なぜ人事施策は失敗するのか?『圧倒的成果を生む人事施策の考え方』著者と学ぶ、成果を生む思考法

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代表/組織人事コンサルタント/エグゼクティブコーチ 浜岡 範光(はまおか・のりあき)氏

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パーソルキャリア株式会社

経営戦略本部 ゼネラルマネジャー 石井 宏司(いしい・こうじ)

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  • 人事施策が失敗する原因は、「立案時の失敗」と、「実行時の失敗」に分けられる
  • 施策のゴールを整理するために、「経営的に実現したいこと」を明確にする
  • 意思決定で重要なのは、「何を重視して決めるか」という論点を先に定義すること

「戦略人事」という言葉が一般化する一方で、採用や研修、制度運用といった業務に追われ、「事業にどの程度貢献できているのかわからない」と感じている人事・採用担当者は少なくありません。

今回は、組織人事コンサルタント/エグゼクティブコーチとして多くの企業を支援してきた浜岡範光氏をお迎えし、「人事施策を成果につなげるための考え方」をテーマにお話を伺いました。経営との接続、ゴール設定、論点整理、意思決定の進め方などを、具体的な事例とともに解説いただきます。

体系的な知識だけでは「成果につながる人事施策」は実現できない

浜岡 範光氏(以下、浜岡氏):企業では、施策を運用する人事ではなく、「戦略人事」として活躍できる人材が求められています。ではその能力はどのように身につけられるのでしょうか。

そのヒントを探るために、実際、おもしろい仕事をしている最高人事責任者(CHRO)の方々に話を聞くと、「事業サイドにいる時に、どうにもならない組織をなんとか立て直した経験が、人事の筋力になっている」というケースが非常に多いことに気づきます。

限られたリソースの中で事業成長を実現しようとした経験が、人事としての力につながっているのです。こうした経験を通じて、「制約の中で何を優先すべきか」「組織をどう動かせば成果につながるのか」といった思考が鍛えられるからです。だからこそ、成果を生む施策を実行するには、人事の体系的な知識だけではなく、成功に導くための考え方が求められるのです。

人事施策が失敗に終わる主な要因

人事施策が失敗するパターン

浜岡氏:多くの人事施策が失敗する原因は、「立案時の失敗」と、「実行時の失敗」に分けられます。

出典:これからの人事に求められる「考え方」インタラクティブセミナー講演資料

人事施策を立案フェーズで失敗する要因は、「結局どうなればいいか」が決まっていないことです。
例えば、
・マネジメント力が弱いからマネジメント研修を実施してほしい
・ジョブ型人事制度は限界が見えているから、制度改定の検討をしてほしい

というような、経営から打ち手ありきの依頼があります。しかし、重要なのは「施策を実施すること」ではありません。施策の結果、どのような「状態変化」を起こすことができるのかです。しかし、最終的に何が、どうなれば成功なのかというゴールがあいまいで、論点が見えていないまま走り出してしまうケースが散見されます。

加えて、実行フェーズでは、意思決定者に施策意図の理解を得られないことや、施策対象者に意図を十分に伝えきれていないことが、失敗の要因として挙げられます。要するに失敗のパターンは、「ゴール・論点・通し方・伝え方」のズレとして整理することができます。

実際によくある失敗例

浜岡氏:経営会議の場などで、「当社はマネジメント力に課題がある。マネジメント研修を実施して強化してほしい」と言われたら、人事であるあなたは何に着手するでしょうか。

多くの場合、他社のマネジメント研修やベンダーを調査し、数社から見積もりを入手して、経営陣に提案する内容を取りまとめる、という流れが一般的です。しかし、後日、経営会議で研修計画を提案すると、「どれもしっくりこない。そもそも研修でこの課題が解決できるのか」と言われることも、よくあります。

人事としては「研修を企画するよう指示があったため、調査して提案しているのに…」と思いがちですが、経営陣の意図は、「マネジメントに起因するよくある問題を解決してほしい」ということであり、研修を実施すること自体ではありません。マネジメント研修はあくまでも「手段」であって、「目的」ではないということに意識を持てるかが大切です。

施策のゴールを言語化するために経営的に実現したいことを明確にする

浜岡氏:「自由に施策を考えて」と言われた場合は、「施策」ではなく、「状態変化」を定義することが重要です。つまり、「最終的に、何が/誰が、どうなればよいか」というゴールを言語化することです。

そのためにはまず、「経営的に実現したいこと」を明確にしておくことが1つのポイントとなります。

出典:これからの人事に求められる「考え方」インタラクティブセミナー講演資料

その課題が、いつ・どの会議体で・どのような文脈で議題に上がったのかを確認し、いつまでに、何が実現できるとよいのかという「具体的な達成状態」を経営陣に確認するとよいでしょう。

若手の人事や、日ごろ経営陣と関わりが少ない人事の場合、「細かいことを質問すると、忙しい中で時間を取らせてしまい、失礼になるのでは」と考え、踏み込んだヒアリングができないことがあるかもしれません。しかし、「どの部分を強化すれば成果につながるかを絞り込みたいので、30分だけヒアリングさせてください」などと意図をしっかり伝えれば、経営陣の理解が得られるはずです。

依頼内容の抽象度が高い時は「リスク」を確認する

浜岡氏:「経営陣からおりてくる依頼が抽象的で、何を求めているかがわかりづらい」という声もよく聞きます。しかし、経営レイヤーになればなるほど全社視点で物事を見ているため、話の抽象度が高くなるのは当然とも言えます。

その際は、指示された施策を行わなかった場合に、どのようなリスクがあるのかを確認するとよいでしょう。そうすると、経営陣が本当に実現したいことが理解しやすくなります。

また、事業計画を踏まえて、人事部門で「どんな組織課題が起こり得るか」を日ごろから議論することも重要です。会社の事業計画は、どんなタイミングで、どれぐらい人材が増え、商品/サービスがどの程度伸びて、売上がいくらになるかなど、企業成長における「シナリオ」のようなものです。

経営陣から「これをやってほしい」と言われた時に、「この依頼は、どのシナリオを実現させるためのことなのか」というステップを踏んだうえで、施策を検討してみてください。

解決すべき課題を構造化することで悪循環から抜け出す

浜岡氏:実現したいゴールが決まった後は、「今、なぜできていないのか」を考え、課題の構造化に着手します。

出典:これからの人事に求められる「考え方」インタラクティブセミナー講演資料

実際に「マネジメント力に課題がある」という言葉が出た際に、組織停滞の原因がマネジメント力にある、というのは事実かどうかを疑ってみることが必要です。

課題が提起された場合、問題の当事者だけではなく、上長やメンバー、他部署のメンバー、社外の関係者など、幅広くヒアリング(現場検証)を行い、それぞれの立場から今起こっている事象がどのように見えているのかを把握しましょう。10名程度に話を聞いているうちに、問題の構造が見えてきます。

出典:これからの人事に求められる「考え方」インタラクティブセミナー講演資料

課題の中には、「マネジャーの役割が定義されていない」「周囲がマネジャーの役割を理解できていない」「事業方針と評価指標のズレがありメンバーの意識が統一できていない」など、表面的には「マネジメント問題」に見えていても、実は構造問題であるケースが多いものです。

ヒアリングを基に構造問題を捉え、悪循環をどう断つかを考えることが重要です。このように考えることで、最終的に、誰が/何がどうなればよいのかという適切な打ち手を導き出せるようになります。

ちなみに、構造破綻の修復には時間を要するため、しばらくの間は動きや成果が見られないケースがほとんどです。根本的な課題解決に取り組んでいるのに、経営陣から対症療法とも思える指示がおりてくると、「わかっていない」と感じるかもしれません。しかし、経営陣が状況を理解していないわけではなく、対応がなされているかどうかを不安に感じているのです。経営陣を不安にさせないためにも、根本的な解決策と並行して、対症療法も行うことをお勧めします。

人事施策は「通し方」と「伝え方」が大切

浜岡氏:経営から依頼があった時、提案に足るだけのエビデンスを現場から拾い上げたり、適切な解決法を導いたりする段階で時間がかかりますが、その間に経営陣の温度感が下がってしまうというお悩みもありました。

経営陣の熱を下げないためには定期的にコミュニケーションを取り、論点や確認事項を整理し、「課題をクリアできない場合にどんなリスクがあるか」について継続的に会話をしながら、同じ目的を共有して取り組むことが大切です。

経営からの依頼を受けた際は、いきなりソリューションを提示するのではなく、時間をかけて会話をし、定期的に壁打ちをしながら創り上げていくイメージで進めてみるとよいでしょう。

 
石井宏司氏(以下、石井氏):経営会議では多くの議題を取り上げるため、経営陣が自ら依頼したことを忘れてしまっているケースもあります。このような場合には、会議の冒頭でこれまでに話し合った内容を要約してリマインドしたり、本題に入る前に、前回の会議における経営陣の発言を引用して意識統一を図ったりするとよいでしょう。

経営会議がかみ合わない理由は「論点」が違うから

浜岡氏:続いて、意思決定の場において重要になるのが「論点の整理」です。実際に経営会議で人事施策としてA案とB案を提案したときに、経営陣から「C案」を提示されたり、「そもそも論」に戻されたりして議論がまとまらない、ということも往々にしてあります。

念入りに事前調査を行い、試行錯誤して2案まで絞り込んだのだからAかBのどちらかを選んでほしいと思う人事担当者の気持ちはよくわかりますが、経営陣としては得たい成果が得られるならばどのような方法でもよく、「決め方(論点)を決めたい」という想いがあります。

例えば、以下2つの案が出された場合、あなたならどちらを選ぶでしょうか。

プランA:半年後に5,000万円の利益が見込める事業プラン
プランB:1年後に2億円利益が見込める事業プラン

結論としては、「この情報だけでは選べない」が答えとなります。これが、実際の経営会議で起きている状況です。プランAのように、半年後までに利益確保が必要なのか。プランBのように中長期で最大利益を確保することがよいのか、この「論点」が決まっていないことが問題です。

プランA、プランB以外にも、「プランBの2億円のうち5,000万円だけでも前倒しで達成する“プランC”はないのか」という問いを立てることも可能です。

つまり、意思決定で重要なのは、「何を重視して決めるか」という論点を先に定義することです。これが定まっていないと、その後の意思決定がぶれてしまいます。

意思決定が早い企業は先に「論点整理」を行っている

浜岡氏:以前所属していた企業では、本会議の前に各起案で実現したいことや、何を重視して判断するかの論点だけを議論し、整理する会議がありました。

追加情報が必要な場合には起案者に本会議までの確認事項が出され、本会議で最終決定をします。そのため、非常に速いスピードで意思決定がなされるのです。

多くの企業では、「決め方を決める」という行程を飛ばしてしまいますが、論点整理を行うことで、その後の意思決定がスムーズになります。

以下は「よくある論点TOP8」と、「こんなセリフ・質問が出てきたら要注意!」というアラートクエスチョンです。

出典:これからの人事に求められる「考え方」インタラクティブセミナー講演資料

これを基に、皆さんが提示しようとしている起案を見返していただき、ゴールが定義できているか、そして「決め方」をどう定義しているかを考えてみるとよいでしょう。

施策企画・実行時における「予算」の考え方

浜岡氏:目指したいゴールがわかっていても予算が合わないことがあり、最終的にはスモールスタートで妥協せざるを得ない、という悩みを抱える人事担当者は少なくありません。このような場合、少なくとも以下の2点について提示してみてください。

・今の予算でできること
・予算がどのぐらいあれば、どんなことができるか

コミュニケーションを重ねて施策をブラッシュアップすることで、予算を削減できることもあります。

 
石井氏:予算が通らない場合には、施策のステージを3段階に分け、「まずはステージ1を行うための予算をください」と交渉するという手もあります。ステージ1で終わってしまうリスクもありますが、まずは試行し、数値を出してみないと何事も進みません。さらに、施策責任者の合意を事前に得て、「その責任はAさんが持ってくれます」などと提示すれば、一気に提案が通りやすくなります。

浜岡氏:新しい施策に対し、いきなりアクセルを全開で踏むことは経営的にリスクがあります。経営陣の合意を得るためには「仮説」を説明し、その仮説を検証するためのステップであることを伝える必要があるでしょう。

また、予算がないから施策を実行できないという考え方と、利益を得るために先行投資をするという考え方とで物事が進まない場合、まずは「小さく試す」ところから始めましょう。そのためにも、日常的に各部門長とコミュニケーションを取り、いざというときに一緒に施策を試せるような関係性づくりも大切です。

組織を通じて事業成果をつくることが人事本来の役割

浜岡氏:どれだけいい施策を考えても、経営陣から承認されなければ施策を進めることができません。人事に必要なのは、単なる制度知識ではなく、経営のシナリオを理解して課題を構造化し、論点を整理して経営陣の意思決定を前に進めることです。

どんなに良い施策でも、一回の提案で決定に至ることはめったにありません。そのため、経営陣の温度感を下げずにどうコミュニケーションを取るべきかを理解しておく必要があります。

さらに、決定された施策を現場が受け取りやすい方法で伝え、浸透させることも重要です。
人事からの発信は「一方的な発信」に聞こえやすく、人事と現場との間に温度差が生じがちです。施策を行う目的や実現したいこと、現場にとってのメリットなどを丁寧に伝え、現場の人たちが「自分ゴト化」できる形で伝えるように工夫してみてください。

【編集後記】

人材不足が叫ばれる現代において、企業成長における人事の重要性はますます高まっています。新しい制度や理論、フレームワークなどに注目が集まりがちですが、実際に現場で求められているのは、「その施策は、どの事業課題を解決するためのものなのか」を考え抜き、経営と接続する思考力が求められています。経営陣の要望の裏側にある「本当の課題」を的確に捉え、事業に貢献し、組織を動かす人事の在り方を改めて考えさせられました。

[取材・編集/doda人事ジャーナル編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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