください。特に大きな組織では、役員や管理職の中に、外部から経営人材を迎え入れること自体をよく思っていない人がいるかもしれません。
また、現場の管理職がメンバー層の採用と同じ感覚で候補者と接することがないよう注意する必要もあります。メンバー層の採用では「見極め」と「口説き」のバランスが重要ですが、CxO採用では基本的に全てが「口説き」のフェーズで占められます。そんな中、候補者にうっかり志望動機を尋ねてしまうようなことが起きるケースもあります。そのような「見極め」と見受けられる行動は控えなければいけません。
CxO人材には「いきなり成果を期待しない」ことも大切
——CxO採用でミスマッチが発生してしまうもう一つのパターン、「入社後の受け入れで失敗するケース」についても教えてください。
澤本氏:新たに入社したCxO人材に対し、社内で一貫した接し方ができていないとミスマッチにつながってしまいます。現場を束ねる役員や管理職が「お手並み拝見」を決め込み、「これまでのような華々しい成果をウチでも発揮してみたまえ」といった態度で接してしまうパターンです。
——外部人材の迎え入れを快く思っていない人がいたら、お手並み拝見のムードになってしまうのも容易に想像できますね。
澤本氏:こんな状態では、いかに経験・スキルが豊富なCxO人材でも、期待されたパフォーマンスを発揮しにくいです。社長からは「○○の課題をいついつまでに解決してほしい」とミッションを渡されているのに、現場の協力を得られず、1人では何もできないという状況に陥ってしまいます。
これを避けるためには、社長が入社から最初の3カ月程度は、CxO人材にミッションを与えずに社長と一緒に行動を共にするような形にした方がいいと考えています。常に「社長とニコイチ」で現場をまわることで「社長と一緒にいる人は誰だろう」と、まずは存在を知ってもらうことができ、その後も現場から受け入れてもらいやすくなるわけです。
候補者の中にも、現場からのお手並み拝見ムードになることを想定して「最初はあえて役職をつけないでほしい」と希望する人がいますね。そうして社長とニコイチで動き、現場を理解していった人が、後に会社を急成長させていくのを私は目の当たりにしてきました。

企業側は、苦労して招聘したCxO人材だからこそ「最初からメインストリームで華々しく活躍してほしい」と考えるものなのかもしれません。しかし、ミスマッチを防いで真に活躍してもらうためには、いきなり成果を期待しないことも大切なのです。
メンバー層の場合は、極論を言えばミスマッチが起きても配置換えなどで対応することができます。しかしCxO人材はそうはいきません。長期的な視点を持ち、華々しく活躍してもらうためのプロセスを重視していただければと思います。
取材後記
転職口コミサイトが隆盛となり、どんな情報も拡散されてしまう現在では、「採用活動で隠しごとをするべきではない」という意見に異を唱える人事・採用担当者は少ないでしょう。CxO採用においては、そうしたオープンなコミュニケーションに求められるレベルが段違いなのだと感じました。豊富な知見を持つCxO候補人材は、コンサルタントのような存在であるとも言えます。自社が本当に困っていること、現場が悩んでいることを「率直に相談してみる」。そんな関わり方が求められているのではないでしょうか。
企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也
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